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72回目 「思い込み」からの転換

利益についての「思い込み」

事業を行うについて、一番怖れなければならないのは「思い込み」です。 「天動説」はよく言われる例えですが、キリスト教文化圏では長い間「真実」 であり今に至っても一部信者はそのように信じているそうです。 アインシュタインの相対性理論では、光速に近くなると静止している人から 見ると時間が遅れるのですが「時間は一定だ」との反論が出そうです。
思い込むと、本人にとってはいつもそれが「真実」になります。 このことは人のごく一般的な習い性なのですが、公的な場で行われるとなる とその影響は甚大で多くの不祥事をもたらします。 その「思い込み」で最たるものでかつ最も顕著なものは「企業活動の目的は、 利益を得ることである。」とするものです。
面白いことに、利益をもたしてくれるのが顧客であり従業員の努力であるこ とそれを真摯に実現するのが責務であることを忘れてしまうことです。 東芝の最高学府で教育を受けてきた経営者がこのことを「思い違い」して、 「工夫しろ。」の一言で三代続けて部下が決算数値の改ざんを行ってしまい 株価の暴落を招くことになりました。

ここでは全く「顧客満足」の評価として利益を獲得するといった姿はなく、 さらに実際の「利益」すらも対象にしていないということになっています。 こうなると理由はどうであれ「利益」を獲得するベースは崩壊しています。 三菱自動車工業も同じで燃費データ不正は「顧客満足」とは相反する形です すめられており「利益」概念はまったく歪められています。
「勝てば官軍、という商売は、あかんよ。結局は、失敗するで」は松下幸之 助さんのことばで、続けて「社会に貢献するという使命を遂行し、その報酬 として社会から与えられるのが『利益』である。」とし「利益を生み出せな い経営は、貢献をしていないということであり、本来の使命を果たしていな い姿である。『赤字は罪悪』といってよい。」と述べられています。
ここで松下幸之助さんを引き合いに出すまでもなく「利益」は顧客の欲求を 知り、満たすためにどれだけ「知恵」をふり絞り「情熱」を傾けて幸運にた どり着いたを示す「バロメーター」です。 ドラッカーはこのことを「マーケティングは、顧客の『欲求、現実、価観』 からスタートする。」と表現しています。

少し違った側面から「利益」について考えてみます。 利益は経営者がおのれの贅沢のためのものであり「自分で稼いだ金だから、 誰に文句を言われる筋合いはない。」という「思い入れ」もあります。 金融機関の「貸すことのできない融資先」の筆頭に「外車を乗り回しゴルフ 三昧の経営者」にはお金を貸せないというのが不文律の常識です。
またよく勘違いされる「思い込み」に「利益」即「現金(キャッシュ・フロ ー)」というものがあります。 資金調達しなくても「利益」さえ得ていれば問題ないとするものです。 これも大きな「思い違い」で「利益」即「現金(キャッシュ・フロー)」で はなく儲ければ儲けるほど「現金(キャッシュ・フロー)」は不足します。
なぜなら「支払」は「回収」にいつも常に先行しますし、また業容が拡大す れば新たな投資のための資金需要が生まれてきます。 業績が急拡大している方がおられるとしたら、二つのことがらを肝に命じて 対策を講じる必要があります。 その一つは早め早めの資金手当であり、もう一つは人材の育成です。
牛タンとネギトロで確実に業容を拡大している「ねぎし」という関東圏に集 中して事業展開している店舗数36店舗の牛タン・チェーンがあります。 その評判からするともっと積極拡大してもよさそうなのですが、経営者には ポリシーがあり人材が育つまで拡大しません。 それは、最高の顧客満足は最高の人材でしか実現しないとするものです。

戦略計画についての「思い込み」

また、よくある「思い込み」に「戦略計画」についてのものがあります。 「戦略計画」の作成するについて、科学的に過去・現在を分析したそのうえ で専門家が未来を予測して計画をたてるとするものです。 ところが、いつも未来は予測を裏切ります。 「戦略計画」は、予測できないからこそたてなければならない「計画」です。
TSUTYAの社長の増田宗昭さんは自身を「起業家」と称していますが、 その「事業計画」の考え方はユニークです。 新たな業態開発にチャレンジするとき「赤字」を前提にして事業計画をたて るのだそうです。 それは、チャレンジしなければ未来は分からないとする考え方からです。
もともと「戦略」は軍事用語で「戦争論」を著したクラウゼヴィッツは「戦 略は、戦争における個々の軍事行動(作戦や戦役)に戦争の目的に適合した 具体的な目標を与える。」として「戦略が計画の軌道修正や細部の決定への 指針を提供する。」としています。 目標を達成するために、長期的かつ複合的に経営資源を活用する方策です。

すべての経済・社会環境は変化します。 戦後からしばらく経っての高度成長期では、モノが不足していたので「ガム シャラ」こそが戦略であり戦術でした。 この時代は「戦略」なき経営を行っても、自動的にすべての企業が成長する 特殊で恵まれた稀な時代でした。
今はと言うと、すべての経営環境は不可知的に変化しており「顧客のささや き」を足がかりにして日常的な手法としての「戦略計画」が求められます。 しかし「戦略計画」は構築するだけでは無意味で、よりよく実行することで 意味をなすのであり多くの条件を整えることが必要となります。 効果的な「経営戦略」の「実行」は「危機感」をバネにしたチャレンジです。
変化しない環境はあり得ず、絶えず企業は変化のリスクに曝されています。 しかし一方では、絶えずあらたな機会(チャンス)も生れています。 「戦略経営」といえば、やはりこの人を引き合いに出さざるを得ないのです が松下幸之助さんは最も秀でた戦略家で「万策尽きたと思うな。自ら断崖絶 壁の淵にたて。その時はじめて新たなる風は必ず吹く。」と言っています。

