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87回目 優しさのマネジマント

経営者の仕事の一例

少しのお金と勇気と情熱があれば、事業を立ち上げることはできます。 お金は、その気になれば「和民」の創業者の渡邉美樹氏のようにドライバー として1年間懸命に働いて起業資金300万円を稼ぐことも可能でしょう。 課題は、お金よりも「勇気」と「情熱」があるかどうかさらに「経営のコツ」 をマスターするかどうかにかかっています。
そうしたら、そのコツをどうマスターしたら良いかということになります。 松下幸之助さんは「経営のコツここなりと気づいた価値は百万両」と言われ それは学ぼうとして学べるものではなく「悟る」ものだと言われています。
これに対して、GEのジャック・ウェルチは「強固な意思を持つリーダーは 最もシンプルに考える人たちだ。」という言葉があります。

ここでは「経営のコツ」をシンプルに考えてみます。 経営学者のドラッガーは「最高の経営資源は人である。」と言っており、 要は「最高の経営資源」たる人が、喜んで最高の貢献をしてもらえるように すればよいということになるでしょう。
確かにシンプルですが、ことは「人」に関わっており「給料を払っているの だから一生懸命働くのはとうぜんだ。」では、抜きんでた業績を実現でき得 ることはありません。
他の業績のよい「経営のコツ」を実践している経営者を横目に見て、愚痴を こぼしながら資金繰りに追われることになってしまいます。

できるだけシンプルに要点を抽出して話をすすめます。 稀な人を除いてほとんどは、環境の変化を厭い安定を望むというのが一般的 な性向で特に日本人はその傾向が強いとも言われています。
但しということで少し理屈っぽくなるのですが、安定してほしいのは収入と 環境の安定で、この2つが満たされているならここから先の人の望むものは 少しその質が変容されて行きます。
また理屈ですが、心理学の学説にハーズバーグの「動機づけ衛生理論」やマ ズローの「欲求の5段階説」などの理論体系があります。 理論好きな方や裏付けの欲しい方のための参考に挙げておきます。

元気のよい中小企業の経営者と話をしていると「へぇー!」と思わせる「一 家言」を語られ、その考え方と行動力に感嘆することが多くあるのですが、 つい先日も「うちの会社は、定年がないんですよ。従業員に年金の他に収入 が得られるフォーマルな場所を持っときやと言っているんです。」と「へぇ ー!」と思わせることを実行されていました。
この業績好調な企業の経営者さんは、自身の仕事として従業員が幾つになっ ても「フォーマルな場所を提供する。」を社是としているのです。
これとは逆に、結構おられるのですが業績が悪化すると「従業員を、簡単に 解雇する方法を教えてくださいよ。」と悪びれずに言われ「そのお考えは、 いかがなもんですか。」と言いたくなります。

よく引き合いに出すのですがテレビ東京「カンブリア宮殿」で、少し前です が菓子の卸問屋よしや(吉寿屋)のことが放映されていました。
吉寿屋は創業以来52年一度も赤字を出していない会社で、その経営スタイ ルは理に適ったユニークな知恵の経営を行っています。
創業者は神吉武司氏は75歳になるのですが、今も現場で率先垂範で働いて おり、それも朝5時に出社し開口一番「お菓子の皆さまおはようございます。 今日も一日よろしくお願いいたします。ありがとうございます。ありがとう ございます。」とあいさつされています。
驚くのは、会長である弟の秀次氏でそれより早く3時に出社して同じ挨拶を しており、2人で500箱の段ボールを開封して所定の位置に積み上げます。 パートさんは、8時半に出勤し配置されたお菓子をピック・アップします。

役員会では必ず唱和する言葉があります「願う従業者の幸福」と唱和します。 その年の最優秀社員には、翌年1年間ですが年俸3,000万円、パートには 1,000万円が支給されるのです。
開店時間を9時から7時に変更し売上30%アップを実現させた店長には、 いきなり500万円のご褒美が銀行振り込みされます。 とにかく頑張った社員には必ずそれに応じた報償がなされるのです。

「衆知」を集めることにも怠りなく「コスト削減」の提案については、どん なものでも200円、その内容が良ければ2万円~20万円が与えられ。 1円大作戦と呼ばれそのコスト削減も徹底されており、自社小売店では商品 に値札を貼らず同じ値段の区画に集約して平台に配置されています。
また「お菓子は愛すべき生き物」の思いもあり、業界慣習とは逆行する「全 量買い取り」で低価仕入れをはかり廃棄される運命をなくすとともに「売り 切りの工夫」によりここでもコスト削減を実現させています。
とにかくどこかで差をつけて、どこかで工夫しなければいけない、普通のま までやっていると業績は上がらない、業績が上がらなければ「社員を幸せに できない。」としているのでして。

