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66回目 創造の流儀

変化と機会

世の中に変化しないものはなく、企業もその変化に対応しなければ遅いか早 いかは別として衰退しやがては崩壊するより他ないと言えます。 マネジメントの祖であるドラッガーは「変化はコントロールできない、その 先頭に立つことだけである」と言っています。 変化を機会と考え実行することこそが、マネジメントの神髄です。
変化の論理の根底にあるのは、もちろん平和を前提としますが「人の欲求」 には際限がなく、それに応えて成長をはかろうとする企業努力のみがこの変 化する際限がない要望に応えることができるということです。 企業は顧客の欲求を満たすことを使命とする組織であり、顧客が対価をを支 払ってくれる限りにおいて存続することができます。
ところで、小さい企業必ずしも不利ではありません。 不利な企業は、企業の大小でなく貢献と変化の「重要性」を忘れた企業です。 ホンダの藤沢さんは「世の中には万物流転の法則があり、どんな富と権力も 必ず滅びるときが来る。しかし、だからこそ本田技研が生まれてくる余地が あった。」と変化のなかにある「機会」と「脅威」を認識していました。
企業の存続と成長の基軸は、顧客の中にある欲求を見つけより良い価値を提 供することに尽きます。
ここで少し「顧客の中にある欲求」について整理します。 顧客には2種類の顧客があり、欲求の状況にも2種類の状況があり合計4パ ターンの分析要素があります。

「顧客」には、最終消費者と中間事業者があって求めるニーズは異なります。 「欲求」にも、顕在化している欲求と本人すら知らない欲求があります。 一般的にモノづくりで焦点が定めやすいのは、中間業者の顕在化している欲 求で「ひたすら誰にも負けない品質の高さ」を目指します。 ここでは合理性が求められ、価格についても合理的に判断されます。 「ひたすら誰にも負けない品質の高さ」ということになるのですが、この中 には作り手側にとっては未知ななるものが含まれます。
そうしたらどのようにして創るのか、ここまで来るとベスト・プラクティス (最良の事例・知識)はほとんど役に立たないことになります。 ここにおいて「小さい企業必ずしも不利ではない」という状況が生まれます。
最初は小さかったが急激に中堅に成長した企業は、いつの時代もベストプラ クティスを凌駕して自身が最高峰に達した企業です。
創造にも対処の仕方があり、このことについて日本電産の永守さんは「すぐ やる、必ずやる、できるまでやる」と言い、そのために必要なのが「情熱、 熱意、執念」にもとづく「知的ハードワーキング」であるとしています。
京セラの稲盛さんも同じことを述べられていますが、中堅企業になるための 条件は「大きい」ことではなく「良い判断」をすることです。
成長は「良い」ことから派生しますが、大企業病では「悪く」なります。 そのため、旧くは松下さんの事業部制や京セラの「アメーバ組織」やソフト ・バンクの「群戦略」などあえて「小さく」して「良く」します。
少し入り込んで考えてみます。 キーワードとなるのは「責任」と「達成感」さらに「危機感」で、小さな組 織でなければ「当事者」となる「私」が明確になりません。
その他大勢であれば、恐れも喜ぶも悲しみも感じることなどありません。 創造のためには「個」の自覚がなければ、力を発揮することはありません。

未知なる顧客欲求

顧客・欲求要素におけるすべての日常業務においての「改善」活動は「より 良く」をかなえる売上アップや生産性向上のための当然の活動です。 この「カイゼン」のチャンピオンは、言わずも知れた「トヨタ自動車」です。 トヨタでは従業員の一人一人に「知恵を絞る」ことを習慣化させており、こ れが「強みの文化」の中核となっています。
そうしたら「カイゼン」を行ってさえいればよいかというと、いくら「ガソ リン・エンジン」の品質を上げても「ハイブリット・カー」は造れません。 より良いものというのは、「連続」ばかりでなく「非連続」が必要です。
より良い顧客満足のために行う「非連続」がイノベーション(革新)です。 さらに革新されたものが定着すると、同じくして「改善」繰り返されます。
ここからさらに話を継いで行きます。 欲求のなかでもっともデリケートなものは、未知なる潜在しているものです。 特に最終消費者を顧客とする場合で、その顧客本人が現物・現実の価値を与 られてはじめて「欲求のかたち」を知ることになるからです。
本人すら知らないのだから、「気配」から予断するより方法はありません。 話は変わりますが、本田宗一郎さんがまだ存命であった本田技術研究所では 一風変わった習慣があったそうです。
課長クラスが若手を飲みに連れて行くと「最近街で見つけた面白い話はない か」と必ず聞くのだそうです。
その要望にうまく答えると、お誘いの回数が増えたようです。 なぜそんな習慣があったのか、何故かを探ると本田さんに行き着きました。 本田さんが役員といっしょにいると、この「最近街で見つけた面白い話はな いか」と頻繁に聞いたのだそうです。
それで役員は、部下に「最近街で見つけた面白い話はないか」を聞くことに なり研究所の全員が「面白い話」の感度があがることになったようです。
本田さんにどんな意図があったのかその真意は分からないのですが、ただ言 えることはホンダが「街」への関心と感度がよくなったということです。 現の市場(顧客)の心は、論理や調査で測り知ることができるでしょうか。
中堅企業のマーケッター(企画マン)も、街で見かける人の何気ない行動や 出来事などの気配から「アイディア」を閃めかせているみたいです。

