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62回目 成果を生み出す超管理

動物の調教と人への管理

テレビのふとした番組から「あっそうか!」というマネジメントのエッセン スがうかがわれえることがあります。
それも決して経済番組だけでなく、このときはNHKの「ためしてガッテン」 で「犬の記憶は2、3秒しか持たず、褒めるにしても叱るにしてもこの時間 を逃したら飼い主の思惑がまったく分からない」という解説でした。
この2、3秒の時間が経過すると、特に叱られたときは犬は悪い行動と罰が 結びつかないそうです。 猫の場合の記憶もそうですが、ただし猫の場合は犬のように飼い主に従順で ないので叱られたら攻撃を受けているとしか感じないそうです。 猫を飼った経験がないので「あーそうなのか」と思ってしました。
少し飛躍してサーカスでのライオンやトラの調教ですが、確かにこの猫族の 猛獣たちも調教をされています。

ここで行われているのは恐れの活用で、「鞭」や「先端に釘のついた棒」に よる一撃が猛獣を一定の行動に導く「唯一の方法」です。 熊なら蜂蜜が効果がありますが、猫族の調教は「餌」でも無理なようです。
ところでここで考えたのは賞・罰の管理上の意味合いです。 人の場合は、どうなるのかということです。 話はまた飛躍するのですが、池井戸潤の小説をもとにしたテレビドラマ『下 町ロケット』でのモノづくりの情熱と人が働きたいと思う心の在り方とは何 かということです。
マネジメントの創始者の「ドラッカー」によると「仕事の基盤が知識に移行 した」といっており、また「人こそ最大の資産である」と言いさらに「組織 の違いは人の働きである」と言い切っています。
「鞭」を使って、また「餌」で釣っても「ガウディ(心臓の人工弁)」をつ くろうとする思いは生み出せないでしょう。
『下町ロケット』はテレビドラマなのでモノづくりの感動よりも権謀術策が 表面に出て「正義が勝つの物語」になっていますが、その感動の何割かはモ ノをつくる喜びが共感を呼んでいることでしょう。 以前ホンダの6代目社長であった福井威夫氏が、「自分のしたいものをつく る。それがホンダの製品になる」といっておられた記憶があります。
昔の話ですが、元公設市場でスーパーになった店舗がありました。 いつ行っても何かしらチラシ以外の目玉商品があり、通路には小さなゴミ一 つ落ちていずまた商品の陳列も行き届いていました。 パートさんの質が非常に高いなあと感心し、どのように管理すればこんな風 になるのか知りたいと思っていました。
ある時、そのスーパーの理事長(というのはここは公設市場がスーパーにな った店舗です)に話を聞く機会がありました。 「なんでか分かるか。それは社員が気が付いたら、すぐにゴミを拾い商品を 整頓するからや」と言われました。
社員というのは、元公設市場のときの個店の「元店主」だと言われました。
このスーパーは周辺のスーパーに比べて独り勝ちの状況でした。 ついでに聞いたのが、なぜ商品が安く売ることができるかということです。 この時に言われたのが「それは安くしたら多く売るやろ。そうしたら卸が好 条件で、ほっといても売り込みに来よる」ということでした。 それは簡単な論理で、「多く売る」から「安く仕入れる」ことができます。

管理の意味

少し本筋からズレたので、管理について考えて行きます。 モノづくり(サービス業も含みます)の「勝負どころ」がハイレベルの満足 を実現させることなり、重点が「労働」から「知識」に移行しました。 「知識」経営は多くの人の能動的な協働なくしてなされず、その機軸である 「経営者」の「あるべき考え方」が鍵になります。
経営学では、人の定義において「経済人モデル」というものがありました。 人は知性があり、意思決定および行動は「合理的な判断」に基づいて行われ るというものです。
そこでの管理の手法は「飴と鞭」が主体になります。 しかし、現代経営で「飴と鞭」のみで大成した企業などどこにもありません。
急激に成長した優良企業に「京セラ」や「日本電産」がありますが、この企 業の経営者である稲盛さんと永守さんには同じような行動が見られます。 それは「あなたこと知っており、気にかけている」という意思表示です。 古来人に抜きんでて成功を勝ち得る人には、洋の東西を問わずここの「勘ど ころ」をきっちりと押さえています。

