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92回目 「今の時代」に通用する商品とは

心がこもっていますか

NHKテレビで「暮らしを良くする“種”」を、最先端の現場で見つけて情 報提供する「サキどり」という番組がありますが、その番組をチラリと見て 気にかかった話題がありました。
それは起業コンテストで優勝して100万円を得て「秋田県の地酒と果物セ ット」をネット販売する女性創業者のことを紹介したものです。

チラリと見ただけなので思い違いもあるかもしれないのですが、その女性創 業者社長が地元の酒造家と話をしているときに「何故、地酒と果物セットを 始めたのか。」と問われて思いつめて涙ぐむ場面がありました。
酒造家の言う「商品」の意味に気づいたからのことなのか、訴えるモノのな いこと喜んでもらうことを考えていなかったことに気づいてのことなのか。
その後、ファンとなってもらっている購入者との交流会で厳しい指摘を受け たり、地酒の試飲を繰り返して果物との相性を確かめたりで、少しずつ「商 品」に近づけて行った様子が紹介されていました。
商品セットに一枚の「葉っぱ」を添え、何故と問いかけた酒造家に見てもら い少しずつ「本物の商品づくり」に近づいているようです。

「アイディア」や「製品」そのものだけでは「商品」にはなり得ません。 商品になるかどうかを判定するのは「内」の人ではなく「外」の人で、顧客 が良しとすれば商品になり、努力そのものとは必ずしも比例せず「たまたま」 や「まぐれ」であっても顧客が欲すればそれが「商品」です。
ただ、真心がこもったモノにはより多くのチャンスがありますが。
NHKの朝ドラを見ていると、さりげないやり取りになかに思わぬマネジメ ントの真髄を物語られておりなるほどと思わされます。
『べっぴんさん』は主人公のビジネス成功物語ですが、その成功をもたした キーワードがこのドラマのタイトルである『べっぴん(別品、別嬪)』です。
『べっぴん』とは「普通の品物とは違う」「特別によい品物」を意味します。
『べっぴん』づくりには、ビジネスの成功モデルが示されています。
まず明確なミッション(使命)を持っていること、ターゲットが明確にイメ ージされていること、そして優秀な専門家が揃っていることなどです。
『べっぴんさん』の前の朝ドラ『とと姉ちゃん』でも同じ成功モデルが設定 されており、まさにNHKならではの脚本と感心させられます。

ビジネスの基本として収益の源泉は外部にあって内部にあるのはコストで、 利益は創造的に顧客の欲求・願望に焦点を絞りいかに生産的に実行し実現さ せたかにかかっています。
「好きこそものの上手なれ」で「幸せになってほしい人たちに」「私の好き なこと」でかつ「得意とすること」で貢献するのが勝ちの方程式と言えます。
『べっぴんさん』では「お母さんたちに、幸せになってほしい。」との思い でつくられる「商品」で、つくり手と購入するお母さんたちが同じ欲求を共 有しているので「内」の思いが即に「外」の願いになっています。
それも別品(べっぴん)という幸せを送るという思い(コンセプト)で世に 送り出すものであり、いやがうえにも強い商品として造り出されます。

話題を変えますが、昭和35年に一斉に流行した奇妙な「ダッコちゃん」と いう人形がありました。
当時、美大生であった大木紀元さんがデザインしたもので佐藤ビニール工業 所(現・タカラトミー)が製造しツクダ屋玩具が販売しました。 その販売総数は、偽物もふくめると1,000万個になったそうです。
この話をここで述べたのは「売れる」ことの不思議さを伝えたいからです。
一人の美大生が、百貨店の玩具売り場で母親らしき女性が「これが黒だった らいいのにね」と話しているのを聞いて、黒色の人形を考えたのだそうです。
試作品は不評だったのですが、出入りの問屋さんの目につき発売されること になり、それが半年で終わるとはいえ大流行となったわけです。

二つの真逆のあり様の話を出していますが「売れる」ということの意味を考 えたいこととその本質を考えたいからです。
モノ不足であれば「モノ」でありさえすれば売れますが、しかし少しずつモ ノが行きわたるとそこでは「別品」が求められることになります。 ただ「ダッコちゃん」のように「別品」でなくなった時には寿命は尽きます。

尽きることのない「別品」づくり

「モノづくり」の名人は誰かと問われたら、個人的な見解ですが日本では松 下幸之助さんが、アメリカではスティーブ・ジョブズが思い浮かびます。
この二人、一面では似ているところもあるのですが、松下幸之助さんが伝道 者タイプであり、これに対してスティーブ・ジョブズは日本では本田宗一郎 さんのように匠、芸術家タイプである「モノづくり」の名人です。

