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94回目 知らなければならない最高の経営資源

知識という経営資源

ドラッガー(経営学者)は「知識が、個人のそして経営活動の中心的な資源 である。今日では、知識だけが意味ある資源である。」と言います。 そして「新しい意味の知識とは、効用としての知識、社会的、経済的成果を 実現するための手段としての知識である。」と言います。 また「労働、資本は知識さえあれば入手可能である。」と言っています。
ところが、このドラッガーの言うところの『知識』が、今という時代にとっ て特に必要不可欠の基幹資源であると言われても理解が届きません。
また「ヒト」が労働力・道具であることが理解されていても『知識』を創造 する源泉であることが余りにも理解・認識され難いのです。 このことに考えが及べれば、万能力の一つを手に入れることにかかわらず。

アメリカの音楽の殿堂カーネギー・ホールは多くの音楽好きによく知られて いますが、その創設者は鉄鋼王のアンドリュー・カーネギーでジョン・ロッ クフェラーに次ぐ史上2番目の富豪と称されています。
どのようにしてそこまで登りつめることができたのか、その墓碑には「自分 より賢き者を近づける術知りたる者、ここに眠る。」と刻まれています。
また、サントリーの創業者である鳥井信治郎さんには「やってみなはれ。や らなわからしまへんで」の名言がありますが、思い切った『知識』を有する 人材を適宜活用して業容を拡大して行きました。
明治32年、葡萄酒の製造販売を目的とした鳥井商店がその始まりですが、 事業の拡大の要所々々に、思い切った人材の活用を行っています。

初期の主力商品は「赤玉ポートワイン」ですが、この商品が人気商品になっ たのは日本人向けに甘味料を配合したことと広告力によります。
その決定打が片岡敏郎氏と井上木它氏らの手により制作された「ヌードポス ター」で、日本で初めてヌード写真を用いたこともあり評判になりこの商品 は驚異的な売り上げを記録することになりました。

後の主力商品のウィスキーについては、ニッカの創業者でもある竹鶴政孝さ んの文字通りスコットランド仕込みの『知識』によってつくられました。
企業がその業容を伸ばすには大小に関わらず『知識』の活用が必要で「トヨ タ」には世界共通語になっている「カイゼン」があり、現場の従業員の『知 識(知恵)』を最高に活用することで強みの源泉としています。
今回は、企業(組織)経営の本丸である「知識」および「知識を有効に活用 するための知識(マネジメント)」を開示して行ければと思っています。
ここで言う「知識」とは、企業(組織)に成果をもたらすものの総体で「技 術」「ノウハウ」はもちろん「勘」「知恵」なども含めたもので「情報を仕 事や成果に結びつける能力である。」と定義します。

最近のテレビニュースで、VR(仮想現実)機能を持ったプレステーション 4が抽選で販売されていることを知ったのですが、その人気の理由がホラー ゲームの「バイオハザード7」などを体験したいがためらしいのですが。
ホラーゲームなどは今までにもあったのですが、VR(仮想現実)機能で体 験できるとなったので顧客の購買意欲は一気に高まったようです。
体験したので分かるのですが、VRの「リアルさ」には感嘆させられます。 テレビ・ゲームの大方はVR(仮想現実)に移行しそうな感じで、ピント外 れのもの言いかも知れませんが「知識」が新たな需要を堀起こしました。
同じようなブームで思い出すのは「Windows」が販売されたときで、抽選ま でには至らなかったのですが長蛇の列でその人気もまた爆発的でした。

VRもWindowsも、それはITスキルという「知識」を活用することで、需 要を喚起しています。
当たり前と言えば当たり前で、何も「知識」と言わなくともと思われるので すが「知識」という言葉をあえて使用しなければ、最大の強みを持つ「経営 資源」であるということが認識されないからです。
と言ってもまだよく納得できないと思われますので、さらに「ディズニーラ ンド」や「セブン・エレブン」のビジネス・モデルでその意味を考えます。
「東京ディズニーランド」は、オリエンタルランド社がつくったものでなく ライセンス契約を結び「ノウハウ(知識)」を「マニュアル」として譲り受 けてつくられたもので「セブン・エレブン」もまた然りの形態です。

ここで言いたいのは、有形でなくとも顧客に貢献できて収益を得ることがで きる「ノウハウ」「マニュアル」といった「知識の塊」が経営資源として売 買の対象にもなってしまうということです。
話が跳んで、三ツ星レストランも同様で、接客センスと「三ツ星シェフ」の 素材の目利きや料理のスキルなどの「知識」が一流店をつくり上げます。
最初に述べさせてもらったように「今日では、知識だけが意味ある資源」で 例えば「三ツ星シェフ」の腕が秀でていれば、小さい店からはじめてもスポ ンサーがつくなり銀行融資をうけるなりで大きくすることができます。
「三ツ星レストラン」をつくりには、いくらお金があっても立派な店があっ ても「三ツ星シェフ」つまり『知識』がなければ成立しません。

『知識』こそが、ビジネスを成り立たせる「成果」を実現させます。 この認識、理解が、多くの経営者、創業者並びに社会人が知っておくべき必 須の今日的常識であり仕事を行うについての起点の考え方と言えます。
とは言うものの『知識』は複雑語で、その意味はなかなか理解し難くマネジ メント(経営)も『知識』であるとされると尚更のことともなります。

