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70回目 何が欲求を適えるか

効用が売れる

「京セラドーム」は「京セラ」がつくったと思う方はおられないでしょう。 ご承知のように命名権を「京セラ」が買ったからそのようになっただけです。 商品やサービスの購入という考えからしたら、何か奇異に感じられます これを「効用」というキーワードで考えたら、「京セラ」ブランドを高める という「効用」を求めての購入と理解されます。
ここでは当然、それは別に奇異じゃない宣伝効果を狙ったものだという声も 聞こえてきます。
ここで言いたいことは誰かが対価を支払うということは、自身の持つ要望な り欲求なりを満たす効果つまり「効用」があるからだということです。 このことが「商品」や「サービス」を購入する意味合いです。

「効用」こそが人間の「欲求」を満たすものであり、すべての購入の前提に 「欲求」がありこの「欲求」を満たすためにどのように「効用」をつくり込 んで行くかが企業の「仕事」となります。 企業が行う活動は、ここにすべてが収斂されなければなりません。 直接・間接を問わず「効用」に至らない活動は「仕事」ではありません。
とは言いながら厄介なのは、顧客が求める「効用」といってもそのあり様は 多様でかつ同一人であってもその立場によっても異なります。 さらに、状況によっても絶えず変化し揺らぎます。 さらにメーカーの場合は、顧客として「中間業者」つまり卸売業者なり小売 業者といった合理的な「効用」を求める顧客にもかかわります。
中間業者の求める「効用」は究極的には手間がかからず利益を得ることです。 最終消費者は直接的で求める「効用」は、欲求が満たせることです。 もっとも今ではWEBマーケティングが主たる流通経路にもなってきている ので唯一の顧客は最終消費者という場合もありますが、それでも大量販売を 実現するためには中間業者を経由しても行われます。
また松下幸助さんですが、幸之助さんは非常に「ひつこかった」そうです。 「価値観」の浸透は、一度告げただけで心に染み入ることなどありません。
あらゆる機会をとらえて「ひつこく」繰り返し反芻することが必要です。 優良企業の「強み」は、社員全員の行動の基盤になる「価値観」が浸透され てはじめて成果へと導かれ活動も自律化されることになります。
この「ひつこさ」は営業においてもまた如何なく発揮されています。 昭和2年に、高品質低価格の自信作のアイロンを発売したときのことです。 発売3日後に「アイロンの発売状況はどうかね」責任者を呼んで尋ねました。 「問屋さんからも小売屋さんからも大変な評判です。この分だったら一万台 いけるかもわかりませんわ」「それは結構だ」。
ところがまた1週間ほどたった頃、再度「どうだね。アイロンの状況は」と いう電話がかかってきました。
「小売屋さんは梱包を開いて店に並べ、手にとって商品を吟味し評判もわか っている時分だ。だから、君、もういっぺん販売店を回ってくれないか」。 そこから、荷傷みやプライスカードについての不具合が見つかりました。
また1週間ほど経つと「どうだね、君、アイロンの状況は」と尋ねました。 「実際商品をお使いになっているのはお客さんだよ。お客さんがどういう具 合にその商品を使っておられるか、聞いてみてくれんかね」。 そうすると「コードが短いので使いづらい」「握り具合がよくない」といっ たいろいろな注文が出てきました。
消費者に喜んで使ってもらうには、他に抜きんでた価格も含めた「効用」が あってはじめてかなえられるものです。 それも、中継してくれる中間業者の「効用」も満たさなければなりません。 それらの「効用」の作りこみのために改善に改善を重ねた結果、「スーパー アイロン」は昭和五年に国産優良品に指定され大ヒット商品となりました。

少し本題から逸れて「ひつこさ」が持つ「効用」について考えてみます。 松下幸之助さんが最も重視されていたのは「人をつくる」ことです。 「ひつこさ」には二つの効用があります。
一つは「価値観」を浸透させる効用で、もう一つは「衆知」を引き出す効用 でどちらも「人をつくる」ための強力なバック・グラウンドです。
ちなみに、パナソニックの「価値観」は前回紹介させていただいたように
一、産業報国の精神
一、公明正大の精神
一、和親一致の精神
一、力闘向上の精神
一、礼節謙譲の精神
一、順応同化の精神
一、感謝報恩の精神の「7精神」です。 この「7精神」がパナソニックの「強みの源泉」となっています。