面白いのは普通の頑張りようの人にも、ラッキーなリターンがあることで、 全社単位で行う「あみだくじ」ではその当選者にはなんと「金塊1K」が、 月毎に行うパートの集会ではジャンケンで最高商品テレビやそのほかの商 品が当たる楽しみが用意されているという「妬み」封じまであるのです。
さらに90名限定で、家族とともにユニクロ商品1万円購入やパート社員に も教育手当支給などの恩恵まであります。 これらの大盤振る舞いは、利益の3分の1が見込まれているようです。
税引き後利益の3分の1の大盤振る舞いですが、その他の余剰分については 3分の1は先行投資に残り3分の1を内部留保とするのだそうです。

喜んで働く社員と経営者の知恵による売上増進と徹底的なコスト削減がはか られて同社の売上経常利益率は3.5%で業界平均0.66%のなんと5倍に なっているということです。
少し補足して、業績の良い中小企業でよく見かけられるのはもっとよく働く 人は経営者で、また最も知恵を絞りだすのが経営者で、従業員は知らず知ら ずにその雰囲気に巻き込まれて企業風土(文化)が形成されています。
午前5時に出勤する創業者、3時に出勤する会長ですが、社員には同じ行動 は求めないのだそうで、500万円の報酬をもらった社員の「これから、頑 張ります。」との言葉に「これは頑張ったくれた報酬やから。」と見返りは 求めないそうです。
余計な負担をかけないというのが「経営のコツ」だそうで、見返りを求める 気持ちがあると社員はすぐに自分以上に分かってしまうと言われていました。

多くのケースで、人が望む成功の秘訣を紐解くのはさほど困難ではありませ んが「言うは易し、しかし行うは難し」です。
しかし、自分が安楽でいて行おうとするのは夢物語でしかないようです。 その方法は結果から見たら至ってシンプルなのですが、ただそれを行うこと は困難で、なぜなら知恵と決断力と忍耐強い行動力が必要だからですので。

「甘え」と経営

以前にも述べましたが、日本の精神性は欧米や中国とは異なります。 そのキーワードは「甘え」で、この言葉に該当する言葉が他言語に見つから ないのだそうで「周りの人に好かれて依存できるようにしたいという、日本 人特有の感情」と定義されています。
この「甘え」の感情は、日本の組織運営では大きな意味を持っていると言え るでしょう。

味噌カツは名古屋名物の一つですが、その発祥の店が「矢場とん」だとも言 われ行列ができる有名店としてよく知られているのだそうですが。
ところで、この「矢場とん」を有名店に仕上げたのは2代目社長の妻だった 鈴木純子さんで、その経緯がこれもテレビ番組の「カンブリア宮殿」で紹介 されていたのですが「甘え」構造の日本型経営の好事例です。

鈴木純子さんが「矢場とん」を有名店に仕上げることができた秘訣は何だっ たのか、それは結論からいうとビジョンの実現ということに集約されます。 サラリーマンの家庭に育った鈴木純子さんは、飲食店のあるべき姿に対する イメージを(ビジョン)を強烈に持っていました。
「このままではいけない。」との思いにかられ、ビジョン実現のために一つ 一つ課題を明らかにし、忍耐強くを解決をはかって行くことになります。 従業員の問題は、そのような課題のなかでの重要要件の一つでした。

2代目女将となった鈴木純子さんにとって有利だったのは「矢場とん」が味 噌カツ店ではそこそこ名が知られていたことです。
しかし、嫁に来た当時は男性客ばかりで食器もプラスチック製でなんの特徴 もない大衆食堂でした。
接客態度もよくなく客足もだんだん遠ざかり、それにつれて食材の質も落と されて行くという悪循環のさなかにあったそうです。
そこから女将は巻き返しを始めようとするのですが、その頃は先代女将が店 を切り回しており忍耐強いやり取りをするのですが、まったく受け入れても らえるような状況ではなかったようです。
プラスチックの食器から陶器の食器に変えるのにさえ、散々の小言を言われ ながら3年から5年をかけて変えていったそうです。

2代目女将を支えていたのは、外部から来た人間がイメージするあるべき飲 食店に対する思いで、つまり飲食店は家庭では味わえないような満足を提供 するところであるとする確信でした。
とってつけたような説明になりますが、改革を行うにはミッションを適える 理念とその将来像たるビジョンがどんな事業においてもあらねばなりません。
改革は、内部のあら隠しの暖簾の新調や陶器の食器など可能なところから始 め食材やメニューの変更さらにPOSの導入などに及んで行きました。
その当時「矢場とん」では無断欠勤や無断遅刻の従業員が多かったそうです。
「人」が要で、これをなんとかしなければならないとトコトン考えて辿りつ いた結論が、これらの従業員の「お母さん」になろうというものでした。 問題点は一人一人がお大人に成長しておらず「弱い」ということで、一人前 の大人にすることが私の役割であるとする使命感でした。

