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73回目 「戦略」事始め

戦略は多彩です

「戦略」が言われ出して久しくなりますが、この言葉はイメージとして分か ったような気持になるのですがなかなか分かりにくい言葉です。 ただ言えるのは好業績の時にはこの言葉「戦略」はあまり意識されず、業績 が下降線を描き始めると急に言われ始めるということです。 しかし優良企業では、好業績にあってこそ「戦略経営」が行われています。
「戦略」とは何か、独断で言わせてもらえるのならば「組織が変化を機会と して自身の強みである価値観と知識をもとに生産的・創造的な活動によって 顧客と社会に貢献し成果を実現させる統合的な活動」と言えます。 少し長々と述べましたが、この戦略的活動が功を奏した時に顧客・社会から もたらされるのが評価基準たる「利益」と「信用(信頼)」です。

もう終わってしまったのですがNHKの朝ドラ「あさが来た」で、気にかか ったやり取りがありました。 それは渋沢栄一が、主人公あさに銀行を経営するにあたり最も大切なものは 何かと問い「信用」であると説いて聞かせる場面です。 信用さえあれば、稀有な経営資源であるお金も人材も集まるということです。
アメリカのシアトルに本拠を構えるECサイト、Webサービス会社アマゾ ンは面白い戦略をとっています。 黒字を出さない、株主配当もしないというもので、株主に「当社は、売上高 や利益を最大化することではなく、フリーキャッシュフローを最大化するこ とを目的にしている」と宣言しています。
フリー・キャッシュフロー最大化の目的は、最高の顧客経験(世界最大の選 択)の提供をはたすための先行投資です。 「顧客中心主義」「発明中心主義」「長期的視野」の企業コンセプトのもと に、利益を計上することなく多額のフリーキャッシュフローが投下されます。 アマゾン戦略は、単年度利益でなく「最大効用」の構築にあるようです。

ドラッカーは「人材」こそが最大の経営資源であるとしています。 今や社会は第3の波の情報化社会に入り、人が創造する「知識」こそが企業 の興隆を制する鍵を握っていると言えます。 「知識」はすべての人材が生み出す経営資源ですが、この資源を生み出すの に秀でているのが「トヨタ」や「ホンダ」であるのは興味深い事実です。
ところが未だにこのことは一般的な常識とはなっておらず、「知識」は一部 専門家が創造できるものと考えて資源ロスを起こしています。 少し堀り起こして考えて見たいと思うのですが「世界中の情報を体系化し、 それを広く活用できるようにする」をミッションとする彼のGoogle の人材 採用について垣間見たいと思います。

Google の求める人材は「Google らしさ」を持ったスマート・クリエイテ ィブで、採用決定には時間をかけて一般社員も参加して行うのだそうです。 ところで「Google らしさ」とは何か、スマート・クリエイティブとはどん なことかということですが、キーワードは「協調性」を持ち「専門知識・能 力」があり、ずけずけと「自分のアイディア」を「ぶつけ合う」となります。
この人物像は、GEのジャック・ウェルチがトップ・マネジメントに求めた ものにダブることにふと気付くのですが。 これがアメリカ流なのだと思っていると、どこかで同じこと言っていたよう に感じ考え直してみると松下幸之助さんが「衆知」ということで述べられて おり、ホンダの「ワイガヤ」経営もまさにこれに当たります。
脱線ついでに述べますと、東芝や三菱自動車にはこれはなかったようです。 シャープを見ると成長時にはスマート・クリエイティブが活躍していたよう ですが、途中で液晶に頼り過ぎて陰に隠れてしまったようです。 なぁ~んだと言うことになるのですが、Google のスマート・クリエイティ ブというのは議論好きのヤンチャ気質を残している人材とも言えそうです。

Google の戦略は「優れた製品・アイディアを継続的に送り出すために、そ れが唯一の方法であるスマート・クリエイティブを集め、彼らが大きな規模 で成功できる環境をつくることだ」としています。 トヨタ自動車も同じ考えの戦略を取っていますが、ただ「力点の置き方」が 一般従業員であるという違いはありますが。
まとめとして、一見して優良企業にはさまざま戦略手法が見受けられます。 それは「人まね」では先行するものを上回る「強み」を構築することなど望 めないからで、勝つためには「競争しないこと」「競争できないようにする こと」などの基本的な戦略展開がなされます。 しかし、一方では敢えて競争して「筋肉質にさせる」戦略もあります。

