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52回目 「知識」についての考察

マネジメントの「知識」

今では、もう言われなくなったのですがコンピュータにすべてのデータを を入力すれば完璧に経営が行えるのではという神話がありました。 ある時期には、普通の感覚で多くの人が妄想していました。 情報システム化は合理化、戦略活用のための強力な必須の武器であっても、 しかし「人」になりかわり「経営」という営みはできないでしょう。
経営の主たる目的は、顧客の欲求を満たすことです。 顧客は当然「人」で、その欲求満足を実現させるのもこれまた「人」です。 経営とは「人」への貢献を目的に、「人」が営む活動です。 すべてが「人」「人」「人」で、「人」のDNA構造は解明されています が、そこから生まれるすべての現象までは解読不能です。

まず「知識」という用語を辞書でみてみます。 「知ること。認識・理解すること。また、ある事柄などについて、知って いる内容」とあり、少し分かりにくいのですが、データは素材なので含ま れず「情報」「知識」「ノウハウ」「知恵」などです。 現代経営では、この「知識」の活用が重要な「キー」になります。
毎度引き合いに出す織田信長の成功を分析して考えてみます。 織田信長が目指した「天下布武」が達成間際まで行ったのは「知識」活用 が最もすぐれていたからしょう。 信長には粗暴な面もありますが、非常に知的で知識欲も旺盛でイエズス会 宣教師ルイス・フロイスからも熱心に情報収集をしていたようです。
幼少から青年時にかけて「大うつけ」と称されていたのは『史記』の楚の の荘王の故事「三年飛ばず鳴かず」を彷彿させ、阿諛追従を好まない部下 操縦術の巧みは「韓非子」の教養を感じさせます。 漢籍のみならずヨーロッパの状況などにも精通しており、合理的で豊富な 「知識」が信長の独創的な「強み」を生み出したように思われます。

中国の兵法書「孫子」のなかに「爵禄百金を愛んで敵の情を知らざる者は、 不仁の至りなり。」とあり、「敵の情(情報)」が分からなければ打つ手 はなく分かるから外交手段も駆使できます。 そしてもっとも有名な謀攻篇の句「彼を知り己を知れば百戦して殆うから ず。」は、彼我の「情報」を知らなければ勝てないとしています。
データ自体は情報ではありません。 一つのデータでは意味を成し得ず相関する他のデータと組み合わせること によってそこに意味を見出すことができます。 この意味を成したものが情報となります。 データは情報とならなければ無価値です。
日本のお家芸のQC(品質管理)活動ではデータを重んじます。 電子部品メーカーの例ですが、ある時間になると不良品が増加しました。 データから分析すると時間と不良率には相関関係があり、さらに近くを通 る電車の振動を伴う通過時間とも相関がありました。 ここでは異なるデータが「情報」となり問題点が明らかになりました。

知識の経済価値

アメリカではソニーを自国の企業だと思っている人が結構いるそうです。 そのソニーが認知されるきっかけは、日本初のテープレコーダーを開発し たのがはじまりで、トランジスタラジオで爆発的に認知を得ました。 このトランジスタはベル研究所が発明したのですが、その性能の可能性に 注目して製品化を実現したのがソニーです。
「知識」はそのものだけでは経済価値を発揮することはありません。 2015年のノーベル賞では連日で2人の科学者が受賞したのですが、そ の経済価値となるとまったくの対照的な感じを受けました。 いつも議論される課題ですが、営利を目指す企業での基礎研究の位置づけ でトランジスタもソニーが活用してはじめて経済価値となりました。
本題を外れて一つの感慨を持つのですが、 梶田隆章さんの快挙でありその受賞は「素粒子ニュートリノに質量がある ということを証明した」ということで、この裏を支えた要素の一つが「ス ーパーカミオカンデ」という巨大な観測施設の光電子増倍管がありました。 手掛けたのは浜松ホトニクスで、採算を超えた貢献があったそうです。
「知識」の持つ意味合いとは何かを考えてみると、その創造が経済動機と は異なる側面が多々あるようです。
もう一人の受賞者大村智さんは北里大学特別栄誉教授です。 この大学の創立者は北里柴三郎氏で、「研究をどうやって世の中に役立て るかを考えよ」の言葉がその成果のバックボーンにあります。
大村智さんの受賞理由は「線虫の寄生によって引き起こされる感染症に対 する新たな治療法に関する発見」で、「抗寄生虫薬イベルメクチン」は毎 年3億人に投与されてこれら人々から「失明の恐怖」を取り除いています。 この薬品開発は大手製薬会社と契約して実現したもので、多額の経済効果 をもたらし研究所の運営維持をも可能にしています。
この2人の受賞からある示唆を受け取ります。 「経済価値」の意味合いをどう考えるか、経営での「知識」の位置づけは 何かを考える材料が提供されます。 「知識」「社会貢献」「利益」を連結するキーワードは「効用」です。 「効用」は、人の持つ欲求を満たすことがその本質です。
ノーベル賞とは全く関係がないのですが、ディズニーランドの膨大な感動 を演出するマニュアルは「知識」であり「効用」があります。 新薬の発明のような社会貢献ではないのですが、この「感動のノウハウ」 の蓄積に対して東京ディズニーランド(オリエンタルランド)はロイヤル ティ(契約料)として売り上げの6%の271億円を支払っています。
「素粒子ニュートリノに質量があるということを証明」は偉大な発見です が、今のところ間接的にはあるのでしょうが「効用」はありません。 「知識」は何かの「効用」と結びついた時に「経済価値」をもたらします。 面白いのは数学の「素数」の「経済価値」で、素数の間隔の法則性が発見 されていないため「セキュリティ」管理に貢献しています。

