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64回目 そう思わなあきまへんなぁ

「経営の考え方」

京セラの稲盛さんが中国に行ったとき、地元市場で焼き栗を見つけて10秒 ほど思案して買うのをやめられたそうです。 その時の焼き栗の値段が日本円で30円であったのですが、価格に見合う価 値ではないと判断してのことだったようです。 これは「人間として何が正しいのか」の判断によって決めたことでしょうか。
企業を大きく成長させる経営者とプチ成功のあと崩れる経営者がいます。 その分かれ目こそが、存続と発展を決定づける要因であるとも言えます。 先見性、行動力については同水準であっても、敗れてゆく経営者は「考え方」 の頂に至らず資金を高級車や自身の放埓のために散財してしまいます。 成長する経営者は、再投資のために一円のお金も無駄にしないようです。

稲盛さんは、「よりよく人生をおくる方程式」として『人生・仕事の結果= 考え方×熱意×能力』をあげています。
「熱意」もあり「能力」もありながら、最も重要で詰めである「考え方」を 誤ったがために後発に道を譲らなけれならないとは惜しい限りです。 事業で忘れてはならないのは、「考え方の効用」の厳粛な原理性です。
「考え方」の重要性を真に理解できる人は、何度も事業を失敗した人です。 「熱意」「情熱」がない人に突破力がないのは事実ですが、時代が求めてい ることに耳を傾けず傾けても二番煎じでは誰も魅力を感じません。 「顧客である私」の渇望している欲求を、誰より適えてくれる心優しい会社 の商品(サービス)であればこそ対価を払います。
これは何も道徳について言っていることではなくて、経営(マネジメント) の基本概念である現実の法則です。
企業の目的は「外部」にあり利益の源泉たる「顧客」の満足をはかること、 つまりドラッガーのいう「マーケティング」の実現です。 さらに「より以上の満足」を実現するために、「変化」を「機会」となして 「イノベーション(変革)」を実践することです。
いつも「この人」の考え方を引用するのですが、経営の神様の松下幸之助さ んは「仕事が伸びるか伸びないかは、世の中が決めてくれる。世の中の求め のままに、自然に自分の仕事を伸ばしてゆけばよい。」と言っています。
また「無理に売るな。 客の好むものも売るな。 客のためになるものを売れ」 とも少し趣の異なることも言われています。

「マーケティング(マーケティングの意味は顧客活動です)」の言わんとす ることや「イノベーション(変革のことで、よりよい満足を実現すること)」 は、ドラッガーが言うように最もシンプルな基本原則です。
創業する場合、現に事業を行っている場合でもこのことを驚くほど無関心で 「まと」を外して迷いの淵に漂っています。
多くの企業は「まと」を外したままで事業を行っています。 と言いながら基本原則を理解したらそれでよいかと言うと、ここからが始ま りで試行錯誤しながら「顧客の満足」を目標に実行しなければなりません。
ところが「どうしたらよいか」の答えはなく、また松下さんに戻るのですが 稲盛さんが心して聴いた「そう思わなあかんなぁ」が出発点になります。

松下幸之助さんの言われたことを続けて引用します。 「無限に発展する道はいくらでもある。要はその道を探し出す努力である。」 「私は、失敗するかもしれないけれども、やってみようというような事は決 してしません。絶対に成功するのだということを、確信してやるのです。」
「失敗すればやり直せばいい。やり直してダメなら、もう一度工夫し、もう 一度やり直せばいい。」と言っています。

「事件は現場で起きている」

基本的な「考え方」が重要だということ話してきましたが、もう少し踏み込 んで話をすすめます。
警察ドラマの『踊る大捜査線』に「事件は会議室で起きているんじゃない。 現場で起きてるんだ!」という名セリフがあります。 顧客と接点があるのは現場であり、現場なくして事業は存在しません。
経営は学問でも科学でもなく、現実を基礎にした人間活動です。 その根底をなすのは「人、人、人また人」で、企業が成果を実現できる活動 のすべては「人の、人による、人のため活動」です。
ここでの科学や論理の役割は、そのものの偉大さではなくどんな些細なもの であっても人が喜んでくれるか否かの一点にかかわります。
事業を始める場合は、「これが流行っているまた流行りそうだ」また「これ がやりたいんだ」の予断から入るケースが多いようです。
ここで問題になるのは、現場の「真実の声」を聴いたかどうかです。 事業が成り立つのは、顧客が真に望んでいるか望むかの事実がすべてです。 この現実が起こらなければ、そこでその事業は「無意味な営み」になります。
厨房機器のリサイクル機器の販売を専門にする「テンポスバスターズ」のオ ーナーはユニークな経営者で、自社社長を幹部の立候制で選んでいます。
創業に関してはリサイクル店の社長が高級車を乗り回しているのを見て「こ れはいけそうだ」と直感して参入したのですが、その準備として行った行動 がなるほどと納得させられるものでした。
創業者の森下篤史氏は7つの事業を興しつぶした経歴を持っています。 熱意と能力はあり余るほどあり、本当にその事業を継続してするに値するも のであれば成功の確率は非常に高いと言えます。
そこでとった市場調査が「現場検証」で、盛岡から宮崎まで20軒ほどある 繁盛リサイクル店に出向いて肌で感じるまで体感しました。
やはり中小企業の経営者は自分で何もかもしなければならないと感心される かもしれませんが、オッとドッコイで大企業の経営者も現場に行きます。 現場に行かなければ何も分かりませんから。
すべての責任を負う経営者は、現場の生きた情報を得て問題点を把握してそ のうえで課題を見つけ対策を考えて行きます。
このことは洋の東西に関係なく、興隆をもたらす経営者は行っています。 世界最大の流通業の創始者、サム・ウォルトンのストア・コンパリゾン(競 合店比較調査)は有名で、奥さんとの海外旅行の最中でも気になる店がある と立ち寄って自社に役立つものを盗み取ってきます。
これが、巨大企業の経営者たるサム・ウォルトンの習い性でした。 東芝の土光さんも、東芝の再建のときには社長室を一人抜け出して工場に出 向き現場の従業員を励ますとともに「問答」を行っていました。
日産のゴーンさんも経営の継承時には、まず予断を持たず白紙からはじめて 日本中に散らばる営業所や工場の従業員に直に話を聞き、その後にスタッフ と十分に検討を重ねて「日産リバイバルプラン」を立案しました。
大手企業でも「真実の声」を聴くために努力を惜しまず行っています。 技術偏重だったP&Gは、2,000年度の深刻な経営不振を契機として企業 文化を一新させました。
「消費者がボス」を合言葉に、トップマネジメントは消費者の自宅訪問や売 り場での消費者インタビューを習慣化しています。 NHKのBSプレミアムに「ボス潜入」という番組があります。
トップが現場に潜入することで真の問題点を知ることができ大いに役立った というもので、現場の従業員に後でネタ晴らしをして驚く顔を見るというの が見せ場になっています。
これを見ると、経営トップは現場に行かないというのが常識のようです。