「イノベーション(革新)」はあらゆる活動において行われますが、「顧客 欲求の創造」のためのイノベーションについて話を進めて行きます。 「ディズニーランド」は、まさにそんな形のイノベーションです。
ウォルトが幼い2人の娘を遊園地に連れて行ったとき、自分一人がポツンと ベンチに座っている状況に気づき造るべきと考えたことが始まりです。
「市場のことは市場に聞け」という言葉があります。 ドラッガーのマーケティングの要諦について「マーケティングは顧客から始 まる」と言っています。
未知な潜在的な欲求については本人が知らないのであるから、創り手が匂い 気配や思いから始めて市場(顧客)を創造するより仕方ないことなのです。

企画者のスタイル

少し「革新と恐れ」について「経済行動学の理論」により紐解いてみます。 人の持つ主観的な満足度には一定の傾向があるのだそうです。
それは同じ規模の「儲かること」と「損すること」があるとして、興味深い のは「損すること」の方を2.25倍深刻に受け止めるということです。 そのため「儲けんでもよい、損だけはしたくない」となります。
ここで困ったことには「儲けんでもよい」と考えて同じことを繰り返してい ると、成長などはあり得ず待っているのは衰退と崩壊です。 成果を得るためにはまた成長するためには「変化への心構え」「変化への対 応」さらに変化の活用」が帰趨を制することになります。
「変化へのマネジメント」こそが「企業の成長戦略」であります。 安定を心地よく感じて、変化を厭い守りに入るのが「人間の性」です。 このような「性」を超えて行い変化を活用するのが「成長戦略」です。 そのため変化を機会として行うイノベーションは、容易ではありません。 しかしこの戦略なくして企業の将来の存続が実現されないので、心して通常 活動として変革を行わなければなりません。

世の中にない商品をビックリするレベルで提供したのは、イノベーションの 帝王であるアップル社の故スティーブ・ジョブズでした。 なぜ、それが可能であったのか。
ジョブズは有名なスピーチ「ハングリーなままであれ。愚かなままであれ」 にあるように、今日が「最後の一日」として生きた結果だったようです。
少し抽象的な説明になっています。
もう少し理解しやすいベストプラクティス(最良の事例)を探ってみます。 たまたま見たNHKのテレビ番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』で、 「TSUTAYA」の増田宗昭さんが紹介されていました。
増田さんの話のなかから、多くの成長戦略のあり方が浮かび上がってきます。
ソフトバンクの孫さんは、70%の成功確率があれば3割まで赤字を覚悟し て事業をはじめると言われます。
そもそもイノベーションには「安全」とか「確実」などの保証というものが ないのが理(ことわり)のようです。
増田さんも、事業計画書では売上0(ゼロ)予算をたてて始めるのだそうです。 そうしたら、そんな事業を成功する根拠なしで始めるのかと言うと、これは まったく違います。
松下幸之助さんは、新商品が出たとき「その商品を抱いて寝る」と表現され おり一般消費者そのものになって商品をチェックし吟味されています。 増田さんも、絶えず顧客目線の感性をもって事業開発を断行しています。
ジョギングが日課でその道すがら「子持ち」「おばちゃん」「プレミアムエ イジ(じじい)」の気持ちになって、何かを感じようとするのだそうです。 それは一生活者になって「時代の心」を嗅ぎ分けようとするもので、自身で 「企画を生むための使命だ」と言われます。
こんなことは増田さん以外でも、実践する経営者が結構いるようです。

増田さんにはもう一つの強みがあります。 世界一を目指して数限りない失敗を経験していることで、中には価値観が崩 壊するような200億円の負債を背負うこともありました。
しかし「やらなければ答えが見えず未来がない、だったやるしかない。やれ ばやっただけ分かってくる」を信条として決断して行います。
戦略は、すべてが成功するわけではもちろんないのですが。 やらない人には確実な衰退しか待っていない、だったら「やるしかない」。 「失敗」は、創造を実現し強みを形成する絶対条件です。
ただし、ここでは危機感と使命感をバックボーンとして「時代の心」が分か ること、「時代の願望」をとらえてから成果に結びつけることが必要です。

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