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75回目 成果倍増プラン

経営者相談の事例

ある企業の女性の経営者の方から相談がありました。 その内容は「売り上げ2億円が達成したので、この機会に思い切って倍増の4 億円を目指したいと考えている。ついては社内体制の整備を考えているが、ど のようにしたら良いか。」というものでした。 ここでふと考え込んでしまうのは、方法はあるが理解してもらえるかです。
その基本はいつも同じですが、理解してもらうとなると事は別なのです。 まず「経営コンセプト」「ビジョン」の策定についてですが、経営者および経 営陣の真摯な心と素直さがなければ失敗します。 さらに、実行レベルの中長期計画さらに単年度実行プランの作成に至っては全 社員を巻き込んでの価値観と知恵・知識のマネジメントが必要です。

「さて、どうするか。」。女性の感性と思い切って採用したデザイナーのセン スが強みとなって成長した従業員が10名の企業さんなのですが。 販売しているのは幼稚園・保育所の制服に特化しており、ネットで注文を受け て製造は外注を活用して行っています。 経営は、今でも健在の父親である会長の意見が重んじられています。
もともとは経営者の父親が制服の小売店を経営していたのですが、同業中堅企 業の進出をうけて差別化のためネットでの受注販売に切り替えました。 さすがにホームページのコンテンツは、かなりのレベルに仕上がりです。 そして同社の強みは、先に言ったように有能なデザイナーのデザイン力と顧客 対応力それにやはり中間業者を排除したコストパーフォーマンスです。

経営者が相談しに来られたのは、何かしらこのままの状況では限界があるので はとの予感があるからでしょう。 ここでいつも困るのですが、「組織体制」と言えば暗に例の「ピラミッド型組 織」の説明が求められ、そして次にうまく儲けるためにはどのようにすればよ いかの「ハウツー」が望まれることです。
私は相談を受けて最初に問いたいのは「御社のミッションは何ですか。」で、 これを言ってしまうと「エッ、何ですか、それは。」と言われます。 「先生は、実務をよく知っておられないのでは。」と続き、それからは軽い軽 蔑と無視が始まります。 だから間違っても、この問いからは始めることは良策ではありません。

格好良くやろうとするならば、過去の財務分析からはじめて見栄えの良いパワ ー・ポイントを活用して「過去分析」を行うことです。 そして過去の成功・失敗についての解説を行い、現状から窺い知れる未来像を 「数値」中心に予言します。 そして、提言として中小企業白書から抜粋した「エッセンス」でまとめます。
創業のその初めには「ミッション」や「経営コンセプト」「ビジョン」などと いった俗にいう「御託(ごたく)」などなくとも成功はやってきます。 「時代の欲求」の潮目に乗って「ガムシャラ」にやり切ることです。 しかし、ある程度成功すると、ここからが経営の本番に入って行きます。 ここからは、組織立った力を結集する知恵の「経営」が必要となります。

企業にとって、いくつかの心しておかなければならないことがあります。 その第一は、企業が目指さなければならないのは「良い企業であること。」で、 決して大きさではありません。 業種・業態によってまた人材育成などの個々の状況によって、最も適正な企業 規模が決まりますが、このポイントを押さえるのには判断力が必要です。
二つ目は、21世紀の経営環境は、20世紀のそれとは異質であることです。 それはどこでも言われているように「変化が激しいこと」「消費者の欲求レベ ルの質的変化」「グローバル化」「情報化」の「4化」で、そのために計画を 立てるについては安定した時代のものでなくリスクを包含した「戦略計画」で なければ企業の存立は望めません。
三つ目は、市場(顧客欲求)は生き物であり、絶えず変化するということです。 また、その欲求のあり方は時間・場所の状況のよって質的にも異なります。 ここで言えるのは、顧客は選択肢のなかで「最高と思うもの」を選ぶことです。 このことが企業に絶えざるチャンスとリスクを同時にもたらします。 「最高と思うもの」を見つけて創るのが企業の仕事です。

ところで「『最高のもの』はこれで、このようにつくるのです。」と教えてく れるテキストや先生がいれば助かるのですが、残念ながらいません。 それができるのは、唯一「『最高のもの』をつくろうと思いかつやり通すこと のできる人たち」だけです。 経営者の仕事は最高のものを定めて、できる状況をつくり支援することです。
話をはじめに戻しますが、こんなことを経営者の方に知ってほしいのですが、 そこからより具体的にマネジメントの基本のところを話したいのです。 しかし、無理だと分かっているので、次善の方策としてSWOT分析やプロセ ス・マップをかみ砕いて説明して行きます。 さらに、バランス・スコアカードでも説明できれば上出来だと考えます。

