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54回目 やる気(動機づけ)の手法

「やる気」の条件

日本の「常識」は世界の「非常識」と、時として言われます。 一昔前、大企業も前向きな中小企業も低賃金が魅力で、こぞって中国に生 産拠点を求めました。
しかし、日本人とは心情が違うので苦労がありました。 知り合いの中国人経営者が、「日本人従業員は大人しく真面目に働いてく れるので、雇用するなら日本がよい。」ともらされたのを思い出します。
これは日本人が普通なのではなく、良い意味で「特殊」だと言えます。 中国語の文法は、欧米の文法に近いそうです。 これが原因ではないでしょうが、気質もどちらかというと近いようです。 それ故でしょうか気質的には中国型の方が大勢で、日本の「常識」は世界 の「非常識」となり多くの日本企業が戸惑うことになりました。
そうしたら、全てがうまくいかなかったというとそうではないようです。 最初からその心情を理解していて、または理解していって成果を上げるこ とができた企業も多数派ではないもののあったと聞きます。 中国通が言うには、損得計算がしっかりしているのでその考えに基づいて きっちり伝え合理的に対応すれば逆に成果が実現し易いそうです。
少し遊びで、日本人の心情に関して俯瞰してみます。 日本列島は温帯モンスーン気候で、雨に恵まれており森林を伐採して丸裸 にしても30年たてば元に復すそうです。 とは言っても、人口が増えた弥生時代以降では縄文時代とは違って一致団 結して懸命に灌漑し耕さなければ食にありつけませんでした。
この灌漑には、「長」のもとに一致団結することが必要で「和をもって尊 しとする」でなければ飢えから解き放されることはありえません。 この団結を「一揆」と言い、生きるための基本的な方策になりました。 中国や韓国のように儒教の影響を本質的に受けなかったので、日本の心情 は弥生時代以降は協働つまり「和の精神」が中核になっています。
「話せば分かる」や「以心伝心」は日本の文化が長年にわたって蓄積させ た心情で、他国の人に分かれと言っても分かりようがありません。 海外でコミュニケーションするときにはその国の言語を使わなけれならな いのと同じです。 ところが現代社会の中でもこのことが言える組織上の現象があります。
人は自分のことしか分かりえず、場合によっては自分ことも分かりません。 それなのに、組織の中では部下は上司は何もわかっていないと愚痴り上司 は全く同じことを言います。
組織の経営・管理(マネジメント)を行うためには、この前提を理解する ことがマネジャーが持たなければ基本的な教養です。
マネジメントの基本機能のマーケティングは、顧客の欲求から始めます。 これはマネジメントの基本原則ですが、従業員についてもこのことが当て はまります。 従業員に頑張ってほしいなら、従業員の欲求の理解から入ります。 これはすべての経営活動に言えることで、相手の欲求から入ります。

19世紀の先進経営モデル

給料を支給すれば、人はその組織によほどの悪条件でない限り所属します。 さらに、上司や同僚の人間関係がよければなおさら辞めません。 しかし、そうだから業績が上がるかといえばそれは別事です。
業績がアップするのは、正しく仕事が設計されていて社員が強い意欲もっ て正しく設計された仕事に取り組むからです。
この正しく仕事が設計されていて強い意欲をもって社員が取り組むという ことを、経営者がどのようにマネジメントするかが管理の要件になります。 たまたま手に入れた鹿島茂氏の「デパートを発明した夫婦」という新書に そのことを紐解く記述があります。 フランスでの成功例なので、国際基準をクリアし参考になりそうです。
デパートはフランスで“ブシコー”という経営者によって発明されました。 当時では、現在のディズニーランドのような感覚で受け止められました。 戦後すぐに育った人間にとっては、デパートに行くというのはテーマパー クに行くのと同じ感覚で当時「ワクワク」したものです。 そのデパートの発明は、19世紀の中ごろから後期にかけてのことです。
少し本筋とは関係ないのですが、デパートの発生について分析します。 デパートの発明に至るには、それに先行する条件が必要です。 まず、大量生産があること、消費者が購買できる都市環境があることです。 大量生産は18世紀後半から起こった産業革命によって芽生え、都市環境 はパリの大改造、乗合馬車の普及、ガス灯の発明等で条件が整いました。
消費環境が整ったことで大量消費の時代に入ります。 最初は流行品店の発生で、この流行店の形体は現在の高級専門小売店とし て受け継がれています。 この流行店の競争のなかで、さらに発展形として豪華な店構えと豊富な品 揃え、さらのセンスの良い店員の接客応対のデパートが生れました。
ここから本題に入ります。 豪華な百貨店の販売装置の主役が、売場の店員のセンスの良い応対です。 このセンスの良い応対は、人の好意によってなされるものではありません。 そこには、店員が愛想よく接客が実現させるための仕掛けが必要です。 そこには、人をしてそう仕向けて行く「動機づけ」がありました。
“ブシコー”がつくったデパートは「モンマルシェ」というのですが、 モンマルシェの管理は現在に先駆けるものであるとともに、その手法は今 日でも古くなく現代企業が参考にして取り入れるモデルになっています。 今では一般化された「サラリーマン」や「ホワイトカラー」の出現は、こ の「百貨店」経営から始まっています。
「モンマルシェ」という百貨店で行われたのは大量消費の革新(イノベー ション)で、よいものをより安くのディスカウントが行われていました。 自社商品の企画開発こそなされていないものの、「ユニクロ」にも勝るリ ーズナブルな「お買い得」で、阪急や高島屋にも優る店舗構えと魅力的な ディスプレーが行われていました。
豊かな社会になりあまり意識しなくなったのかも知れませんが、人は「生 きるための糧」を得なければなりません。 取りあえず糧を得ると、豊かな生活がしたいという願望が生れさらに上位 の欲求も生まれてきます。
この欲求を適えるため条件を整えて導くことが、「動機づけ」の要諦です。

