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31回目 マネジメント数値管理

意味論的数値管理

数値管理にはよく誤解が生じます。 この誤解は、経理畑の専門家から、また営業畑の専門家からおこります。 そして製造現場の専門家はというと、数値管理については強く理解力もあ りますが、ただし利益の獲得としての数値管理ではあります。
経営者は、この数値管理の正しい目的の理解なくして継続的な企業の繁栄 を実現できることは不可能です。
あの超優良企業であった「シャープ」でさえ、数値の読み違えをしたよう です。
経理マンの数値の読み違えとは、経営を数値で分析すれば問題のあり場所 を読み解くことができます。 そこで経理マンが考えるのは、ムダを省けばよいまたは猛烈に営業努力を すればよいという考え方になります。
そして、その活動を呼び起こす方法として合理化や成果主義を導入します。

一般的に優秀と言われる管理畑の経営者がよく取られる手法ですが、人へ の理解力が不足しておりもはや管理とさえ言えません。
キリストの御言葉に「人はパンのみにて生きるにあらず」という言葉があります。 顧客も従業員も人です。 この「人」への正しい認識と理解なくしては現実的に業績の向上は望めません。
松下幸之助さんの言った「わが社は、製品をつくり前に人をつくっています」の真意は分からずして 強い経営を行うことができません。ここに経営の真理があります。
売上の増大や生産性の向上は、人が意欲を持ってその持てる知識をふり絞 って懸命に貢献してくれるから実現されます。 経営者は、この働く人の貢献こそが数値として計上されることを知らなけ ればなりません。

20世紀最強の経営者と言われ超優良企業を創り上げた「GE」のジャッ ク・ウェルチは経営者とは、チア・リーダーのようなものでいかに応援す るかが仕事だと言いきっています。 つまり、働く人に対し「せざるを得ない環境を整え支援する」ことです。
営業マンの数値の読み違えとは、売上をあげれば企業は安定して事業を行 うことができるという考え方です。そのためとにかく押せ押せの活動をしようとします。 たしかに右肩あがりの「一昔の時代」はこれが有効でした。

企業経営で大切な指標は何かということですが、マネジメントの成果たる 「利益」です。利益は、外部の顧客の満足度を示す評価基準であるとともに、内部の社員 の活動の正しさを示す評価基準でもあります。
「営業なくして経営は成り立たない」という言葉も真実ですが、 内部の「強み」をつくり、顧客や得意先に喜んでもらい信頼を得て事業を 実現してその評価たる「利益」を獲得することが経営の正しいあり方です。
営業マンという言葉には、利益やコストという数値を顧みずに売上という 数字にこだわって独走するというニュアンスがあります。 利益を計上しないモノをいくら売っても利益が得られません。 必要なことは全員がチームとなりお互いの特技を活かして協力することです。
利益は各部門の人が正しくその意味を理解することから始めなければなりません。 正しい数値管理の捉え方は、数値は結果として生じるものでそこにはその 数値を発生させる意味があるということです。
だから、「正しい意味の構想」と「意思決定」と「行動」と「結果を捉え ての意味の再構成」を理解することが必要です。

意味をつかむ流通管理システム

大型量販店が「POSシステム」を活用しているのは常識になっています。 皆さんがよく知っているスーパーやコンビニで、料金を支払う時の“ピピピ” と読み取るシステムです。
このシステムを本格導入した最初の企業は、アメリカでは「ウォルマート」 で「日本」では「セブン・イレブン(イトーヨーカドー)」です。 どちらも量販店ではトップになった企業です。
POSシステムの機能について少し説明すると、 レジで、バーコードスキャナ(光学文字読取機)を使って商品に装着されて いるバーコードを読み取ることで単品の販売データを取得できかつ支払額の 清算も同時にできます。

