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76回目 仕事のポイントの「よもやま話」

正しい仕事の話

織田信長が「天下布武」の端緒を開くのは、永禄3年(1560年)尾張国 桶狭間で行われた今川義元との合戦に勝利したことによります。 そのときの兵力は義元が2万で、一方の信長の兵は10分の1以下のわずか 2千でしかなかったのは誰もがよく知るところです。 毛利元就も、数倍する敵を天文24年(1555年)厳島戦で破っています。
寡兵で数倍する敵を打ち破る賭けは敵の虚をついてなした快挙ですが、命が けのぎりぎりの計算のうえでなされた行動でしょう。 毛利元就は孫氏の兵法をはじめとする兵学書を徹底的に読み浸っていたそう で、信長は兵学書を読んでいないような雰囲気があるのですが「うつけ」を 演じた様子などは楚の「荘王の故事」そのままです。

兵法書はマネジメント書に通じるものですが、生き死の修羅場を経験してき た武将にとってはその理解は「生もの」の知識だったと思われます。 戦国武将にとって、戦に勝つことは命がけの成果です。 しかし、この戦を行うこと自体は成果を得るためには下策であり、調略など の兵を損じない手立てこそが上策と言えます。
事実、信長にしろ元就にしても、合戦は「苦肉の策」で勝利後は勢力拡大の ために手法は違うものの周辺の武将の取り込みに全精力を傾けています。 ここで確認しておかなければならないのは命を懸けての「大ばくち」の目的 ですが、それは周辺の武将が自身の保身と領地の保全のために駆け参じて来 る「成果」がもたらされる「効用」があると見越してのことです。

大きな成果を実現させるには、いつの時代にも飛躍をかけた「大ばくち」つ まり最大の成果を得られるための知恵を絞った「仕事」が必要です。 今も、原理は同じで「画期的に顧客が喜ぶ」「未だ誰も行っていない」「初 めて」の「仕事」を実行しなければチャンスはありません。 「活動」は「成果」が実現できる「効用」があるからこそ実行するものです。
「仕事」のあるべきあり方とは「成果」つまり現在では「顧客満足」させる 「効用」があり「従業員満足」も併せて実現させられる「活動」とします。 もちろん、顧客の欲求は少なからずやってみなければ分かり得ないものであ りさらに「競争」と「変化」がその困難さを加重させます。 だからこそ、正しい「仕事」の意味の理解は経営者にとっての基本教養です。

桶狭間の合戦に戻って「正しい仕事」であるかどうか吟味すると、その目的 は東海地方の武将を自分の傘下に引き入れることであり、今川義元一人させ 倒せば適えられものでここに目標を絞るのは正しい判断と言えます。 切羽詰まった選択であったもののこれさえ実現すれば大きく飛躍ができるも ので、翻って考えると願ってもない好機であるとも言えます。
今川義元の首には、そのような「効用」があったと言えます。 今の時代の企業は命のやり取りこそないものの「良い企業」となり「社会に 貢献」するためにはいつもギリギリの命がけのチャレンジが求められます。 ただありがたいのは血を流すのではなく、顧客が喜んでくれる新たな「効用」 の創造(イノベーション)をもってして成果が得られることです。

ウォルト・ディズニーやスティーブ・ジョブズのように顧客が望むことをイ メージ化し信念を持って実行することで「真の仕事」をする人もいます。 しかし、これは稀でイメージに秀でた人は実行力があるとはいえず、実行力 のある人はイメージ力に乏しいのが一般的であるようです。 とは言え、成果実現のための何すべきか知る卓越した経営者は多くいます。
卓越した経営者が行っている「正しい仕事」について振り返り確認します。 もともと企業という組織では顧客満足を実現するために、一人ではできない ことを多くの人たちが持つ能力・活力を巧みに制して「仕事」を実現します。 仕事は顧客の欲求を適えること目的なので、そのためのみに焦点を絞り専門 家を最適活用します。これが「仕事(マネジメント)」の意味です。