近代管理の要諦

驚くことに「モンマルシェ」には社員食堂や一部社員寮までありました。 もちろん無料で、社員食堂では半リットルのワインもついていました。 社員食堂の完備には、3つの経営上の工夫があります。
1つは従業員の健康を慮ってのもので、2つ目は決められた時間の交代で 遅刻を防止し定時勤務ができ、3つめは固定給を圧縮できることです。
顧客が百貨店に対し最初に求めるのは、商品の良しあしです。 そのために行われなければならないのは、魅力的で安価な商品の調達です。
それを実現するためにとられていたのが独立売場制で、売り場主任に仕入 から販売まですべて任され一定の予算のもとに実施されました。 売り場主任は売上の一定歩合を固定給とともに受取ることになっています。

そこで疑問がわくのが、安く売れば売上が上がるのだから安くすればよい とのことになりますが安全弁もありました。 売り場主任を統括する取締役がいることで、取締役の報酬は固定給プラス 純利益の一定比率の歩合です。
売り場主任の配置換えや更迭されできる取締役がチャックを行います。
商品の魅力と価格は顧客の最初に要望ですが、次に求められるのは快適な 買物環境ですが2つの要因があります。 一つ目は建物や売場のディスプレーなどの物的環境で、もう一つは販売員 のテキパキとしてかつ親切な人的環境です。 物的環境は経営者が整えるもので、人的環境は販売員によってなされます。

快い接客は販売員によって行われるのですが、「モンマルシェ」では「商 品の質」と「店舗の雰囲気」によって「消費のよろこび」を与える商業哲 学を持っておりそれらを相乗する役割が与えられていました。 この接客の実現のために「マニュアル」があり、促進のためには後述する ゲルト制があり逸脱行動抑止のため監督者による解雇勧告がありました。
少し「よもやま話」的でなくなって来ていますので、さらりと要点だけを 述べて行きます。 やる気の仕掛けは、「ゲルト制」と呼ばれる歩合制で担当した顧客への売 売上額の一定率で固定給よりも多く支給されていました。 販売の機会均等のためには、「ローテーション」制が行われました。

人事労務管理は、人材を活用し成果を実現させるための大切な要件です。 「モンマルシェ」の事例として理解するに際して、2つの側面に注目して 観察して行きます。
2つの側面とは「やる気」と「帰属意識」に関してのことで、この2つは 別の物でありながらお互いを補完する形で絡み合いあってもいます。

「やる気」と「帰属意識」が複合する終着点は運命共同体としての在り方 で、日本の企業で言えば「トヨタ」が思い浮かびます。
管理の要諦は、成果の実現つまり顧客の欲求をよりよく満たすために管理 者・従業員がよりよくこの目的に向かって活動を実現できるように誘因を 与えて導いてゆくことです。
ここまでは特に参考にはならないのですが、
「モンマルシェ」の経営者の先見性と博愛精神は、現在の中堅企業では当 然とする制度とさらに進んだ制度が取り入れられることになりました。
その制度とは、「段階的昇進システム」と「利益循環サークル」と販売員 を「顧客の紳士・淑女」と同じ「紳士・淑女」に育てる制度です。

「紳士・淑女と同じ紳士・淑女に育てる制度」とは、知る限りこのような 考え方を持っているのは「リッツカールトン」だけです。
百貨店の主な顧客は中流以上の紳士・淑女で、この人たちに心地良い接客 を行えるよう外国語習得、楽器演奏などの教養講座や社員割引を活用して の服装を着装などの身だしなみが義務付けられました。

「段階的昇進システム」は、規則的な昇進システムで一段一段と落度なく 試練を乗り越えていけば最終的には代表取締役まで昇進できる将に現代企 業と同じシステムです。 売り場主任ともなると、売り場の仕入れから販売さらに販売員採用までの 権限が与えられ「京セラ」のアメーバより強力が権限を有しています。
「利益循環サークル」は、企業が利益を計上すればするだけ社員に還元さ れるシステムで社内貯金の割増利息、ストックオプション的持ち株制度、 退職金、年金制度で利益が計上されればされるほで利益が分配されました。 自身の努力が自身の生活安定さらには豊かさとして循環されます。 ここに「段階的昇進システム」と相まって運命共同体が形成されました。

「人の管理」について解説

少しまだ追加して述べて行きますので、おつき合い下さい。 管理の目的は唯一成果を実現することで、管理者の職制があるから義務と して行うものではないと言えます。
また管理にはコストを要し、できればない方がよくしなければならない場 合でも費用対効果を考えて焦点を絞り最小コストで行うことが肝要です。

管理にはふたつの領域があります。 それは「仕事」そのものの領域で、顧客に満足を提供する「効用」は何か その効用のために必要な活動単位は何かさらにどうプロセス化するか。
もう一つの領域は、それらの「効用」を創作するのは人であり、その「効 用」のための活動を力強く実行させる人であるということです。
京セラの稲盛さんは、社員に自分と同じようにオーナーシップ(経営者意 識)を持って仕事に取り組んでほしいと考えて工夫しました。

一つは、「アメーバ組織」の各アメーバに権限と成果責任を委ねました。 もう一つは経営理念を「『全従業員の物心両面の幸福を追求する』と同時 に、人類、社会の進歩発展に貢献すること。」としています。

2014年 6月資生堂の社長に就任した魚谷雅彦氏が、コカコーラの営業 部長だった時の感慨なのですが。
業績が目標に達していなかったときに部下に叱責したそうです。 その時に思ったのが「叱責」になんの意味があるのだろうか、目的は業績 を達成でそうしたら何をすべきかを考えたそうです。