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23回目 情報システムの戦略化

イノベーションの意味

安藤忠雄は異色の建築家で、元プロボクサーで独学で建築を勉強して大成して文化勲章を 受賞しました。
プロボクサーを辞めたのは、ファイティング原田の練習風景を見てこれは勝てないと思っ てのことで、建築家を目指したのは家の改修で外された天井から見えた空の青さに感動し たからと言います。とてもユニークです。
安藤忠雄さんは「闘争心。結局はこれで勝負が決まると思います。」と見切っています。 その思いを強烈に確認したのは、24歳のときにたまたま立ち寄ったインドのベナレスで の体験だと言っています。
人間の生がむき出しにされた混沌世界の強烈さのなかで、「生きるとはどういうことか」 を自問し続け、「人生というものは所詮どちらに転んでも大した違いはない。ならば闘っ て、自分の目指すこと、信じることを貫き通せばいいのだ。」という想いに至りました。
ここから、安藤忠雄さんのゲリラとしての生き方が始まりました。 「闘いには絶えず障害がつきまとう。しかし、そこからいろいろなものが生まれる。」 闘うから、妥協のない賞賛されるものが生まれるという考え方です。
この闘ってこそ成果が生まれるというのは、マネジメントでいう「イノベーション」のエ ッセンスです。
一般に経営者であれだれでも、安定を求めるのが人の心情です。 しかし安定志向は、結果的にはタイムラグがあるものの不安定をもたらしてしまいます。 不安定の中でギリギリ挑戦するから、存続という活路が開かるようです。
危機の連続の中で必死で闘うことでやっと存続が可能になり、その中で機会を見つけてチ ャレンジし、やっと将来の「大きな成長」が垣間見られるというのが真実のようです。
今、日本の流通業で最大手に位置しているのはセブン&アイ・ホールディングスです。 セブン&アイ・ホールディングスには、2つの大きな「イノベーション」がありました。 その一つはコンビニエンス・ストアへの進出で、もう一つがPOSシステムの導入です。 どちらのイノベーションも正しい論理と直感と勇気でなすことができたものです。 この仕掛け人は、鈴木敏文さんです。
鈴木敏文さんは、「論理的に闘う人」で、コンビニエンス・ストアへの進出は1973年で、周囲の反対を 押切り説得しての快挙でした。もう一つのイノベーションは社内体制の一新「業務改革」で、その過程で採用 されたシステムツールが最先端情報化システムであるPOSです。
POSシステムの導入は1982年で、セブン・イレブンから導入し、イトーヨーカドーへの導入は2年遅れの1985年からです。
POS導入について意味合いについて考えて行きます。 POSシステムは効率化は当然としてその戦略的な意味合いも持ちます。 売れ筋商品の確認にはじまり、有効なデータ処理・活用により死筋の削減、さらに効率的な 物流体制の確立等の多様な成果が実現されています。
POSシステムは、流通業におけるIT情報化革新の画期的な成果と言えます。 イトーヨーカドーでは1981年下期の減益に際して「業務改革」として「基本の徹底」が はかられました。
それは「死に筋排除」「仮説と検証」「現場への権限委譲」といった改革です。 その要望の中において、このシステムが採用されたものです。

イトーヨーカドーの情報戦略

イトーヨーカドーの「業務改革」では、「基本の徹底」つまり「死に筋排除」「仮説と検 証」「現場への権限委譲」といった改革がおこなわれました。
「売れ筋商品」の確認は、販売機会を逃さないことで売上増大に寄与します。これに対して「死に筋商品」の確認には どのような意味合いがあるかということですが、ムダの排除を目的にしています。
少し話がそれますが、売上と仕入・在庫と利益の関係を検証します。 売上については、利益に貢献するのは粗利益です。 粗利益は小売業では多くて販売額の30%ぐらいです。
これに対して、仕入商品が売れなかった場合の損失は仕入額の100%の損失です。 さらに言うならば物流費や諸々の在庫維持費なども損失に加算されます。
死筋の仕入による損失は、ただちに利益に跳ね返っています。 利益からの感度を見ると、「死に筋排除」こそが最も考えなければならない戦略課題にな ります。
イトーヨーカドーの「業務改革」では、「基本の徹底」としてこの点が重視されました。 利益の貢献度をみると「死に筋排除」がもっとも効果があることになります。
しかし、顧客視点から見ると思わぬ落とし穴があります。 これだけでは長期的にみて魅力のない店舗になってしまします。そこで求められるのが魅力のある品揃えの充実です。
コンビニエンスストアでは3000アイテムと言われています。 そしてその内で交換されるアイテムは年間で大体6割だと言われています。
小売店で求められるのは、求める商品がいつ行っても充実しておりさらに新たな魅力的な商 品が追加されていることです。 「死に筋排除」ばかりでなく「新たな魅力な品ぞろえ」の充実も行うのがPOSデータの戦 略的活用です。
「死に筋排除」は販売データを分析することで可能になりますが、「新たな魅力ある品ぞろ え」は人の持つ「知識」と「意思決定」の関わななければ実現しません。
そのために行わなければならないのは方策が「仮説と検証」と「現場への権限委譲」です。 魅力的な商品の発見や企画・開発は、人が持つ経験と感性に基づいて行う作業です。
「仮説と検証」は、投入した商品についてはその販売動向も加えて「仮説」を持たなければな りません。その「仮説」にもとづいた商品開発は、POSで把握されるデータによって「検証」されます。 「現場への権限委譲」は、現場を知りうるのは現場の「人」で、その「人」によって意思決定 される判断が最も地域の顧客の要望に沿ったものになるからです。
POSデータの商品単品ごとの瞬時動向確認機能や趨勢分析機能は、新規商品の売上の効果を 数値的に管理することを可能にする唯一のツールです。 ここにPOSシステムの情報戦略価値があります。

