アサイコンピュータサービス

97回目 トップ・マネジメントの「仕事」とは

トップ・マネジメントの5W1H

企業を存続させて行くには「マネジメント」は必須のスキルです。 マネジメントが不在の企業では、一発の成功が有効な間か有力な競合相手が いないという幸運な束の間だけ企業の存続が許されます。
バランスのとれた経営には、マネジャーと専門家の両輪の機能が必要です。 専門家だけの組織は、片肺飛行の航空機に等しくその速度は減速されて状況 によっては墜落もさけられません。

トップ・マネジメントは、このことを十分認識したうえで最適なマネジメン トを実践しなければなりません。 ここで一言だけ断っておかなければならないのは、トップ・マネジメントが 技術者専門家である場合もあり、この時はマネジメントの専門家をパートナ ー・補佐とすることも求められます。
全ての場合において言えるのは、起業家は自分の得意分野を活かすために不 得意分野を補佐してくれる人材を必要とします。

まずトップ・マネジメントの仕事を、5W1Hで考えてみます。 5W1Hとは、ご存じのように「いつ(When)、どこで(Where)、誰が (Who)、何を(What)、なぜ(Why)、どのように(How)」からなりた っています。
「いつ(When)、どこで(Where)、誰が(Who)」は、具体的に仕事(プ ロセス)が設計された後に、マネジャーが現場スタッフ、専門家などと衆知 を集めて具体的に決定する事柄なのでとりあえずは考察から外します。 企業とは、多くの人が集まってそれぞれの能力を最適配置のうえ統合させて 一人では行えない成果を成し遂げるための組織です。

トップ・マネジャーの仕事は「何を(What)、なぜ(Why)、ビジョン・行 動規範(How)」を構想して周知徹底するのが仕事です。
共感して心を一つにできる「なぜ(Why)、何を(What)」を生み出すこと は、経営者が成果を手に入れるためのまっとうな基盤であり最初に示すべき 意思であり勇気でありセンスが求められる創造(アート)です。
スティーブ・ジョブズなどは「我々は宇宙に衝撃を与えるため」として「わ くわくする。何かピンと来る」ものをつくりあげて行くこととしました。 この「なぜ(Why)、何を(What)」の創造的な「思い」なくしては一連の 驚きの製品が生まれては来なかったでしょう。

松下幸之助さんは、水道哲学として「人生に幸福をもたらし、この世に極楽 楽土を建設する。」ために「水道の水の如く、物資を無尽蔵にたらしめ、無 代に等しい価格で提供する。」を提唱し、その日である昭和7年5月5日を 松下電器製作所(当時)の第1回創業記念式としています。

トヨタやソニーやソフトバンクさらにニッサン、京セラなど多くのエクセレ ント・カンパニー(超優良企業)では、それぞれの個性は異なるものの「何 を(What)、なぜ(Why)」を語っている「言葉」があり、一方NTTや JRやJTなどの民営化した大企業においてはこの種の良い響きの言葉は語 られていないようです。もしくはそのセンスを感じられません。
もちろん「なぜ(Why)、何を(What)」だけでは基盤を整えただけなので 「モノ」や「コト」は起こりません。
と言いながら基盤のない建築物では、風雪に耐えることなどできません。 そこから続けなければならないのは「ビジョン」として「見える化」して、 「何に向かうのか」「何に集中するか」の到達がイメージでき予感できるそ して共感を呼ぶ目標像が示されなければなりません。

あまり言いたくないのですが、業績が悪い企業の経営者の方から愚痴として 言われるのは「うちの従業員は何も考えないし、売上に何の興味も持ってい ないし、努力もしない。」という言葉です。
その経営者に「御社のミッションは。」と聞くと怪訝な顔をされ「どんなビ ジョンを、お持ちですか。」と聞けばさらに怪訝そうに見られます。

それらの経営者の方は、すべからく従業員に「スーパーマン」を求めます。 「何も示さず、何も教えず、希望も与えず。」に「お金を払ってる。」を根 拠にして、すべてがうまく行くと思われています。
稲盛さんでさえも創業当初、自社の目的は「自分たちの技術を世に問う」こ となのだとして、高卒の新入社員に「何も示さず、希望も与えず。」で知ら ぬがために誤り反乱の憂き目に合いました。
この経緯のなかで真剣に考えて生まれたのが「全従業員の物心両面の幸福を 追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」の経営理念です。 稲盛さんは、この失敗で松下幸之助さんの言う「経営のコツ」をつかみ大き く飛躍することになります。

あるべきものとしての行動規範と価値観

次に「行動規範」について考えて行きます。 企業の活動の具体的なあり方を方向づけ、規定するものが「行動規範」です。 行動規範とはやや聞きなれない用語ですが、多くのエクセレント・カンパニ ー(超優良企業)において、その言い回しは異なったとしてもまた風土や文 化として言語化されていなくても現に存在して企業を形づくります。
先日もある企業さんを訪れたときのことですが、社員さんが一斉に立ち上が って挨拶をされる応対を受けました。
これは他社でも経験していますが、それらのどの企業さんにおいても私の知 る限りなのですが業績は悪くはありません。

