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15回目 競争優位の獲得は「感動」へ

競争優位条件の質的変化

経営学の用語で「パラダイム」という言葉があります。
何かというと「固く信じている考え方の基本」とでも言えることで、ざっくばらんに言えば「思い込み」です。 経営を行う場合もっとも厄介な心理的な状況です。
人は一度「成功」を経験すると、すべてをそこから発想します。しかし、すべてのことがらは変化しています。 同じということはないのにそれを受け入れることが苦痛で、過去の成功体験をもとに日々の活動を解釈し判断し てしまいます。
今という日は、いつもそうですが過去と違った日々です。日本の現在は物質的に成熟した段階にあって、経済は 世界と一体化し国境を超えた激しい競争環境の真っただ中にあります。
また、急激な情報化もくわわり質的な変化も進行しています。 このような中で日本の消費者の欲求を分析すると、商品はあふれ「物質的」に充足し求めるものは「満足」へ移行 し、さらに「感動」の段階へ移行してきつ つあるというのが現状です。そのため企業活動も、そのことに対応し異質な対応が必要になってきています。
このことを経営の基本におけば、考え方を変える切っ掛けが出来て有利ポジションを得ることができます。

「感動」をどのように創り上げるか

人の欲求は、状況が変わればそれにつれて変化します。「モノ」不足時代は製品供給が「競争優位の要件」 で大量生産の能力が勝ちを制しました。
モノが充分に行き渡ると次の競争優位の要件は品質の向上へと移行し、日本人の「物づくりのこだわり」 が高品質の製品を作り上げました。高品質製品に満たされるとブランド品を求めるようになり、さらにモノ ではなくサービスの質を求めるようになってきました。欲求のレベルも「満足」から「感動」と移行してきます。

ディズニーランドが3千万人を超える入場者を迎え、USJのハーリーポッターも人気を博しスマートフォン が一般的に普及しています。モノにしろサービスにしろ成熟した社会では、関心が「満足」だけでは満たされ なくなって来ています。
「感動」をどのように創り上げるか、「より高い付加価値」をどのように創り上げるかが競争優位をもたらす 異質な場面に移ってきています。生産性の向上、品質の安定が不要になってきたのでなく、それらは当然な基盤で、 それに加えて「感動」をどのように実現するかが核心になってきました。

「感動」を作り上げるのは「ささいな差」です。しかしこの「ささいな差」は人の強いコミットメントなくして はなしえないもので、顧客の情緒的なまたパーソナルな欲求に焦点を定めて「まごころ」をもって接したときに なされる微妙なできごとです。
経営にはスキルが必要です。 そのスキルは高度になればなるほど、人の心への理解と共感が必要になるものです。
人には感情があります。この感情への深い洞察と同調が、スキルを超えた「人間性スキル」 となって経営に「強み」をもらします。

哲学と文化と行動規範

大量生産を効率的に達成するためには、「マニュアル」活用するのが効果的です。
これが大量生産の「管理手法」です。品質を向上させるには、現場従業員が主体となって行うQC活動が 有効で全社的に行うにはTQCが採用されます。

「感動」を経営に取り込むには、哲学の構築と行動規範の作成が求められます。
「感動」は企業の全スタッフが関わる「哲学」が文化となる、行動化したときに実現化されるものです。
「マニュアル」と「行動規範」は、あるべき行動について具体的に文章化したものであるということでは 同じです。その特徴は「行動規範」の方が「マニュアル」より、具体性が乏しいことでしょう。
「マニュアル」は誰が見ても、誤解のないようにイラストまで添えて具体化しています。

それに対して「行動規範」は自分で納得して、骨肉としてあるべき行動として実践し なければなりません。 この違いが「感動」へ導くカギを潜ませています。
「マニュアル」は自分の考えを入れずに、指示されたように正確に動作することが求められます。 そこでは、働く人に期待されるのは道具としての機能です。
「行動規範」のベースになるのは哲学で、何故そのようにしなければならないか反復 して行動習慣となるまで繰り返し学習します。全社が一体となって、この「行動規範」に焦点が定められます。 上司も仲間もそれを工夫して、相互に支援します。

企業の行動規範 

代表的な「行動指針」には、京セラの「京セラフィロソフィ」とリッツカールトンホテ ルの「クレド」があります。

<京セラフィロソフィ> 「京セラフィロソフィ」は、「人間として何が正しいか」を判断基準として稲盛さんの 実体験や経験則にもとづいてつくられたもので手帳にまとめられています。
従業員はこれを携帯しています。 日々の現場活動のなかの指針とされ、ブレのない実践が実現されており「アメーバ経営」 と相まって同社の「強み」を形作っています。

<クレド> リッツカールトンホテルの「クレド」は「クレドカード」としてまとめられ、このカー ドもスタッフが日々携帯し「お客様に何をしたら喜んでいただけるか」を迷った時の行 動のよりどころとしています。 「クレド」とは、ラテン語で「志」「信条」「約束」を意味する言葉です。 その「志」「信条」「約束」は、お客様に「感動」していただける行動として実現され なければ意味がありません。 そのためセクションごとにスタッフが集まり、項目ごとに記されている内容についてど のような行動が喜んでいただけるか具体的行動として確認されています。
「クレド」に書かれてる文言は「ザ・リッツ・カールトンはお客様への心のこもったお もてなしと快適さを提供することをもっとも大切な使命とこころえています。」という ものです。
この文言自体は、みんなで唱和すれば快く過ぎ去るものです。 それなのにリッツカールトンホテルの「おもてなし」が「ミスティーク(神秘)」と表現 される域にあるのは何故か。
それはクレドの言葉が実際場面で実現される仕組みがあるからです。 新入社員であろうと中途採用者であろうと入社初年度に300時間の研修が実施されます。 配属後は、トレーナーによってマンツーマンでトレーニング化実践されています。

行動指針の「感動」についての実現については、従業員に大幅に権限が委譲されいます。
2,000ドルの範囲においては自由にアイディアを実践することが奨励されています。 また年数回「従業員満足度調査」が匿名で行われ、各セクションの満足度が測定され、満 足度に問題があればただちに対策がとられます。
従業員は「内部のお客様」と考えられ、「モットー」として「紳士淑女をおもてなしする 私たちもまた紳士淑女です」と述べられており会社は従業員をそのように遇して「行動規 範」が「ミスティーク(神秘)」として実現されることを支援します。
「行動規範」が「哲学」のもとに創作されて行動として実現されるときに、顧客の中に 「感動の喜び」として企業の「強み」をもたらすことになります。