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71回目 「強み」をもたらすものは

全ては経営者から

「大企業は良い人材が集まり、お金があるから儲かるのは当たり前」という 中小企業の経営者の声を以前ほどではないのですがやはり聞かれます。 以前ほどでないのは、シャープにしろ東芝にしろゴーンさんの登用でV字回 復した日産を見るにつけても大企業が盤石であるとは言えないからです。 「この危うさ」を見てしまうと、何となく違和感を感じてしますからです。
良く引用するのですが、ホンダを本田宗一郎さんと共に築き上げた藤沢武夫 さんは「世の中には万物流転の法則があり、どんな富と権力も必ず滅びると きが来る。しかし、だからこそ本田技研が生まれてくる余地があった。だが、 この万物流転の掟がある限り、大きくなったものはいずれ衰えていくことに なる。」と言っています。

「万物流転」は世の常で、ある一定の条件が整のいさえすれば0(ゼロ)か らお金も生まれるし優秀な人材も育っていくことになります。。 ホンダはもちろん京セラにしろ多く企業が無から有をつくりあげています。 逆がお金はいくらあっても、優秀な人材がいなくなれば資金は活用されずや がては霧消してしまいます。
まず、創業経営者についてはということで、話をすすめて行きます。 事業を行うに際して経営者がまずしなければならないことは「何故、その事 業を行わなうか」という「何故」を深く掘り下げて明確にすることです。 ここでの「押さえどころ」があいまいのままであると、成果を得ることはで きないか得たとしても多くは望めません。

トヨタの生産方式では、問題・課題が発生すると「5回の『なぜ』を繰返せ」 と方式の創始者である大野耐一さんが言っています。 本当の原因である「真因」をつかまなければ、同じ過ちが繰り返されます。 起業するに際しても、自身の中に「強みの核」となる考え方つまりビジョン、 成功イメージがあるかどうかは将来を大きく左右します。
マーケティングの基本的考え方は、顧客がよろこんで対価を支払ってくれる から企業の存続・成長が補償されるということです。 「お金儲けがしたい」「好きなことをしたい」といった自己欲求はとうぜん なものとして否定されはしませんが、このことからだけでは使命感は生まれ ず「強み」の源泉である情熱や知恵が生じることにも限界があります。

松下幸之助さんは「物資を無尽蔵に無代に等しい価格で提供し、この世に極 楽楽土を建設する」という「水道哲学」の「真使命」に目覚めたとき「信念」 を持って「大松下」の道を歩むことになりました。 孫正義さんも「情報革命で人々を幸せに」の理念を掲げて、究極の成長分野 と尽きざる顧客満足の種を得て成長の基礎付けを行っています。
また「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが、好きも底が抜け ると「抜きんでた技術」を持つに至り大成することがあります。 本田宗一郎さんがその典型で、ガソリンの排煙の匂いに魅せられて自動車づ くりに一生を捧げました。 ソニーの井深大さんも同じ型の起業家で、世にないモノを創り上げました。
「何故、その事業を行わなうか」は「機会(チャンス)」と「想い(動機)」 の両面より思いをめぐらして「これが私のミッション(使命)」であるとす る確信にまで至れば「力強い経営」を始めることができます。 また、事業には思わぬ失敗や障害がつきまといますが判断の基準たる「押さ えどころ」があれば「芯のある」経営を行うことができます。

経営者と価値観

経営者の「力の源泉」は「考え方」と「価値観」の持ち方にありそうです。 そこには、個性はあるものの原理・原則としての共通性があります。 経営の原理・原則は「利益の追及」ではありません。 利益は結果として獲得できるので、追求すべきは世の中の変化に合わせな がらより良い顧客の欲求を満たすことと生産性を向上させることです。
少し話が跳ぶのですが、松下幸之助さんと本田宗一郎さんの雑誌での対談で 二人の人柄がしのばれるおもしろい会話がありました。 「売春」について話題が及んだ時に、松下さんは意外にも「公的売春制度」 の肯定論者で江戸時代の治安がよかったのは「吉原」という若者の性的なエ ネルギーが暴走しない「はけ口」があったからからだと言われています。

これに対して本田さんは「それはそれとして、・・・好みというものを無視 して性的行為を行うのが、非人間的だということだ。」と付け加えています。 この対談から見えてくるのは、二人の異なった性格的側面です。 事を成せる人だから二人とも合理的な思考の持ち主ですが、松下さんはリア リストで本田さんはヒューマニストであるということになりそうです。
ここから話を継ぎます。 松下さんは「素直さ」を強調され、その経営の最大の特徴はあるべき原理・ 原則に「思い」と「考え」を凝らして最適の意思決定を行っています。 その節目である逆境の中で「逆転」ともとれる意思決定を行い、安定時では 成しえない飛躍を実現させています。