戦国時代では武将が「旗差し物」という目印を背負っています。 だれが手柄を立てたかが一目して軍目付(いくさめつけ)に分かるようにす るためのもので、軍功によって地位も富も手に入れることができました。 武田信玄などは、合戦のその場で「甲州金のつぶ」を感状(後の恩賞の約束 手形)とともに実感できる形で与えています。
働く者にとって、経営者に「個人として存在」を知ってもらい評価してもら えるということは何にも替えがたいよろこびです。 場合によっては、報酬以上のよろこびを感じることさえあります。 稲盛さんは、高熱をおしてまで全ての忘年会に参加しました。 永守さんは、2千人の従業員に賞与とともに本人宛ての手紙を添えました。
人の情が経営の根幹であることは、有能な経営者であれば古来から知りつく されたことです。
戦国時代、中国地方を制覇した毛利元就は律儀な性格で、正月の祝いの宴で は元日から10日間もの間酒席をはり末端の配下とまで盃を酌み交わして歓 談し親しみの情を示しています(ただし、元就は下戸だということですが)。
経営者に個人として知ってもらえ、良きにつけ悪しきにつけ注目されること は「安心感」と「やる気」を引き出します。 豊臣秀吉が元気なころは「人たらし」の名人で、他の武将の配下でもこれは とおもう武士には功績を褒め称え自分の配下になるよう誘っています。 元首相の田中角栄は、2万人の顔と名前が一致したと言われています。
管理は科学でもありますが、集団の感情を揺さぶる熱意でもあります。 永守さんは人材を育てるにはどうしたらよいかを考え、行き着いてのは世間 で言われている「褒めて育てる」ではなく「叱ること」と看破したそうです。 しかし、ここからが工夫のいるところで10分「叱った」たら、そのフォロ ーを2・3時間かけたと言っておられます。
このようなフォローについては、松下幸之助さんや本田さんも同じように心 使いを行っています。 松下さんは結構口汚く罵声するそうですが、そのフォローは理性的で「あん たが必要だからそうした」とういうこと懇切に言い聞かせたそうです。 直に話すこともあれば、奥さんに電話し間接的に伝える場合もありました。
本田さんの場合は、直情的なので気に入らなければゲンコツはもちろんハン マーなどもとんできたのだそうです。 しかし、おもしろいのはその後で必ず後悔するそうで、いつもやりすぎた思 い翌日にはきまり悪そうに冗談を無理に言ったりするので、それがなんとな く可愛げと面白味があり一見落着になったようです。
世界ナンバーワンのシェアを持つ空調メーカー「ダイキン」には、経営の基 本としている「人を基軸に置いた経営」という考え方があります。 その考え方の実践として、鳥取市青谷町にある宿泊滞在型の研修施設「アレ ス青谷」で行われる5泊6日の『新入社員研修』があります。
その研修には、社長をはじめ役員も参加して実践されます。
この研修は約8割の時間をグループディスカッションに費やすのが特徴で、 「どのように働き、どう成長したいのか」「最強のチームを作るため何をな すべきか」などをグループ間で議論し自身を見つめ直すことを促します。
「人を基軸に」が確信になったのは「タイムカード廃止」が切っ掛けで、管 理しなくなったと同じくして定時きっかりに仕事を始めるようになりました。
ユニークなのは、会社役員たちとの円卓を囲んでの対話です。 そこで交歓される対話は、まったくのざっくばらんな居酒屋トークです。 研修の打ち上げにはキャンプ・ファイアーが行われるのですが、そこでの社 長をはじめとする役員の役割は「火の番」などのもてなしです。
ここで重視されているのは、職制を超えた「人の交わり」です。