効用は消費者が決める

トヨタの元社長の張富士夫さんがこんなことを言っています。
「まず直接売ってみて、お客様の声を聞いて判断しないと、本当にその国に あった車かどうか分かりません。・・・最初にまず市場に入り込むことが大 切です。・・・叱られ叱られ・・・お客様に育ててもらっている。・・・そ の部分が非常に大きい。」と「まず入り込むこと」を言及されています。
万全の品質管理を行って「これなら大丈夫」と自信をもって市場に送り出す。 しかし、国により人により見方も考え方も異なります。 「日本で評判であっても、アメリカや中国で受け入れられるとは限らない」 というのがトヨタのトップであった人が言っていることで、結論的に言うと 誰も分からないけれどとにかくチャレンジするということに尽きます。

ジャニーズ事務所の所属の元人気グループのメンバーだった諸星さんのスー パーカー「ランボルギーニ」を買った話が面白かったので紹介します。 まだ運転免許を持っていなかった17歳の時に購入したのですが、その理由 が少年時代に周囲が「キン消し(キン肉マン消しゴム)」の「ランボルギー ニ」の模型を自慢していたので「本物」を買ったということです。
「ランボルギーニ・カウンタック」は3,000万円もする代物で、そのスー パーカーを少年のふとしたきまぐれで購入することになったということです。 誇り高いメーカーからしたら驚天動地のことだと思います。
噂では、ランボルギーニ社の社長が憤慨したということも聞きました。 極端な例でしょうが、どんな経緯で購入されるかは全く分からないことです。

消費者がどんな「効用」を求めているか、基本機能は分かるものの最後の決 め手はやってみるより仕方がないというのが真実のようです。 これが、最初の張富士夫さんの言葉につながります。 そうするとなんの手立てもないかというと「最善」と思えるものを顧客にご 提供し、その反応をもとにさらにチャレンジするということになりそうです。
人気俳優のラーメン店の話ですが、ラーメンに蘊蓄があったのか凝った素材 を使って一味違ったものを仕上げました。 最初は俳優人気でそこそこの客数を確保していたのですが、ある時期からバ ッタリとダウンしてゆきました。 そこで取った究極の裏技が、「大量の味の素」と「濃い目の油」でした。
とはいうものの「ラーメン道」はなかなか厳しいものらしく、安易に参入し て撤退してしまう店舗がほとんどだそうです。 「ハンバーグ」でも誰でも参入できる業種でありながら成功したのはご存じ のように「マクドナルド」など大手のみで、マクドナルドはQSC&V(品 質、サービス、清潔さ、そして価値)の理念を徹底させてのことです。
また、とはいうもののマクドナルドでは「コア・コンピタンス(他社を圧倒 する能力)」に縁遠い経営者が就任して「Quality(品質)」の徹底を疎か にしたことから思わぬ大苦戦をしいられたのは既存の事実です。 信頼によって築かれた「ブランド」は、それ自体が安心感という「効用」を もたらし裏切りは「逆効用」となり企業業績を一気に引き下げました。

一般消費者の欲求を満足させることは微妙です。 原則である基本的な「効用」がなければ、最初から見向きもされませんが。 その上に経営理念のような強みとなる基盤「効用」の遵守が必要で、加えて 自身の得意分野に特化して絶えざる改善と顧客の叱りを受けながらさらなる よろこんでもらえる「効用」をつくり続けることが求められます。
千葉県船橋市に徹底的な“焼きたて”をこだわりとする「ピーターパン」と 言う名のベーカリーチェーンがあります。 地元住民に「この地域に住む理由のナンバーワン」「この店があるから引っ 越ししたくない」と言わしめる魅力を持っているのは驚異です。 このベーカリーには顧客が幸せになる「仕掛け」があります。

愛される理由は、家族皆が来て楽しめる店づくりにあります。 徹底的な“焼きたて”へのこだわりをもっており、客がすでにトレーに取っ たパンも焼きたてと交換するという徹底ぶりです。 コーヒー無料のテラス席は地元住民の憩いの場となり、クリスマスや餅つき など季節ごとにイベントを開かれ街のコミュニティーともなっています。
常時100種類のパンを提供していますが、定期的に新商品を出しています。 誰が考案しているのか、「衆知」が結集されています。 パンづくりの勉強会が絶えず行われ、入社2年目の社員でも自分で考案した 新作パンをプレゼンできてハードルがあるものの「自分のパンが店頭に並ぶ のが夢。チャンスが広がっている。」と目を輝かせています。