松下さんの意思決定には、極限まで考え抜く「血の小便の賜物」なのか何物 にもとらわれない融通無碍な原理・原則の「素直さ」があります。 昭和4年、世界恐慌のあおりを受けてあふれんばかりの過剰在庫を抱え込ん だ折には、生産半日停止とするも解雇0、給料全額支給として全員参加での 在庫商品の販売へと導いてみごとに危機を切り抜けています。
昭和26年に戦後の復興期には欧米の先進技術が不可欠であると判断してフ ィリップと提携をおしすすめることになったのですが、アメリカなら3%で すむロイヤリティー(技術指導料)に対し7%を要求されました。 ここでも逆転の発想を行い経営指導料3%を承諾させ、技術指導料も4.5 %まで引き下げさせ松下電子工業株式会社の設立を実現させています。
昭和39年、折からの金融引き締めと主力製品の需要停滞から販売不振がす すみ販売会社の経営悪化が目立ち始めました。 そこで緊急に熱海の二ューフジヤホテルで販売会社・代理店社長懇談会(熱 海会談)が開催されることになりました。 会議は白熱化し結論も得ぬままの最終日を迎えることになりました。

最終日になんの合意も得ぬなかで、松下幸之助さんが壇上に立ちました。 課題解決の鍵はただ一点で、共存共栄の思いを共有することです。 「よくよく反省してみると、結局は松下電器が悪かったこの一言に尽きます。 これからは心を入れ替えて出直しますので、どうか協力して下さい」見ると ハンカチで涙をふいており、会場は一転して粛然となりました。
一方の本田さんの経営者としてのあり方について見てみます。 とは言うものの本田さんは、技術以外に興味を持たなかった人です。 そうしたら経営に貢献しなかった人かと言うと、そうではなく本田さんの考 え方(価値観)が技術と同等以上の貢献を行っています。
「独創性」「乗る人の身になったモノづくり」こそが、その考えの核です。 「価値観」こそが経営者が行わなければならない仕事です。 松下さんは、繰り返し繰り返しの言葉で「ひつこく」浸透させて行きました。 そのことで「筋の通った経営ができるようになった。」と言われています。 本田さんは「元祖スティーブ・ジョブズ」で、最高の製品づくりのため現場 での激しい叱咤と照れを含む賞賛で「価値観」を日常化して行きました。

経営者の性格形成

企業の「最大の経営資源」が経営者であるとするならば、成果を実現させる 経営者の性格形成を知ることは秘儀を知ることともなりそうです。 ただそのあり様を見てみると、あたかも禅宗の僧侶が「悟り」を開くにも似 ており「知識」ではなく「知恵」として訪れるもののようです。 その意味では、安易に体得はできそうもないものとも言えます。

松下幸之助さんですが、公的にはきらびやか成功の人生ですがその裏面には 私的な苦悩の生い立ちがあります。 幸之助さんは3男5女の末っ子でした。 父親は11歳の時に、母親は18歳の時に亡くし、兄、姉もはやく26歳で 長姉も亡くしており、おまけに長男も1歳にも満たずして亡くしています。
松下幸之助さんは、成功の秘訣を聞かれて3つのことをあげています。
1.貧しい家庭に生まれたこと
2.学歴が無いこと(小学校中退)
3.身体が病弱であることと答えています。
肉親を早くに亡くしていることとも加えて、物事の本質を深く考えることが 自分を律する術となって経営者としての人柄が形成されて行ったようです。
そんな松下さんですが「自分は運が良かったから成功した。」と言い、社員 の採用面談の最後に「あなたは、運がいいですか。」と問いかけ「運が悪い です。」と答えた人は採用しなかったそうです。 そこには、その人の思考スタイルを瞬時に見分けるカラクリがありました。 それは、人がどのような「考え方」を持つべきかを教えるものでもあります。
少し話が回りくどくなるのですが、お付き合い下さい。 人には生まれ持って自尊心があり、傷つきたくないがために失敗した場合に も自分の能力の劣るのだと思いたくはありません。 だからといって、能力を高めるための辛い努力もしたがりません。 その時に役立つ考え方が「運が悪いから、仕方ないのだ。」というものです。

人の心の「摩訶不思議さ」は、自分を防衛するために無意識で「ごまかし」 もできるし自分を信じて不可能を可能にもしてしまいます。 「運が良い。」と思える人は、失敗したり思い通りに行かなかったりした場 合でも見方を変えたり更なる努力を傾けてチャレンジすることができます。 この人が、成果をもたらすことのできて貢献できる人と言えます。
成功する経営者には2つの要件と3つの要素があるようです。 2つの要件とは「上昇志向」「自己効用感」であり、3つの要素とは「勇気」 「価値観」「素直さ」です。 洋の東西を問わず、偉大な経営者はこの2つの要件と3つの要素を自身の生 い立ちになかで「知恵」ある「悟り」でもって獲得しています。

