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25回目 企業にとってなくてはならない経営機軸

組織を成り立たせている「戒律」

仏教で三宝という言葉があります。 仏・法・僧の3つです。
仏は、お釈迦様ことでよくわかります。 法は、お経に書かれている教えのことです。 3つ目の僧が少しわかりにくくて、お坊さんのことではありません。 僧とは正式には「サンガ」のことで、サンガとは何かというとお坊さんの集 団、組織のことです。
仏教ではこのお坊さんの集団を大切に考えます。 仏教においては、俗世を離れた完全な平安つまり「涅槃」を目標として修行 が行なわれます。
ただ、人間とは弱いもので仲間が集まり、リーダーの指導の下に集団をつく って行わなければ挫折してしまいます。
そこで、修行をこころざす者が集いグループとして悟りを目指します。 ただ組織を形成するとそこには混乱が生じますので、その組織を機能的に営 ために「戒律」が必要になります。
NHKの「100分で名著」を見て驚いたのですが、どうもお釈迦様が後顧 を憂いて、集団の規範である「戒律」を残されたとのことです。 修行者である僧侶が人間の最終目的である悟りを開くを支援する仕組みを設 けられたということです。
組織論についてお釈迦様が認識しておられたということです。 もっともお釈迦様の出身部族であるシャッキャ族の政治形態を採用したらし く、きっちりした機能する組織の認識があったと思われます。 この基本的なあり方は、今日の企業の円滑な運営においてもまったく当ては まる「知恵」の結晶でしょう。
仏教僧団は小乗仏教、大乗仏教の僧団に分かれたものの紀元前から続く確固 たる基盤を維持してきている組織です。 組織論から見ても驚異の集団で、悟りを開くという基本目標のもとに「戒律」 により最も道理の適った組織運営がなされてきています。
少し脱線しますが、収益について考えてみます。 そこには布施という考え方があり、僧が世俗者に「法施」という知恵・知識 の満足を提供します。
世俗者はそれに感謝するとともに功徳を積むため、「財施」という財物の給 付を行います。 ここには、「幸福」を「効用」とするマーケティングが成立しています。 組織は「知識」を提供することによってマネジメントされていると言えます。
「戒律」に話を戻すと、「律」とは集団規則のことで、最も忌むべき行為は 殺人で即時に教団から追放されます。
面白いのはNHKの「100分で名著」のなかの話でのことですが、食事時 にペチャペチャ音を立ててはいけない規律があり、これに対する罰は反省す ることが課されます。
「戒」とは内面的な道徳規範のことで、これを守れないことは悟りを目的と する僧侶にとっては存在の根幹さえ崩壊させることになります。 すなわち、地獄へ真っ逆さまに転げ落ちることという恐怖へつながって行き ます。
仏教集団は、もっとも長く成功した組織です。 組織の基本的原理原則が、組織論から考えて最も理想化されています。 現在の企業においては、松下教と称された旧松下電器がその事例を提供して います。 それは、現在企業にとって心しなければならない模範となるものです。

現在企業の「戒律」

企業は社会にもっとも強い影響を与える組織です。
円滑に運営しなければ顧客に満足を与えることができず、顧客に満足を与えな ければ利益が得られず、利益が得られなければ存続できません。 あるべき組織運営がなされなければなりません。
そのためには、組織が本来的に目的とする「使命」をまず明確にしなければ なりません。 そしてその使命を果たすための行動規範として「戒律」があらねばなりません。
少し「使命(ミッション)」について考えてみます。 「使命」というと、企業の最終目的は「利益」を得ることだから「お金」さ え儲ければよいという意見もあります。 「使命」なんてきれい事だとも言われます。 ここには多くの誤解と思い違いがあります。
基本として考えなければならないのは、マーケティングの基本的解釈です。 マネジメントの教祖である「ドラッカー」はリアルなコンサルティング経験か ら次のように導き出しています。
マーケティングは顧客から出発し、「顧客を理解し、製品とサービスを顧客に、 合わせ」営業なくして自ずから販売を実現することであると明言しています。
「使命」とは「私たちの顧客」が求める「効用」をつくりあげることです。 顧客が渇望している「商品・サービス(効用)」をつくりあげ、それがここに あることを知らせ、適正な価格で、適正な流通ルートで販売すれば購入する機 会が生まれます。 このあり方以外に本質的なあり方はありません。
またさらに、あるべきもう一つの「使命」は、働く人に「働くよろこび」を与 え最大の貢献を引出し「働くことのよろこび」という「満足」を実現させます。 これは最大の経営資源たる人間の最大の活用法です。 と同時に企業が社会的存在として認知される正統性の根拠です。
企業の「使命」構想で代表的なものには、パナソニック(旧松下電器)とソフ トバンクのミッションがあります。
パナソニックのミッションは壮大なもので、松下幸之助さんは水道哲学として 「水道の水の如く物資を無尽蔵にたらしめ、無代に等しい価格で提供すること にある。それによって人生に幸福をもたらしこの世に極楽楽土を建設する。」 とあり、ソフトバンクは「情報革命で人々を幸せに」として、情報に特化した使命感を 提唱しています。
使命に基づいて行動することが「戒」にあたります。 トヨタの「戒」は「カイゼン」で、「乾いた雑巾を絞る」といわれるように、 生産性向上のために限りなく「知恵と知識」を絞り出します。 この「カイゼン」という「戒」によって新たな品質向上とコスト・ダウンを実 現させています。
ホンダの「戒」は、三つの喜び(買う喜び、売る喜び、創る喜び)で、創る喜 びは「お客様や販売店様に喜んでいただくために、その期待を上回る価値の高 い商品やサービスをつくり出すこと」で、 ホンダのマインドは「自分の好きなことを思い切り実現してください。そのこ とで企業の使命が実現されます」まさにパワー・オブ・ドリームです。
京セラではもっと明快な「戒」があります。 行動規範としての「京セラのフィロソフィー」で、エッセンスが箇条書きにし てまとめられています。
「経営のこころ」「すばらしい人生をおくるために」「一人一人が経営者」 「日々の仕事を進めるにあたって」として分かり易く述べられています。
「律」については、企業の「律」の中心は、「顧客の満足」の実現に関わる活動規範です。 そしてより以上の「顧客の満足」を実現することに対する活動規範です。 この活動の成否については「賞・罰」を持って適正に評価して、あるべき方向 に導かなけれなりません。
あるべき方向とは、顧客の求める欲求を明かにし、社会の変化のなかで機会を 見つけ、組織して携わる人の知恵と知識を結集させ、問題点を明らかにし、意思 決定し、計画し、実行し、評価し、分析し、改善して成果を実現させることです。 さらに、その過程において革新し新たな知識を獲得し、また人材を育てることです。
「組織」は「企業」の枠を超えて人間社会の中心基盤であり、普遍の原理・原則を 持ちます。
普遍の「法」である正しい「組織目的」のあり方と、それを実現するための「戒・ 律」は、企業存在のあるべき形を規定するとともに組織の永続を保証できるための 根本要件です。