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44回目 人は何に満足するのか

効用という考え方

消費者が購入すのは“効用”ですと言えば、「え、それって何?」と言う ことになります。
少し理屈ポイのですが、効用とは「人の欲求を満たす効用」の意味の「効 用」です。 人が求めるのは「満たされていない欲求」からの解放であり充足です。
焦点にあるのは、「人の欲求」です。 人には欲望や欲求があるのはとうぜんで、これがあるから人は生きようと するのであって、もしなければ死の欲求になり命が尽きます。 欲求には満たされなければ納まらない力があり、それに納まりをつけるの が効用です。
もちろん効用には消費者の最終効用だけでなく、機械の部品やパソコンの ソフトのような中間効用もあります。 場合によっては、ディズニーランドが提供する「感動」のような体験効用 もあります。 「効用」は欠乏の解放だけでなく、感動の発現まで含まれます。

売れる商品には効用が込められており、売れない商品は効用が“ない”か もしくは“少ない”と言えます。 ところで、「効用」は絶えず比較されます。 そして、時代とともにそのあり方が変化します。 さらに付け加えて、合理性だけでなく感性が大きくかかわります。
効用は顧客が「良し」とすれば、なんでもOKという作り手にとって非合 理な側面もあります。 一昔前のブリキのロボットが数万円というものがあり、骨董の世界も時代 により広がりを持つことになります。 もちろん茶器などは、時代を超えた骨董価値があります。
効用はうまくすれば新たに創り上げることも可能で、茶器に希少価値とい う効用をつけたのは、織田信長であり千利休でありそれが現在では茶道の 家元に引く継がれています。
豊臣秀吉も信長を習って日本刀に希少価値を付加しようとしたのですが、 好事家だけのものであり道半ばの感があります。

人の感じる効用価値は、人の欲望や欲求のあり方と同じだけ存在します。 いくら価値ありとしても、ことわざにあるように「猫に小判や」「豚に真 珠」ではその価値をはかり知ることはできません。
効用は、感じてそれがほしいと欲する人があって初めて価値が生まれます。 通勤電車のスマートフォンのゲームは、大いなる効用です。
堀場製作所の堀場さんがあるテレビ番組で言われていたのですが、 純然たるその性能が商品価値である検知器でも、女性が使用するものにつ いては色合いも重視するそうです。
事実、自動車の排ガス測定器は白を基調としてシンプルですが、農業用や 医療用などはそう言われれば少しカラフルになっているようです。

マーケティングの意味

マーケティングというと、多くの人が思い浮かべるのはマーケティング調 査のことのようです。
マーケティングは一般的にはよく理解されていないことばで、なんとなく そのことばを使うと経営者としての格が上がるように感じられています。 ドラッカーは、このマーケティングを経営の基本機能としています。

ドラッカーは、マーケティングは「顧客からスタートする」としています。 「マーケティングは販売と混同されるが、その理想は販売を不要にするこ とである」としています。
その目指すところは、「自ずから売れるようにする」ことだとしています。 自ずから売れには、顧客にあわさなければなりません。
それは社会的意義を有する困難な「顧客」本位の道で、この理解がないと 安定した売上を実現させることができません。 顧客が満足するからこそ商品・サービスの購入が実現されるからです。 顧客の感じることと同化して、その中から道理と理由をくみ取りまた先取 りして満足を実現させる考えがマーケティングです。

ものの真実を見極めるには神の御神託を聞くのが一番ですが、そこで松下 幸之助さんのことばを引き合いに出します。 「お客様の小言は神の声と思って何ごとも喜んで受け入れよ。」とあり、 そこからそれを引き継いで「無理に売るな。客の好むものも売るな。客の ためになるものを売れ。」とあります。
幸之助さんの視点は「顧客の幸福」にあるようです。 この視点から「良き品を売ることは善なり。良き品を広告して多く売るこ とはさらに善なり。」と語られています。
マーケティングの4Pの要素、良き商品を「広告して」が加わわり「善」 の実現にすすめて行くことが企業の責務(善)であるとしています。

ところで、マーケティングは今日に始まった方策でしょうか。 ではなく、江戸時代に巧みな商才でこれを実践した人がいました。 三井財閥の基礎を築いた三井高利も、その一人です。
その高利が江戸期にマーケティングを実践したのは、1673年(延宝元 年)52歳の時で江戸本町一丁目に呉服店を開業したのが始まりです。
当時の呉服の販売方法は、一反単位の盆暮れ支払いの掛け売りで、どうし ても貸し倒れが発生することより割高の状態でした。
それを現金掛値無し(定価販売)で安価販売を可能にし、さらに反物の切 り売り、仕立て売り(イージーオーダー)などの新商法を導入したものだ から大繁盛しました。

商品のライフサイクル(寿命)

昭和の大ヒットメーカーの阿久悠には『作詞家憲法15条』というものがあ ります。
その中の第15条で「歌は時代とのキャッチボール。時代の飢餓感に命中 することがヒットではなかろうか。」とあります。 時代とともに変化する顧客欲求とのキャッチボールが、成功要因です。

まれに日清のチキンラーメンやグリコのポッキーのようなロングヒット商 品がありますが、一般的に商品の寿命はそう長くありません。 コンビニの商品のアイテム数は3,000アイテムである言われていますが、 そのうち一年間で入れ替えられる商品が1,800アイテムでそのすさまじ さがうかがわれます。

商品のライフサイクルを決める要因として3つの要因があります。 1つ目は顧客の欲求の変化、2つ目は競業企業の活動、3つ目は技術革新 や法的規制の強化や緩和などの外的環境変化です。
特に重要な要因は顧客の欲求ですが、企業はこれらのすべての変化に留意 して対応しなければなりません。
この対応がイノベーション(革新)で、ドラッカーはマーケティングと並 べて企業経営(マネジメント)の2大機能としています。 もちろん2大機能の一つであるイノベーションも、顧客の欲求にかかわり を持ち「よりよく」顧客の欲求を満足させようとするものです。
阿久悠がいうところの「時代の飢餓感に命中」させなければなりません。

少し寄り道します。
革新によく似た活動に、改善があります。 改善と革新の違いは何か、改善とは日常業務の中で絶えず行うものでトヨ タ自動車が生産方式の核とするもので、「カイゼン」という言葉で世界に 通用し2兆円の利益の根源となる活動です。
革新がこの改善と異なるところは何か、視点は「顧客欲求」で従来の効用 のレベルとの落差が大きいことです。 改善は価格低減や性能改善さらに品質向上といった効用の絶えざる上昇を 目指します。
革新は、場合によっては昨日なかった「効用」の実現をももたらします。

革新は人の欲求のすべての場面にかかわるものです。 もちろん商品として革新もありますが、スーパーマーケットやコンビニな どの販売方法の革新や宅急便や楽天などの利便性の革新もあります。 人の生活場面におけるすべてに革新があり、エスキモーの凍結防止用の冷 蔵庫の活用も革新だとしています。

宅急便は、従来のJP郵便局に多大に影響を与えました。 スーパーマーケットやコンビニに至っては、商店街を中心とした街の景観 まで一変させています。
「商店街」のライフサイクルの終焉に導いたとも言えます。 革新は、商品レベルを超えて生活レベルの変化をも起こしえます。
話が逸れすぎましたが、最初のテーマに戻ると「人は何に満足するのか」。 ここで言いたいことは「効用」のことで、さらに元をさぐると「人の欲求」 のことです。
企業の活動の目的は「人の欲求」を満たすこと、ドラッカーはこれを「顧 客創造」といい有効需要をつくることだと言っています。