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51回目 顧客満足のキーポイント

「感動」とういう欲求レベル

南都興福寺には「阿修羅」という有名な塑像があります。 非常に前評判がいいので拝観すると、すばらしいのは確かなのですが思い 入れのせいか観察がうわすべりして「感動」には至りませんでした。 しかし、ここで阿修羅像でなく別の仏像に感動がありました。 それは、予想もしていなかった「千手観音」の圧巻の姿です。
この本尊の千手観音は身の丈5mもあり、鎌倉期の作との記載があります。 当初、仏師成朝によりつくられ始めたのですが、造り上げたのは誰だか分 からないようです。 その姿は、仏師が渾身の信仰の力でもって作り上げたと思わせる威厳をも 超えた「感動」がありました。

東大寺の大仏殿にも久しぶりで訪れました。 ここでは予想していたのですが、その通りの体験をしました。 それというのは、小さいころ見た大仏さんは圧倒されましたが、ふたたび 見た大仏さんには「がっかり」させられ、3度目に見た大仏さんは実物ど おりの印象で「すごい」の感慨を持ちました。

「感動」は、その人の今いる有様によって受ける印象は異なります。 かんかん照りの真夏で飲む生ビールは何物にも代えがたいのですが、アル コール嫌いであれば縁のない話です。 その人でも、かき氷となると話が違ってくるかもしれません。 「感動」の喚起は、先入見と状況により異なる結果をもたらします。

日本の状況を考えてみます。 世界的に見て、偏りはあるものの総じて充実した環境が実現されています。 そこでの顧客満足の要件は、「満足」はとうぜんとして「感動」が顧客の 欲求を喚起させる条件として浮かび上がってきています。 中国人の爆買いも、このあたりが底流をなしているのでしょう。
先に述べました興福寺の「阿修羅」ですが、なんの情報もなく拝観したな らばその姿のエレガンスさに感動することでしょう。 ときたまにあるのですが、前情報なく何気なく立ち寄った飲食店で店員の 愛想がよく、出されたリーズナブルな一品料理が思いの他おいしかった時 など何とはなくの満ち足りた気持ちになります。

作り手からすれば大変なのですが、顧客にとって「満足」なんて当たり前 「感動」がなければ魅力は感じられません。 これはあらゆる業種に及びます。
国立病院でも、独立行政法人になったせいか清潔な病室に心優しい看護師 さんがいて2度目があるとすれば同じ病院でとの思いすら抱かされます。
どの業種ということにとらわれず、ビジネスチャンスはこの「感動」がキ ーワードになります。

「和民」がリーズナブルな価格でそれなりの料理で「満足」していました。 しかし、「鳥貴族」が値段といい従業員の接客といい、一ランク上で提供 されるとどちらに流れるかはその業績が如実に物語ります。

リッツカールトンホテルの接客サービスやディズニーランドのイベントに は「感動」レベルの満足を感じる人が多いようです。 「感動」の本質は思いもよらない満足の体験がベースとなりますが、今日 の企業はシステムとしての「感動」の仕組みづくりと働く人の教育・訓練 と動機付けによって日常化させなければならなくなりつつあります。

感動の条件づくり

リッツカールトンホテルの接客サービスやディズニーランドには「感動」 を創造する工夫があります。 人には「チャレンジ」「創造性」「成長」「達成感」といった生産的な願 望もあり、それらの「プラスの衝動」を妨げずに支援・促進させることが 「感動のマネジメント」の要諦になります。
少年ジャンプという週刊少年雑誌があります。 この雑誌キーワードは「友情」「努力」「勝利」で、この要素またはそれ に繋がるものを最低一つ必ず入れることが編集方針だそうです。 そう言えばハリウッドの娯楽映画にも、いつも「ジェットコースター」の ハラハラと安堵が織り込まれ「感動の衝動」が生起させられます。

人の感性には「感動」のパターン認識があります。 受け取る消費者へは、ハリウッド流の演出をそれも迫真の感情移入がなさ れた「アート」としてのアプローチでもって、与える側の働く人へは週刊 少年雑誌のキーワードのような、人の持つ「チャレンジ」「創造性」「成 長」「達成感」の生産的な欲求の充足を妨げずに支援します。
人にとって、「働くこと自体」は決して苦役ではありません。 却って一定の要件が整えば、成果を生産する現場体験なので「遊び」以上 の充実感を得ることができます。 引きこもりの人たちのなかには、何の見返りもなしにテレビゲームを徹夜 してでもやり続けるのは充実感が強制なしの努力で得られるからです。

リッツカールトンホテル、ディズニーランドや一部のチャレンジする企業 はこのことを理解してマネジメントを行っています。 貢献を引き出すためのキーワードは「人はパンのみにて生くるに非ず」で、 信仰や奉仕や自己犠牲などのパン以外の人間が持つ本性をいかに活かし成 果に結びつけるかが「感動のマネジメント」の要件になります。
心理学的には、深層心理学という人の心の中に潜む性向を分析しようとい う流れがあります。 代表的な学者として3人の名前が挙げられます。 フロイド、ユング、アドラーの3人で、フロイドが無意識の存在を発見し 分析することから始まっています。
心理学は未だ科学になりえない、また科学の範疇でくくれるかすら定かで ないような学問分野です。 上記の3人の学説も数学のように厳密な定義づけはできません。 その上で述べるなら、フロイドは快楽を求める衝動を、アドラーは社会適 合を求める権力、ユングは自己実現に注目し分析しています。