長男が鈴木拓将氏が入社したことが大きな支えとなりました。 従業員に今後の店の方針を説明して、長男の鈴木拓将氏が「僕たちの言うこ とがイヤなら辞めてくれ」とはっきり言ったことでスタッフのほとんどが入 れ代わったそうです。
そこからが2代目女将の鈴木純子さんの本格的な「お母さん女将」の従業員 教育が始まって行きました。
従業員家族とも付き合うし、プライベートな生活にまで愛情を持ってですが 介入して行きました。 「仕事に余裕が出てくる30歳までは結婚せずに、しっかりお金を貯めなさ いと言って、天引き貯金もさせます。」となり、チーフの暮らしに下の子た ちが憧れて仕事を頑張ってもらえようにと4人のチーフの保証人となり家の 購入までも世話をやいて行くのです。

「矢場とん」でも優秀社員には年一回の「お菓子問屋の吉寿屋」と同じよう に表彰がなされますが、ここでの褒美は女将が自らが選んだ母心がこもった もので普段では手の出ないロレックスの時計やダイヤのネックレスです。
新人賞には野球好きの社員向けのオリジナル・グローブが進呈されています。 同社の業務日誌がまたユニークで、業務上のことだけが記されるのでなくて 「個人の悩み」までもが語られ、経営者や管理者だけでなく皆で共有されて いて励ましや助言ができるような仕組みになっているのだそうです。
さらにユニークなのはカンボジアの「学校づくり支援」を行っていることで、 経緯は、女将がアンコールワットの観光に訪れたカンボジアでの有様でした。 そこには物乞いする子供たちと、その背後にいる無気力な大人達がいました。 「この子たちに教育を受ける機会を与えたい」と思い、学校を作るための募 金活動を開始すことになりました。

ここで「大人づくり」のための従業員を巻き込んでの活動が始められます。 募金の方法が、またユニークで勤務時の「賄い飯」を食べる毎にそれに見合 った募金をするというもので、これが学校建設の資金に回されています。
そして、定期的に従業員とともにカンボジアを訪れ自分たちの募金がどんな 形になっているかを実感してもらうのだそうです。
ここには女将の「何かをしてもらう人」から「何かをする人」になってほし いとの願いが込められていて、従業員はこの経験を通して「一人前」になる 機会が与えられています。
「甘える」から「甘えさせてあげれる」従業員育成の母親教育が行われてい るという次第なのです。

ここで一節と同じことを再度あげますが、 多くのケースですべての人が望む成功の秘訣を紐解くことは、さほど困難な ことではないのですが「言うは易し、しかし行うは難し」なので、松下幸之 助さんの言われる「悟り」なくして行うことは難事なのでしょう。

2世後継者の困難

その昔、大企業は倒産することはないという神話がありました。 中小企業でもよほどのことがない限り、同じことを続けてさえいれば潰れる ことはないと信じられていました。
今はもう、そんなことを思う人はいなくなったと思いますが。

話は変わって昭和39年の松下電器(パナソニック)の有名な「熱海会議」 (よければご調べてください。)の後日談の話をします。 折からの販売不振により市場競争は激化し、松下電器(現パナソニック)の 販売会社、代理店のほとんどが赤字経営に陥っていました。
熱海会議でのやりとりで大改革の必要性を感じた松下幸之助さんは、自らが 営業本部長代行に就任して第一線にたち現場である販売会社、代理店を巡り 文字通りのヒザ詰めでの懇談を重ねていました。
幸之助さんがある販売会社を廻って経営改善を直接指導していた時の話です が、ある販売会社で「あんたの会社は、このままでは潰れますなぁー。」と といきなりずばりと言われた時がありました。
理由は経営者の子供の専務にあるとして「あれは、あきませんなぁ。」とし て「2、3年外に出しなさい。」と言ったそうです。 これは、冷たい助言なのか暖かい助言なのか。

2代目後継者が一人前の経営者になるためには、ある意味非常に難しい微妙 な境涯にいると言えます。 先代が、後継者のその境涯について真に理解していれば帝王学を施すことが できるのですが、多くは自分のことで精いっぱいというのが現実でしょう。
ある意味で「甘やかされていても」「真のやさしさをもって導かれていない」 のが、ほとんどの2代目や3代目の後継者なのではないでしょうか。
松下幸之助さんが言われる成功の要件である「先憂後楽」とは「ま反対」で、 先に楽であったがために経営者として持たなければならない自立心や自信や 自覚などの基盤が芽生え得ず、また「経営のコツ」を体得できる猶予もなく 孤独な職責を負わなければならなくなるのですから。