「現場」「現物」「現実」

発行部数32万部の「VERY」という女性ファッション誌あります。 編集長は今尾朝子さんで、「リアル」で手が届きそうな「半歩先」の提案を 行い子育て中のおしゃれママの圧倒的な人気を得ました。
その取材インタビューは特徴的で「真実の格好良さ」をつかむため1対1か 2対1で「格好良い主婦」から現場で現実の声を聴きとってゆきました。

三現主義という言葉があります。 三現とは「現場」「現物」「現実」のことで「現場で現物を見て現実を知り、 現実的な対応をする」ことと説明されています。 ホンダでは、そこに「本質」というキーワードを組み込んでいます。
トヨタは「WHY(何故)」を5回繰り返し「真因」をつかもうとします。 三現主義にはさらに発展形があり、「原理」と「原則」を加えて「三ゲン主 義」が言われているようです。
ホンダの「本質というキーワードを組み込む」やトヨタの「真因をつかもう」 を行うことにより「三現」から「原理」「原則」に踏み込んでいます。 「現場」「現物」「現実」の検証によらないものは「絵空事」と言えます。
ところで、顧客がもっとも企業の評価を決するのは何時でしょうか。 それは商品を使用した瞬間もしくはサービスを受けた瞬間、つまり「体感」 した「決定的瞬間(真実の瞬間)」です。
この「決定的瞬間」がイメージ以下であれば不満が生じ、イメージ通りであ れば納得しイメージを超えることによって「満足」や「感動」が生じます。
顧客のイメージを「満足」や「感動」にまで高めるためには、「顧客から始 めなければ」なりません。
さきに述べた「VERY」の編集長の「格好良い主婦」からの1対1か2対 1で行う聴きとりは「現場」をフォーカスした基本だと言えます。 現実にある人が持つ「欲求」を満たすことが、企業の商品価値を決めます。
その意味では、戦国時代での羽柴秀吉と石田佐吉のエピソードはマーケティ ングのお手本のような逸話と言えます。
鷹狩りの帰りにのどの渇きを覚えた秀吉が、寺小姓に茶を所望しました。 最初に大きめの茶碗にぬるめの茶を、次にやや熱めの茶を、最後に小振りの 茶碗に熱い茶を出したという細やかな心遣いのエピソードがあります。
「決定的瞬間」に焦点を定め、全ての経営資源を集中しなければなりません。 そこではスタッフがつくった戦略計画や現場を知らないトップの管理は、無 意味であるばかりでなく浪費であるとともに障害になります。
どこかの大手企業の社長のように数字を見ながら「何とか工夫しろ。」と言 い、挙句の果てに企業の信用を大幅にダウンさせることになりかねません。
顧客に満足してもらうためにはQCD(品質、価格、納期)の良さは当然と して、いかに現場での「決定的瞬間」を実現させるかが問題になります。
主役は「現場」「現物」「現実」と接点を持つ第一線の従業員たちです。 このことを真に理解してぶれずに、その環境を整えひとりひとりの最適のパ フォーマンスを引き出すことが経営者の役割です。
人は「生きがいがあり」「自分の適性にあった」「人や社会に貢献できる」 仕事を与えられたとき最高のパフォーマンスを喜びを持って発揮します。 「人はパンのみにて生きるにあらず」で「報酬」のみで力は発揮しません。
「自分の働く意味」を理解でき「自分のなすべきこと」を自覚しえたとき、 その「仕事は天職」となり一所懸命に取り組む対象となります。
最後に「そうしたら、どうしたらよいのか」ということですが、そこでまた 出てくるのが「そう思わなあきまへんなぁ」の禅問答となります。
経営者の仕事と役割は、この禅問答の「解」をといて実践することです。 「そうしたらその解は何か」ということになるのですが、GEのガッツある 経営者であったジャック・ウェルチは「企業文化」だと指摘しています。 蛇足で話を続けますが、中国の方と話しているとご承知のように自国のモノ は全く信用していないようで、面白いのは日本企業が現地でつくったメイド・ イン・チャイナの商品でさえも好まれません。
「イメージ」こそが満足感を支える要因になっています。 その意味では「おもてなしの心」の商品価値は如何ばかりのものでしょうか。

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