人が行動を起こすのは単一の動機によってでなく、複合した動機が絡み合 って発現されます。 話が飛躍しますがライザップのボディメイクは、異性にモテたい、賞賛を 得たい、達成感を味わいたいといった複合した満足を得るためにハードな トレーニングを対価を払ってまでもチャレンジさせます。
本来苦痛であるハード・トレーニングという苦役にさえ、対価を得るので なく対価を払ってでもチャレンジしています。 ここにマネジメントを理解できるヒントがあります。 人の持つ欲求への理解がマネジメントの要諦で、さきに述べた「少年ジャ ンプ」ではないのですが一つでも経営方針にしなければなりません。
余談ですが、サントリー・オールドのボトルの曲線は女性の体形曲線を取 り入れていると言われ、赤ちゃんや動物の子供がかわいいのは「おでこ」 の曲線が人が可愛いと感じる曲線であるという学説があります。 また、男性一般が女性の乳房に魅力を感じるのも、本能的に人間の中に理 性を超えた感情レベルの刷り込みがあるからです。
感動を与えられることも、感動の提供する動機づけも人の持つ分析しがた い心理特性に由来します。 ただし、この感動のマネジメントは合理的な仕事のシステム化は基本条件 ですが、この運用については安易な計算づくのテクニックとしてつくり込 むことは不可能で全人格で対応しなければ適いません。

感動システムについて

リッツカールトンには、感動を実現させる「クレド」と冠した企業理念 を始めとする「ゴールドスタンダード」(黄金律)があります。 これが、宿泊客に感動を提供する基盤です。 さらに顧客へのパーソナルな接客サービスをバックアップするデータ管 理システムと「やる気」を引き出す評価システムもあります。

ディズニーランドには、感動の創り上げるためのノウハウをもとにした 「ディズニー・インスティチュート」という研修機関があります。 ここでは、顧客を満足させるディズニー流経営哲学が学べる数々のプロ グラムを提供している。 「感動」のノウハウの蓄積がディズニーランドの「強み」の源泉です。
ランチの平均客単価1200円以上、それでも連日大行列ができる飲食 店としてテレビで紹介された「ねぎし」という牛たん専門店があります。 この会社の経営方式が独特で、毎年の目標や経営方針は店長が主役にな って決定しています。 感動づくりのアイデアについても現場スタッフに委ねています。

製造業での感動商品の代表はアップルの「スティーブ・ジョブズ」が有 名ですが、ジョブズの場合ではシステム的な仕組みではありません。 まったくの個人の個性圧力が、組織に染み込んでの快挙です。 全社的な取り組みとしては昔のソニーやホンダに見られますが、創業者 の個性がよりつよい影響したものとも判断されます。
その他の業態としては、ニトリやアイリスオーヤマ、さらにホームセン ターのカインズが見られます。 これらの会社では、社員に積極的な商品企画・開発を義務付けています。 ここでの商品化へのゴーサインには特徴があります。 商品化の承認は、代表者が即決で行い機会を逸しません。

リッツカールトンの感動システムを詳しく見て行きます。 根幹をなすのは企業理念で、“クレド”には「お客様が経験されるもの、 それは感覚を満たすここちよさ、満ち足りた幸福感そしてお客様が言葉 にされない願望やニーズをも先読みしてお応えするサービスの心です」 と感動への宣言がなされています。
“サービスの3ステップ”の一番目に「あたたかい、心からのごあいさ つを。お客様をお名前でお呼びします。」とあり、名前はもちろん“ふ ともらされた呟き”や態度から得られる情報をデータベース化し共有化 し次回のおもてなしに活かされます。 ヒューマンな手法だけでなく、すべての手法が活用されます。

「従業員への約束」では、「お約束したサービスを提供する上で『紳士 ・淑女』こそがもっとも大切な資源です。」とし、続いて「個人と会社 のためになるよう持てる才能を育成し、最大限に伸ばします。」とあり、 スタッフが紳士・淑女となることを奨励しかつ教育を惜しみなく行い、 さらに年数回の「従業員満足度調査」でもって確認しています。
紳士・淑女となったスタッフを鼓舞する制度も行われています。 ファイブスター制度で、3か月に1度各部署から1名が選ばれその中か ら5名をファイブスター社員として選抜され5つ星マークがつきます。
さらに年間20名の中から5名を最優秀ファイブスター社員に選ばれ、 マークの中に加えて宝石マークがつきます。
同社の採用時には、最初にパート、アルバイトにかかわらず、クレド (経営哲学)についての丸2日間の研修が行われます。 入社1年目には300時間の研修が行われ、毎日各セクションで15分 のクレドについてミーティングが行われます。 リッツカールトンは、システムを通してクレド品質を維持しています。
システムはそこで働く人をして、成果を実現するために一定の方向に誘 導して行く効果があります。 普通の人をして非凡な人に成長できる機会を提供します。 ただし、「システム」はプラス面ばかりに働くのではなく、過剰になっ たり運用を間違えると地獄の特訓にも成り下がる危険をも含みます。