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33回目 経営革新は基本的活動だ!

万物流転の法則と経営

企業を取り巻く環境は常に変化します。 その変化は、企業に「脅威」を与えるとともに常に「機会」を提供します。 それをどう捉えて、どう活かすかが経営者の根幹的な「仕事」です。
優良企業の経営者はそこのところを充分に認識して経営を行っています。 そこで昭和の名経営者の「万物流転」に対する考え方とそれに対応するため の組織観を拾い上げます。
<松下幸之助さん(パナソニック)>
諸行無常とは、万物流転であり、生成発展ということであると解釈したらど うかと思うのです。 いいかえますとお釈迦さまは、日に新たでなければならないぞ、ということ を教えられたのだということです。
<組織観>
活力のある組織、端的に言えば「打てば響く組織」をつくるべきだ。
<藤沢武夫(ホンダ):本田技研の実質的な経営を担当>
世の中には万物流転の法則があり、どんな富と権力も必ず滅びるときが来る。 しかし、だからこそ本田技研が生まれてくる余地があった。 だが、この万物流転の掟がある限り、大きくなったものはいずれ衰えていく ことになる。
<組織観>
必要に応じて組織は作られるもので、組織が最初にあるべきではない。 万物は流転します。 ダイエーやサンヨーのような大企業でも、屋台骨がぐらいついていたことも ありますが阪神大震災を契機として衰退し他企業に合併されました。 液晶で大躍進したシャープも、新たな柱になる商品開発を行っていなかった ことと戦略の失敗で存続の危機の中にあります。
ドラッカーはマネジメントの基本機能は2つとしています。 1つはマーケティングで、もう一つはイノベーションです。 その目的は、少しややこしいのですが「顧客の創造である」としています。 イノベーションの目的は、顧客を焦点としてよりよい欲求を満たすことです。 「よりよいため」の考え方とそれに基づく活動がイノベーションです。
万物が流転する中で、企業が新たなチャンスをつかむにはイノベーション、 革新を行うことが求められます。 改善はもちろん必要ですが、時代を切り開いて大きく発展するにはイノベー ションが必要になります。
現在は、「第3の波」の中にあると言われています。 第一の波は農業革命で、第二の波は産業革命と呼ばれるものであり、今はま さに第三の波として情報革命による脱産業社会のなかに漂っています。 ソフトバンクの孫さんは「情報革命で人々を幸せに」を理念として「万物流 転」の最先端をバクシン中です。

組織、制度のイノベーション

イノベーションは、モノづくりだけのものではありません。 すべての活動やあり方に及びます。 組織や制度のあり方にもイノベーション(変革)が行われます。
中国の歴史をひも解いてみると、同じ国でありながら時代に応じて異なる 政策がとられていることがあります。 中国だけでなく統治の道にはいくつかのあり方がありますが、そのなかで 3つの古典的な道があります。 それは「帝の道」「王道」「覇道」です。
最初に中国に統一国家をもたらしたのは「秦」ですが、統一をもたらした のは「覇道」で、拡張をもたらしたのは「王道」でした。 現在の企業でもやはりこの3つの「道」が有効に機能するものであり、 「時代の声」を知ることと「道の方式」を歩むことが「強み」の源泉にな ります。
秦の「王道」をもたらしたのは、秦の穆公で70余歳の百里奚を登用する ことで実現しました。 その特徴は徹底した「徳政」で、周辺諸国を慰撫する政策をとりました。 これにより周辺の10カ国が、秦に吸収合併されることを申し出てそれを うけることによって国力は大いに増大されました。
秦の覇道は、若き君主であった孝公が商鞅が説く覇道(法治主義)に共鳴 したことでなされました。 その方式は、徹底した信賞必罰の成果主義です。
それは変法(へんぽう)と呼ばれる国政改革で、 その内容は報償と罰則が対になっていて、成さねば害を被り成せば利を得 られるという動機づけによる徹底した誘導です。
秩序の維持には、戸籍を設けて民衆を五戸または十戸を一組にして相互に 監視、告発する事を義務付けて、違法を訴え出ない場合は連座して罰せら れるという制度を設けました。 対となるのは告発で、告発すれば報酬を得られる仕組みです。 これは、徳川幕府が「5人組」の制度としても取り入れています。
富国強兵策としては 戦争での功績には爵位を以て報い、私闘をなすものには課刑が課されます。 また、地位のあるものと言えども、戦功の無き者はその爵位を降下します。
生産性の向上のためには、男子は農業、女子は紡績などの家庭内手工業を 奨励し成績がよい者は税が免除されます。 逆に商業をする者、怠けて貧乏になった者は奴隷の身分に落とされました。
さらに徹底しているのは、政策に賞賛の声を揚げた者も「世を乱す輩」と して容赦なく辺境の地へ流されました。 現在では、このような極端な統治法は取れないのですが、統治の考え方の 参考になります。 その考え方は「徳治」と「法治」であり、「組織」と「制度」の制定があ り、その中での「賞と罰」が適応されることになります。 商鞅の「変法」の基本概念は、時代に合わせば現在でも有効な方策です。
ただ、時代が要求するものはより高度なものが求められます。 「知識」や「創造性」や「前向きな活力」であり、組織、制度のイノベー ションも、時代の要望に応じて変化させなければなりません。
群馬県にある中里スプリング製作所という会社には、面白い報奨制度があ ります。 それは何かのテーマで一番になれば、2つの権利が与えられます。 一つは、好きな製品を自由につくることができます。 もう一つはもっとユニークで、横暴で自分に合わない得意先を自分の判断 で取引停止にする権利です。

