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99回目 いつも新たな感動の『効用』づくり

陶磁器の革新(イノベーション)

陶磁器と一概に言うのですが、その違いを知ることはありませんでした。 その違いは、原料となる粘土の違いと焼く温度にあるそうです。
陶器は石質を含まない粘土を低温で焼くのに対して、磁器は長石を主成分と した粘土を高温で焼き使うのが特徴だそうです。
二つの器の主な違いはガラスになる成分と量の違いにあり、陶器は釉をかけ ない状態では吸水性があるのに対して磁気は水を全く通しません。

少し説明させていただいたのですが「陶磁器」とひとくくりでよぶのですが、 それぞれが持つ物理的な特性は異なり、従ってそれらに期待される効用(消 費者が、自己の消費する財から受ける満足の度合い)も当然異なります。
ところで陶磁器の「効用」は何んですか問われたらどう答えられますか。 「モノを盛る器(うつわ)だ。」とだけ答えるのであれば、その発想だけで は発展性はなくビジネス・チャンスを見つけることは全くできません。
「商品」は顧客が購入してはじめて「商品」になります。 購入してもらうための要件は一つで、それは顧客の求める「効用」が他のも のに比べて「より良く」あるかどうかにつきます。
「製品」が「商品」になるか「ガラクタ」であるかは、作り手がどのような 思いを持っているのかまた努力をしたかには直接にはかかわりなく「使い手」 の都合に委ねられてしまっています。

「マーケティング」とは「使い手」の都合に合わせて考えることを言います。 「イノベーション(革新)」とは「競合関係」のなかまた「変化」のなかで、 より良くまた新たに「マーケティング」を実現させることを言います。
今日のように企業がグローバルな「競合関係」のなかにあり、また激しい変 化のなかにあるのであれば「イノベーション(革新)」は、企業(組織)に とってはもはや特別な活動ではあり得ません。 いつも「組織の体質」が「革新」そのものでなければなりません。
ただ、現れてはじめて分かる顧客の欲求が対象であるので、リスクを常態と して持てる経営資源を結集させてチャレンジし続けるより術がありません。
もしくは、スマートフォンのように最高と考える価値に標準を定めて「効用」 をつくり込むことが求められます。
ここでもしなければならないのは、持てる経営資源を結集させて「不可能」 を「効用」に形付けるまでチャレンジし続けることです。

陶磁器の「効用」を確認しながら2つの窯元のイノベーション(革新)から、 どん底から逃れるのだという必死で「思い」と「考え方」の転換で得られる 「成果」を見て行きたいと思います。
2社の出発点は、いずれも多額の累積赤字つまり借入金をどう返済するかに 迫られての「危機感」のなかでの「イノベーション(革新)」です。
その意味では「イノベーション(革新)」の覚悟は、それほどの瀬戸際の困 難のなかで知恵と決断がなければできないシロモノであります。

<伊賀焼の窯元長谷園>
伊賀焼は「陶器」です。古琵琶湖の湖底の有機物を含む粘土を焼くことで多 く気泡をもつ吸水性が特徴の焼き物です。
長谷園は老舗でその創業は江戸末期に遡り、現在は商品開発が得意な7代目 と経営センスのある8代目の親子の両翼で経営を行っています。
伊賀焼の歴史は小さな集積地であったので、江戸時代からずっと周辺の焼き 物の産地信楽焼などの下請けの仕事をしていました。 下請けでは将来の発展が見込めないので、6代目が建材タイルに目をつけて 進出したことで業容を一気に伸ばしました。
ところが好事魔多しで、1995年に発生した阪神淡路大震災で建材タイル の剥がれた建物の光景がテレビで映し出されると注文がバッタリ止まってし まいました。
ここで通常であれば建材タイルに見切りをつけるのですが、発明好きな7代 目は従業員を解雇せずになおもつくり続けました。 その結果、16億円の借金をつくってしまうことになります。

