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35回目 経営の必須要件「効用」

顧客の購入するものは

顧客は何を購入するのか。 商品もしくはサービスか。 たしかに商品とサービスを購入するのですが、実際はそれらを通して得 られる「効用」を購入します。
そうしたら「効用」とは何かと言うことですが、簡単に言うと自分の欲 求が満たされると思える「モノ」もしくは「コト」です。
みんな通勤電車の中で夢中でやっているスマホのゲームや、「いつやる のですか、今でしょ」で有名な林先生の所属する東進ハイスクール(東 大進学第一位)が受け入れられるのは、人の持つ何らかの「効用」が満 たされるからです。
スマホ・ゲームでの「達成感」や、東大に入学できるかもしれないとい う「期待感」は目に見えるものではありません。 しかし、人はこの見えないものを購入します。 それは「効用」を購入しているのです。 生身の人の持つ「欲求」こそがビジネスの対象です。
人が商品やサービスを購入する動機は、人の持つ生な正体も定かに定義 しがたいこの「欲求」が満たされることを求めてです。 本来、製造者や販売業者が最も重視する「機能」や「品質」は、確かに 重要ですが「欲求」を満たすための必要要件のなかの一部です。
スイスの高級機械時計があります。 時間の正確さついては、「千円のクウォーツ時計」に比べて劣るのです がその機能価値については問題にされません。 その高級機械時計の価値は、ブランド名であり、高額であることすらも 価値になります。
顧客の求める「効用」は、自身の「審美眼」や「充足感」です。 とは言うものの価格は、商品やサービスを選択するときの重要な要素で あることには違いがありません。 しかし、価格だけでは顧客の心をつかみ取ることはできません。
そこのところを飲食店チェーンでの変容のなかに探ってみます。 あれほど勝ちパターンであった「和民」が苦戦しています。 その一方では業績を確実の伸ばしているチェーン店があります。 牛タンととろろ麦めしの「ねぎし」、居酒屋チェーンでは焼き鳥の「鳥 貴族」が快進撃を続けています。
これだけの情報化がすすんだ社会では、消費者がよい店舗を見つけるな んて容易いことになってきています。 評判が良いと集い気に沿わなくなり評判が落ちると「賢くて冷酷な顧客」 はすぐに評判のよい店へと移行して行きます。
「ねぎし」や「鳥貴族」は、賢くて冷酷な顧客な顧客のお眼鏡に適った からの隆盛です。 この2店に大きく共通するのは、3つの効用を実現していることです。 3つとは、1つ目は飲食の基本である「おいしさ」です。 2つ目は、「心地良さ」接客の満足です。3つ目は、納得以上の「コス トパフォーマンス」です。
顧客が購入するのは、他を引き離した一番の「効用」です。 ビジネスで勝利するのは、「顧客の欲求」に一番貢献できることです。

キーワードとしての「効用」

「効用」は、人がすべての行動決定するときの判断基準です。 話は、飛んで大きな話になりますが歴史上の出来事からもこの「効用」 を理解することができます。 その飛んだ話として「関ヶ原の合戦」と「ローマの興隆」について考察 して見ます。
まず、「ローマの興隆(パクス・ロマーナ)」について考えてみます。 ローマ帝国は、その建国の時から特異な「政治習癖」を持っていました。 それは、「敗者」を同等な存在として取り込んでしまうという特性です。 そのため、絶えず優秀な人材が供給されてきました。 その最盛期には、取り込んだ地域から皇帝をも輩出されています。
ローマの強さの源泉は、敗者に対する扱いにあります。 ローマはその征服した地域の統治秩序・文化は侵害しません。 逆に政治機構の要である元老院議員の地位にも登用されています。 また、ローマには高い建築技術がありますがその技術の恩恵にも浴する ことができました。
敗者にとっては、ローマに取り込まれることに不利なことがほとんどな く逆に民族としても多くの「効用」を受けることができました。 直轄地となり市民になれば兵役義務も生まれますが、属州のままであれ ば10%の税を納めさえすれば兵役は免除され、かつ他部族からの侵略 に脅えることも少なくなります。
市民の兵役については、初期は徴兵制であったのが後には志願制になり ました。 志願制になってからは給料も支払われ、兵役は25年なのですが除隊後 は第二の人生を始めるのに充分な計らいがされていました。 兵として立派に勤め上げれば、一定の富と名誉という「効用」が獲得さ れました。
ローマ帝国では、ローマに属することの「効用」がありました。 「ユダヤ」のような特殊に独立心の強い民族以外は「弊害」よりもむし ろ「効用」の方が大きかったと言えます。 兵が強かったこともありますが、許容する政治風土こそが帝国を拡大す る要因になりました。
「関ヶ原の合戦」に話を移します。 この戦いは、一見すると「徳川家康」と「石田三成派」の闘いのように 見受けられますが、事実は豊臣家の「武断派」と「文治派」の戦いであ ったようです。
少なくとも「武断派」にとっては。 家康は、この動きを察知して活用したと言えます。 豊臣家の武断派のその求める「効用」は、築いた地位の安泰です。 文治派の「効用」は、その統治能力の発揮によって政権中枢に君臨する ことです。 豊臣秀吉にとって全国制覇が成った時点から、「武断派」の価値は希薄 なものに成り下がりました。
「狡兎死して走狗烹らるの」のことわざにあるように、武断派は統治が なった時点でいらなくなった存在です。 それに対して文治派は、ますます必要な存在となって行きます。 政権の求める「効用」から考えて、武断派は文治派を排除することによ ってのみしか自身の地位を安泰にする方法はなかったと言えるようです。
武断派にとっては、家康こそが自分たちの地位を守る「効用」があった