合気道の達人は、自分の力で相手を倒すことをしないそうです。 相手の力の流れの一点を策して、指一本でまた合気で目的を達します。 塩田剛三という類稀な達人は「自然の理にかなっているということ。向こう が強い力で来ても、それに対応してフワッと自分の力にしてしまえば、ちっ とも苦労はいらない。」と言われています。
NHKの朝ドラ「とと姉ちゃん」は『暮しの手帖』の創業者・大橋鎭子と天 才編集長花森安治をモデルにしていますが、この雑誌が成功するかどうかは、 編集長をどう取り込むのかの一点にかかっていました。 取り込む決め手となったのは、常子の揺るがぬ直向きさと「女性に役立つ、 明かり灯す雑誌をつくる。」という訴えでしたと語られています。

自然の理」に合わせる

松下幸之助さんは「自然の理」ということしきりに言われています。 とうぜん、人間が動物である以上「自然の理」を自身のなかに包摂させてお り、かつ外なる環境の「自然の理」によって活かされています。 経営も内部の人材の能力と特性を活かして、外部の欲求に応えて貢献しなけ ればならないのであるから「自然の理」の体得が名人になる条件です。

「自然の理」にあった経営(マネジメント)として、経営学者であるドラッ ガーは2つの機能をあげています。 1つはマーケティングという機能で、要は顧客が商品なりサービスを購入し てくれるのは自身の欲求を満たす「効用」があるからだとするものです。 ここでは「個」の思惑が関与する縁(よすが)などはまったくありません。
もう一つはイノベーション(革新)機能で、人の欲望は尽きることなく深ま りまた変質するので飛躍した「効用」の提供を欲します。 それに加えて私たちを取りまく環境は常に変化し、かつ多くの競合する企業 があり止まってしまうとただちに取り残されてしまいます。 回転する独楽のように余勢がある間だけ、立っていることができます。

経営(マネジメント)の要諦は、いろんな人が欲する「効用(商品・サービ ス)」を探り当てまたその変化を予測して、それを適えるために働く人の欲 求と特性と能力を最適活用することです。 ここにおいて経営者(トップ・マネジメント)は、働く人が本来持っている 「自然の理」である欲求と特性と能力を善用することが知恵となります。
人の特性を見るのに最もよく知れる光景、通勤電車で見まわしてください。 それは老いも若きも男女を問わず、一銭の得にもならないのに夢中でスマホ で何ならキー・タッチを行っています。 旭山動物園でオランウータンが13メートルのロープを渡り切り、3粒のピ ーナッツを見つけ好きなことをしただけなのにオマケがありニッと笑います。
続けて、旭山動物園のサル山の光景ですが、飼育員が餌であるヒマワリの種 や麦を地面に撒かれた木製チップや竹筒にわざと隠すのだそうです。 これはいじわるではなく、餌探しが楽しくまた獲得するとさらに増します。 サルと人間は違うとお叱りを受けるかもしれませんが、これは飼育員のサル の退屈しのぎを防ぐ工夫で、霊長類の勤勉特性の起源を知ることができます。

人には好奇心があります。人にはチャレンジしより良くありたいという欲求 があります。これらは人が持つ基本的な知的な欲求です。 命令された工夫のない労働は苦痛ですが、困難であっても学習の用があり挑 戦できその成果が確認できかつ成長できる仕事は人間の特性にピッタリ合い 機会を与え支援することが経営(マネジメント)の仕事です。
未だに一部の経営者では、過去の経験を踏まえ労働や管理のみが成果を実現 させる唯一の手段であるというパラダイム(固定観念)を持っています。 今は、知識や知恵や活力なくして激しい競争に打ち勝てません。 この「自然の理」に精通し、現場の従業員の持てる知識や知恵を尽きること なく引き出している代表が「トヨタ」であります。

別例として、過激なほど最優秀な人材を集めてあらゆる方策を使って不可能 を可能にしたのがスティーブ・ジョブズですが、あまりの無理難題と不条理 に「イヤなやつ」と陰口をたたかれていました。 しかし一方では、彼の仕事に巻き込まれた開発者たちはその場を究極のクリ エイティブな場「現実歪曲空間」と呼び忠誠心の元となっています。
同じ匂いがするのが本田宗一郎さんですが、共に仕事をした従業員は皆とも に「怖かった」と述べていますが、ヒューマニストの人柄故に親しみをこめ て「オヤジ」とも呼ばれています。 クルマづくりの好きな連中にとって、本田さんが形成する「現実歪曲空間」 での仕事はたまらない苦痛であったがまた快感であったのでしょう。