人こそ最高の資源

経営で最も肝要で重要なのは「人、人、人です」と言い切れます。 お金も確かに大事ですが、有望な事業であることを証明できればタイム・ラグ はあるでしょうが、社会は見捨てることなく工夫と努力があれば集まります。 「最高のもの」は何かは「人でなくては」見つけ出せず「最高のもの」を創り 上げるのも「人の熱意と知恵と知識」なくしては成し得ません。
少し本題とそれるかも知れませんが「企業規模」について考えてみます。 私の行きつけのフレンチのレストランがありました。 決して高級で最高の料理を提供してくれる訳ではなかったのですが、料金がリ ーズナブルで味も手抜きがなくシェフもフレンドリーで12の椅子席はいつ行 っても満員でした。

ところで、このシェフには「本格派レストラン」という長年の夢がありました。 そこで、30席のグレードアップした店に衣替えを行いました。 そうしたら、途端に贔屓であった顧客が少しずつ来なくなったのです。 それは顧客が求ていた『最高のもの』というのが、グレードの高さではなくリ ーズナブルで手抜きのない料理とシェフの人柄に触れることだったからです。
顧客が求める『最高のもの』を創り上げて、提供するのが企業の「仕事」です。 『最高のもの』を創り上げるためには、どうしたらよいか。 そのために経営者がしなければならないことは、本質的に3つの事柄です。 一つは、自身が最も強みを発揮できる市場を定めて、顧客の「最高に求めてい るもの」を見極め、それがつくれる「最高の人材」を見つけることです。

戦後、急成長した多くの中堅・大手企業はこのことを実行し成功した企業で、 代表的な企業が、ソニーであり、ホンダであり、シャープであり、京セラであ り数をあげれば限がありません。 というより、よりよく成長するための基本原則と言えるもので、この原則から 逸脱してしまうと『最高のもの』はつくれなくなってしまいます。
ソニーの設立時の趣意書に要約ですがこんなことが書かれていました。 一、不当なる儲け主義を排す。一、経営規模はむしろ小なるを望み。一、極力 製品の選択に努め技術上の困難はむしろこれを歓迎。社会的に利用度の高い高 級技術製品を対象とする。一、従業員は厳選されたる小員数をもって構成し、 個人の技能を最大限に発揮しすむ。・・・基本原則そのものです。

「スマート・フォンは、誰がつくったのでしょうか。」と問われれば「スティ ーブ・ジョブズ」と答えられますが、厳密に言うと正解ではありません。 「大阪城をつくったのは、大工さんです。」と同じ類の問答です。 しかし、「スティーブ・ジョブズ」なくしては、また優秀な技術スタッフなく しては「スマート・フォン」はこの世に存在しなかったと断言できます。
同じように「ソニー」においてもテープ・レコーダー、トランジスタ・ラジオ、 ウォーク・マンは井深さんや盛田さんの存在なくして世にありません。 井深さんや盛田さんはそれぞれ優秀な技術者でもあったのですが、スティーブ ・ジョブズは優秀な技術者ではまったくありません。 トップの役割は、クリエイトして無理・難題を押し付け通すことです。
トップの役割は、従業員をして顧客の求める『最高のもの』を創り上げるため に人材を育成もしくは探し出し最高の環境条件を整えて任せることです。 ソニーは画期的な製品を次々に世に送り出しましたが、テープ・レコーダーの 責任者だった木原信敏さんが、当時おんぼろ会社だったソニーに入社したのは 「井深さんの会社なら、好きなことをやらせてくれそうな気がする。」でした。

一番最初の主題に戻りますが、企業を始めるに際して大切なことはソニーの趣 意書が示すように「ミッション」つまり存在の意義を明確にすることです。 人は「自分の好きなことに思い切り挑戦でき、それで生活できるなら」さらに そのことで「他から賞賛され」なおかつ「世のため、人のためになる」なら、 『人生の幸せが、ここに至れり』ということになります。
顧客が求める『最高のもの』を創り上げようとするとき、経営者は鬼にならな ければなりません。 鬼からせっつかれ堪え得るのはもしくは楽しめるのは「有意義で、好きなこと」 ができる時で、このことを知ることが松下さんの言うところの「経営のコツこ こなりと気づいた価値は百万両」に当ります。

前回旭山動物園の話をしたのですが、面白い話が語られていました。 オランウータンが13メートルのロープを渡って行くのですが、その先にある のがたった3個のピーナッツですが、それを見つけてニット笑うそうです。 ホッキョクグマはガラス越しの人間の頭を目がけて水に飛び込みます。 動物である彼らにとって、これは楽しくて行う行動だそうです。
人にはもともと「働きたいという欲求」や「成長したい欲求」や「挑戦したい 欲求」や「貢献したい欲求」や「認められたい欲求」さらに「表現したい欲求」 「知りたい欲求」「仲間がほしい欲求」があります。 これらの欲求があればこそ、今の世の中に文明が発生しました。 この欲求を満たすことができる経営者こそが、最高の経営者と言えそうです。

