アサイコンピュータサービス

20回目 経営における人間力と数字

“よい商品”の考察

数字だけを追って、成果を管理することはできません。 ましてや企業の根本願望である継続的な存続がかなう訳でもありません。 もちろん、たまたまのヒット商品があって数字を追えば売り上げは伸びます。 しかし、たまたまのヒットはたまたまの数字です。 企業の継続的存続を可能にするには、連続した良い商品の提供が必須条件です。
顧客の望む商品があるのが、全ての事業のスタートラインです。 ここでむずかしいのは、よい商品というのはどのようなものかということです。 要件になるのは、忍耐強い努力の積み重ねによる品質・機能の完成度です。 しかしこれは必要条件たる基盤で。 その基盤のうえに「アット言う閃き」や「違った切り口の発想」が加わること が求められます。
過去の状況とでは、「よい商品」の要件がガラリと変化してきています。 普段の企業努力の結晶であるよい品質・機能なんて当たり前です。
そこに「アット言う閃き」や「違った切り口」の付加価値でもって、顧客の 「心の襞」を揺さぶることでヒットする「よい商品」が誕生します。
今の時代においてはハイレベルの技術の基盤の上に、ハイレベルのセンスを獲 得するチャレンジが必要になってきています。
中堅企業は、この条件を満たすために日々の努力を続けています。 この条件を満たせなくなると、確実に収益を悪化させることになります。
よい商品の条件はわかったとしてどのようにモノづくりをマネジメントするか と言うことになります。 まずチャンピンが必要です。 チャンピオンとは“モノづくりバカ”が典型で、モノづくりが好きで好きで仕 方のない人です。

“モノづくりバカ”には、二通りがあります。 一番目は自分自身でつくる人で、本田宗一郎さんやソニーの創始者の井深さん やトヨタの創始者豊田喜一郎さんがいます。 2番目は強いこだわりをもって技術者を活用する人、これには松下幸之さんや スティーブジョブズがいます。
二番目のタイプでは「強いこだわり」と「優秀な技術者を集める」ことが必須 で、こちらが一般的なケースで経営者が取らなければならない手法でしょう。
もちろん商品開発だけでは良いモノづくりはできません。 品質への飽くなき“こだわり”が必要で、別に“品質づくりチャンピオン”も 望まれます。

この代表がトヨタの副社長であった大野耐一さんです。 トヨタの“カイゼン”には「乾いた雑巾を絞り取る」という言葉があり、わざ わざ問題を見つけ出し改善するとまで言われています。
さらに、顧客が満足する商品には「アット言う閃き」や「違った切り口の発想」 が加わらなければなりません。
これはモノづくりそのものはもちろんですが、「感動」商品のつくり込みに求 められているからです。
デザイン、商品名、キャッチ・コピー、ささいなこだわりサービスなど、ここ にも強いこだわりなくして「よい商品」は完成されません。

経営数値の考察

「売上」を伸ばすには「よい商品」が条件です。 しかし「利益」を獲得には、「売上」を伸ばしただけでは実現しません。 利益の獲得には、手順が必要です。
まず、「良い商品の完成」によって顧客に買ってもらうこと。 そして生産性向上によって「コスト削減」を行うという手順です。
コストは現在のまた将来の売上や利益を獲得するためのもので、それ以外のものは ロスです。 最も不要なものは貢献に関係ない人件費で、最も必要なものは貢献してもらえる人 の人件費です。
ただ将来または一番になるためには育てなければなりません。 即戦力だけでは陳腐化します。 人材育成費と開発研究費は、「一番をめざす企業」にとっては最も心しなければ戦 略項目です。
トヨタの高収益構造は、「カイゼン」の飽くなき連続により「高い品質」の完成、 それと乾いた雑巾を絞り続ける「ムダの排除」つまり生産性の向上によってもたら されています。
高収益は、数字を追うことでは実現しません。 「数字」は「こだわりの商品づくり」と「絶えることなき生産性向上」によっても たらされます。
数字で「こだわりの商品づくり」と「絶えることなき生産性向上」は実現しません。 「こだわりの商品づくり」と「絶えることなき生産性向上」が数字を実現させます。 「顧客の満足」と「生産性向上」によって数字が実現します。
松下幸之助さんの持論で「利益を上げられないのは罪悪だ」と言っています。 企業は「公器」であると言い、社会から負託された経営資源を使って顧客に満足を 提供できず「利益」を計上できていないというのは「罪悪」であるという考えから です。
この思いは倫理側面が表に出ているように見えますが、本来的にはリアルな現実感 覚からでた言葉です。 GEの経営者であったジャックウェルチ(20世紀最高のタフ経営者と呼ばれてい る)は企業が求めなければならないのは「顧客満足」と「従業員満足」と「キャッ シュフロー」であると言います。
数字を追い求とめるのは経営でないと明言します。 と言いながら、優良企業の経営者は「数字」に非常に厳しい姿勢を持っています。 「利益」を計上できなければ「キャッシュ・フロー」は得られず、将来の行く末は おろか今日の存続すら危うくなります。
ここには「顧客満足」・「生産性向上」という企業の本質的な活動によってのみ 「数字」が実現されるという強い現実認識があります。
数字を追うという「精神」のみからは、企業存続を可能にする「顧客満足」「生産 性向上」という本質的な活動は生まれません。
そこに松下幸之助さんの言う「企業は『公器』である」と真の意味があります。 企業には社会より負託された神聖な使命があり、そのことを知ることで強い「企業 動機」と「信念」が生まれます。
強い「企業動機」と「信念」は、「人のマネジメント」のエッセンスです。 社会に大きな地位をしめ強い力を及ぼす企業は、その働きを実現するために自身の 力でよってのみ立ち、そして潰れないようにし使命を果たし続けなければなりませ ん。
これが長期にわたり成長し続ける優良企業の健全で堅実なスタンスです。 このことによって、経営者や従業員をはじめとする企業関係者の「生計を保証」し 「生きがい」と「よって帰属する場」が提供されることになります。

