アサイコンピュータサービス

77回目 ミッションなくして経営なし

マーケティングの考え方

「利益」が企業業績をはかるバロメーターであることは誰でもが了解する基 本通念ですが、戦後から高度成長期までのしばらくは売上さえあげていれば また顧客の注文されあれば安泰と考えている時期がありました。 モノ不足の時代は製品さえつくれば売上が増えて、それに引き続いて利益が 実現して無理すれば高級車の購入もできました。
古き良き時代で、コンピュータもほとんど普及しておらず経営者の奥さんが しっかり帳簿を握り社長が下請け部品の生産に追われて徹夜で頑張れば役員 報酬1千万円も夢ではありませんでした。
ところが、今日は何もかもが急激に変化して行き、決まりきったことや人の ものまねの二番煎じでは時代の波には乗れません。

どうすればよいのか、ハンバーガーのマクドナルドで成功したレイ・クロッ クが言うように Be daring(勇気を持って)、Be first(誰よりも先に)、 Bedifferent(人と違ったことをする)でしょう。
それも顧客に受け入れてもらえるためQSC&V(品質・サービス・清潔さ ・価値)のような強みに力を入れることが必要です。
信念のない物まねや惰性の経営では以前からと同じ話になるのですが、衰退 は時間の経過とともに確実に訪れることになります。
自身が得意とし強みのある市場に特化し、顧客の欲求の変化に対応して一番 のものを勇気をもって絶えずつくり続けるより方策はありません。 今の時代の経営は、戦略的でかつ原理原則に則さなければなりません。

ここまでは繰り返し説明させてきていますが、少しややこしくなりますが本 質の要素に言及しつつ組み立てて行きたいと思います。 事業とはそもそも何かということですが、それは人間それもある領域の特定 の人間(顧客)の「欲求」を満たすために複数の人間により「効用」つまり 商品やサービスを創り出し手元に継続して提供することです。
ところで、ある企業の方が事業の相談に来られました。そんな時に、私はよ くお聞きするのですが「あなたは、欲しくないモノを買いますか。」と、そ して「これよりも良いモノが見つかった時に、これを買いますか」と。
ところが「自社のモノの何としてでも売りたいのです。」と答えられます。 ここのところが、企業が伸びるか伸びないかの基本的な分かれ道です。

経営学者のドラッカーは、このように言っています。 「営業とマーケティングは逆である。マーケティングの理想は、営業を不要 にすることである。マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品と サービスを顧客に合わせ、自ずから売れるようにすることである。」 そうなのです。要は顧客を理解して顧客に合わせればよいのです。
ところがです。顧客の欲求を知るのは顧客自身であり、場合によっては顧客 自身すらその効用(商品・サービス)が出てくるまで分からないという現実 があります。 とにかくBe daring(勇気を持って)、やってみるしかありません。 孫さんは、また「将来と世界一」の獲得のため3.3兆円の投資を行います。
孫さんつながりで話を続けます。 本人さえよく分かっていない顧客の「欲求」を満たすためには、それは「や ってみなければ分からない。」という領域のモノですが。
ただしかし、孫さんが言うところの「考え抜いた末に、7割の成功率が予見 できれば投資すべきだ。」が判断基準になりそうです。

社員が経営の強みの源泉

星野リゾートの星野佳路さんは独特な感性で次々にリゾート施設の再生を実 現させているのですが、経営判断を行うについて「社長の私に聞いたところ で、お客様と接する機会が非常に少ないわけですから、正しい判断ができる とは思えません。」ときっぱりと言い切っています。 「足元を見よ。」と最前線の社員の意見を重視する方針をとっています。
これを、松下幸之助さんは「衆知を集めた全員経営」と標榜し「なすべきこ とをなす勇気と、人の声に私心なく耳を傾ける謙虚さがあれば、知恵はこん こんと湧き出てくるものです。」と述べています。
京セラのアメーバ経営では、最初に事業の立ち上げを承認したら意思決定か ら実行に至るまで事業単位(アメーバ)にすべての権限移譲を行っています。

トヨタが強いのは現場主義が徹底されているからで、現場から知恵が湧き上 がるように経営者があらゆる方策を活用してつくり上げたからです。
トヨタだけでなく優良企業に共通して見られる賢さは、現場の知恵の尊重な どという当たり前の通念を通り越して信念として実行しているからです。 アメリカのGEも、まったく同じ経営スタイルで成果をもたらしています。
このGEの元会長で20世紀最強の経営者と言われたジャック・ウェルチは、 企業経営の究極の目標は「企業文化(風土)」の確立であると言います。 その企業文化が浸透していれば「何の目的」で「何を目標」にして「何を成 すべきか」が暗黙知として共有され、当然にして協力しながらあるべき方向 にむかって成果活動を行うと考えるからです。