すべての人が専門家として

一般消費者にはなじみの薄い「日本電産」や「ミネベアミツミ」が、テレビ コマーシャルを出しているのを見たのはちょっとした驚きでした。
両社の主力製品は、一方が小型モーターでもう一方はベアリングです。 奇異なのは両方共が一般消費者にかかわりを持たない工業部品メーカーであ り、それにもかかわらず「テレビCM」を行ったことです。

その背景には何があるのか「ミネベアミツミ」の場合は、統合した企業の認 知度を高めるためまた消費財への進出を目指してのことで納得できました。 ところが「日本電産」の場合がよく分からないのです。
調べてみると、なんとCMの目的が「人材確保(リクルート)」のためのも ので、2030年度に売上高10兆円の目標達成のための布石なのだそうです。

「日本電産」は、永守重信さんの強力なリーダーシップのもとに成長を続け てきた中堅企業であることは、企業人であれば知られているのですが。
しかし、世の一般的な消費者には、あまり知ってもらっていないでしょう。 このため優秀な人材の両親や関係者に、自社に就職をするときに好感を持っ て理解してもらうそのための高い広告投資(テレビCM)だと言えます。
企業にとって一番怖いのは「知識」の主体たる人材が去ってしまうことです。 「三ツ星レストラン」で一番怖いのは「三ツ星シェフ」が辞めることです。
中小企業の経営者の方とお話しているとよく聞く言葉があるですが、それは 「うちの会社の社員はやる気がない。」「うちのような会社には優秀な人材 が来ない。」「売上について何の関心を持っていない。」などです。

ここで、少しこの言葉にこだわって話をすすめて行きたいと思います。 いつものように経営の神様松下幸之助さんの話になるのですが、松下さんは 「松下電器は人をつくるところです。併せて電気器具もつくっております。」 と言われ「そういう空気が社員に浸透いたしまして」その心意気が「どこよ りも力強く進展せしめた大きな原動力になっている。」と言われています。
京セラの稲盛さんは創業間もない頃、自身が講師になって基本的な基礎知識 を従業員に教えていったということをどこかで読んだ気がします。
ダイキンでは「人を基軸に置いた経営」の考えのもとに、新入社員の5泊6 日のグループディスカッション(会社に求められる人物像)を主にした合宿 研修にはじまり空調技術訓練校での実技研修も行われています。

中小企業の経営者の方の話を聞いて感心させられ「それは、いいですね。」 と思わず言ってしますことが時折ありますが2つ事例を紹介します。
1つは業務に関係する技術資格をとれば手当をつけるというもので、それが 営業社員でもOKということで、これが得意先との交渉に役に立って本人の やる気ともなり業績をアップさせることにつながったというものです。
もう一つは雑貨商社のケースで、商社だからといってただ仕入に力を入れて いれば良いのでなくて商品企画も行わなければ競争に勝ち残れません。 そこで、社員全員に会社負担でCAD講習を受けさせることにしました。
その後に、資格を取得したいという希望者だけを対象に継続学習の機会を与 えて見事2人の社内技術者が誕生し立派な戦力になったということです。

井深大さんの起草したソニーの会社設立趣意書にこんな言葉があります。 「たとえその人員はわずかで、その施設は乏しくとも、その運営はいかに楽 しきものであり、その成果はいかに大であるかを考え、この理想を実現でき る構想を種々心の中に描いてきた。」「人的結合の緊密さと確固たる技術を もって行えば、いかなる荒波をも押し切れる。」とあります。
そして「経営目的」として「技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由 闊達にして愉快なる理想工場」「進歩したる技術の国民生活内への即事応用」 「最も国民生活に応用価値を有する優秀なるものの迅速なる製品、商品化 」 とあり、この趣意書の心意気と実績に魅せられて「ボロ工場」に技術を思い 切り発揮しようとチャレンジする技術者が集まってきました。

初期のテープレコーダーの製作は、そんな企業で自分の力を充分に活かせる と入社してきた人たちにによってつくられて行きました。
テープづくりもその中の仕事でフライパンにシュウ酸第二鉄を煎って磁気性 を持つ酸化第二鉄をやっとつくりあげ、刷毛で塗り付けてやっと試作品を作 り上げるという家内工業的な試行錯誤で完成されて行きました。
知識はそれのみでも役に立つのですが、飛躍的で社会に受け入れられるため には専門家たちの時間を惜しまず取り組むスティーブ・ジョブズの言う「ハ ングリーであれ。愚か者であれ」的な熱情がなくては成り立ちません。
ここまで来ると報酬の多寡ではなく、マニアックでもある専門家たちが苦悩 を「生き甲斐」と感じるれる環境と支援が必要となります。

「成果を生み出し」得て「自身で実感できる」ことでかつ「大好きなこと」 であれば、人は特に専門家は困難をものともせずやり続けます。
知識・能力はもちろん大切ですが、環境を整えれば習得も可能です。 そこで経営者が心得なければならない基本姿勢は「何故、なさねばならない か」「何をなさねばならないか。」をまず明確にすることです。
それは硬い言葉で言えば「ミッション(使命)」であり「ビジョン(展望 ・目標)」で、この二つを全メンバーに信念となるように伝え続けます。 その前提がなければ、高い報酬の条件であっても「成果を生み出す」ことも 「成果を実感できる」こともなく空虚です。
それを行って適材適所に「得意で好きであること」に集中させるのです。

「人の心」や「成果」は「金」だけでは買えません。
マネジメント(経営)は「長期の成果」のために最も「効果的かつ効率的」 に実行するもので「価値観を満足させ、社会的な地位を与え、権限を与える ことによって活躍してもらわなければならない。」「パートナーとして遇さ ければならい。」とドラッガーは言っているのですが。

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