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56回目 弱者の武装化

戦闘力の分析

営業に携わる方にとっては、「ランチェスターの法則」は営業戦略に活用 する理論として耳にすることあることでしょう。 もともとは第一次世界大戦の頃に、イギリス人のエンジニアF・W・ラン チェスターによって、戦闘機の成果を分析することで導き出されました。 戦後は、OR(作戦研究)として産業界へも応用されて行きます。

「ランチェスターの法則」は第一法則と第二法則からなり、弱者の戦略、 強者の戦略として営業戦略に導かれて行きます。
この法則はそれぞれ異なる方程式によって導かれてゆくのですが、やや難 解なのでここでは深く立ち入りません。 簡単に、「軍の戦闘力=武器性能×兵員数」として理解ください。
この公式は企業の戦略を分析したり構築するのに有効に機能します。 ちなみにナポレオンの強さを分析すると、おもしろい結果が出てきます。 また、日本での戦国時代の武将の強さの分析をするのにも活用できます。 もちろん、企業経営の競争戦略にとってこの公式の持つ意味の理解と活用 は有利に事業展開する指針となります。

戦国時代の武将で四国の覇者である長宗我部元親のことはあまり知られて いないのですが、最弱小勢力が大勢力になったのには公式「軍の戦闘力= 武器性能×兵員数」の威力が功を奏したと言えます。 種明かしは、「一領具足」として知られている半農半兵の兵士および組織 を有効に活用したことによります。

「一領具足」は普段は農作業を行っており、いざ合戦となったら具足をつ けて参戦しその働きに応じて正規の武士と同じように恩賞を受けました。
元親は諫言や意見を広く聞き入れる度量をもった武将で、上級家臣の意見 より「一領具足」の意見を積極的に聞き入れもしたそうです。
その意気に感じて、独自な忠誠心のある農民兵が生れることになりました。

「一領具足」は元親の父国親の頃から採用された軍制だと言われています が、本格的に採用されて機能しだしたのは元親の代からです。
この制度は長宗我部家独自なもので、他国にはその例がありません。 敵に城が包囲されていると、どこから現れたのか俄かに多数の加勢がおこ り後方を「軍の戦闘力=武器性能×兵員数」が取り囲むことになります。

ナポレオン軍の強さの根源は何だったのでしょうか。 ナポレオンは確かに軍人としての傑出した資質を持っていましたが、それ だけでフランス軍の強さを説明できるわけではありません。 フランス軍の強さも「軍の戦闘力=武器性能×兵員数」で説明されます。 その状況を生んだ背景には、「フランス革命」が大きく影響していました。 フランス軍の強さの一つは国民皆兵制で、兵員を随時調達できたことです。 周辺のオーストリアやプロイセンなどは王国で、士気も決して旺盛とは言 えない貴族や傭兵を主体とした軍隊でした。
そのため簡単に増員を行うことはできず、これに対してフランス国民軍は ロシアに次ぐ人口を持っていたこともあり徴兵による増員が容易でした。

武器性能についても、産業革命を経たイギリスが一番優位であったかもし れませんがフランスも決して見劣りはしなかったようです。 さらに、当時の武器性能のおもな要素が兵士のやる気に負うところが大き く、フランス革命後に農地を分配された農民が王党の復権を阻止するため の士気が高く軍の戦闘力を高める要因となりました。
長宗我部元親に話を戻りますが、家臣に「四国の覇者をなぜ目指すのか」 と質問されたところ「家臣に十分な恩賞を与え、家族が安全に暮らしてい くには土佐だけでは不十分だから」と答えたとされています。
これは京セラの経営理念「全従業員の物心両面の幸福を追求する・・・」 を髣髴される趣があります。

現在の武器性能

現代経営にとって武器性能とは何でしょうか。
一般的には情報化武装という言葉がすぐに浮かびますが、ナポレオンや戦 国時代のあり様とは異なるものの現在も「兵の士気」が意味を持ちます。 特に人材が持つ「知識」が「武器性能」であり、「兵員数」の劣勢をはる かにカバーする威力を持ち発揮されます。

「武器性能」である「知識」の形成について見てみると、優良企業ほどこ のことに意を注ぎ卓越していることが目につきます。 トヨタは、日本国内ではトップの売上と従業員数をほこり本年度中間決算 でも、過去最高の売上と収益を計上しています。 そこで、トヨタの「武器性能」の源泉について探ってみます。

終戦後のトヨタは、1949年(昭和24年)にドッジ・ラインと称され る財政金融引き締め政策によりメイン・バンクにも見捨てられる事態を招 き、大幅な人員削減によりからくも倒産を免れる経験をしています。 この同じ年に「創意くふう提案制度」を発足させてSQC(統計的品質管 理)導入がなされ、ここから従業員による「武器性能」向上が始まります。
1965年にはデミング賞実施賞を受賞し、1970年に日本品質管理賞 受賞しています。 そして現在も3つの「お客様第一」「絶え間無い改善」「全員参加」を基 本的考え方として企業全体を対象にしたTQM(総合的品質管理)が推進 されて現在の超優良企業の地位を獲得しています。

こう述べるとTQM(総合的品質管理)を導入しさえすれば万々歳になる かというとそんな訳には行きません。 基本にあるのは「武器性能」の向上を受け入れる条件が整っているかどう かと言うことで、事実トヨタ生産方式の要の一つである「かんばん方式」 を表面的に真似て「やけど」をした企業は結構あります。
「武器性能」向上を行うにはそのための基本条件が必要です。 その基本条件が整っているかどうかを、ファースト・コンタクトで見極め る方法があります。
それは5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)が行きと届いているかどうか で、この5Sができていなければ基盤がないということになります。

