戦国時代の構想力
戦国時代は、人間の生な「生き様」がそのまま盛衰につながる実力本位の
時代でした。
その中で天下を制する構想力(グランドデザイン)を持ってその時代を切
り開いた三人の武将がいます。
この三人に共通なのは「天下」というグランドデザインを持ったことです。
天下を統治するためには“グランドデザイン”が必要です。
戦国時代より前では、二人の武将「平清盛」と「源頼朝」がいます。
さらに遡ると「聖徳太子」や「天智天皇」「天武天皇」が見受けられます。
大きく成功するには、最初に“グランドデザイン”ありきです。
もちろん、平将門のように坂東王国といった“グランドデザイン”持って
いても破綻するケースはあり、逆に、足利幕府のように武士団の支持の上
に載って時代の要求で成立してしまう政権もあるにはありますが、
しかし強固に「天下」が成立するときには、そこには“グランドデザイン”
が展開されます。
戦国時代に話を戻すと、織田信長は岐阜に城を構えた頃より「天下布武」
の印章を使用しています。
もっとも「天下」とは全国ではなく五畿内のことであったらしいのですが、
どちらにしても本格的な活動のはじめより“グランドデザイン”を持って
いたと言えます。
織田信長は、同時代の武将とでは際立って違いを見せています。
武田信玄には「風林火山」の旗指物があり、上杉謙信には「毘」の軍旗が
ありましたが、これらは「戦」の時の“グランドデザイン”で天下に対す
る構想ではありません。
織田信長は「天下」を意識した武将です。
「天下」の“グランドデザイン”のもとに経済力の充実に意を注ぎ強力な
軍団を育成して行きました。
また、軍団の運営については実力本位に有能な武将を抜擢して思い切って
活用して行きました。
織田信長の力の根源になるには「経済力」です。
経済力を持って天下を統治しようとしました。
しかし、信長は、全国制覇の途上での「人のマネジメント」の失敗で高転
びしてしまいます。
信長の後を継いだのは秀吉ですが、秀吉は信長の“グランドデザイン”を
引き継いでいます。
「賤ヶ岳」で柴田勝家と合戦していますが、柴田勝家には天下の“グラン
ドデザイン”はありません。
時流は“グランドデザイン”を持つものに勝利をもたらせるようです。
家康は、秀吉のバブリーな破綻を受けて安定化の願いとともに天下を継承し
ました。
家康の統治については信長、秀吉の政策を受け継いだもので新たなものはな
かったとも言われています。
しかし、家康には独自な「厭離穢土欣求浄土」という“グランドデザイン”
がありました。
家康の「厭離穢土欣求浄土」の纏(大将旗)は、旧松下電器の水道哲学に
通じるものを感じます。
松下幸之助さんは「水道の水の如く、物資を無尽蔵にたらしめ、無代に等
しい価格で提供する」それによって「人生に幸福を齎し、この世に“極楽
楽土”を建設する」としています。
松下幸之助さんの“グランドデザイン”は「水道哲学」で、この精神が企
業と働く人の精神的な支柱を形作り、同社の強さの源泉になっています。
経営者が、天下にしかるべき「位置」を得ようとするときに力を与えるも
のがるものがこの“グランドデザイン”です。
現在企業のグランドデザイン
「現在のトップ企業には独自の“グランドデザイン”があり、そのグランド
デザインを核にして事業活動の展開がなされます。
パナソニックは、松下幸之助さんが考えた「水道哲学」という“グランド
デザイン”の精神があり「理念」として引き継がれています。
もちろん“グランドデザイン”は日本の企業だけのものではありません。
世界の優良企業にも世界を制する“グランドデザイン”があります。
GE(ジェネラル・エレクトリック)の“グランドデザイン”は、「ナン
バーワンあるいはナンバーツー戦略」で勝つことのできる事業を選択し、
集中することです。
流通業の世界トップのウォルマートの“グランドデザイン”は、エブリー
・ロー・プライス(毎日、大特価)です。
1ドルの価値を大切にして、大幅にコストダウンが実現できるPOSシス
テムや大規模物流セッターへの投資はもっとも早い時期に行なわれました。
日本でも、とうぜん優良企業にはその企業を優良になさしめる“グランド
デザイン”があります。
代表的な企業の“グランドデザイン”として孫さんの率いるソフトバンク
の「情報革命で人々を幸せにしたい」が代表です。