店舗でのレジ作業は、このシステムの導入で大幅に効率化がはかられました。 また、本社の事務処理もオンライン化することで店舗、売り場ごとの売上は もちろん、さらに単品ごとの売上が時系列で集計されることになりました。 この単品ごとの売上の集計が意味を持つことになりました。
単品の売上ランキングは、顧客の好みを集計するツールになりました。 それも、時系列でまた地域ごとに集計できるので天候との関連や地域性の分 析など「意味」が読み取れることになりました。
「意味」の読取は、マーケティングの強力な武器です。 売れる商品の品ぞろえや開発は「顧客の欲求」の分析から始まります。 さらに、クレジット カード・キャッシュ カードなどと組み合わせて分析さ れると顧客個人の欲求や購買行動特性までも把握できるようになります。
ここに情報化武装の意味合いがあり、個別企業の盛衰を分かつ分岐点として の役割を持つことになりました。 「POSシステム」の導入が、大型量販店の帰趨を制することになったのは 業務の効率化とともに顧客のニーズに合った対応ができたことによります。

今や情報革命は、ご存じのように「第3の波」として時代を導く核になって います。 「グーグル」に至っては「人類が使うすべての情報を集め整理する」という 壮大な目的を持って設立されました。 今は、自動車の自動運転システムやロボット事業へ力を注いでいます。
「アマゾン」や「Uチューブ」で検索すると、個人の好みを分析し「おすす め」の書籍や画像を推薦します。 この状況がすすむと、本人が認識していない欲求を分析し本人が検索するよ りも先にかつ的確に誘導される事態も想像されます。
今日、情報化の波は、ビジネスにとっては中核の位置を占めるようになって きており、どのように活用するかによって企業の将来が決せられことになり ます。

まだ進んでいない製造業の利益管理システム

流通業ではPOSシステムの活用は、ごく一般的なツールとなっています。 しかし、製造業ではまったく事情が違っており、中小の製造業は言うに及ば ず中堅企業ですら、その考えの理解・応用の様子が見られません。
もちろん、「情報活用」には高度な経営判断を要しますが、それにしても製 造業ではコスト分析一つとっても、さらに言うなら原価計算ですらまったく 未開の状況と言わざるを得ません。
「利益」の獲得にはマネジメントの活用はもちろん、そのなかでも「情報」 の活用、つまり情報システムの構築は堅実な経営のための必須の要件です。 POSは「 Point of Sales (販売時点)」の略ですが、 POM(Point ofManufacture (製造時点))があっても良いはずです。
ただ、「POM」の活用するには、それに先行する活用目的の理解と独自な 管理会計の発想が必要です。 POSでは、商品の単品を対象にしています。 商品には、最初から顧客が選別の拠り所とする「意味づけ」が明瞭です。
少し、特殊ですが製造業ではこうなんだという「よもやま話」として話をすすめます。 少しややこしくなるのですが、財務会計の原価について考えてみます。
製造原価は、外部から購入した材料や外注費と内部で発生する変動費と固定 費の配賦(基準によって費用を分配)分が合計されて計算されます。 このとき問題になるのは、固定費の配賦分が実際にその製品の製造に要した コストではないということです。
これでは、その単品としての製品の単価と発生した製品原価を差引しても正 しい粗利益は計算されません。ここからがつまずきのはじまりです。本当に利益に貢献している製品が 「ジャマモノ扱い」されて、売れば売るほど損をする製品づくりを行うことになります。
これとは全く別の角度からの問題ですが、製品づくりに「意味づけ」がないことです。 顧客から注文があったから、世間でよく売れているから作り始めたでは強いモノづくりの基盤が形成されません。
私たちの顧客はどのような欲求で、自社のどんな技術に期待して注文してく れたか薄ボンヤリにしかわかりません。 顧客の欲求と自社の強みの関連、その注文を受けた製品の利益貢献度、さら にその動向をPOM(Point ofManufacture (製造時点))システムと POSシステムを構築して管理することが必要です。
流通業では、「セブン・イレブン(イトーヨーカドー)」は、このシステム の導入・活用で業界トップの地位を築き上げました。 製造業でも、この技法の効果的な構築がこれからの戦略的な課題です。

最後にこのシステムのポイントを述べます。
1.顧客が求めている「効用」を定義づけにことによって製品開発ができる。
2.製品の単品利益と作業に伴い発生する変動費の把握することによって利益 管理ができる。
3.上記の差額の時系列の変動の確認により製品のライフ・サイクルの把握で き損失の削減ができる。 の3つです。