成果を実現させる仕事とは

今はもうなくなってしまったのかどうか、バブルの最盛期にはやたらに「箱モ ノ」の文化施設やレジャー施設がつくられました。 その施設づくりは優秀なエリート公務員が考えたのだから、間違いはないだろ うと我も彼も「赤信号、みんなで渡れば怖くない。」でつくられました。 そしてその「箱モノ」には、退職した公務員が再就職していました。
ここで言いたいのは公務員批判ではなく、こんな無策でムチャクチャなことは 「仕事」ではないということを声高らかに指摘したいのです。 そういう訳で、改めて「仕事」とは何かと、本当の「仕事」というものはどの ようにすれば成されるのかを吟味したいと思います。 さらに「成果」とは何かをも、併せて考えて行きたいと思うのです。

公的機関であれば、税金などの成果とはリンクしない財源があります。 民間の企業ではご承知のように「顧客への貢献」という「成果」がなければか つ経済的に実現されなければ獲得することはできません。 生産的に創造的に顧客満足を提供できることが「成果」であり、その「成果」 をもたらす活動こそが「仕事」であると言えます。
ところで「マネジメントの父」とも呼ばれるドラッガーは「断絶の時代」とい う著書のなかで「継続の時代」は断ち切られたと述べています。 情報化の進展、グローバル経済の出現、知識社会の興隆などが、時代をそのよ うに導き今や過去のパラダイム(規範)では物事を計れなくなっています。 テクノロジーの洪水が、すべての手段を短期間で変化させてしまうからです。

今という時代、よりよい仕事を行うについて「変化するテクノロジー」の活用 が大きな比重を持つようになってきています。 マイクロソフト、グーグル、フェイスブックなどITテクノロジーを活用した 今まで発想すらされなかった企業が、一気にビッグ企業となっています。 首を傾げます、これらの企業はどんな人の欲求に貢献しているのでしょうか。
テクノロジーは、今まで思いつきもされなかった人の欲求を満たします。 「人の欲求」とかかわる限り、未知なるテクノロジーが活用されて新たなビジ ネスが生れて行きます。 このことは新旧いずれの業種・業態においても成り立つことで、既存の業種・ 業態においても優位の差別化のためにテクノロジーの活用は必須です。

企業が競争優位をはかろうとするとき、二つの役割の人材を必要とします。 一つは「テクノロジー」をはじめとする知識を有する専門家であり、もう一つ は専門家が最大にその能力を発揮できるように環境を整えて調整し統制し支援 するマネジメントをもって貢献を行うマネジャーです。 企業が成果を実現させ貢献するには、この二つの役割が必要です。
そしてそのうえに決定的に必要な存在があり、それがトップマネジメントです。 企業の興廃は、ひとえにこのトップマネジメントの人間観や使命感を含めた価 値観のあり方と意志力に依存します。 自身のミッションの価値を信じ、人が持つ能力の限界に信頼性をよせ、やり通 すまでやめない意思がある時、それが組織の全体を貫き通します。

ここで少し誤解のないように話を続けますが、事業は現実です。 成功する経営者は人にやさしく寛容であるとはかけ離れていることも多々あり、 自分のビジョンを実現するために、専門家を煽て脅し報酬で釣りあらゆる手段 を駆使して最高の芸術品ともいえる製品を完成させます。 この経営者は「イヤな奴」とも称されたスティーブ・ジョブズもそうです。
スティーブ・ジョブズと似たところのある「伝説の経営者」と呼ばれるジャッ ク”・ウェルチは、評価が下位10%の社員は解雇します。 一方で人材を最大の財産として、最適な人材が見つかったらビジョンを明確に 示して予算を与え、あとはすべてをその人材に委ねます。 そして後は、チィア・リーダーのように応援するのが役目だと言います。
人材を育成し活躍してもらうには「社員が刺激を得られ、興奮できるポジショ ンに配置されているかどうかが肝心です。社員と業務の相性がよいのはもちろ ん、勝利を意識できるポジションに置かれているかどうか。個人が偉大なフィ ールドでエキサイティングな仕事をしてこそ、グレート・チームワークを発揮 することができるのです。」とある講演の席で言っています。

成果を果たす組織運営

仕事が成果を実現できるのは、人の感性が思い描くビジョンの完成度とそのビ ジョンを現実化させるあくなき情熱です。 トップ・マネジメントは、現実化させるについては最高の人材を結集してその 持てる潜在力を極限まで引き出しビジョンが顕在化するまで活用しつくします。 その人材の中には、クリエーターもマネジャーももちろん含まれています。

少しオーバーな物言いになっていますが、アメリカの伝説のトップ・マネジメ ントではそのようなスタイルが顕著です。 日本の伝説の経営者でも同じスタイルを原則としていますが、欧米や中国のよ うな割り切りではなく「世のためや、お互いの幸せのため」といった普遍の価 値観がより組織力を発揮させる説得力になっているようです。
ここまでの話ではビジョンと情熱について説明してきました。 少人数で行う事業であれば、この二つで充分にやり抜くことは可能です。 また、ビジョンがあれば、ベクトル(方向性)と活力が保全されます。 しかし、成果をはたす組織運営を行うには「正しい仕事の論理」「業務指標の 設定」「フィードバックの仕組み」「学習の場」が必要とされます。

≪アベノ塾≫ URL:http://abenoj.jimdo.com/