優良企業の数字感覚

トヨタはトヨタ銀行と揶揄されるほどの資金力を持っています。 その経緯は1949年のドッジ・ラインの影響で経営危機時に陥いり、メインバン クから融資を断られた苦い経験があるからです。
結果的には日銀融資団のもとに、厳しい条件のもとに一部の銀行による融資を受け 入れられることになりました。
少し詳しく説明すると、この時の条件が人員整理でした。 激しい労働争議の中でそれが断行され、その責任をとって創業者の豊田喜一郎氏は 社長の座を退きました。
このときにもともとある名古屋の節約気質が、さらに骨の髄まで浸透しました。 「看板方式(ジャストインタイム)」や「カイゼン」をはじめとする「ムダ」の排 除と品質向上は、トヨタの過去の体験に基づいてさらに強化されて企業風土・文化 となりました。
ちなみに「乾いた雑巾を絞る」「ジャストインタイム」は創業者の豊田喜一郎氏の アイディアであり、明治の発明王の豊田佐吉さんの伝統を引く考え方です。
危機を経験しない企業はありません。 ホンダの危機は1954年におこりました。
ヒット商品の「カブ号」の類似商品がドット市場にでてきたこと、ヒットすると期 待して世に出したスクーターのジュノオ号が受け入れられなかったこと、パワーア ップしたドリーム号220ccにキャブレターに不具合があったことの不調が重な りました。
そのとき以前に資本金6,000万円に対して15億円の設備投資をしています。 この危機に支払先の支払い猶予の説得、従業員賞与のカット、銀行に保証の取り付け 技術面でのドリーム号の不具合の解決、これらの対応でもってからくも倒産危機が回 避されました。
そこからは大企業への道を歩むため内部改革が始まりました。 といっても副社長であった藤沢武夫氏の自己反省からの改革ですが。
数値をもとにする健全な企業管理さらに企業規定・体制の整備が行われました。 伸びる企業ではある時期にこのような過程を経ており、管理の認識が導入されます。
その中には、技術者の対するコストや利益などをしっかり管理できるような研修も 含まれています。

数位管理で先駆的な感覚を持っているの旧松下電器(現パナソニック)です。 松下さんのことばに「商売は真剣勝負と同じで、切られているうちに成功すること はあり得ない。やればやっただけ成功するものでなければならぬ。上手くいかない のは運でも何でもない。経営の進め方が当を得ていないからだ。」とあります。 松下さんの考えでは利益・キャッシュフローは、あらかじめ獲得されるようにする ものだというものです。

ここから「事業部制度」「予算制度」「経理本部」といったその時代にとっては、 独創的な「数字感覚」の先端的な管理制度が生まれています。 今でこそプロフィットセンターやカンパニー制などの独立採算性の責任単位の考え が浸透していますが、事業部制は先駆的な発想による制度です。 事業部には、もちろん適材適所の人材が送り込まれます。
事業部の責任者には事業に関する執行権限が委譲されます。 そして事業部長は自身の事業の責任を明確にするために、予算書を提出します。 これは事業活動の成果を見積もりさらにチャレンジを込めたコミットメントです。 カルロス・ゴーンさんが、「日産リバイバル・プラン」で日産の復活をかけてのコ ミットメントと同様で予測ではなくチャレンジする数値を約束します。
このプランづくりを補佐するのは本社の経理本部に属する経理社員で事業部長の補 佐を行うとともに、活動のあるべき姿のチェックを行います。 「任せて任せず」の管理体制です。
数値は顧客の満足により成果を実現される仕組みに組みあがっています。 「松下精神」に始まり、潰れないためのシステムが数値管理として組みあがってい ます。
京セラにも京セラ独自の事業管理システムがあります。 それがアメーバ制度で、社員に経営者意識と原価意識を持ってもらうことを狙いと しており、プロフィットセンターとして分割可能であれば利益責任単位に分割します。 アメーバ制度の数値管理は独創的で、時間当たりの差引収益(付加価値)を評価基準 にしています。
これは各アメーバに事業努力を明らかにするもので、市場意識とコスト意識つまり経 営者感覚を引き出すために工夫された数値管理だと言えます。
このように優良企業の数値管理は、数字を追うという管理でなく顧客満足を中心とし たマネジメントを実現するための“知恵”がある合理的な活用が行われています。 数字を追うだけの管理は、根拠のない空想です。
「利益」は松下幸之助さんが言われるように「真剣勝負で、やればやっただけ成功す るものでなければならぬ。」としなければなりません。
蛇足で加えます。 成功している優良企業には必ずある抜きんでた数値があります。 それは裏で行うものも含めてのプロジェクト数と失敗したチャレンジの数です。