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83回目 経営のエッセンス「知恵」について4

ミッションについて

大きくことをなす組織には、必ず人々を導いて行くミッションがあります。 何故なら小さなことなら一人で行うことができるのですが、大きくことをな そうとするなら多くの人を同じ方向に導いていかなけばならないからです。 なおそのミッションは、多くの人にとって納得性が高く何らかな意味で誇り や感情に訴えるものであることが望まれます。
ただ少し皮肉な見方をするならば、それはあるべき価値観によって導かれる ものかどうかによってそこから生まれる成果は異なります。 大きく歴史を紐解いて見てみると、大きな悲劇をももたらしているのです。 とは言え急激に大をなした企業においては、一つとしてミッションの威力を 有効に活用しなかった企業はありません。
けれども、この原則について明確に教えられてはいず言われていてもよくこ のことを理解できている経営者は多くはありません。 もっともよく理解していた経営者の一人が、松下幸之助さんです。 そして最も「ミッション」の大切さを訴えている学者が「マネジメントの創 始者」といわれているピーター・ドラッガーです。

そのピーター・ドラッガーが、NPO法人の「おカネのないわれわれのため の経営ツールを考えてほしい。」との願いに応えて述べられたものが「あな たの組織にとって最も重要な5つの質問」です。
この「最も重要な5つの質問」は、組織のために成果の実現を約束する「マ ネジメントの心経」と言える「マネジメントのエッセンス」です。
「最も重要な5つの質問」とは「われわれのミッションは何か」「われわれ の顧客は誰か」「顧客にとっての価値は何か」「われわれにとっての成果は 何か」「われわれの計画は何か」です。 よく言われるのは「ミッションは利益を出すことである」ということですが 「利益である」と言ってしまえば、そこからは何も生まれません。
「ミッション」が明確になると、その「ミッション」によって貢献できそう な「顧客」が見つけやすくなって「顧客」が明確になるとその顧客の欲する 「価値」を探ることができさらにあるべき「成果」を明らかになります。 そしてあるべき「成果」を実現させる活動の焦点が明らかになり、その焦点 を目標とする「計画」を構築することができます。

利益は「われわれの計画」を実行して、顧客の欲求を満たすことを成し遂げ た時に初めて得ることが可能になります。 また「われわれのミッション」が、社員の「物心両方の価値」を実現できる とき社員の活力と共感を得られることになります。 あるべき「成果」とは、顧客・社会と社員の満足を実現することにあります。
まず、急速に成長を実現させた企業の「ミッション(経営理念)」を見て行 き詳しくその構造を明らかにして行きます。
松下幸之助さんは「極楽楽土を建設する。」だとし、ホンダは「三つの喜び (買う喜び、売る喜び、創る喜び)」で、京セラは「全従業員の物心両面の 幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること。」です。

トヨタの理念はパナソニックの綱領によく類似しています。 そこからはトヨタの活力の根源はよく見えないのですが、トヨタでは理念と して示されているものよりその企業文化自体がミッションを示します。
トヨタでは、故郷を同じくする従業員の生活を不安定な状況に絶対にしない ということそのために最も優れた製品をつくることが「ミッション」です。

ホンダには「『The Power of Dreams』を原動力に、世界に新しい喜びを 提案していきます。」というグローバル・ブランドスローガンがあります。 強みが生かせれば何にでも挑戦します。
ASIMO(新しい時代へ進化した革新的モビリティー)をつくり、小型ジ ェット機もつくり「モビリティー」であれば何でもつくって行きます。
ソニーもホンダのような企業だったのですが、何か大きく方向が違ってしま ったようで潰れない企業になったかもしれないのですが「Dreams」は少し しか感じられなくなってしまっています。 出井さんが社長さんになってからは、GEを模倣したようで「ソニー生命」 なんていう強みが発揮できることに強く拘っているようです。

