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100回目 企業経営の「本懐」

リーダーの時代

100回を迎え、多くの方に読んでいただき感謝いたします。 少しずつ小難しいことや、無神経なことも述べるようになりました。 「よもやま話」なので気楽に参考にしていただければとは思うのですが、こ の変転する時代にあって「知らなければ」力を失い「知る」ことで可能性が 開けるのであればどうしてもくどくなってしまいます。
経営においては「知る」さらに言えば「悟る」ことだけが、力を得て「存続」 を適え「偉大さ」に至らしめる「今日」の唯一の方策です。

「今日」と言ったのは、誰もそうなのだと思い込んでいる「企業」「組織」 「経営者」というものなどの旧来の「思い込み」が破綻を来していることを よく見かけてしまうからです。
企業等の本来ある目的は、3つです。 顧客に満足や感動を与えること、従業員に生活の糧と生きがいを与えること そして社会に害をなさず貢献して支持してもらうことです。 利益はそのためにあり、経営者自身が夢や願望を適えながらそれらを成すこ とにこそ人としての醍醐味があると感じます。

経営者の方と関わっているとその孤独さの軋轢をつくづく思うのです。 その反面、自分の考え方や実行で実社会に自由に形をつくることができます。 そこからまたつくづく思うのですが「知り」さらに「覚醒した」経営者の自 由さをうらやましく思えます。
ただ、これは誰にでも可能なことで「知らない」から「知る」さらに「智る」 に変わればできることだと信じます。
知っていなくとも、勢いで乗り越えた時代は過ぎてしまいました。 あの「東芝」でさえ「経営」の「まずさ」で、倒産の瀬戸際にあります。

北欧神話にそのことを語った面白い逸話があります。 北欧神話主神オーディンは「片目」であることが特徴ですが、それは「英知」 を得るための代償として片目を巨人に与えてしまったことに由来しています。 古代神話のなかですら「英知」と「偉大さ」の関係が深く認識されています。
一人だけの才覚で勝負する剛腕の『ボス』の時代は過ぎ去って、今や多くの 人の知恵を活かしきる賢明な『リーダー』の時代となってきています。
いかに一人が天才でも、多くの凡才が束になれば勝ちようがありません。 ましてや他の力を活用しない一人の剛腕より、多彩な異なる才能を効果的に 活用する賢者にこそ勝ち目があるのは自ずから明らかになります。

前にも少し述べましたが「漢」の創始者の劉邦は「将」の能力などまったく 持たず見栄えこそ秀でているものの、一介のやくざの頭目でした。 しかし、その器は大きく「将の将」として天下を我がものにしました。
20世紀最大の経営者であるジャック・ウェルチは「優れたリーダーとは、 自分が一番バカに見えるような優秀な人たちをチームメンバーとして集める 勇気のある人だ。」と言い「もしリーダーが一番賢いふりをしたら、最善の 決断を下すのに必要な意見や批判などを半分も得られなくなってします。」 と続けます。

「しばしの間」か「小さい」ままでいるのであれば、企業経営は個人の才覚 ・力量だけに頼って充分にやって行くことができるでしょう。
ところが規模が大きくなって人が増えるとなるとまた複雑になると、経営者 の実務手腕をはじめとする個人的な影響力だけでは疎かになって行きます。 また、単に「労力」だけを活用しようとするならば、そこでは生産性の向上 や創造性の獲得などつまり「知恵・知識」の経営は望むべきもありません。

よくあるのですが経営者がやり手で、従業員数が50人を超えるまでは順調 に業績を伸ばすのですが、それを越えた時点で急に業績を落とします。
それは「リーダー」となる人材をまた自立して判断できる社員を育てこなか ったがために起こる必然的な現象で、大きくしたければ自分以上の人材を採 用し・教育し・訓練しなければなりません。
それを望まないのなら、小さいままで活躍することが良策だとも言えます。

トヨタが優良企業なのは、従業員が自立して知恵・知識を創造して実行する 能力を風土・システム・しくみのなかで育み・成長させるからこそです。
京セラはアメーバ組織という独特な自己責任を明確にする組織体系を持ち、 フィロソフィーと言う行動規範により従業員が自立して働くシステム・仕組 みを整えています。
すべての「過去」を生き抜いて「今」も優良である企業には、そうなれるた めの「知恵」と「努力」と「工夫」があります。
最高の効用(商品・サービス)でなければ納得しない「今日」であれば、一 人のやり手ボスと現場感覚の薄い管理者・専門家がいくら頑張っても、現場 に精通していてやる気充分な従業員が知恵・知識を活かして活躍するならば 太刀打ちできようはずがありません。