情報に関連するチャンスのある事業については、3割までのリスクであれ
思いってきって参入します。
事業進出は最先端であれば真っ先に参入します。
とにかく初物食いで、あわよくばグローバル・スタンダードも目指してい
るような趣もあります。
トヨタの“グランドデザイン”は創業以来自動車に特化しており、「働く
現場の人の知恵と知識」でもって徹底したムダのカットとさらに品質と機
能のつくり込みをはかります。
それは「カイゼン」で、英語の用語にもなっており「乾いた雑巾を絞る」
とまで言わています。
ホンダは同じ自動車屋ですが、まったく違った“グランドデザイン”を持
っています。
ホンダは自動車に特化せず、二輪車に始まり四輪車へさらに“アシモ”や
ジェット機へと拡げています。
ホンダは“自由な移動の喜び”と「The Power of Dreams」が、“グランド
デザイン”です。
セブン・エレブンの“グランドデザイン”は「便利な存在」「生活サービ
スの拠点」です。
扱い商品として「おにぎり」「おでん」「弁当」「スイーツ」と拡げ、
サービスは「公共料金の納付」「宅急便」「本の受取り」さらに銀行業務
へと“コンビニ(便利)”であればどんな欲求にも対応をはかろうとして
います。
メガネ小売チェーンのグランドデザイン
急激に売上を伸ばしているメガネ小売チェーンがあります。
テレビの「カンブリア宮殿」で紹介されたジェイアイエヌという会社です。
売上は業界第3位、しかし販売本数は業界トップです。
それは販売価格の上限が9,900円と安いことが要因です。
この企業はもともとは服飾雑貨製造卸業を営んでいました。
メガネ小売チェーンに進出するきっかけになったのは、社長が韓国旅行で
たまたま見かけた激安メガネ店との出会いでした。
ここで少し脱線します。
韓国旅行でメガネ激安店を見た人は数限りなく多くいます。
ビジネスチャンスは見る力がなければ見えず、見えてもアクションをおこ
さなければないのも同じことになります。
これはМCの村上龍のコメントです。
同社の社長は田中仁氏で、メガネ業界の経験ゼロからの出発です。
同氏のグランドデザインは、よい意味での「素人(=顧客)感覚と目線」
が基盤になっています。
顧客目線効用の第一は、一般メガネ店であれば新機能追加には料金を発生
させますが、これを“無料”としました。
「素人目線」のグランドデザイン特徴は、メガネの解釈にも大きな特徴を
もたらしています。
メガネの機能を視力機能補助器具とは限定せず、「新機能」・「ファッシ
ョン」商品として位置づけて開発を行っています。
価格については今までの業界の常識であった流通ルートを無視して、メガ
ネレンズ・メーカーから直接・大量仕入れすることによって販売価格の低
減を実現させました。
価格設定についてもリーズナブルな4段階で、遠近両用は追加料金が発生
するもののその他は一律に追加料金0です。
同社の戦略について少し考えてみます。
その特徴は、ある意味ではマネジメントの基本中の基本のものです。
あえていえば、その基本をもっとも忠実に実行したことにあります。
すべては、顧客から出発します。
顧客の望むことからスタートすることが、マネジメント機能を実現させます。
低料金で追加料金0は、顧客の欲求の基本部分をきっちりつかんだ発想です。
そした、自社デザイナーをフル活用した「ファッション」の重視。
これは「鬼に金棒」の状況にあるとも言えます。
社長の田中仁氏はメガネを掛けていますが、視力には全く問題はないそう
で、新たなメガネについての「定義」を経営者自らが体現しています。
同社は新機能商品として、次々と開発をすすめようとしています。
ここにも経営者の知恵が感じられます。
それは外部の知恵と知識のフル活用です。
さらに、顧客の信用力アップのためもあり大学等との連携を積極的に行って
います。
ただし、このこともマネジメントの機能の基本中の基本である「イノベーシ
ョン」の実行と言えます。
他のメガネ小売チェーンとは、一風変わった事業展開ただしマネジメントの
忠実な実現が新たな「強み」をもたらしめています。
これらの事業展開の根底になるっているのは「顧客目線」を基づく「グラ
ンド・デザイン」に起因します。
「グランド・デザイン」は、良くも悪くも大きく成長する組織がその基本
とし拠り所とされるべき「エッセンス」です