そんな時に、会社の窮状を見かねて8代目が、務めていた会社を辞めて経営 に参加しました。
すぐにしたことが、建材タイルからの撤退でした。 そして、次に目指したのは新たな主力商品の模索でした。 財産を取り崩しながら、探し求めたときにふと目についたのは発明家の7代 目の「土鍋釜」のアイディア・スケッチでした。
保温性抜群の土鍋でつくった「ごはん」がおいしいのは経験済みのことで、 3年の年月と1,000個の試作品の結果生まれたのが『かまどさん』です。
販売の当初はまったく反応がありませんでした。 ところが、料理研究家が雑誌で紹介したところ「おいしさ」と「手ごろさ」 が折り紙付であり瞬く間に口コミで評判を生み、75万個の「大ヒット商品」 になってしましました。
ちなみに本格的な「かまど風の炊飯器」が10万円以上のものがあるなかで、 風味においてそれを凌駕しているのに価格は5分のい1以下であれば、そん な人気を呼び起こしたのは頷けることです。
その後も、燻製鍋「いぶしぎん」など200種類の多様な機能の陶器鍋を製 作し続けています。
7代目は『作り手は、真の使い手であれ!』と「顧客目線」の新商品づくり を核心に据え、娘さんの辛辣なアドバイスを真摯に参考にしています。
「『伝統だから』と同じものを続けても誰も相手にしてくれない。求められ るものでなければ『民具』にならない。」と今の気持ちを述懐しています。

<有田焼の窯元カマチ陶舗>
有田焼は、佐賀県有田町を中心に焼かれる「磁器」で江戸時代には伊万里焼 や肥前焼とも呼ばれていました。
17世紀初頭豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に、肥前の領主鍋島直茂に同行してき た朝鮮人陶工李参平が有田町の泉山で磁器の原料となる陶石を発見されたこ とが始まりです。
1650年代には、オランダの東インド会社により東南アジアやヨーロッパに輸 出され、当時のヨーロッパの王侯貴族の間で「IMARI」と呼ばれステータスシ ンボルとして珍重され、現在でも高く評価されています。

カマチ陶舗は、明治の初めに有田泉山で起こした小さな窯「照右ェ門窯」に 始まります。 昭和28年に会社として創立し、1990年代後半頃までは日本料理店をはじめ とする顧客のオーダーメイドで「和食器」をつくっていました。
しかし、バブル崩壊時になるとライフスタイルの変化や高級食器の需要の低 下で売り上げは大きく落ち込んでしまいました。

そんな中で、先代社長の死去により代替わりするのですが、そこにあったの は数億円の借金でありいきなりの窮地に立たされることになります。 目をつけたのは「フレンチ」や「イタリアン」の「洋食器」です。
周りからは、伝統を壊すのかと大反対のなかでの発想展開です。 しかし、事はそんなに都合よくはすすむはずはありませんでした。 飛び込みで高級レストランやホテルに売り込みをかけるものの、全く相手に されず成果のあがりようもありませんでした。

目線を変えて取り組んだのは「本場フランスへのダイレクトな提案」でした。 その経緯は面白く、本場フランスで名を馳せるシェフドミニク・ブッシェに ブランド・コラボレートしたいと持ちかけたのですが、全く取り合ってもら えず、そこで実物である皿を見せたところ大いに気に入れられて道が開けて 行くことになりました。
その皿というのも、どんな無理な注文でもこなすことのできる兄が失敗作と して世に送り出してしまった「ふちの折れ下がった斬新なデザイン」のもの であったというオマケまでついています。
この思わぬ怪我の功名の創作物が、2000年初頭にドミニク・ブシェ氏によっ て採用され離陸に成功しました。