「戦略」の作法

「戦略」には、前もって知っておくべき作法があります。 「顧客が喜んでくれること」「私ができること」「人がやらないこと」それ に加えて「私や私たちが好きなこと」が「戦略領域」となるということです。 私の「戦略領域」を明らかにすることが、卓越した「強み」を持って「なす べき「仕事」を行うための最初の「戦略」の作法になります。
「経営戦略」は「戦略領域」において「なすべきこと」をなすことです。 この「なすべきこと」と言う場合には二つの意味を含みます。 一つは「価値感」にかかわり、もう一つは「実現性」にかかわります。 「実現性」が高く、内外の関係者に「意義」を見出してもらえる「仕事」こ そが成果が生まれる基盤となります。

一定以上の市場性を持つ最適な「戦略領域」を選択できれば、あとは根性論 の次元に入り「顧客のため」「社会のため」「従業員のため」にやり通すと いうことになります。 もとより根性論と言っても、やり通し易くする環境整備を行っておくのは当 然でトップマネジメントは衆知を集めながらこれを行います。
少し余談になりますが、また、例の松下さんを引き合いに出します。 松下さんの著書を読んでいると「なぁ~んだ、そんなこと当たり前だ。それ も何か説教臭いな。」と感じました。 ドラッガーの著書は格調が高く「目からうろこ」が落ちますが「これどこか かで読んだような」それは、松下さんの著書の一節にもあったものでした。

松下幸之助は「60年にわたって事業経営にたずさわってきた。その体験を 通じて感じるのは経営理念の大切さである。」「この会社は『何のために存 在しているのか』『どういう目的で』『どのようなやり方で行っていくのか』 という基本の考え方を持つことだ」と言います。 「体験を通じて、身をもって実感してきた」と言われます。
そして「本当の経営理念は、人間の本質なり自然の摂理に立脚しており、今 も未来も外国においても通じる。」として「この信念的に強固なものができ たため従業員に対しても、得意先に対しても言うべきことを言い、なすべき ことなすという力強い経営ができるようになった。」「経営に魂が入り、我 ながら驚くほど急速に発展したのだ。」と言われます。

経営理念を持つことは、戦略を超えて「経営」を行うについての作法です。 「経営戦略」には環境の整備が必要ですが「経営理念」はその出発点となる ものであって核となすべき「指針」です。 「経営戦略」は、外部環境の変化に対応することを目的に展開されます。 それ故に、揺るぎにない強みの源泉たる経営理念の背景を必要とします。
変化する顧客や社会など外界に対応するについて、ゆるぐことない高い視点 の「経営理念」や「使命」を持つがために集中することが可能になります。 それは夢を実現することを目標にしますが、現実に実現させるためには堅実 な経営基盤を整えることなくして成果を得られることはありません。 経営戦略の出発点は「価値観」ですが、その基盤をもとにして実行します。

大阪市を本拠にする「吉兆」という知る人ぞ知る高級料亭があります。 日本一の料亭の代名詞であって、経営者なら一度は行ってみたいとあこがれ た天才料理人湯木貞一が創り上げた料亭文化の極みでした。 もともとはグループ5会社で運営されていたのですが、その中の「船場吉兆」 がまったくの「戦略音痴」で廃業に追い込まれてしまうのです。
事の経緯は、何が自分たちに「強み」をもたらしているかを知らない経営陣 (創業者の三女へ暖簾分け)の経営センスの無さに起因します。 吉兆の「強み」は、創業者の「料理の技」と独自の「料亭の世界観」です。 それなのに「利益第一主義」に走り、賞味期限切れや産地偽装問題さらに食 べ残し料理の使い回しでは「あこがれ」など起こる術がありません。

