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95回目 人が行う商品(サービス)づくりとは

マーケティングを考えます

今回は、マネジメント(経営)のもっとも基本から話をすすめて行きます。 このメルマガを読んでいただいている方ならば分かっていただいている「マネジメント(経営)とは」 を再確認することからすすめて行きます。
マネジメントとは「最小のインプット(経営資源)」でもって「最大のアウ トプット(成果)」を獲得する考え方、思い、方策、実行となります。
成果とは、顧客、社員、社会およびすべての利害関係者の物心両面の幸福を 実現することであり、この実現を通じて「自身の物心両面の幸福(成果)」 を獲得することです。
少し本題から逸れますが、日本社会の建前では経営者が物的な豊かさを得る ことを良しとしない風潮がありそれが気質になっていますが、それは徳川時 代以来の士農工商の儒学的な思想が抜けきれていないことが底流にあり、中 国や欧米は建前がないだけにその風がないようです。
これを言ったのは物的豊かさは、本来的に誇るものでも後ろめたいものでも なく、正義や価値観とも関わらないものだと確認したかったからです。
本題にもどりますが、この回ではマネジメントの基本機能の一つである「マ ーケティング(顧客満足の実現を通して対価を受取る一連の活動)」の過程 に横たわっている各要素ついて雑駁に述べて、そんなこともあるかなと思っ ていただければと考える次第です。
論理的には「マーケティングの理想は、販売を不要にすることである。」と ドラッガーは標榜して「マーケティングは顧客からスタート」して「顧客が 価値ありとし、必要とし、求めている満足がこれである。」とするで、商品 (サービス)は「顧客の声」を聴き、それをもとにして創造して、知らしめ、 手元に届けて満足してもらうこととなります。
俗に述べられる調査、企画、設計、製造、広告、物流、アフターサービスと いう「プロセス」となりますが、実はことはそのことを知ったからと言って 左様に理論的な簡単なものでなく、秀で抜きんでるためにはそこからが汗と 涙と勇気と工夫を要する「生な世界」で展開されます。
前提を大層に述べましたが、ここから少しずつ齧りとって実相の展望を推論 して行ければと思っています。

マーケティング「極意」論

まず、マーケティングの出発点は「顧客の声」なのですが、実は2つの性向 がありそれを分からずしての商品づくりはとんでもないことになります。
特にアンケートなどは、よほどの熟達者でない限りは送り手の知恵と知識と 思い込みの枠から抜け出せず、しなくてもよい徒労にもなりかねません。
ただし、ドラッガー曰く「リスクを取らないのが最大のリスク」と言ってい るように、何としても「顧客の欲求(潜在した声)」に応え満足してもらお うとする姿勢はマーケティングの基本中の基本だと言えます。

2つの性向のことですが、1つは人は悪気なしに「嘘」を回答することで、 もう1つは今日のようなグローバルで変化の激しい世の中にあっては、顧客 本人が求めて適えられる欲求(商品・サービス)について自身のことである のにもかかわらず考えが及ばないことです。
商品(サービス)が現れて始めて、自分の「未知」であった欲望や願望につ いて知るということが起こり得てしまいます。
こんな状況であるので、例えば大手の菓子メーカーのマーケター(ニーズ見 極め人)ならば「ターゲットとなりそうな人たち」の「さりげない行動」や 「やり取り」を見て、その中に「潜んでいる意味合い」を嗅ぎとってそこで の「感じ」をもとに試作品づくりを行うのだそうです。
そして、その試作品を内部スタッフで「アーでもない、コーでもない。」と 吟味評価して「試作品」をつくり、得心が行ったならばはじめてターゲット にぶつけて意見や反応を見ながら微調整して商品化を行うのだそうです。

ただし、ここでのヒット商品の数は限られていますし、ヒットした商品であ ってもとうぜん「ライフ・サイクル(商品寿命)」があります。
いつもかつ絶えず新たに顧客に喜んでもらうために、熟練のマーケターは現 場に身を置きます。
現場こそが唯一の「マーケティング」の本舞台で、そこでの第六感をも駆使 して感知した「ヒラメキ」が貴重な経営資源となります。
付け加えて、もちろん科学的な分析やアプローチの補助は有効です。

「未知」なるものについて、スティーブ・ジョブズは「人は見せてもらうま で、何が欲しいかわからないものだ。」だと言いました。
だから「我々は宇宙に衝撃を与えるためにここにいる。」という感慨を持っ て「わくわくする。何かピンと来る。」を創り出して「とにかくつくってみ んなに見せ、どう思う?と聞くしかありません。」としています。 これが「未知」なるものを創り出す方法だとしているのです。

灼熱の砂漠にいれば「冷たい一杯の水」が最高の商品だとは分かります。 ところがアフリカの発展途上国であっても、銃弾の飛び交うシリアの紛争地 にあっては「携帯電話」が求められる商品だとは分かりませんでした。
まずは「よく分かった。そうしたら現場でのヒラメキなのだな。」ととりあ えず納得していただけるかもしれません。 そう納得いただくことで「経営の極意の一」を得たこととなります。
奥伝には続きがあり「さあ、創りましょう。」のためのその二があります。