稲盛さんと松下幸之助さん

ここからは、京セラについて話をすすめて行きます。 稲盛さんは若き日に経営をどうあるべきかを思い悩み模索を続けていたよう で、松下幸之助さんや本田さんのセニナーに参加しています。 稲盛さんと松下さんには、余り知られていないところの共感性があります。 それは、肺疾患を気持で完治させた「自己肯定感」を持っていることです。
何度も同じ話をしているのですが、松下さんのセミナーでダム経営の話をさ れ、その時にある中企業の経営者が「どうすればダム経営ができるのでしょ うか」と質問し、松下さんは「まず願うことですな。願わないとできません な」と答え周りから失笑がおこったそうです。
そんな中で稲盛さんは「強い願望を持つこと」の意味に感動しています。

これも何度も引き合いに出すのですが、稲盛さんは人生方程式として 「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」をあげられていますが、ここで 最も重要視しているのは「考え方」で次に「情熱」です。
「能力」については松下さんの「『衆知』の考え方」があるように、人それ ぞれの傑出した能力があるので「やってくれるか。」で良いのでしょう。
松下幸之助さんが「自分は病がちだから、代理に頼んで仕事をしてもらうこ とになる。そうなれば、百人の人にも頼めるし非常に多くの仕事ができるの ですな。」そのことを「けがの功名かもしれませんが、結果的には原則を実 行したことになりますね。」と言われています。
「身体が弱かったこと」「学問がなかったこと」を強みと捉えられています。 稲盛さんも松下さんも、病気を通して「天の意思」と「考え方」の不可思議 を体験されているようです。
稲盛さんの体験は13歳で肺浸潤で病床にあったとき、たまたまのすすめが あり『生命の実相』を読むんで「心の持ちよう」が病を引き寄せるのだとつ くづく思い至って快癒することになりました。

「ものごとの結果は、心に何を描くかによって決まります。『どうしても成 功したい』と心に思い描けば成功しますし、『できないかもしれない、失敗 するかもしれない』という思いが心を占めると失敗してしまうのです。」 「心が呼ばないものが自分に近づいてくることはない。」稲盛さんは正しい 「考えかた」のもと「情熱」をもって思い描くことを強調されます。
いつもそうなのですが「脅威」にはいつそれを上回る「機会」も訪れます。 決して喜ばしいことではない「脅威」ですが、その体験は強烈であるがため に経営者の思ってもみない「真実(般若)の知恵」を授けます。
松下さんの場合には「熱海会議」がその場面で、稲盛さんにおいては創業2 年目の高卒社員11名との団体交渉になります。 稲盛さんは7人の同志と「自分たちの技術を世に問う」との思いで創業した のですが、普遍性のない思いでは新たに採用した11名の高卒社員とは志を 同じくできないので団体交渉の申し入れとなってしまったのです。
そこで生まれたのが「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、 社会の進歩発展に貢献すること」という京セラは経営理念です。

前にも述べたことなのですが、京セラの経営理念は独特です。 顧客や社会より先に「従業員の幸福追求」が先行していて、それも「物心両 面」の「幸福」となっています。
物は豊かな生活を保証するということで理解されやすいのですが「心の幸福」 はどのように追求するのかが大きな課題となります。 「小善は大悪に似たり」「真の愛情とは、どうあることが相手にとって本当 に良いのかを厳しく見極めることなのです。」として、「コンパ」で酒を酌 み交わし何が正しいあり方かを確かめ合います。
この過程を通して、志と思いを一つにすることで「アルミナ・サブスレート」 「マルチレイヤーパッケージ」という不可能製品を完成させて行きます。

余談を挟みます、稲盛さんは「コンパ」という本音の話し合いを重視します。 無報酬で乗り込んだJAL再建のときにも、このことを行っています。
自身は選ばれた人材だと考え「公的な交通機関には、赤字も必要だ」とうそ ぶき試算表も3か月遅れで出してくる経営幹部に、来る日も来る日もあるべ きことは何かを言い続けたある日に多くの人の心が変化していったのです。
製作が不可能とされる製品を完成させることは、参画する従業員にどれだけ 「達成感」と「自己承認」の感慨をもたらしたことかと思い致されます。
もちろん、最高の製品はIBMをはじめとする顧客に最高の満足を与え、こ のこと通して企業に多大の収益をもたらされ、従業員に報酬という形で「物 的な幸福」の追求が可能となります。