「戦略計画」は、構築したらそれでよしとするものではもちろんありません。 「戦略計画」は、リスクのなかで明確な目標のもとに危機感を持って全員が 心を一にして実行することによって適えられるものです。 「戦略計画」は、科学的な分析だけで適えられるような稚拙なものではなく 人の知恵と能力の限界を超えてチャレンジしなければならない実行です。
ここで述べたいのは成果を実現するには実行しなければならないということ で、よりよい「計画」をたてることだけではないということです。 そのため「戦略計画」の出発点は、使命感であり危機意識であり目標達成意 欲だということです。 この三つの基盤なくして、力強い活力は生れず成果の実現はありえません。
最近の三菱自動車の買収で相変わらずの「戦略判断」を行ったニッサンのカ ルロス・ゴーンさんは、あらためて戦略家の顔を覗かせています。 1999年の10月に日産の代表に就任したゴーンさんは、1年間現場を予 断を持たず白紙の状況で巡り問題点を把握したうえで策定した「戦略計画」 が「日産リバイバルプラン」でした。

「日産リバイバルプラン」は大きく3つの目標から成り立っていた。 それは「利益ある成長」「3年間で20%のコスト削減」「最適生産効率/ 最適コストの達成」の3つで、現場のコンセンサスを得たうえで自身の進退 (コミットメント)を賭けて身を切る状況をつくり挑戦を行いました。 ここでは「リバイバル」のため、例外を設けずコストカットが行われました。
ソフトバンクの孫さんは、孫子の兵法を発展させた「孫の二乗の兵法」で 7割の成功を見込まれるのなら思い切ってチャレンジすると言っています。 9割大丈夫であれば「もはや遅く」5割であれば「機は熟していない」とし、 考え抜いた7割なら勝負をかけると言っています。 それも7割に掛けて、3割の損失を計上したら即撤退するとしています。
未来のことや外部のことで分かっていることは、逆説的になるのですが「分 からないということが分かっている」とマネジメントの創始者のドラッカー は言っています。 じっとしていればやがては消えざるを得ないのなら、緻密・大胆に思索して 変化を機会であると捉えて実行することこそ「戦略」と言えます。

人事評価の「思い込み」

「人事評価制度」は最も誤解されている制度の代表です。 その誤解には、大きく分けて2つの事柄が含まれます。 1つは「評価するべき基準についての思い違い」もう一つは「把握しやすい 数値」のみを用いてパフォーマンスで評価することです。 経営者の役割は、成果が実現するように人材を育て支援することです。
心理学者「アドラー」についてのテレビ番組を見ていました。 そこでおもしろい「勇気くじき」というフレーズに、出くわしました。 この言葉は「勇気づけ」と対極のもので、人の持つ「やる気」や「上昇志向」 を「くじきさる」ものです。 「悪い人事評価」は、貴重な人的財産をマイナスの資産にする力があります。

また「ドラッガー」になるのですが、マネジャーとしてなくてはならない資 質がある「それは真摯さ」であると言っています。 困る上司に典型は「真摯さ」がなく自身の劣等感を誤魔化すために部下の失 敗を見つけてことさらに「勇気くじき」する人物です。 上司の仕事は、部下を「勇気づけ」して成果の実現を支援することです。
人事は採用に始まり育成それから適正配置、そして活用、評価と続きます。 中小企業でよく聞かれるのは「当社にはろくな人材しか来ない。だから業績 が、良くならないのは当たり前。」というため息の声です。 けれど、財閥系の一部の企業は別として多く大手企業に成長した企業は、ろ くでもないと称される従業員を育成・活用して大きく成長して来ています。
日本電産の永守さんも、創業時には一流大学の優秀な人材を採用しようとし たのですが応募してくるのは三流大学の「ブンブン、可可可」の成績の学生 ばかりで優秀な成績の者は一人もいなかったそうです。 この中でも素直な人材もいて、一見して不可能と思われる要望に対して知ら ないことの強みか根気よく挑戦して成果を上げていったそうです。

業績が良くなってはじめて一流大学の優良な成績の学生も採用できるように なったのですが、その学生の人となりを面白く人物評価しています。 これらの新入社員に、困難な課題を求めると「できません」と答え理路整然 と不可能であることを証明するのだそうです。 けれど、いったん道筋がついたものをまとめて行くのはさすがだそうです。
また、松下幸助さんなのですがこう言っています「人間は本来働きたいもの。 働くことをじゃましないことが、 一番うまい人の使い方である。」と。 ドラッカーは「専門分野の一つに優れた人を、いかに活用するかを知ること である。」と言っています。 人事評価を成果に結び付けるには、知恵と技術がなければ適えられません。
それも売上が上がるのは、商品開発部門のある担当者の功績なのに上司に気 に入られず無視されていたり、また愛想のよい女子社員の対応がその要因で あったるすることもあります。 業績評価については、成果・効用・プロセスを組み込んだ評価基準例えばA BC(活動基準原価計算)などの新たな導入が必要だと判断されます。 成果・効用・プロセス、ABC(活動基準原価計算)などについては、また の機会で説明させていただきます。

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