この道一筋

顧客の「欲求」によって、求められる「効用」は異なりかつ変化します。 けれど一方では、普遍もしくはそれに近い形で求められる効用があります。 特にメーカーなどで事業者が顧客である場合は、合理的な要求があり焦点を 絞った「効用」が求めら一般消費者のように自身の「欲求」の所在さえ分か らないということは少ないと言えます。
一般消費財メーカーは最終消費者のエモーショナル(感情・情緒)な側面が差 別化の重要な要点になります。 これに対して生産財の場合、事業者の求めるのは自社の利益への貢献で合理 的な効用である機能・品質・価格などが重視されます。 ここで重視されるのは、合理的・実利的な「効用」です。
生産財の「効用」の特徴は、どのようなものであるのかが明確なことです。 明確であるだけに方向性は定まりやすいのですが、誰もが分かりやすいとい うことは模倣されやすいということにもなります。 ここでの成功パターンは、誰もが無理だと諦めたことを成し遂げるか顧客の 無理難題をクリアーするかのいずれかです。

ただ模倣されなければそれでよいかというとこれは全く違い、人が渇望して いる「効用」をコスト・パフォーマンスに優れて実現させることです。 時々"変"に偉大な発明家がおり、その発想と努力には敬服に値するのですが 顧客が欲する「効用」には無頓着です。
「瓢箪から駒」も稀にあるのですが、ほとんどは壮大な徒労で終わります。 いつも興味深く見るテレビ番組があります。 テレビ大阪の「カンブリア宮殿」で、どうすれば経営がうまく行くかの「勘 所」が生な形で伝わってきます。 生産財の「効用」とはどのようなものかの好事例として、栃木県宇都宮市に ある「レオン自動機」が紹介されていました。
この会社の主力製品は「包んで作った食品」の生地と中身を包む機械で、生 みの親であり創業者は林虎彦さんです。 もともと和菓子職人で20代の時に「和菓子を機械のように包み続けるなら、 いっそのこと包む機械をつくればいいじゃないか」と考えて食品の「包む」 効用」にチャレンジしました。
しかしその道のりは安易なものでなく一度は和菓子屋を倒産させて夜逃げま で経験しながら、10余年図書館に通い独学で「流動学」を我がものにした 末に1963年に「包あん機」を完成させたのでした。 この機械は自身が「渇望」していた「効用」をもつものだけに「渇望」を持 つ和菓子店への売り込みが順調に推移したのは当然でした。

消費財にしろ生産財にしろ売れる条件は、顧客側の「欲求」にあります。 売り手が持つ予想は、たまたま顧客の欲求に合致した時のみ有効となります。 一般消費者の欲求は分かりにくく移ろいやすいので「声」を聞き続けるより 仕方なく、事業者が顧客の場合は要望が具体的であるだけに追随も多ので一 頭地抜け出なければなりません。
すべては人の持つ「欲求」から始まるので、企業はこの欲求に応える「効用」 をつくりこむことが仕事であると言えます。 けれど、この「効用」づくりは誰が行っても微妙であり困難です。 しかし、ならばこそ「逆転の発想」によってチャンスに近づけます。 誰もが困難なら、それを「自覚」してチャレンジしたほうが有利になります。

松下幸之助さんの「ひつこさ」やトヨタの「乾いた雑巾(知恵)を絞る」さ らにホンダの「パワーオブドリーム」など困難だからこそ、有利になって光 を発する経営が実現されました。
スティーブ・ジョブズのように『現実歪曲空間』をつくり、最良のスタッフ から限界を超えた貢献を引き出して類まれなヒット商品がつくられました。
スティーブ・ジョブズは類まれな才能の持ち主で、日本では松下幸之助さん や本田宗一郎さんが同じ才能を持っています。 その才能とは顧客が望む「効能」がイメージできること、そして多くの優秀 な人材を巻き込んでその人たちの苦悩を歓びに変換させて不可能を可能にさ せる『現実歪曲空間』をつくりだすことです。

≪アベノ塾≫ URL:http://abenoj.jimdo.com/