これからの情報戦略

「データ」をいかに「意味ある情報」に、さらに「知識」へと創造するかが、企業の盛衰を握る ことになります。
そこには、「人」の感性・創造性と情報システムの新たな活用が求められることになります。 そのために必要なのが、「知識」の創造を目的とする知識についての情報基本構想です。 しかし、いまだ効果的な構想が立てられるまでには至っていません。
成長と安定のための商品づくりは、「仮説と検証」が論理的バックボーンになります。 しかし、効果的なこの活動はトップマネジメントの働きかけなくしては進めることはできません。 企業の考え方、施策なくしてはこの「仮説と検証」の活動の促進ははかれません。
企業の将来は、経営者が成長条件を整えることによってはじめて可能になります。 起業する場合もおなじで、ここからはじまります。
ここには3つの要因の確認と正しい認識が必要です。 1つ目の要因は、私のもしくは私たちの行おうとする仕事の目的、貢献できることつまり使命 (ミッション)は何かということ。
2つ目はミッションの対象たる顧客はだれかということ、貢献の対象たる顧客が「効用(商品、 サービス)」に対価を支払ってくれるから事業が成立するからです。
3つは「効用」をつくりあげるノウハウ、技術、熱意などの知識経営資源の「強み」です。 ミッションは対象とする顧客に最高の満足を提供することによって、競争に勝つことができます。 そのために「強み」がなければなりません。 今なければ、ミッション、顧客に焦点を絞って、時間をかけてあらゆる努力を惜しまず創り上げ ることです。
「効用」のつくり込みのための「仮説と検証」という作業については、私たちの使命、顧客から スタートし焦点を絞って全社的に展開をする必要があります。 「コンセンサス(焦点)」を絞り込みことによって、必要となる情報および知識の要望が明確に なります。必要な「情報・知識」には2系統のものがあります。
1つめは外部の「情報・知識」と2つ目は内部の「情報・知識」です。 この2つの「情報・知識」を的確に統合できるようにシステム構築を行うことが必要です。 システム構築は、外部、内部をつなぎながら目的に焦点をさだめ人的ネットワークと情報システ ムネットワークの2つのネットワーク構築を行います。
最終目的は私たちの顧客の継続的な最適満足の実現を通しての、その満足を提供する組織の継続的 な存続と能力アップを実現することです。 社会は絶えず変化します。その変化のなかで顧客の満たされぬ欲求が生じてきます。 まず、この変化になかで生まれた満たされていないまた満たされなければならない欲求に焦点を絞 ります。
この欲求の変化を機会として捉え、外部の「情報・知識」の収集と分析を行わなければなりません。 今までは、社内の一部だけがこの作業を行ってきました。 ここに企業の盛衰の鍵がかかっていることへの認識が乏しすぎるのが現状で、マーケティングは全 社的な戦略的な絶対的な差別化要件です。
情報システムとしては「情報・知識」のデータベース化、共有化、交換を通しての分析、創造、加 工等のための社内LAN、顧客をも取り込んだSNSの構築が基本システム要件となってきます。
そして最高の効用のつくり込みのために、「知識」のネットワーク構築が必要です。 これは、目的たる顧客満足を軸とした可変性の社内プロセス構築と「仮説と検証」を支援するため の「バックアップシステム」の構築が必要です。
もちろん「バックアップシステム」は、「カイゼン」などの生産性向上努力の検証のためにも活用さ れるものです。
今は未だ具体的な構想すらつくられていないという現状ですが、おぼろげに現れている変化に機会を 見出して、安藤忠雄さんの言う「闘争心。結局はこれで勝負が決まると思います。」の言葉にかけて の挑戦が将来を征することになるものと確信されます。