「自己効用感」とは聞きなれない言葉なので、解説します。 自己効用感とは、自身が目標を達成する能力があるとする「確信」です。 この確信は、不運であると感じていたことや困難であると感じる場面におい て自身の「知恵」や「勇気」を持って克服した時に生まれるものです。 多くの成功する経営者には「自己効用感」を持つに至る経緯があります。
京セラの稲盛さんが「自己効用感」を持ったのは、 13歳で「おじ」と同じ肺浸潤で病床にふせっていた時で、たまたま隣家の 女性に勧められて谷口雅春の『生命の実相』を読むことがありました。 そこ書かれていたのは「心のあり方」が現象として現れるという考え方で、 このことに衝撃を受けるとともにいつしか病も癒えてゆきました。

TSUTAYA社長の増田宗昭さんにも興味深いエピソードがあります。 幼いころ自動車事故に遭い顔に傷を負い、また甘えん坊であったので「いじ め」に遭うことになりました。 それが、父親の事業の失敗や母親の頑張りを契機として自分の意思でレスリ ング部に入り「いじめ」を克服して境遇を一新させました。
一見些細な少年期の出来事のようですが「自身の意志力」で困難を克服でき た体験は名経営者として成長するための拠り所ともなり得ます。

2代目後継者の方法

どこで読んだのか忘れたのですが、心に残るエピソードがあります。 ヨーロッパの貧しい年老いた母親と虚弱な娘の話で、年老いた母親が貧困と 娘の世話に疲れ娘の将来を案じながら亡くなってしましました。 すると世話を受けれなくなった娘はどうなったか、それが驚くことに母親の 死を境にして健康を取り戻して自立できる大人に変貌したという話です。

人間は一人では、生きていけない存在です。 特にその典型が赤ちゃんで、泣いて親の関心を引くことで生きる術を得ます。 この赤ちゃんがそのまま大人になり、泣くことはないにしろ不調や欲求不満 を爆発すれば保護してくれるのならこれほど楽なことはありません。 「私は、不運です。」と言えば自尊心も傷つくこともありません。
ところが、これはただの逸話ではなくて現に日本の企業で起こっています。 「自己効用感」を持ち得なかった2代目後継者や国立大学卒の大手企業の経 営者が同じパターンで行動します。 困難な場面に遭遇することになると、本性である「劣等感」を「優越感」に 変換させて部下の無能をなじり「不運」を嘆きます。

一般論として「自己効用感」を持ち得る環境から最も遠くに位置しているの が、幸運な星の下に生まれたと見なされる前の二者でしょう。 逆に成功の基盤である「自己効用感」を得るのは、不運な逆境の中で自身の 「悟り」と「忍耐力」で以て乗り越えた体験を持った人です。 その体験こそが、困難な「課題」を「機会」に変えれる能力を与えます。
最も成功した後継者としてその筆頭をあげるとしたら、話は大きくなるので すがアレクサンドロス大王ということになるでしょう。 後継者の不利さを乗り越えて、成功に至れる要因を探りますと。 そこには2つの要因があって、1つは偉大な師であるアリストテレスの薫陶 を受けたこと第一線での現場で戦闘を経験したことと考えられます。

その時代の最高の知性であったアリストテレスの薫陶により、そのアリスト テレスから最善の「ものの考え方」を習得していったのでしょう。 アレクサンドロスの初陣は18歳の時のカイロネイアの戦いで、精鋭の騎兵 を率いて勝利に大きく貢献しています。 父親であるピリッポス2世の後継者教育は周到であったと言えるでしょう。
2代目に限らず後継者は、不思議な立ち位置にいると言えます。 好調な会社を受け継げば最初から実績がなくとも高報酬で、つぶれる間際の 会社を引き継げば借金まみれから始まることになります。 ここでどちらの後継者が有利な立場であるかということですが、必ずしも借 金があることだけが不利とは言えないでしょう。
おもしろいことに江戸期の船場の大店では、長男には跡を継がせず娘婿に店 を委ねた例が結構ありました。 恵まれた境遇にある跡継ぎに期待をかけるのは、危険と考えたからでしょう。 もう一つの方法は、三井財閥の基礎を築いた三井高利のように、後継者を子 供の頃から丁稚として鍛え上げて育てる方策です。

群馬県のバネメーカーに中里スプリング製作所という会社があります。 この会社の社長は2代目さんで独特の経営を行うことで有名ですが、従業員 の採用の基準を経営者の「好きか嫌いか」で決めるようです。 好きな相手だから「自己効用感」が持てるようにあらゆる手立てを尽くして 育てています。
それはこんな具合で、従業員数は上限28名と定め、それらの従業員が2年 に一度は業績評価の基準を替えて1番になるようにしています。 一番になると「嫌いな得意先を切る権限」か「自社の工具や材料を使って好 きなものを造れる権限」を与えます。 非常にユニークですが、たしかな努力で高業績を計上されています。

≪アベノ塾≫ URL:http://abenoj.jimdo.com/