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13回目「0から始まり」喜んでもらって利益が生まれるミッション

「人の命を救いたいミッション」と事業の関係 

ドラッカーという経営学の大家が、事業は「ミッション」から入ると言っています。 しかし、この「ミッション」の意味が分かりにくいのですが日本語では「使命」 と訳されます。
先日、テレビの「カンブリア宮殿」という番組を見ました。そこでつくづく、このミッションの意味を知らさ れる実話が紹介されていました。
それは日本全国で医療用カテーテルのシェアが3割の東海メディカルプロダクツという会社のことです。
この会社は岐阜県と土岐市にある会社で、もともとは樹脂加工の会社で医療用器具とは無縁の会社でした。
そうしたらなぜこの分野に進出したかということですが、それは娘さんの心臓疾患と深くかかわる物語があり ました。経営者の次女の娘さんは、心臓に7か所の疾患を持っておられたのです。社長さんは、この娘さんの 疾患を治療したい一心で全くの素人なのに人工心臓の研究をはじめました。
東大、京大、阪大の医学部をはじめとして場合によっては工学部までありとあら研究機関を巡りました。その 結果、協力してくれる先生も見つかり人工心臓のモデルを完成されました。
しかし、実際の製品化には1,000億円の資金が必要であることより、断腸の思いで断念せざるを得なかっ たという経緯があります。
そのような中で出会ったのが、医療用カテーテルです。その時分のカテーテルはほんとんど海外製で、日本人 の身体に馴染まず命を落とされる方も少なからずいたのです。 その現場を目の当たりにしていた経営者が、心臓についての知識ともともとの本業の樹脂加工技術により3年 をようしてバルーンカテーテルを完成させたのです。結果から言うと、娘さんの命を救うことはできなかった のですが、多くの心臓疾患の患者さんの命を救うことになりました。
動機は娘さんの命を救うということだったのですが、心臓疾患の人を救うということがミッション(使命)と して事業を展開することになったのです。

パナソニック(旧松下電器)のミッション

ミッション(使命)と事業経営でもっとも有名なのは、パナソニックです。ミッションの教祖は松下幸之助さ んで「水道哲学」があります。
例えば公園にある水道から人が水を無断で飲んでも誰もとがだてをしません。なぜなら、水道の水のコストが ほとんど無料に近いからです。このような考えのもとに「松下電器の真の使命も、物資を水道の水のごとく安 価無尽蔵に供給して、この世に楽土(=ユートピア)を建設することである」と訴えられたのです。
それは1932年(昭和7年)5月5日、大阪堂島の中央電気倶楽部で開催された松下電器製作所(当時)の第1回創業 記念式の出来事です。
このミッションの構想は「建設時代10年、活動時代10年、社会貢献時代5年、計25年を1節とし、以後同じ方針 ・方途を時代の人々に伝えつつ、これを10節繰り返し、250年後に楽土の建設を達成しよう」という壮大なものです。
このミッションに感激して事業が始まったのが大松下へ登りつめる最初でした。ここには、松下さんのミッシ ョンと事業の関わりに関する鋭い洞察があります。
人には合理を超えて奉仕したい心を潜ませています。強い「やる気」は、無私の使命(ミッション)だからこそ 生まれとも言えます。
松下さんは、「どうしたら一生懸命働いてくれるのか」をいつも考えていました。その時に、旧知の方からたま たま誘われて行ったのが天理教の本部でした。そこで、無償であるにもかかわらずよろこんで懸命に教会建設に 携わっている信者さんの姿を見たのです。
天理教は「中山みきさん」という方が江戸時代の終わりごろに、たすけ合って仲良く暮らす「陽気ぐらし」の世 界の実現しようという想いで創設されました。
「中山みきさん」は裕福な家柄でしたが、神命に従い近隣の貧民に惜しみなく財を分け与え自らの財産をことご とく失っています。この天理教の信者のあり様に深く感銘して、思い至ったのが「水道哲学」です。
このミッションが、パナソニックを築き上げたきっかけを与えています。その精神は、現在も「私たちの使命は、 生産・販売活動を通じて社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与すること」という理念のもとに引 き継がれています。

ミッション経営の強みと「利益」

最初の項で説明しましたように起業に際しては、ミッションから始まると述べました。 それに続き「われわれの顧客は誰か」、「顧客にとっての価値」は、「われわれにと っての成果」は、そして「計画」の段階へと続きます。
東海メディカルプロダクツの「ミッション」は、「カテーテルによって人の命を救う」 というものです。この会社ではすべての人の命を救うことを目標にして、すべての人 の疾患を想定して商品開発を行っています。発想の原点は、利益を獲得するではなく 「娘さんの命」を救いたいでした。
もともと医学の知識のない文系の経営者が、自身の想いだけで10年の歳月をかけて 心臓の大家になりました。樹脂加工の技術にしても、つぶれる間際の会社を引き継い で培って築いたものです。
経営者の経営の「強み」を形づけているのは強い「想い」です。娘さんの命を救いたい 想いがミッションとなり、8万人の人を救う事業になりました。
経営者は「医療をやる以上は、利益追求はいかん」と言っています。現場の医師の要望 に応え常に新しい商品を開発し、絶大の信頼を得ています。 ドラッガーの言うところの「マーケティング」、まさに「顧客の欲求からスタートする」 の実践です。

無から「思い」だけで独自な製品を創り上げ、顧客(医者)の要望に応じて集中しチ ャレンジし革新により「より以上の強み」がつくられてきました。「量は出なくてもキ ラッと光る製品を作るのが」信条で製品開発がなされました。
利益については、「いいものを作って人を助ければ信用につながって、ひいては利益に つながる」。「患者数の少ないキラッと光る製品も、数が出ると利益が出る」と経営者 はふと言葉を実感をもってもらされます。社会が求めている要望に応えることが利益に つながっています。
結果論になりますが、東海メディカルプロダクツはマネジメントの教科書通りの活動を 実践しています。 マーケティング、事業は顧客の欲求からスタートする。イノベーション、新しい満足を 生み出す。事業はミッションから始める。一番になるには、自分の強みに集中する。
ゼロであっても、事業は強い想いがありマネジメントの原理原則と合致するとき実現する ものとなります。