経営者である蒲池勝氏の経歴がまたユニークで、調理師免許も持っており料 理人の視点で食器を見ることができました。
またプロデューサー的素養があったのか「プロ中のプロ」のシェフの感性に 合わせて、その要望にきめ細かく応じて一枚からでも注文にこたえています。 それらの要望のイメージを、陶工である兄が巧みに形にして行きます。
「カマチ陶舗」は、有田焼の造る伝統を大切にしつつスタイリッシュモダン 追求し業務用として映える品質・強度を備え、求めやすい価格帯ももってし て「プロ中のプロ」のシェフのこだわりに応じて評判をかち得ました。

カマチ陶舗は、たしかな技術・技法を基盤としながら「使い手の目線」であ らたな有田焼の魅力を引き出しています。
そんななかで経営者は「伝統」は革新しなければならないものであって、守 らないければならないものは精神であり『伝統はスピリッツの継承だ』とし ています。
「君子は豹変す」ということわざがあります。
今は少し悪い意味で使われることもあるのですが、もとの意は「徳の高い立 派な人物は、過ちに気づけば即座にそれを改め正しい道に戻るもの」だとす るもので、同様な意味で英語のことわざに「賢者は考えを変えるが、愚者は 変えない」というものがあります。

感動をつくる作法

事業を営む時に、まず問わなければいけないのは「何故」それを行うかです。 多くの人が「マーケティング」という言葉を聞くと「良いもの」をつくって、 「売れる場所」を見つけて「儲けてやろう」になります。
これに対して、ドラッガーは「マーケティングの目指すもの」は「顧客を理 解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることで ある。」と言っています。

投機の「収益」とは違って、事業で得る「収益」のその源泉はいつでも外部 である顧客(市場)の欲求に直結しています。 俗な言葉で言えば「欲しいものは欲しいんで、いやなものはお金を貰っても 嫌なんだ。」になります。
お財布の紐を緩めるのはその時の都合と感情に大きく左右されますが、もは や満足といったレベルでは容易に購入に至らないのが今の「世の常」です。
オリエンタルランドが、ディズニー・プロダクションから「ウォルト・ディ ズニー」が創作した『ディズニーランド(夢のイマジネーション)』のノウ ハウを購入して「幸せを味わえる夢の空間」を組み立てました。
しかし、人は『USJ』の方が「もっと、幸せを体験できる」なら交通の便 さえよければそちらへと「感動」を味わいに行きます。

『感動』はいつも移ろいます。 しかし「本質の効用」を維持できるなら、カイゼン・革新(イノベーション) で「ロングヒット」をはかることができます。 それを表す言葉が「『伝統だから』と同じものを続けても誰も相手にしてく れない。求められるものでなければ『民具』にならない。」であり『伝統は スピリッツの継承だ』です。
今という時代において基本的な「満足レベル」の効用(商品・サービス)は 飽和状態にあり「良いこと」は基本要件です。

選ばれるための「感動レベル」となると、今でも稀です。 これが現実なので「顧客の愛顧」を得るためには、そのことを知ることから 始めて「智恵」をふり絞ることが求められます。
ただ、そこにはマニュアルはないので「思わなあきまへんな。」であり「や り始める。やり続ける。やり抜く。」が、基本的な「姿勢」になります。 その試行錯誤こそが、本物を作り出す技能であるノウハウでありコツとして 「強みの源」になります。
けれど「感動」にも「抑え処」はあります。
それは、いつも「個」は満たされていないと事実に思い致すことです。 「個」の好みや要求が「特別」に満たされた時に「感動」が生れます。 やっと「私が欲していたことが適えられた。」が、鍵になる「呪文」です。
その「個」たちに「感動を与える効用」をどのように創造してプレゼントす るか、それがすべての企業が顧客(市場)に貢献できる条件になっています。
最も大切なのは「顧客に最高の『効用』を提供するのだ。」とする経営者の 「強い思い」と、それは「あなた」と「より良き多くのパートナー」の「知 識・知恵」を結びつけることで実現されるのだとする『考え方』を正しく悟 ることだと思うのです。

≪アベノ塾≫ URL:http://abenoj.jimdo.com/