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37回目 経営資源としての知識

知識とは分かりにくい概念です

経営資源の重要性が大きく変化してきています。 資金さえあればすべてがうまく行った世の中から、資金だけではうまく行 かなくなった社会に移行しています。
そうしたらどんな経営資源があればうまくいくのか、それが「知識」です。 スティーブ・ジョブズのスマート・フォンは大ヒットですが、ジョブズの 持っている総合的な知識(気質も含め)があったからこそ、あの画期的な 商品が完成されました。
もし、スティーブ・ジョブズに資金がないとしたらどうなるでしょうか。 資金がないとしても、投資家に呼びかければ資金が集まってきます。 アメリカの映画産業がそうですが、大ヒットが予想される脚本があると投 資家が集まり作品がつくられて行きます。
資金だけでは知識を集めることはできないかもしれませんが、知識があれ ば資金を集めることができます。 「卵と鶏」の喩がありますが、この場合は「知識」が先です。 目に見えにくいこの経営資源が世の中の最大の経営資源になります。
ところで、この経営資源である「知識」とは何かとなるとなかなか分かり にくいのが実際です。 一言でいうと「知識とは、世の中に効用価値をもたらす無形の源泉機能」 です。
今、日本に来る観光客が少しずつ増加傾向にあるようです。 そんな観光客はよろこんで持って帰るおみやげに、お菓子があります。 けっこう抹茶入りのお菓子が売れているようですが、このお菓子がどのよ うにつくられたか。
製造技術は、昔から匠の国などで豊かな知識があり世界でも屈指の水準に あります。 これに、苛烈な競争環境と日本人の繊細な感性に鍛え抜かれた「マーケッ ター」の知識が加わります。 日本人の知識風土の総合力が好評な抹茶入りお菓子を完成させました。
説明を続けます。 情報化の波は否応なしに現代社会の中に浸透しています。 この波を最初に切り開いたのはIBMで、汎用メインフレーム・システム 360で他社を圧倒してほぼ独占しました。 次に主役になったのがマイクロソフトです。
IBMはコンピュータというハード機器がありますが、マイクロソフトに 至ってはまったくハードの部分はなくソフトの商品です。 「ソフト」はまったくの「知識」のかたまりです。 情報化の進展では、知識こそが商品です。
ソフトの価値はあらゆる産業のなかに進展しています。 マンガのキャラクターで急成長して、あらたな切り口の企業があります。 レベルファイブという会社で、「妖怪ウォッチ」というキャラクターで、 13年続けて1位だった「アンパンマン」を抜いて首位にたちました。
同社の行っているのはクロスメディアプロジェクト手法です。 もともとはニンテンドー3DS専用ゲームソフトでしたが、コミックや アニメなどによる多角メディアに展開し、さらに玩具や商品のキャラク ターとしても活用されるに至っています。
もともとマンガは、一人の作家が個人の創作活動として行ってきていた ものです。 レベルファイブはこれを企業のなかの複数のスタッフとともに総合的な キャラクター事業として行っています。 マンガのキャラクターという知識(ソフト価値)さえも大きなビジネス 事業となってきています。