アメーバ経営

アメーバ組織は、稲盛さんの発想から生まれた組織形態です。 その先駆はパナソニックの事業部制があり、アメリカにある世界的化学・電 気素材メーカーの3Mが似た組織形態を取っているものの、稲盛さんが模倣 したものではなくて全ての社員に経営者意識を持ってもらいたいという動機 から生み出されたものです。

アメーバ経営とは「組織をアメーバと呼ぶ小集団に分け、各アメーバのリー ダーは、それぞれが中心となって自らのアメーバの計画を立てメンバー全員 が知恵を絞り努力することでアメーバの目標を達成していきます。そうする ことで、現場の社員ひとりひとりが主役となり自主的に経営に参加する『全 員参加経営』を実現しています。」としています。

アメーバ組織は「独立採算組織として成り立つこと」「ビジネスとして完結 する単位であること」を条件に細分化して行きます。 アメーバ組織が最大の目的とするのはパナソニックの事業部制と同じように 「経営者意識(オーナーシップ)」をもって事業経営に参画もらうことであ り、このことによって「従業員の心の成長」がはかられることです。

アメーバ経営では事業を小集団に分割し独立採算で経営を任せることににな るのですが、しかし会計知識を持たないリーダーに採算を管理してもらうこ とは容易ではありません。
そこで考え出されたのが「売上を最大に、経費を最小に」をもとにした「時 間当たりの採算表」で、従業員が簡単に理解することが可能となります。
この「時間当たりの採算表」は、「売上」から「経費」を控除した「付加価 値」つまり経営努力の成果が計算され、この付加価値額を総労働時間で割れ ばそれぞれのアメーバ単位の経営成果が一目して明らかになります。
良い管理手法の目標として簡単であること誰にでも分かりやすいことがあり ますが「時間当たりの採算表」は理想的な「管理ツール」と言えます。 「管理」はいつも人件費をはじめとするコストが発生します。それ故に「管 理」の理想は「管理しないこと」もしくは「最小」であることです。
「時間当たりの採算表」は先に言ったように理想的な「管理ツール」ですが、 稲盛さんはさらに有効な管理ツールとして松下さんの「私たちの遵奉すべき 精神」にかわる行動規範としての「フィロソフィー」を発想しています。

「時間当たりの採算表」の機能を吟味して行きますが、たまたまなのかそこ まで計算しての管理ツールなのか非常に機能的な働きがあります。 売上向上は市場の製品に対する評価で、経費削減は生産性努力の産物です。 時間当たりの付加価値額は、マーケティングを成功させ改善・変革を「フィ ロソフィー」という知恵によって実現させた成果となります。
「フィロソフィー」は、稲盛さんが仕事についてまた人生について自問自答 する中から生まれてきたもので「人間として何が正しいのか」「人間は何の ために生きるのか」という根本的な問い向かい合って生み出された仕事や人 生の指針です。
稲盛さんは「コンパ」などを通して、徹底的に議論して浸透させています。

複数のアメーバ単位の活動がすべて成功できるものではないでしょうが、市 場の動向と従業員の知恵によって増殖する経営は勝利の方程式を持ちます。
それは従業員が経営者意識を持つこと、市場の変化に連動できること、生産 性向上に従業員の知恵が発揮できること、失敗が多くあったとしても再生で きる余力を持ち失敗によって未知の知識が蓄積できることです。
市場の欲求に反応する「時間当たりの採算表」によって半自動的に増・改廃 でき得る組織形態はカンパニー制や事業部制より融通無碍です。 衆知を分散・拡大する組織なので、ソフト・バンクの複合企業形態のように イノベーションの機会が増し、また各アメーバ単位のリーダーが採算責任を 委譲されているので経営センスを持つリーダーも育成されます。

稲盛さんは経営手法を見てみるとなんとなく松下幸之助さんの影が見え隠れ れするのですが、それは単なる模倣ではなく一段階上かもしくは別次元の進 化形としての展開がなされているなぁという感慨がもたされます。
稲盛さんには、松下さんや本田さんのよう補佐役はいませんでした。 ある意味で、アメーバ経営で多くのパートナーをつくったのかもしれません。

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