働く人の「効用」について

「ねぎし」と「鳥貴族」という飲食店チェーンの事例から「効用」とい うことがらを分析して行きたいと思います。
顧客の「効用」を満たすことが、顧客が対価を支払ってくれるというこ との基本要件です。 この「効用」をよりよく実現することに、経営者の洞察と叡智が求めら れます。
顧客の「効用」について、まず考えてみます。 それと同時に、それを可能にする働く人自身が欲する「効用」について も考えてみます。
顧客の「効用」の実現は、経営者だけで実現されるものではもちろんな く多くの仲間さらに外部の協力があってはじめて適うものです。
顧客の「効用」は、もちろん多種多様でありすべて満たすことはできま せん。 飲食店の場合は、大きく受け入れられ歓迎されるのは三つの要因です。 一つ目はもちろん「おいしいこと」、二つ目は「心地良い接客」、そし て三つ目が「価格のお得感」です。
本来「おいしさ」と「心地良さ」には、相応の対価が必要なものです。 三ツ星レストラン、高級割烹にしろ、「リッツカールトンホテル」にし ろ「ディズニーランド」にしろ「感動の効用」にはそれなりの対価の支 払いをようします。
「ねぎし」と「鳥貴族」では、一見不可能と思われる顧客の要求を経営 者の持つマネジメント力で適えています。 そうしたらそのマネジメント力とはどのようなものなのでしょうか。 その「カラクリ」は、「効用」づくりの「メリハリ」と活力を生み出す ための「人のマネジメント」です。
「メリハリ」のポイントは「おいしさ」「心地良さ」のためには手間を 惜しみまないことです。 そして、その一方では、顧客の「効用」を生まないことがらにはお金を 一切使わないことです。 徹底したコストカット行っています。
象徴的なのは、本社事務所とそして社長室です。 本社事務所は、間違っても豪華とは程遠い簡素なビルの一郭にあります。 社長室に至っては、「ねぎし」ではパーテーションで区切ったほんとの 狭いスペースにあり、「鳥貴族」では大部屋のなかで少し大きいかと思 える机があるだけです。
しかし、顧客の「効用」の実現には特に念を入れて対応しています。 「ねぎし」では、牛タンの加工処理は全部人手によって行います。 人手でなければ、きめ細かい「おいしさ」のための下処理ができないか らです。
また、食材に要である「大和芋」については、作付け農家との関係を重 視して安定的な直接購入を行っています。 「鳥貴族」でも、おいしさには人一倍こだわりを持ちます。 焼き鳥素材の鮮度を重視してすべて国産を使用しており、「串打ち」も 調理の直前の昼間にパートを活用して行っています。 また「付けだれ」については、本社1階の製造所で特別のレシピのもと に毎日内製しています。
「心地良さ」という「効用」の実現については、働く人の「やる気」に 負うものであり両社とも特段の心配りを行っています。 たくさんの仕掛けがあるのですが、要約すると三つのものが見受けられ ます。
「夢の共有化」「仲間としてのコミュニケーションづくり」「マネジャ ーへの権限移譲」です。 働く人に対しても、働く人の「効用」を考えて経営することが必要です。 働く人の「効用」は安定した報酬は当然として、「自分の働き甲斐」や 「仲間との一体感」や「参画感」が「効用」になります。
「ねぎし」では社内の運営やルール作りは、すべて店長全員の発案・協 議のうえで主導され実現されます。 「鳥貴族」の取締役は、すべて歴代のアルバイトから登用されています。