利益は自身がよって立つ「価値観」を顧客が賞賛して対価を支払ってもらう ことによってもたらされ結果です。 確かに「生産性の向上」や「コスト・カット」は経営目標の大切な課題です が、経営者が最優先しなければならない経営課題である「価値観」を損なわ ず促進するという条件のもとにおいて行うものです。
ちなみに「ディズニーテーマパーク」では、「安全」「礼儀正しさ」「ショ ー」「効率」という4つの行動基準を設けられているのですが、最優先され ているのは「安全」です。 東日本大震災が発生した時の約7万人いた来園者への行動や対処法は、各メ ディアで紹介されている「ブレない価値経営」の好例です。

「戦略」に先立つもの

「戦略」と言う前に「経営」が整っていなければ、基礎体力がないのにフル ・マラソンに参加しようとするようなものです。 強い経営を行うためには、まず「心」を整えることが出発点になります。 松下幸之助さんが、創業して10年ほど経った頃から「松下電器は物をつく る前に人をつくる会社である」と言い続けたのがこれにあたります。
同社の大正12年の暮れ。工場では従業員一同が大掃除を行っていました。 ところが、従業員の便所だけがなぜか汚れたままだったのです。 幸之助さんは、ほうきを手に取りバケツで水を流しながら踏み板をゴシゴシ こすり「これではいかん。常識的なことや礼儀作法がわからないままでは。 精神の持ち方を教えるのも私の責任だ。」と思ったのです。

トイレの話ついでに、ホンダが昭和27年に東京に進出し白子工場の修復を したとき最初に本田さんが言い出したのが「水洗トイレ」の設置でした。 「トイレというものは、生活の中で、すこぶる重要な部分を占めている。必 要欠くべからざるものと思う。」との考えによるものです。 会社の良し悪しを計るには、トイレを見れば分かると言われています。
たかがトイレと言うことになりますが、従業員の「心づくり」にとってトイ レは象徴的な意味合いを持ちます。 汚いトイレは、経営者の「考え方」「指導力」そのものを露呈させます。 それと関連して3S(整理・整頓・清掃)は、経営者の「経営姿勢」が表に 現れ出されるチェック・ポイントです。
よくある間違った言い分に「3S(整理・整頓・清掃)なんて関係ない、要 は良い仕事さえしたらいいんだ。」というものがあります。 効率の悪い職場に行くと、書類を山のように積み上げている机があります。 そこでは必要な書類を見つけるのが一苦労で、その無意味な作業に多くの時 間を費やして一日が過ぎて行きます。

工場でも全く同じような現場があり、機械は錆びつき故障も多くその修理で 半日を浪費するということも起こります。 倉庫を見ると安い時に大量に購入した原材料がうず高く積まれていて、おま けにもはや陳腐化してしまいゴミになっています。 このゴミはもとは「お金」で、今や「有料」の倉庫スペースをも占拠します。
3S(整理・整頓・清掃)の実践は、ただちに利益のアップを実現させかつ 社員の心を整え成長させる大切な経営の基本です。 あの「カイゼン」の権化であるトヨタの立役者である大野耐一郎さんが、最 初に堅固な意思で取り組んだのがこの「3S」です。 「3S」が出来ないのに「戦略計画」なんて「たわ言」でしかありません。
また松下幸之助さんにもどりますが、松下さんが「人をいかにつくるか」に 日々思索を凝らしていたある日、思わぬ機会に巡り合いました。 それは昭和7年3月のことで、天理教を訪れ教祖殿の建築や製材所で働く信 者たちの喜びに満ちた奉仕の姿に胸を打たれたことが切っ掛けです。 感銘を受け見たことを思い起こして、ついに経営のあり方に思い至りました。

「宗教は悩んでいる人々を救い、安心を与え、人生に幸福をもたらす聖なる 事業である。事業経営も、人間生活に必要な物資を生産する聖なる事業では ないか。」と悟ったとき、真の使命による経営の確信が生れました。 昭和7年5月5日、大阪の中央電気倶楽部に全店員168名を招集して「真 使命」の250年計画を提示されました。
松下幸之助さんは「経営者としての大きな任務の1つは、社員に夢を持たせ るというか、目標を示すことであり、それができないのであれば経営者とし て失格である。」と言われています。 本田宗一郎さんは、新入社員研修会で「君たちは、企業の犠牲になるな。自 分の生活をエンジョイするために働きに来るべきだ。」と言っています。

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