知識の生産システム

「知識」という「経営資源」の特徴は、他の経営資源と全く異なった性質 を持ちます。 使っても減らない、同時に使用できる、さらに使用することで増殖し付加 価値が高まるなど競争優位を実現するための核となります。 ただし、この資源そのものは「人の幸福」との関係においては中立です。
ナレッジマネジメントという考え方があります。 それは現場で個々が獲得した表面化していない埋もれた「知」(暗黙知) を、ブレインストーミング(自由発言の嵐)等のスキルでもって浮き上が らせて企業が生産的に共有できる形式知にしようとするものです。 知識力で経営基盤の優位性を持とうとする手法です。
少し理屈っぽいのですが、働く現場から有益な「経済的価値」を生み出そ うとするものです。 この手法は、洋を問わず優良企業での実践がすすんでいます。 アメリカではモトローラやGEが取り入れている「6シグマ」があり、日 本ではトヨタの「カイゼン」やホンダの「ワイガヤ」があります。

知識の生産システムの仕組みをどのように構築するか。 そこには共通した流れがあります。 知識生産システム構築は、トップマネジメントの独裁によって行います。 価値観とともに基本システム構築は、トップマネジメントが負う責務です。 しかし、その運用は民主的に行わなければ有効性を獲得できません。
経営が「効用」を獲得させる機能は、ドラッカーが言うように2つです。 「マーケティング」と「イノベーション」で、「顧客を目的」とし「従業 員を重視」する「価値観」と「効用」が生産的に開発され活用される「シ ステム」がなければ生産的に機能されません。 まぐれで「効用」がもたらされることはありますが、それは束の間です。
発明王エジソンは「効用」づくりの天才です。 「万人が欲するものを発明する。」つまり「効用」が発明の原点です。 中堅企業には「研究所」ありますが、これはエジソンの発明した「システ ム」で「各々の専門分野の突出した才能を集めれば、一個の天才をも凌ぐ 存在を作り出すことができる。」という考えにもとづいています。

発明王エジソンは一方では「失敗王」という異名もあると言います。 この意味するところはチャレンジする人の通例で、偉大な起業家のすべて が言うところの「多くの失敗があったから、成功できた。」です。 サントリーには「やってみなはれ」の精神があり、「イノベーション」で きる企業には前向きなチャレンジを奨励する「意思」があります。
少し、実際の企業の「知の生産」の有様を見てみます。 トヨタの「カイゼン」のシステムは、現場の従業員や監督者に「知識」の 発見・提案を日常化させています。 監督者の「評価」はどれだけのアイディア提出をもたらしたかであり、従 業員も同じでチョットした提案にはチョットした報奨金が出されます。

アメリカの「6シグマ」は、日本のQC活動を発展・整理したものです。 МAIC(1.Measurement:測定2.Analysis:分析3.Improvement: 改善4.Control:標準化管理)のプロセスを踏みます。 GEではこの「知識」の品質管理テクニックを全社的に取り入れて、この 手法をマスター(ブラック・ベルト)しなければ昇進できない仕組みです。