ある経営者の方にそのことを聞く機会がありました。 経営者の方が言われるには「従業員さんに『会社に利益をもたらしてくれる のはお客さんで、そのお客さんがいるから報酬を得られるのだから』と話し て共感し納得してもらっている。」とのことでした。
ただし「躾」として行わっているところと「価値観」として行っているとこ ろでは、企業内の明るさや活動のメリハリには差があるようですが。

明文化された行動規範として代表的なものは、京セラの哲学(フィロソフィ ー)リッツ・カールトンホテルのクレド(信条)「リッツ・カールトンはお 客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供することをもっとも大切な 使命とこころえています。」、モットー「紳士淑女をおもてなしする私たち もまた紳士淑女です」、ディズニーランドの4つの行動指針SCSE
1.安全を優先する「Safety」(安全)
2.相手の立場にたって行動する「Courtesy」(礼儀正しさ)
3.役割を意識する「Show」(ショー)
4.ゲストの大切な時間を守るための「Efficiency」(効率)
パナソニックの7精神など、それぞれのニュアンスが異なるもののこれがあります。

蛇足で付け加えます。 どのような「何を(What)、なぜ(Why)」がよいかということですが。 人間は低次から高次元までの絡み合った欲望を持っています。 外部の顧客の欲求を満足させ、多くの内部の人の貢献意欲を満足させて導き 出すためには、低次な欲望からのみで生まれた知識や価値観や動機では誰が 考えてもその結末は予見されてしまいます。
人は共感できて感動できる価値観を与えられた時に、最高の貢献を行います。

少し深く吟味して行きます。 『始めに顧客ありき。』『顧客の満足が企業なりき。』が「至言」で、「満 たされていない欲求を満たす。」「より良く顧客の欲求を満たす。」が基本 目的で、「変化」「競合」「強み」の変数の中で「成果(ビジョン)」に至 らしめる「私たち」の「何を(What)、なぜ(Why)」が示されなければな りません。
「私たち」だから「成し得る」「成すべき」「成したい」「何を(What)、 なぜ(Why)」が明確に示されてはじめて、組織(企業)は焦点の定まった 強い活動が可能となりこのことを定めるのがトップ・マネジメントの仕事で あって、よりよく執行するのが専門家の仕事となります。

一昔前には、経営者の方に「何か儲かることありませんか。」「その仕事、 どうやったらうまく行きますか。」などの質問を受けて、それなりの助言で もうまく行くことも実はあったりしました。
今は、そんな相談を受けるとその時点で、その方の行く末を判断します。 「ベスト・プラクティス(最善の方法、最良の事例)」から学ぶのは良いの ですが「二番煎じ」では、もはや「柳の下のどじょう」はいません。

マネジャーに求められるのは、物質的な我欲ではなく精神的な大欲です。 一頃は、強烈な物欲だけでも高いポテンシャルでことはなされました。
今や、それに加えて仲間を引き付ける魅力が付加されていなければ、総合力 を発揮することはできません。
早くその「経営のコツ」「原理・原則」を知っていただなければ、そこには 多くの「宝の山」が横たわっています。 「知(知恵、知識)」こそがマネジャーの力の源泉で、一部の人だけが目覚 めている情況のなかで先んずれば人を制します。

多くの経営者と接点を持って、いつも胸を掻きむしられる思いをするのは自 身の経験則のなかでのみ「ものごと」を判断してしまい、やがては袋小路に はまり込んでしまうことです。
経営の「原理・原則」を勇気をもって知って実行しないがために、少しずつ 破綻をきたし、やがて奥さんや子供や従業員や従業員の家族の生計の場を失 わせることになってしまいます。

アンドリュー・カーネギーの墓碑に刻まれた言葉「自分より賢き者を近づけ る術知りたる者、ここに眠る。」は、有能なトップ・マネジメントが行うべ き考え方のエッセンスです。
漢の高祖劉邦は自身が有能な将でなくとも、有能な人材を引きつけてその活 躍の場を与えることで「将の将」として天下を制しました。

才能の特徴はいつも偏在していて、すべての才能を兼ね備えることなどあり 得ずまた必要もありません。
傑出した才能を結集させるがために、組織化するのです。 漢の高祖劉邦などの傑出した英雄の才能は、傑出した個々の専門家の才能を 活用しきれる才能なのです。
前回に取り上げたステーブ・ジョブズなどは、よく勘違いされるですがIT 技術に関してはほとんど3流以上の域には出ていません。 ジョブズが専門家であるとしたら、価値観をもって「未だあり得ぬ商品イメ ージ」をデザインし完成に導く創造の専門家だと言えます。

ところでマネジャーの役割は何かということですが、松下幸之助さんが言っ ている「松下電器は人を作る会社です。あわせて電気製品を作っています。」 このことなどトップ・マネジメントの役割を顕著に示す言葉となります。
「人をつくり」そして外部の欲求と機会に焦点を合わせて集中し、成果を実 現させるためにプロセスを構想し衆知を集めて構築し、最良の人材を配置し 支援してより良く実現させるのがトップマネジメントの責務です。

≪アベノ塾≫ URL:http://abenoj.jimdo.com/