尽きることのない「別品」づくりについて、二つタイプの違いを超えて共通 するのは当然としての「時代の欲求・要望」に焦点を絞っていることです。
違いは、伝道者は組織にスピリット(精神性)を浸透させて「集団」で「よ り良い」モノづくりを行うのに対して、芸術家は「個」自身のビジョンでも って「未だ世にない欲求を満たす」モノづくりを行うことです。
ここで少し考えてみたいことがあります。 それは、成熟の「今の時代」の競争のあり方についてですが、時代がいかよ うな「別品」を求めているかということですが、 結論から言ってしまうと、それは未知なるものでより以上の良いもの一番の ものが求められているということであり、ここに戦略の基軸があります。v

的の潮流からいうとやはりAI(人工知能)がすぐに思い浮かぶのですが、 この分野でチャンスを持とうとするならば、知識を持つ有能な人材を少しで も多く獲得することが必要です。
スティーブ・ジョブズであれば、カリスマ性と破格の報酬でもって上手に人 材を集めて、あっと驚くような「別品」を創り上げることになるのでしょう。
ジョブズと言わなくとも、グーグルやマイクロソフト、日本ではトヨタやソ フトバンクなどの多くの世界企業が必死で現に抱え込みにかかっています。
とは言え、何もAI(人工知能)でなければビジネスチャンスがない訳では なくGEのジャック・ウェルチの基本戦略である勝てない市場は避けて「強 み」が活かせきる「勝てる市場」に集中すればよい訳なのです。

「一番になる戦略」は基本中の基本ですが、そのためには「誰も行っていな いこと」もしくは「行おうとは思わないこと」を行うことで。
それも抜きんでた技術をもって、大手企業にとっては魅力がさほどない中規 模程度の市場に経営資源を集中して独占するなどは非常に効果的なことです。 日本では、そんな戦略により安定収益を実現している企業があります。

大型船のスクリューに特化して世界トップシェアを誇る「ナカシマプロペラ」 や、また水族館の水槽の世界でトップシェアである「日プラ」など高収益の 企業もあり、トップの特別の技術を磨くことができれば勝つこともできます。
さらにネット販売であれば日本だけでなく全世界の顧客ともつながり、少人 数の企業であればマニアックであることでむしろ可能性を広げます。

ここで、少し但しの話を入れまして補足を行いたいと思います。 経営者のあふれんばかりの熱意でもって人のやらない技術を完成されて、そ の分野では追随を許さない地位を得たのにいろんな障害が発生してある企業 などは倒産間際の状態にまでなった不思議があります。
そんな企業さんには、経営者にある共通したマイナスの性癖があるのです。

その性癖とはなんでしょうか、それは己の才覚に溺れてしますことです。 自身の能力と考え方に扁重し過信して、マネジメントの存在を顧みません。
経営の神様の松下幸之助さんは「わからなければ、人に聞くことである。」 と「衆知」を「知恵の源泉」とし、本田宗一郎さんは弱点の営業と経営を価 値観が共有できた藤沢武雄さんに会社実印を預けて任し切っています。
ある会社のことですが、経理のことを信用できるとして税理士に助言を求め ずあまり知識を持たない「気が良い身内」に任せ切ってしまったのです。
すると、業績が良いものだから銀行に借入をすすめられ不要な土地は買うわ 過剰な役員報酬を支給するわで、気が付いた時には多額の借入金と利息がふ くらみ途端に銀行の融資が打ち切られしまうことになりました。

いつも言えるのは、己が抜きんでいるだけではいつも限界をもちます。 いつもそうなのですが成長しようとするまたできる企業では、当然のことな のですが人材の重要性を知っている経営者がいます。
成長できた企業の経営者は、優秀な人材を育てまた引き付けることに意を注 ぎ、ミッション(使命)および理念(コンセプト)を浸透させています。

どのようにつくったのか(事例)

モノ(サービス)が売れるのは、顧客が買いたいという気持ちになる時にだ け起こることでこれが普遍の原則です。
顧客といっても一般消費者だけが顧客ではないのはもちろんで、卸問屋や企 業やその他役所諸々あって、一般消費者でも男性、女性、年寄、子供とそれ ぞれの欲する内容は異なりそれぞれに応じて対応しなければ売れません。
いざ製品(サービス)ができたとなっても、知られなければまた売る場所や 仕組みがなければ話にならず、さらに他のモノより抜きんでていてかつ価格 も顧客が考えているものに合致していて、さらに信頼してもらえなければ購 買には結びつきません。
これらの諸条件が現実に実現されて、はじめて購買となります。