仕事の「自働化」

先日見た番組カンブリア宮殿の「タマノイ酢」の話には、優良企業に変身す るためのマネジメントの「考え方」と「方策」が多く語られていました。
いつも企業が「V字回復」をはたすときには、同様な軌跡を描きますが「タ マノイ酢」もそんな一つの「知恵」と「勇気」経営のモデルケースです。

業績が下降し倒産に至る企業は、いつも同じような弱点を持っています。 どんな企業でも、思わぬ外的要因で窮地に落ち込むことはありますが、基本 の「知恵と活力」を持った企業は復元力があり試練を糧として成長します。
そうでない企業は、一時の「アイディア」と「幸運」により繁栄を謳歌して もやがて必ず崩壊する「定め」を迎えます。
また平安に安住してしまい「知恵と活力」を失う時も同様に崩壊を迎えます。

経営者の仕事とは「価値観」を核力しながら「知恵(知識)と活力」が自働 運動する組織体を創り上げることにあります。 経営者がそれを「しなければ。またできなければ」それまでで、外部・内部 を問わず活力なく歪み組織は沈滞して末期へと向かいます。
そうなってしまうと、企業のミッションである「顧客によろこんでもらえる 『効用』」は創れず、また「従業員を幸せ(生活の糧、生きがい)にする」 という内部ミッションの『効用』も果たすことができません。

基本の「『知恵と活力』を総動員するにはどうしたらよいのか。」 それは、経営者が『人(顧客・従業員を含め)の欲求・現実・価値感』を知 ることから始めなければなりません。

「タマノイ酢」の話に戻りますが、同社が窮地に陥ったのは現経営者播野勤 氏の実兄が投機に失敗したことが大きな原因でした。
現経営者播野氏は思わぬ経緯で社長になったのですが、ある時のある役員会 で部下である営業部長に「営業の状況はどうですか。」と尋ねました。 そこで返ってきたのが組織の硬直化と人材配置の錯誤を象徴する「社長は営 業のことには、口を出さないでいただきたい。」というものでした。 ここに至っては、いかに組織が歪んだ状況にあるのかが分かります。
いつも、組織が機能不全を起こすと官僚制的発想とセクショナリズムが頭を もたげてくるのです。

これは組織自体の問題であり、一部長の品格の問題ではありません。 そうなったのは、経営者の経営(マネジメント)が失敗したからです。
ここに至れば、行わなければならないのは「大ナタ」をふるう「破壊的創造 活動」で、そのことなくして解決の法はなくまたそれは行う絶好の機会です。
破壊的創造(革新)に必要なのは「勇気」と「誠実さ(真摯さ)」です。 まずしたことは『人(顧客・従業員を含め)の欲求・現実・価値感』を知る ために「百聞は一見にしかず」で、一年間をかけて全国の得意先、自社の営 業所、工場を訪問して巡り数千人以上の人に会ったそうです。
「素直」に現実を見れば「問題点」「課題」が少しずつ浮き彫りになります。 そして「勇気」を持って尋ねれば、そこから「対応策」や「方向性」の糸口 も自ずから浮き上がってきます。

ニッサンの「カルロス・ゴーン」さんも再建を委ねられた時、予断を持たず に「現場」を1年間巡って現場と対話して、そこでの観察と情報に基づいて 「日産リバイバルプラン」の戦略構想を練りあげたそうです。
そのうえで基本構想のもとに、社内の部署の垣根を超えた「クロスファンク ショナルチーム」を発足させて再建計画を作成しました。
そこから重視しなければならないのは、松下幸之助さんの言う「血の小便が 出るほど、とにかく、考えてみることである。工夫してみることである。そ して、やってみることである。 失敗すればやり直せばいい。」となります。
「タマノイ酢」の経営者である播野さんも、悩み抜き考え抜いて実際に胃に 穴があいたそうです。

GEの元経営者のジャック・ウェルチは「改革」の成功者ですが、その成功 の法則をシンプルにまとめています。
・変化の一つ一つに明確な目的と目標を持たせること ・変化に必要性を感じ、一緒にやって行こうとする人材だけを登用すること ・たとえ業績はよくとも抵抗する者は、排除すること。
熟考の末に行なわれた改革目的・目標は、大きく二つに集約されます。 一つは、硬直化した官僚的なセクショナリズム(縄張り意識)を破壊して部 門を超えてコミュニケーションし協力し合える文化の構築であり。
もう一つ目は、年齢、職制にかかわらず自由に「知識(知恵)」が発想され 交換でき創造でき実行できる活性化した組織の構築です。