旧い業態の経営革新

企業の存在意義は、社会に対してのお役立ちです。 旧い業態においても、社会のお役立ちが実現できる限りにおいてその存続 が保証され続けます。 お役立ちが継続させるために、すべての企業はよりよい貢献を行うために イノベーションを行われなければなりません。
その旧業態が革新を成功させるにはいくつかの要件が必要です。 そのなかでもっとも大切な要件は、時代が求める顧客の新たなもしくはよ りよい欲求に焦点を絞ることであり、そして「新たな効用」の開発と「新 たな市場」を開拓を行うことです。 それも、先んじて最高の「モノ」や「コト」を行わなければなりません。
まず最初に、経営者の信念と覚悟が必要です。 それは、未だ満たされていない顧客の欲求を私こそが満たすのだという覚 悟であり使命感です。
二つめは、今行わなければいつ行わえるのかという決断力です。 三つ目は、あらたな試みには絶えず失敗がともなうので、それ故に実現さ せるまで持続させる忍耐力です。
経営革新と言えば知的なスマートさがイメージされますが、決して知的な作 業だけで対応できるような代物ではありません。 時代を先駆ける「ソフトバンクの孫さん」や「ユニクロの柳井さん」でも、 多くの寄り道と失敗の連続を経験して、その中を「知恵」と「根性」で切り 抜けてきています。 そして、未だ衰えぬ革新の独楽(コマ)を回転させ続けています。
おもしろい事例があります。 洞爺湖サミットでVIPに贈られた日本酒があります。 その日本酒は、山口県の岩国市の旭酒造という酒造メーカーがつくった「獺 祭(だっさい)」という銘柄の純米吟醸酒です。
もともとは、岩国市の弱小の酒造メーカーでそれも最下位に位置するメーカ ーで潰れるのは時間の問題のような状況がありました。 そんななかでの悟りが、「どんな破天荒な挑戦をしてもこれ以上悪くはなら ないだろう」という思いです。 その思いを拠り所にして、改革がはじまりました。
まず考えてみたのは、今顧客が求めているなんなのかということです。 今、求められている酒は『酔うため、売るための酒』ではなく『味わう酒』 ではないのか。 そこで、飛躍してチャレンジしたのが純米大吟醸酒です。 それも他の追随を許さない23%の磨き歩留まりのお酒(「二割三分」が代 名詞)です。
販売先も地元を対象としていたのでは潰しあいになるので、 東京を手始めに香港、アメリカ、さらにワインの本場であるフランス、パリ へと経営者自身が率先して営業行脚で拡げています。
その結果1984年、9,700万円(生産量126kl)だった売上高が 2013年(29年後)には、40倍以上の伸びの39億円(2052kl) にまで拡大するという幸運を実現させています