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12回目 産業心理学(やる気の研究)

ホーソン実験(最初の発見)

人には感情があります。 感情を無視した経営は無策で、大きな成果を生み出すことはありません。 ところが、給料さえ払えば働くのは当たり前という考えがいまだに生き続けています。
せっかく縁があって雇用したのに、最大の能力を発揮してもらえないというケースが一般的です。 極端な例で、人のやる気の根源を説明します。
戦争になったとき、国を守るため、栄誉を得るため、人は命をかけて戦います。 もちろん臆病で自分のことしか考えない人もいますが、その人でさえも本人の誇りと価値観と大切にしている ものにかかわったとき、思わぬ爆発的な行動を取ることさえあります。
初期の経営学においては、労働力は手段でフレデリック・テイラーの科学的管理法が主流でした。
合理性と知性が人間の労働を律する原理であると考えていました。ところが、 エルトン・メイヨー、フリッツ・レスリスバ ーガーがアメリカのホーソン工場で行われた照明実験から 思わぬ結果が出てきました。
これは作業条件と従業員の作業能率の関係を分析するを行った実験です。 なんと、照明環境が悪くなっても能率がさらに向上したのです。 物理的条件外で、作業能率を向上させる要因があることが初めて認識された実験でした。
客観的な職場環境よりも「職場における人間関係」が、能率にかかわるのではないかという仮説が導き出されました。 この発見が現在経営学の新たな扉を開きました。人こそ「最大の経営資源」です。 人の持つ能力を最大限に発揮させる、人の心を主とする経営こそが強さを実 現できる経営であり、松下幸之助さんが「私の会社は人をつくっています」と言われた真髄です。

「所属する理由」と「やる気が出る理由」

「お金が人がやる気を出させる唯一の手段である」という考え方が直截的で多くの経営者がそう信じています。 従業員は一段能力が劣るのだから、命令しお金で釣ればいいんだという考えを主張もすることもあります。 しかし、その「考え方」で継続して業績を上げている事業所を見かけたことがありません。
業績を上げるには、「人とは何か」を知る必要があります。働く人の「やる気」を出させるにはどうしたらよいか。 この課題は経営者にとって永遠の課題ですが、そのことに答える理論があります。 アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグ動機付け・衛生理論です。
約200人のエンジニアと経理担当事務員に対しての調査によって確かめられました。 結論は「満足する要因」と「不満足を引き起こす要因」は異なるということです。 「仕事上どんなことによって幸福と感じ、また満足に感じたか」「どんなことによって不幸や不満を感じたか」 という質問を行いました。
人の欲求には二つの異なる種類があり、それぞれ人間の行動に異なった作用を及ぼすことが分かったのです。 たとえば人間が仕事に不満を感じる時は、関心は自分たちの「作業環境」に向いているのに対して、 人間が仕事に満足を感じる時は、その人の関心は「仕事そのもの」に向いています。 前者を「衛生要因」、後者を「動機付け要因」と名づけました。

<動機付け要因> 仕事の満足に関わるのは、「達成すること」「承認されること」「仕事その もの」「責任」「昇進」など。 これらが満たされると満足感を覚えるが、欠けていても職務不満足を引き起 こすわけではありません。

<衛生要因> 仕事の不満足に関わるのは「会社の政策と管理方式」「監督」「給与」「対 人関係」「作業条件」など。 これらが不足すると職務不満足を引き起こします。 満たしたからといっても満足感につながるわけではなく、単に不満足ではな いという精神衛生が悪くないという意味しか持ちません。
少しややこしいのですが給料が多くていい人間関係恵まれていれば、その職 場を辞めることはありません。 しかし、辞めないけれど一生懸命仕事にチャレンジすることはありません。 人によっては遣り甲斐がないので転職する人も出てきます。
一方自分の好きな仕事を任され、その仕事に生きがいを感じると時、さらに それが達成され周りの賞賛を受けるとき遣り甲斐は最高潮に達し一生懸命に チャレンジします。 ただし、給料が安く人間関係が悪ければ会社を辞めてしますこともあります。 「不満の要因」と「満足の要因」は全く異なります。

3Мという会社の「やる気の経営」

アメリカに3Мという会社があります。 産業分野から生活関連分野、ヘルスケア分野に至るまで、広範にイノベーションを提 供しているグローバル企業です。 超優良企業でイノベーションをもっとも重視する会社です。
同社には「15パーセントルール」という不文律があります。 これは、従業員が勤務時間の15%を日々の仕事にとらわれない活動にあてることを許 すというものである。 また全売上高のうち、発売から5年以内の新製品が占める比率が3分の1以上の占有率 でなければならないという目標もあります。

この会社にはたくさんの事業部がありますが、その成り立ちがユニークです。 事業部は従業員のアイディアから出発します。 従業員が自分のアイディアを商品化したい場合、自分の所属している事業部に売り込み ます。それがダメであれば、他の事業部に売り込みます。
事業部も新製品の占有率を上げなければならないので、よいアイディアを探しています。 そのような仕組みでよいアイディアの商品化が積極的に促進されており、 商品開発の承認が得られれば、自由にメンバー選ぶことができ予算もつきます。 もちろんアイディアのほとんどは成功するわけではなく、おもしろいことに「最低1度 プログラム没にする」と表現さえあります。  それは困難の連続で商品化に至るには10年、20年に期間を要すると言われています。 執念により成功した新事業チームがやがて事業部になってゆきます。 だから、事業部の役員はベンチャーのチャンピオンであり、新製品占有率の達成の目標 もありチャレンジャーへの理解度および効果的な支援体制が整っています。

日本では京セラの「アメーバ組織」が近い仕組みを持っています。 成熟化しグローバル化しかつ競争が激化している環境においては、「イノベーション」 と「知識」が企業が生き残るための必須の要件になっています。  この2つの要件をつくりあげるのは、人の持つ「やる気」をいかに引き出すかがポイン トになります。もちろん成功の結果の報酬もインセンティブ(誘因)になりますが、 上記で示した「動機付け要因」をいかに経営の基本に取り込むかが中心課題になります。
経営は人(顧客)を目的に、人(働く人)によってなされる活動です。 人は知性とともに感情をも有しています。 経営力を最高に発揮するには、このことに対する認識(知恵)が最も卓説性を実現する 現実認識です。