トップ経営者のスタイル

成熟した社会では、一番の商品(サービス)のみが顧客の支持を受けます。 ただし、顧客の好みは単一でないので一番といっても幾つものパターンやバ リエーションを持ちますので差別化による対応が可能になります。 最高のモノづくりは一番優れていなければならないのですが、その取り組み 方はお国柄や経営者の個性、経営スタイルによって趣が異なります。
たびたび説明のために引き合いに出しているのですが、GEのジャック・ウ ェルチですが究極の管理スタイルは「文化」であると言い切っています。 ジャック・ウェルチは「わが社は一流のA級の人間しか必要でない」と言い 社員をABCランクで評価しCランクの社員は淘汰しました。 ただし、ここでのAランクの条件にはそれなりの含蓄があります。
アメリカにかぎらず日本でも大成した経営者には元スポーツマンが多くいま すが、GE社のジャック・ウェルチもそのような一人でしたから、チームが 勝つにはどうすればよいかは熟知していました。
勝つ意識をもったメンバーが、それぞれの得意なポジションで何をしなけれ ばならないかを理解し最高のパフォーマンを実行することです。
ジャック・ウェルチの言うAランクの人材とは、まず真摯な人柄であること 価値観を共有し、先見性があり決断力を有しかつ実行力がある人です。
その価値観とは、官僚主義を嫌悪し高い目標を設定してあらゆる人を参加さ せ、明確で現実的なビジョンを示して周りの人に活力を与え、多様性を認め 境界を設けず品質とコストとスピードを重視することとしています。
Aランクの要件ついては、「バリューカード」として各社員が所持させます。 そこでの経営者の役割は、大きなチャレンジする事業ドメイン(基本的な事 業展開領域)を示したうえで、業務と相性がよく刺激を得られ興奮できるポ ジションに社員を配置することです。
あとは権限を委譲したうえで勝利を意識できるように支援します。 経営者の仕事は、公正で誠実な文化を構築しつつ将来性のある社員を絶えず 探し出し教育し配置し業務状況や改善点についてはオープンに向き合って話 し合い合意点を見つけてやらせて成功させて評価することです。
ここでは、経営者の仕事のほとんどは人事にかかわる仕事であると言えます。 ジャック・ウェルチはトップ700人の報酬の決定を一人で行いました。
GEの管理法について、ジャック・ウェルチの以前と以後はまったくそのあ り様が一変しました。
以前は、経営者を補佐するスタッフが権限の中枢を握り、見栄えのよい経営 戦略計画作成を促し評価することでした。 その官僚的な作業には、膨大な時間と作業が費やされました。
人材の活用と仕事は、唯一顧客の欲求を満たすことに焦点が絞られなけれな りません。 「戦略」は論理的な戦略計画を立案することに意味があるのではなく、余計 な「作業」を廃し「顧客が満足」する「効用」がいかに実現できるかにあか り「焦点」を絞り「集中」することに意味があります。
「選択と集中」は、ジャック・ウェルチにより重視される考え方になったの ですが、それを上回るのがアップルのスティーブ・ジョブズと言えます。 ソフトバンクの孫さんは「情報革命で人々を幸せ」を旗印に「選択と集中」 で「IT」にかかわりますが、スティーブ・ジョブズは「これで社会が変わ ってしまう」という芸術家感覚で「革新製品」の創造を行ってきました。
スティーブ・ジョブズには人材を見つけようという考え方はあっても、人材 育てようという欲求はありません。 これはという人材がいれば、ひつこくあらゆる言葉を使って引き抜きます。 とにかく世界に未だかってなかったことを目論んでいるのだから、Aランク さえ超えた超一流を集めそして酷使して不可能を可能にしてしまいます。
ここには「管理」なんていう考え方は、最初からありません。 自分がIT業界の常識を破るのだという使命感と、それを実現するための具 体的商品イメージから始まります。
後は、それを創り上げ販売する手立てをひたすら追求します。 不可能を可能にしてこそ、そこに拡がる成果は計り知れないものとなります。
非常識がスティーブ・ジョブズの常識で、販売時期から逆算して商品開発を 行うので週80時間の仕事漬けはごくとうぜんの日常となります。
虐待ともとれる仕事に社員が耐えれるのは、ジョブズの脅しと賞賛を交えた 説得にもよりますがそれ以上に不可能とされる革新商品が現実に完成する歓 びと創り上げることができた達成感が替え難い「意味」を与えるからです。

≪アベノ塾≫ URL:http://abenoj.jimdo.com/