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18回目 異質でなければヒット商品でない

「感動」をどのように作り出すか

1990年代ごろから、競争の様相が一変しつつあるように感じます。 「高くてもよい商品」から「安くてよい商品」が当たり前になって競争を リードしてきましたが、この頃から「異質なレベルの良い商品」が競争の 条件に転換しつつあります。
現在はこの様相が定着して「異質なレベルの良い商品」の開発こそが、ヒ ット商品の条件になってきています。 代表的なのはユニクロの「ヒートテック」、発熱・保温する機能インナー で、充実の色柄とデザインを網羅しておりユニクロの柳井正会長兼社長は 「今年はヒートテックで1億枚を販売したい」と豪語しています。
商品開発の基本は「あっと驚く感動」の継続が条件になっています。 商品ではないのですが“ディズニーランド”が「感動」のお手本です。 「感動の連続」のために、絶えることない新企画とリニューアルの連続で いつ来ても感動できる仕組みづくりができています。
“USJ”も「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッターエ リア」を開設し、世界で一つの「感動」を創り上げています。
競争のレベルは「満足」は基本で、さらにそのうえに「感動」をいかにつ くり出すかへ移行してきています。
感動のためには2つの条件が必要です。 1つは、思いもかけていなかったことの実現で、もう一つは些細なことへ の完璧なこだわりです。
いくら驚きを与えても、すこしの綻びで一気に興ざめしてしまいます。
「感動の継続」が新たな競争できる商品の条件になり、競争の主導権を握 り「リーダー」になります。
ただ難しいのは、新たな「感動へのチャレンジ」がないとその「リーダー」 の地位は一朝して覆ってしまいます。 過去の問題の解決ではなく、攻めこそが唯一継続を可能にする方策です。
そうしたらこの条件を満たすためにはどうしたらよいか、それはやはり経 営者の働き如何にかかっているということに他なりません。

「感動」をつくる経営者の系譜

戦後、大企業に成長させた創業経営者は、その時代々々の欲求に応え感動 を創りだした経営者です。
代表的な経営者をならべると、松下幸之助、本田宗一郎、井深大、早川徳 次氏など数えれば多くの人がいます。
このなかでエンジニア的側面の強いのは本田宗一郎、井深大氏です。 この二人は、創造的なエンジニアリング活動により、その時代の抜きんで た真似のできない「感動」の製品をつくりあげてきました。
世界企業に成長した企業には、共通した思いがあります。特に二人には、技術での強い思いがあります。 それは「独創性」と「世界で一番」の思いです。
「感動」を実現させる製品には、最初から経営者の 「強烈な思い」が出発点になっています。
本田宗一郎氏は、小さい町工場であった時から「世界一」を目指していました。 「チャレンジして失敗を怖れるよりも、何もしないことを怖れろ。」と言 い人真似をするのでなく独自の技術で、オートバイのTTレースでもF1 レースでも世界チャンピオンの地位を獲得しました。
井深大氏は、常に世の中に無い新しい技術、製品を世に送り出していこう という理念を持ち「一番のモットーは、他の人が既にやってしまったこと はやらないこと。」と言って初期のソニーの特徴である独創商品、トラン ジスタラジオやテープレコーダーを創り上げ世界ブランドを形成しました。
「シャープペンシル」を考案した早川徳次氏はエンジニア型の経営者では なかったのですが、独創を重視しています。
「まねするより、まねされる商品をつくれ。ほかがまねてくれる商品は需 要家が望む商品、つまり売れる商品である。」と言い、この考え方がやが 液晶テレビとして結実します。
独創は感動の源泉です。松下幸之助氏の場合はそこには少し違ったニュアンスがあり、社員に 「松下電器は何をつくるところか」と尋ねられたら、「松下電器は人をつくる ところでございます、あわせて商品もつくっております」と答えなさいと 言っており、人づくりの基礎の上に「感動」をつくりあげて行きました。
独自な理念である「水道哲学」つまり「真の使命は、物資を水道の水のご とく安価無尽蔵に供給して、この世に楽土(=ユートピア)を建設するこ とである」とするの精神のもとに、世に普及している商品を徹底的に研究 しより使い勝手がよくかつより安価に提供するという方針で感動を創り上げてきました。

アップルのスティーブ・ジョブズの製品づくり

アップルのスティーブ・ジョブズは「感動の商品」を創りだすのが宿命であ ったような人物です。 スタンフォード大学での有名なスピーチに「ハングリーであり続けろ。愚か であり続けろ。」とあり、貪欲な製品づくりを行った人生でした。
その商品づくりは徹底的なものでした。日本では本田宗一郎氏が徹底的なモノづくりの代表で、技術者 であったのでモノづくりに主導しています。
ジョブズは偉大な技術者というのでなく、その特徴をいうならば「最大のクレーマー」であるといった雰囲気さえあります。
独創的な製品をつくる場合、もっとも大切なのは完成イメージです。 そして、次に必要なのはその製品を現実化させるエンジニアをはじめとする 優秀なスタッフです。
ほとんどの画期的企画の大成功は、ジョブズがイメージし優秀なスタッフに 過酷な要求をし細部の完成度にこだわって生み出されたものです。

ジョブズはその自分勝手なモーレツさゆえに、創業者であるにもかかわらず アップルを追い出されています。追放されたとはいえ、株を売却した豊富な資金がありました。
その手元にあったその資金を使って、尽きないモノづくりの衝動により夢を果たすべくピクサー・ アニメーション・スタジオとネクストコンピュータを設立しました。
少し脱線しますが、この二つの会社においては自己資金をほとんど費やし野 心的な事業を画策しています。 たが結果的には新たな技術開発はなされたもののほとんど惨敗で成果は出ま せんでした。

しかし、チャレンジには不運がつきものですが、それと同時に思わぬ幸運も 訪れます。それが、ディズニーから解雇されやってきていたジョン・ラセターによりつ くられたCGアニメーション「トイストーリー」の大ヒットです。 この幸運によりジョブズ自身がハリウッドの大立者なってしまいます。

その後、また鳴かず飛ばずのアップルから要請を受けて復帰しています。 そして、結構強引な手も使ってやがてCEOに復帰します。その理由の大部分は画期的な製品をまた世に送りたい ためで、アップルの優秀なスタッフがいることとやはり彼の誇りがそうさせたようです。

復帰後、自分持っているイメージの完成のためにわがままを押し通して、や がて立て続けにiPod、iPhoneなどの画期的なヒット商品を世に送り出しました。 ジョブズの場合、「異質なレベルの良い商品」づくりは、貪欲な個人の創造性 意欲と忍耐強い「我が儘」から生まれてきたようです。

「異質なレベルの良い商品」づくりは、普通のレベルの発想からは生まれない ようです。ジョブズは「デザイン」についても「製品をデザインするのはとても難しい。 多くの場合、人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのかわからな いものだ」と述べています。