企業の盛衰は、ひとえに経営者一人の価値観・才覚・真の賢さによって決ま ると言っても過言ではありません。 その意味では非常に孤独であるのですが、別の視点から見ると「経営のコツ ここなりと気づいた価値は百万両」と松下幸助さんが言われている「コツ」 を見つけられれば、芸術作品をキャンバスに描く喜びとなります。
どうしたらいのか、その解答は同じ価値観を共有することですが。 経営学者のドラッガーからの贈り物として、適切な指針が提示されています。
それは「『5つの質問』1われわれのミッションは何か、2われわれの顧客 はは誰か、3顧客にとっての価値は何か、4われわれにとっての成果は何か、 5われわれの計画は何か。」を衆知を集めて考え、知恵とすることです。
本田宗一郎さんは言います『技術は人間に奉仕する手段である』と、そして 「一人ひとりの社員にお客様の幸せづくりのお手伝いに全力を尽くす。」を 「ホンダ」のミッションであると掲げています。 間違っても「お金を稼ぐこと。」や「社長が高級車を購入すること。」がミ ッションとなってしますと、働く全員の意欲が萎えてしまうでしょう。

ミッションが企業の存在の意味と、将来の発展を決します。 パナソニックの松下さんの場合は「250年でこの世から貧をなくし、楽土 をつくり上げる。」と宣言した時点で大きく飛躍の軌道を歩みます。
その分岐点がなければ、従業員が鼓舞されず経営者の発明したアイディア電 化製品を堅実に販売する中小企業で終わったかも知れません。
経営者のもっとも重要な最優先の仕事は、実は価値活動であるミッションの 確立とそれをイメージ化したところビジョンの構築でしょう。
強みをもつ企業を見てみると、決して創業の当初からではなく行きどまりの 苦悶の中で、ある時に経営者が気付きのなか閃いて創り上げるようです。 松下幸助さんは「経営に一本筋が通り、自信が持てる」と言っています。

ミッションありき

松下幸之助さんは「経営のコツ」を得るために「血の小便が出るまで苦労し たのでしょうか」という大阪の「船場」に伝わる言葉をよく言われます。 水道哲学というミッションの確信は、松下さんが「日々どうしたら、人は懸 命になるのだろうか」を考えて考えて考え抜いた末に、天理教の本部で信者 の喜びに満ちた奉仕の姿を目の当たりにして気付かされました。
「産業人の使命は貧乏の克服である。水道の水の如く、物資を無尽蔵にたら しめ、無代に等しい価格で提供する事にある。それによって、人生に幸福を 齎し、この世に極楽楽土を建設する事が出来るのである。」
この言葉を真の使命としたこの日、真の松下電器が誕生したとしています。 松下さんは、価値観を革新的な「人のマネジメント」としてもたらしました。

強い経営を実践する企業では、これなくして企業の存続意義はあり得ないと する経営者の執念のミッションがあります。 このミッションが全社員に浸透して社会に奉仕できた時、社会は企業への評 価として利益をもたらします。 これが社員に物質的な糧をもたらすとともに、精神的な喜びをもたらします。
茂木健一郎さんは「プロフェッショナル達の脳活用法」のなかで、人の「勤 労意欲」の源泉が知られるおもしろい実験例を示しています。
子供にいろんな作業をさせて一方のグループには「よくできたね」と褒めて、 もう一方にはおもちゃなどの品物を与えました。 これらを繰り返していたら、その後に対照的な結果がで出てきました。
結果を言うと、褒められたグループは作業をやろうとするが、品物を与えら れていたグループは作業をやらなくなってしまったのです。
この結果は特殊な事例ではなく「動機付け衛生理論」という心理学の一般理 論でもあり、人は金銭報酬なくして働きませんが人をして喜んで「働く意欲」 をもたらすモノはもっと別のものであると言えます。

人は褒められることが大好きで、社長から上司から仲間からそしてお客様か らさらに自分自身からも、この欲求を満たすことが経営のエッセンスです。
松下さんが示した「水道哲学」と言うミッションは、お客や社会を幸せにす ることで自分の貢献を褒めることができ、それをより良く実現させることで 利益がえられ報酬も増えて家族を幸福にできるという好循環を生みます。
これがミッションのあり方ですが、不思議なことに一部の強みを持つ企業以 外では褒める仕掛けがありません。 もちろん、額に掲げられたミッションや理念や社是を持っている企業は結構 ありますが、儲け話があるとどこへでも行き失敗するとまた帰ってきて社内 にあるのは不良在庫と社員の無気力だけというケースもよくあります。
よく事例にあげるのですが、京セラがかかげるミッションは少し異形でそこ から導き出された組織形態も異形です。 まずミッションですが、顧客や社会よりも社員を目的にしています。 「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に 貢献すること。」とあり、社員の生きることを最優先にしています。

京セラの組織は「アメーバ組織」と呼ばれ、社会の欲求を感知した社員のオ ーナー意欲をもとに自己増殖を行っています。
社員の活動は「人間として何が正しいのか」「人間は何のために生きるのか」 を基準として稲盛さんの経験をもとに作成されたフィロソフィー(行動規範) によって導かれて行きます。
京セラの事例案内がさらに長くなりますので、他の事例とともにミッション に続く行動規範さらのその規範に基づく具体的活動への導入、従業員の育成 について次回で案内いたします。
京セラの経営方法はパナソニックの事業部制の発展形で、アメリカでは3M 社が同様な組織形態を採っており組織だけでなく経営のイノベーションです。

≪アベノ塾≫ URL:http://abenoj.jimdo.com/