知識の作用・反作用

経営学者のピーター・ドラッカーは、その著書「ネクストソサエティ」の なかで「知識が中核の資源となり、知識労働者が中核の働き手となる。」 としています。
もともと、人間の知的な活動が歴史を切り開いてきたのですが、情報化の 進展にともない「知識そのもの」が表舞台に立ってきました。 これからどのように進展して行くのか誰にも分からないことですが、決し て知識はバラ色の時代をつくりあげるものではないようです。
知識はいつの時代でも、その時代の要求によって活用されてきました。 原子力の知識は、まさに今の問題です。 原子力の知識そのものには善悪の基準はありません。 しかし、人間の手に余りそうな知識の活用は慎重を要するのは言わずも がなものと言えます。
管理するための「知識」の活用については、その効用とは別に活用の目 的とあり様で社会に複雑な影響を与えます。 ところで、「マネジメント」の基本的な目的とあり様は消費者や社会に 貢献しようとするものです。
少し、飛躍して中国の統治について考えてみます。 中国を最初に統一したのは、秦の始皇帝です。 秦の統治管理の知識の源泉は、商鞅以来の「法」を重視する政策です。 統治には中央集権が採用され、人物登用も能力を基準に考慮されるよう になりました。
秦の法治主義は法により統治しようとするものですが、その目的は民の ためのものでなく王朝の繁栄でした。 そのため皇帝一身に権限が集中され官僚により運用されました。 統治の成否は、皇帝の力量にすべてが委ねられたものでした。
中国には、法治主義とは異なるもう一つの統治思想があります。 それは徳治主義で、儒教の知識が活用されます。
儒教は秩序を尊ぶ教えですが、この秩序の統治原理を大幅に採用したの が漢の武帝であるとされいます。 統治はうまく機能したのですが、これ以降中国の活力は少しずつ逓減さ れたとも言われています。
日本でも、江戸幕府が安定秩序の統治原理として儒教の一つである朱子 学を採用しました。 儒教の知識は秩序・安定には大きく貢献しますが、社会の活力を大きく 削ぐ反動があります。
この秩序重視の思想は、形式主義をもたらしています。 知識の運用で怖いのは、一度定着して安定してしまうとすべての行動原 理の基盤になることです。 今でも、多くの企業が無意識にこの規範が採用されています。 大企業病は、まさに秩序を志向する管理知識の逆作用だと言えます。

知識創造の源泉

現代社会の中では、特に日本では企業が生き残るにはハイセンスな高度の知識 が求められます。 20世紀の後半までは、アメリカという手本があったのでここにある知識をい ち早く吸収することで大繁盛が可能でした。
しかし今という時代は、特に日本では知識を他に依存することが不可能になっ てきました。 どこに求めるか、それは自分に求めるより仕方ありません。 どのように行うかと考えますが、答えはと言えばすでに日本の優良企業の中に あります。
東京オリンピックを誘致できた「おもてなし」の繊細な感性が日本にあります。 トヨタもその代表的な企業です。 トヨタにはすでに英語にもなっている「カイゼン」とう言う知識の創造システ ムがあります。
トヨタの創始者は豊田喜一郎氏でその父親は発明王の豊田佐吉です。 豊田喜一郎は日本経済のためには自動車産業の興隆は不可欠なものだとの信念 を持っていました。 そしてそのためには、2年でアメリカに追いつかなければならないという目標 を持っていました。
しかし、1950年の折からの経済不況でメインバンクからも見捨てられる事 態に陥り、大量の人員整理を行うことになりました。 責任をとって喜一郎氏は社長を辞任しました。 ちなみに、現在のジャストインシステムの考えを導入したのは喜一郎氏です。
この時の出来事がトヨタの風土を作り上げています。 もともとあった創意工夫の精神と他を頼らない自立の精神が経営風土のなかに 染み通りました。 「乾いた雑巾を絞る」といわれる知識の絞り出しが、現場で創造される「カイ ゼン」の仕組みのなかに形成されました。
知識は創造されなければなりません。 そのためには、コミットメントが必要です。 パナソニックには松下幸之助さんの250年で「この世に楽土をつくるのだ」 という水道哲学の流れがあります。 ホンダには、「パワーオブドリーム」の精神が息づいています。
知識は企業の盛衰を決するもので、優良企業にはその知識の生産を喚起する仕 組みができています。 知識の生産は、その生産を促進させる仕組みがなければなりません。 その根底に必要なのものが、「ミッション」とそれと対をなす異質の心象であ る「危機感」です。
ソフトバンクの孫さんは、その根幹の経営センスを持っています。 「実質的な後継者候補」として元グーグル幹部のニケシュ・アローラ氏を指名 したのは「ミッション」と「危機感」故の思い切った行動でしょう。 成長時に危機感を持つのが有能な経営者の条件です。
同氏の移籍には報酬として165億5600万円が支払われています。 孫さんには「孫氏の兵法」になぞらえた「孫の二乗の兵法」があります。 孫氏の兵法の13篇「用間篇」には、「全軍の中で親密さでは間諜が最も親し く、賞与では間諜のが最も厚く」とあります。
ニケシュ・アローラ氏はもちろん間諜ではありませんが、これから事業を拡大 していくには多くの知識が必要です。 一から始めるには莫大さ資金と失敗が必要です。 しかし、その要になる知識を持つアローラ氏に活躍してもらえるならば報酬と しては以外に格安の投資だとも言えそうです。