うだとしら現に大企業に成長している企業は、どのようにこれらの諸条件 を満たすことができたのかまた秀でたのかを知りたくなります。
ということになるのですが、事業は「生もの」なので「成功の要因」が確か にあるものの、そのあり方は「運」や「思わぬ障害」もあり一筋縄では行か ないのです。とりあえず事例により吟味して行きます。
誰もが知っている成功者のモノづくりの軌跡それも創業時を見て「成功の要 因」の分析を試みてその景色を垣間見たいと思います。
先にあげた松下幸之助さんとスティーブ・ジョブズという経営スタイルは異 なるが「止まることのない執念」という共通項をもつ二人の成功者を事例に して、その困難の足跡を学びたいと思います。

<松下幸之助さん>
松下さんは『「私には3つの財産がある。」、それは「学校へ行かなかった こと。」「健康に優れなかったこと。」「決断に弱かったことだ。」だから、 「人が教えてくれたり、助けてくれたりして成功した。」と言います。
「衆知」を「全世界は自分のものだと思っている。自分で持っているのはめ んどうだから預けておこうというようなもんやな。」とも言います。
松下さんほどの、超合理主義の経営極道はいないと思われるのです。 成果を実現するには、何が必要かまたそのために何を行わなければならない かをそのことのみを考えて行動されています。
不必要な先入観や感情や思惑などとは、一切かかわらないようです。 けれど、そんな松下さんですが創業時の様子は少し違ったようにも思えます。

創業のいきさつは、大阪電灯に務めていた時に工夫して改良ソケットの試作 品をつくったのですが上司に酷評され悔しい思いをしていました。
そんな折に肺尖カタルがこうじてきて将来に不安を感じ「実業で身を立てよ」 という父の言葉を思い出したこともあり、独立を決意することになりました。 創業資金は95円余りで、機械1台買うこともできない金額だったそうです。
いざ始めたのですが、ソケットの材料である練り物の製法すら分からず誰も 教えてなどくれないなかで、煉物工場周辺から原料のかけらを拾ってきて研 究しやっと待望のソケットができたのは、なんと4か月後のことでした。
しかし、ここからが販売の苦労に入り、どこの店に行って売れる見込みがな いと言われて10日間駆けずり回ってやっと100個ほど売れただけでした。

おもしろいのは販売のために問屋通いするなかで「これ売れますか。これな んぼにしたら売れますか。」と教えてもっていることです。
「経営の神様」も最初はこのような調子であったようです。 困窮ここに極まったという時に、川北電気というところから思わぬ扇風機の 碍盤1,000枚の注文を受けてさらに2,000枚の追加注文を受けました。
その後も、扇風機の碍盤の注文があったことと研究を続けてきた電気器具の 「アタッチメントプラグ」が、古電球の口金を利用したこともあり斬新で市 価よりも3割ほど安かったからよく売れました。
続いて作った「2灯用差込みプラグ」も好評で「新しい物を安くつくる」と 評判になって事業が軌道に乗って行くことになりました。

簡略に「松下幸之助の生涯」から主な経緯を抜き書き整理させてもらったの ですが、困窮時にも「そんな状況にもかかわらず、彼はそれほど深刻にも思 わず、またほかの仕事をやることなど夢にも考えず、ソケットの改良に熱中 していた。」と書かれています。
松下さんと言えども、夢だけが頼りしたハチャメチャな創業だったようです。 この経緯の中には、学ぶべき成功の要因がちりばめられています。
ここで感じられるのは超楽観主義で「余計なマイナスの感情を持っていない こと」新しい物を安くつくるため「工夫を怠りなく続けること」知らなけれ ば「格好つけずに素直に聞くこと」などで、これらのことは後に「経営のコ ツ」としてご自身が自覚される萌芽が見られます。

少し蛇足でコメントするのですが、売れるということになる要因はただ一つ で「2灯用差込みプラグ」の好評であったように「新しい物を安くつくる」 と評判になることです。
売れるということは、外部との接点を持ち評判を得た時にはじめて可能とな るのもので、松下さんの苦労それ自体とは全く関係を持ちません。

顧客として卸売業がありますが、後に爆発的に売れる商品なのに「売れない」 と言われるのですが、これが一般のあり様でよほどの目利きでなければ新参 の商品などで冒険することなどありはしません。
売れ出したら取り扱ってくれるで、けれどいつもあるのですが「本物の商品」 で勝負し続ければ思わぬところから引き合いが生まれるようです。
スティーブ・ジョブズについての経緯は、長くなるで次回で紹介させていた だきます。

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