脱線して柳生新陰流の「極意口伝」に付いていた道歌『斬り結ぶ刀の下ぞ地 獄なれただ斬り込めよ神妙の剣』について考察してみたいと思います。
これは柳生石舟斉が、三代である孫・柳生利厳に与えたものなのですが「捨 身」の境地を説くものとされています。
命のやり取りの場に立てば、その恐怖は尋常なものでなく居竦んでしまうだ けで道場での力量や知識などは物の役にもたたないと言っているのです。

生身であるビジネスの場では、命をこそ奪われないものの『捨て身』でなけ れば抜きんでることのできないので。
混沌の場では『捨て身』こそが、光を見出す「第2の極意」です。 スティーブ・ジョブズもビル・ゲイツも孫さんも松下幸之助さんも『捨て身』 の勇気で事業を起こし抜きん出た商品(サービス)を創造しました。
それも、自身の「生きる意味合い」であり、かつ「社会の交わりのなかで成 果をもたらす」『価値観』という「3つ目の極意」をもってしてです。

顧客の欲求を満たすという「マーケティング」は、最早「知性」というレベ ルでは処理できない段階に入ってきています。
とは言うものの、昔から時代を変革してきた秀でた「マーケティング」は、 3つの『極意』でもってクリエイティブに実行されてきたものです。

コミックスの売り上げ累計1億部を突破している漫画家の浦沢直樹さんが、 代表作の一つである『MONSTER』を書き上げた時に顔中の粘膜という粘膜を腫 らして疲労困憊の極致であったということをふともらし、また連載の締め切 りを終えるために50時間も眠らずに書き上げたと聞いたのですが、そこま でやるのだと驚きのかぎりです。
その道で抜きんでたプロともなるとその覚悟と苦悩は計り知れないものがあ るようで、引退宣言をした宮崎駿さんも「面倒くさい。面倒くさい」を連発 して頭の毛を掻き毟りながら新たなチャレンジを行なおうとしています。

ホンダがF1レースに参戦してだんだんと成果を残し始めた頃の話ですが、 その製作メンバーの一人があまりのハードさに「こんなだったら首をくくっ て死んでしまいたい。」冗談交じりに同僚にもらしたそうです。
それを聞いた同僚が「あそこに手頃な松があるから。」と言い、続けて「俺 が足を引っぱってやるから。」と言ったという噂だけなのでしょうが「ブラ ック」な逸話を聞いたことがあり、さもありなんと思ってしまうのです。

3つ目の極意は『価値観』だと簡単に言ってしまいましたが、価値観という 代物は玄妙なものであって人をして信じられないことを成し遂げさせます。
稲盛さんが、全ての社員に経営者と同じ価値観を共有してほしいと経営理念 「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に 貢献すること。」のもとに「京セラフィロソフィー(哲学)」に力を注ぐの はこのためです。
マーケティングと言いながらマネジメントの極意の説明になっていますが、 極意にもう一つ付け加えなければならないものがあります。
もう一つの極意は、それは『失敗』をどう考えるかということです。 これは、前回に話ししました最高の資源たる『知識』に関わります。

「人は見せてもらうまで、何が欲しいかわからないもの」を創るためには、 教科書に書かれている「知識」は基礎であるもののもはや役にたちません。
『捨て身』の中から現れてくる「知識」が必要で、しかし極意である『捨て 身』であっても「未知なるもの」の創造については数限りない失敗が待ち受 けています。
また「しかし」を繰り返しますが、その失敗を恐れていると「未知なるもの」 は生まれず、逆に失敗からこそ新たな「知識」が生まれるのが道理です。 エジソンは「失敗したわけではない。それを誤りだと言ってはいけない。勉 強したのだと言いたまえ。」と言い発明王と成り得たのです。

多くの前向きな失敗から、新たな「知識」という経営資源が生まれます。 またこのことなくして、新たな「知識」を得る術はありません。
「多くの社員に前向きなチャレンジの機会を与えて失敗を許容する。否むし ろ支援する。」ことは、強みの源泉である『知識』が生れるとともにもう一 つの強みの源泉たる『活力』つまり『やる気』を高揚させることになります。 この「失敗の活用(人材の活性化)」は重要な「極意」です。

これまで戦略経営(マネジメント)ということで話を継いできたのですが、 大成できた経営者の足跡を観照して行くと「智恵ある勇者」もしくは「勇気 ある智者」という言葉で言い現わされそうです。
「極意」という少し大時代的な語句を使用しました、何故なら「マネジメン ト」またその中の「マーケティング」を実践するについても、この言葉意外 にピッタリするものがないからです。

松下幸之助さんが言う「経営のコツここなりと気づいた価値は百万両」はそ のことを言っておられるようで、どんなに大学者であり人格者であっても経 営者にはなり得ず「コツ」「極意」を悟れる人が、失敗を乗り越えることを 通して成果を創造させる経営者となれるのです。
過去は一切関係なくて、今という時間に勇気をもって「悟り」、勇気をもっ て「思い」、限りなく「考えつくし」、勇気もって「実行し」、失敗したな 勇気をもって「反省し」、そのことを通して「成果」を手に入れるまで繰り 返して続けるということが「大成者」が行う「流儀と作法」です。

「捨て身」で伝える

スティーブ・ジョブズの言葉を続けますと「いくら素晴らしいものをつくっ ても、伝えなければ、ないのと同じ。」となりますが、これについては次回 に考察をまとめ簡単に説明させていただきます。

≪アベノ塾≫ URL:http://abenoj.jimdo.com/