行動規範と評価基準

人間は「けなしたした」ほうが伸びるのか「賞賛した」ほうが伸びるのかま た「自分で考えた」ほうが伸びるのか「指示した」ほうが伸びるのか、答え はご想像の通りですがどのようにしたらよいかを、高い業績を成している企 業のあり様を見ながらポイントを整理して行きたいと思います。 ちなみに、伸びるのはとうぜん自分で工夫したことが褒められた時です。

トヨタが「カイゼン」のチャンピオンになったのは、そもそも風土があった ことと大野耐一さんという秀でたマスター(師範)がいたからです。 「互いの人間性を尊重し、相互信頼・相互責任を基本に、一人ひとりが高い 専門能力を持ち、人間として成長・進化し続け、組織としての力が最大限に 発揮される活力ある企業風土をつくる。」と自社の企業紹介をしています。
大野さんは「部下に指示なり命令を出すとき、自分もその命令、指示を受け たと思って考えにゃいかん。知恵比べだと思っている。」と言っており「一 緒に苦しむ」「一緒に考える」、しかし部下が困って相談に来ても、決して 答えは教えない「答えは自分で考えさせる」「だが、いろんなサゼスチョン で、できるだけやる」これを上司の務めだとしています。

ハイクオリティーかつフレンドリーなサービスで絶大な人気を集めているデ ィズニーランドですが、そのキャスト(従業員)のほとんどがアルバイト・ パートで構成されており、さらに驚くのは新人キャストを教育するトレーナ ーが先輩のアルバイトから選ばれることです。 しかも、そのことが通常のあり方であって効果的に機能していることです。
そこでは、どんなマジックが施されているかと思わされるのですが、ここに あるのは「自然の理」の活用でありオーソドックスな原理に則ています。 まずミッションありき「すべてのゲストのハピネスを提供する。」が始まり で行動規範「安全性、礼儀正しさ、ショー、効率」と続きます。 礼儀正しさは「笑顔、挨拶、アイ・コンタクト」であると具体的に示します。
価値観が重視され、アルバイトの導入研修の最初からこれらが行動へと根づ くように機会あるごとに口が酸っぱくなるまで繰り返されます。 新人に対してインストラクターや受付は、親しみを込めて笑顔で挨拶をし手 厚くミッションである「すべてのゲストのハピネスを提供する。」によって 迎え、トレーナーよる現場・指導も同じ原則で実施されます。

先に、トレナーはアルバイトから選ばれると紹介しましたが、その選任の過 程は、各施設の責任者が普段の仕事ぶりを見ていてこれはと思うキャストに 「人を育てることに喜びを感じますか。」と意思確認します。 「やってみたいと。」との返事があれば、研修、トレニーングを受けはじめ て正式のトレーナーとしてデビューすることになります。
キャストの業績評価は、いつも身近にいて「何が大切かを教え」「模範を示 し」「指導しかつ支援し」自分の行動を見守ってくれるホスピタル・マイン ド(おもいやり)をもつトレーナーが日々元気づけととに評価します。 トヨタでも「答えはくれないけれど」現場での課題解決をともに悩み考えて くれ育ててくれる上司が叱咤と賞賛で評価してくれます。
ある財政破たんに瀕している地方都市の話ですが、あまり心地がよくないも のですがトヨタOBの若松義人さんの著書にあったのを紹介します。 ある担当者が町長、助役、直属上司から「きみしかいない。」と言うことで、 行財政改革の仕事を引き受けることになりました。 大抜擢なので、さぞや皆が協力してくれると期待して始めたそうです。

さていざ始めようと、トップである町長に「どうしたいのかと聞くと」「そ れを考えるのが君の仕事だ」と言われ、助役に提案を持っていくと「急ぎす ぎる。町のスピードに合わせてくれないと。」と苦言を呈され、直属に上司 に至っては「忙しいから」とバックアップはおろか相談にも乗ってくれない。 ところで、これって特別かとなると結構どこの会社でも見られる気がします。
評価基準のことで話をすすめたかったのですが、少し回り道が過ぎています。 ここで言いたいことは、優秀な方でもとかくの思い違いがあります。 経営には「自然の理」があり、力ある経営者が過去に出合った師匠が悪かっ たがためにまた時代の変化のために破たんに瀕することがあります。 まず、ミッションを戴して、自身で現場を見直すことから始めてください。

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