孫子の兵法に「五事」という軍の強さをは比べる基準があります。 それは「道、天、地、将、法」で、「道」とは経営者、従業員が同じ思い を持っているかと言うこと、「天」とは天の機会をつかんでいるか、「地」 とは立地条件や販売ルートなど、「将」とはマネジャーの真摯さ、質の問 題で、「法」とはプロセス、組織、管理基準、評価の経営全般をさします。 「整理・整頓・清掃」すらできていなのであれば「武器性能」を論じるの はまったく無意味な筋違いの空論となります。
「道、法」が整っていれば「整理・整頓・清掃」が整い、良い「将」も得 られ、「天の声」を聴き「地の利」を探し求めることを可能とします。 ここに勝つ条件が整い、TQM(総合的品質管理)導入が可能となります。

弱者の戦略

「弱者の戦略」とは名前で誤解を招くの言葉ですが、「兵員数」の弱点を 「武器性能」「戦略発想」によって「強者」になさしめる戦略です。
一般的には、中小企業は弱者で大企業は強者であるという思いがあります。 確かに信用力や資金面で不利な面があることは否めませんが、顧客に対し て喜んでもらえる「武器性能」があるかどうかは別問題です。
よくある錯覚は「よく売れている市場、商品」を良しとし、それを真似て 既存の市場で既存の商品(サービス)を売ろうとすることです。
中小企業が有利に事業展開をできる基本的手法はイノベーション(革新) で、先行していて信用があり多くの技術やノウハウを持つ既存の中堅企業 の市場に戦いを挑むのは根本的に不利であり不可能です。
誰でもが知っているようにトヨタ、パナソニック、ホンダ、ソニー、京セ ラ、ソフト・バンク、サントリー、セブン・イレブンと挙げれば限のない ほど小企業から大きく成長した企業は枚挙にいとまがありません。
それらの企業は、創業経営者が知恵と艱難辛苦のイノベーション(革新) によって勝ち抜く「武器性能」をもって顧客の満足を獲得しています。

アメリカの企業に誰でも知っている「マイクロ・ソフト」があります。 ビッグ企業であるマイクロ・ソフトは、ビル・ゲイツとポール・アレンの 二人によって設立された小企業が始まりでした。
コンピュータは誰でも知っているようにソフトがなければ駆動しません。 情報ビジネスへ、「ソフト」と「経営戦略」により参入して行きました。
新たに勃興する市場における「軍の戦闘力」にとって、その勝利の帰趨を 征する要因は当初「兵員数」ではありません。
「マイクロ・ソフト」は二人により、「戦略発想」「ITスキル」という 「武器性能」を駆使して「IBM」さえ見落としたビッグ市場を開拓する ことによってビッグ企業への道を駆け上って行きました。
この「IBM」と「マイクロ・ソフト」のような光景は他でもあります。 「マイクロ・ソフト」は、「グーグル」「フェイスブック」のようなビジ ネス・モデルを何故見つけられなかったのか、ヒントはここにあります。
成功した企業は、成功した領域から「はみ出す発想」を持ちえません。 失うことのない「弱者」にとって、この「発想」こそが戦略となります。
ソフト・バンクの孫さんとユニクロの柳井さんは事業上で結構深い親交が あるそうです。
柳井さんはソフト・バンクの社外重役で、暴走気味の孫さんを時には諌め るそうですが、その柳井さんが孫さんが2兆円の資金を必要とするボーダ フォンの買収については諌めるどころか逆に焚きつけたそうです。
と言いながら一勝九敗を信条とする柳井さんは、失敗が多く失敗を糧にし てそこから多くを体験して「知識」とし成長をはたしています。

孫さんと柳井さんは「強者」の位置に居ながら、「弱者の戦略」の達人で 9敗することでいち早く多くの事を知り賢者となり、それを上回る1勝を 大きく育てて行きます。
未来を予測するのは特殊な例を除いて誰もが成し得ませんが、人間が「よ り以上の欲望を求める」限り、市場には無数の尽きない機会が存在します。 今、孫さんが「感情を持つロボット」にチャレンジしています。
「武器性能」もフランス企業を提携し、「ソフトバンクアカデミア」の人 材を抜擢し、専門家指導で「感情エンジン」を搭載しています。 この「ロボット」は、現象的にはすでに感情を持っているように振る舞っ ているようです。

孫さんも柳井さんも同じ匂いを持っており、大きな「ハッタリ」のような ヴィジョンを持ち先行して「失敗を行う才能」があります。 新参者であるならば、なおさらより以上の「失敗を行う才能」が必要です。
本来の意味の「弱者の戦略」は、差別化された局地で一対一の戦闘に持ち 込むことを旨とします。 さらに、その局地で少人数の勢力を集中させ各個撃破を試みます。

現在は、今や強者も弱者もなく無人の豊穣の地をいち早く見つけて傑出し た「武器性能」でもって市場を制覇することが戦略であると言えます。
最後に、マネジメントの基本に立ち返り3つの必要条件を説明します。 「武器性能」の高めるには3条件が必要で、
1.「仕事」が「顧客のより以上の欲求」を焦点としかつ「人材の能力が最適に発揮できるよう」設計されており、
2.その成果検証のためのフィード・バックシステムを備え
3.普段の能力向上のために継続学習の支援が行わることです。