大胆に決行したのが大幅な定期的で頻繁な全部門にまたがる人事異動で、そ れは営業、製造、管理という専門分野にこだわらない大胆なものでした。
特筆すべきものとして、いがみ合っていた大阪・東京間の人事異動でその成 員の半数を一気に移動・交替させたもので、それまでの敵同士が相手の立場 が分り理解しあえるとなると、そこから同志に変わってしまいました。
14年で9回も部署の移動を経験した女性社員は、最初は戸惑ったが最終的 には自分たちの仕事の目的を「会社として『目指すもの』『頑張ること』は 『共通』のものと考えるようになりました。」と述べています
これは、頻繁な異動で混乱するなかお互いが補い合うことから意思疎通が生 れ、部署ではなく会社であることが知った社員集団が生まれたことにより成 し得ることになりました。

また「ヒット商品開発」や「業務改革」をしなやかに実現するには、柔軟頭 での新たな視点による発想が必要です。
ユニークな施策は、入社間もない新入社員の経営上の問題点を発表できる報 告会を催して経営者はじめとする幹部がそれを聞き参考にするというもので、 社長は「解決策を求めるものではなく、自由に発言できる。」環境をつくる ことだとしています。

同社の「ヒット商品」である『はちみつ黒酢ダイエット』は入社2年目の新 入社員の提案から生まれています。
また、工場の「勤務体制の改革」は異動で転勤してきた社員の「常識にとら われない柔軟な発想」から生まれています。

「優秀な人がいない。」と嘆く経営者の方が多くおられます。 「優秀な人がいない。」ではなく、それはマネジメントが正しく行われない がための結果で「タマノイ酢」のようにシステムや仕組みがかわれば状況は 一変しまた「一人としては平凡」であっても協同すれば「天才」に勝ります。
「V字回復」企業では、同じことが行われます。 大事な核となる要件は「最大の経営資源」である「人」の処遇にあります。 これは、まさの経営者にしか行うことのできない「仕事」だと言えます。

ジャック・ウェルチは経営者の理想を、先に言ったように「優れたリーダー とは、自分が一番バカに見えるような優秀な人たちをチームメンバーとして 集める勇気のある人だ。」であり「もしリーダーが一番賢いふりをしたら、 最善の決断を下すのに必要な意見や批判などを半分も得られなくなってしま す。」と極言しているのです。

「人をつくる」のが仕事

「V字回復」ではなく、好業績の最中に未来の危機を予見して大改革を実行 した経営者がいました。
それが先に名前を出した「20世紀最大の経営者」である言われるジャック ・ウェルチで、その手法は基本において「タマノイ酢」と同じものだと言え ます。

ジャック・ウェルチは「会長としての20年間、仕事の75%近くは人事だ った。世界で最も頭が良くて、最も創造的で、最も競争心に富んだ人たちと 一緒に仕事をしてきた。その多くは私よりも優れている。一緒に素晴らしい 会社づくりができたことが私の誇りだ。」だと言い、人に関わる仕事が経営 者の最も重視する「核になる仕事」であると言います。
ただしそれは「その多くは私よりも優れている。」という人材が運よく見つ かり、ほっておいても高い業績を上げたのではないことだけは確かです。 ジャック・ウェルチが「人事の仕事を行った」からそれができたのです。

松下幸之助さんは「松下電器は人を作る会社です。あわせて電気製品を作っ ています。」と言われるのもまさにこのことにあたります。
少し趣は違うのですが、本田宗一郎さんは「私はうちの会社のみんなに『自 分が幸福になるように働け』っていつもいってるんですよ。会社のためでな く、自分のために働けって。」と言い、また「自分のために働くことが絶対 条件だ。一生懸命に働いていることが、同時に会社にプラスとなり、会社を よくする。」という言葉が出てきています。
この言葉を「タマノイ酢」の社長の播野勤氏も同様に言います。 『会社は社員の生きがいを実現する場』だと。 そのようにすると「日本」の場合では、優良企業に変身するようなのです。

また最後に蛇足ですが、欧米、中国などでは金銭的な報酬と直接にリンクさ せて行います。
「日本」ではそこまでしなくとも行い得ることで、それが何を意味するのか 分かりませんが「文化」を無視してマネジメントを行うことができないのは 確かだとは言えます。
100回になりました。 次回からは理屈っぽい解説を試みて行きますので、ご理解ください。

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