ところで、こんな場面で意外にタフに立ち回ることができるのは、スポーツ で鍛えられてきたかまたは俗にいう「ガキ大将」気質の人物ですが。 そうでないならば「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ。」と銘された 「地獄の門」に紛れ込んだ心地がするのではないでしょうか。
創業者や2代目後継者の方に接する機会が多くあるのですが、いざ経営者に なってしまうと拠るべきは自分自身だけなので生な「現実の波風」が撃ち来 たって困惑のただ中に陥ってしまわれます。
「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」は先に楽しんだ人かまたは幻想 抱いた人が持つ自己認識なので、自由を得るには「事業という門をくぐる者 は一切の虚妄を捨てよ」から門をくぐらなければなりません。

まず、捨てなければならないのは二つの「虚妄」です。 「何もせず」に「何かをしてもらえる」のは親だけで「何もせず」に「何か をしてもらえる」や「労せず得られる」ということないということです。
「顧客」が喜んでくれないモノやコトでは対価は得られず「働く人」の思い を適えないのなら貢献や好意を得らえようがないからです。
もう一つの「虚妄」は、自分は劣っているという「劣等感(=優越感)」で 何もせずに済ますことのできる便利な隠れ蓑では悪化の一途をたどります。 経営者が経営者たり得るためには「虚妄」を捨てて、まず「経営のコツ」を 知って実践しようとする覚悟が必要です。

多くの経営者が、京セラ稲盛さんの「盛和塾」を頼られています。 何故なら、稲盛さんが効果が証明済みな処方箋を持っているからで、京セラ の理念「『全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に』、人類、社会の 進歩発展に貢献すること。」はKDDIや日本航空でも採用されおり、道理 に照らして「否」を言うことを封じた無敵の理念です。
また従業員が指針とすべき行動規範(フィロソフィ)は「人間として何が正 しいのか」「人間は何のために生きるのか」のあり方を集大成したものであ って、これも抗すべきことのできないものであります。
また「アメーバ組織」は、参画でき意欲さえあれば普段に責任者になる機会 が容易に訪れるというものです。 その業績の達成度の検証においては「時間当たりの粗利益」という市場(顧 客)の満足度が反映する指標が用意されており、誰もが実感してここでも容 易にアメーバ単位の活動成果が分かる仕掛けになっています。
全社員が「物心両面の幸福」を自分の手で勝ち得て「やる気」を呼び起こす 証明済みのシステムがあるので、そこから後は稲盛さんのリーダーシップ・ スタイルつまり価値観を浸透させることを第一とするマネジメント方式を真 摯に学べばよいということになるのでしょう。

ここに、模倣可能なワンセットのシステム・モデルが提示されています。 問題は価値観の意味を悟り、勇気をもって踏み込むことです。
孫さんの経営モデルもありますが、孫さんのマネジメント方式は名人芸によ り可能なもののようで一見「大ばくち」のように見えて可能なリスク・ヘッ ジもなされており勘どころを習熟した「悟った人」のみが行えるもののよう にも感じられます。

本題にもどり「アメーバ組織」の本質と「優しさ」の関係を解説します。 『全従業員の物心両面の幸福』は、どのように追及されているのか。
『物』の幸福については、年収ランキングは上場企業3550社中929位 で上位30%内にで飛び抜けたものではありませんが幸せです。 『心』の幸せについては「矢場とん」の女将が目指した「大人」の「心」に 育てるという仕組みが用意されています。
「京セラ・フィロソフィ」が社員として社会人としての模範を示しています。 そして「独立採算制部門」である「アメーバ単位」には、市場と直接的にか かわれる多くの「アメーバ・リーダー」となる機会が与えられており、組織 に守られた中で「究極の境地」である「経営者(リーダー)」にもなれます。

創業を目指す方、望まずして経営者になられた方にとって、指針となる普遍 に近いリーダーシップのモデル(あり方)があります。v 自身が経営者であることを決心したら「よしや(吉寿屋)」や「矢場とん」 「京セラ」などのモデルから、自分の好みのモデルを学び勇気をもって失敗 を恐れず成功するまで続ければ満足に至れるのではないかと思案します。v

解決策は見せかけの演技でもよいから、習慣化された考え方を変容させてあ るべき経営者を模倣してなり切ることなのでしょう。
ひょっとしたら、ご利益(りやく)があってその姿が新たな習慣になり得て 救世主になり得るかもしれません。

≪アベノ塾≫ URL:http://abenoj.jimdo.com/