現代経営における生産性
その昔のアメリカ南部の奴隷制の労働生産性についていろいろ見てみますと、
どうも解放して賃金を支払われた方が生産性が高いようです。
おまけにこの奴隷の生産性を上げるには、屈強な管理人の監視が必要で人件
費もかかりコストは割高になります。
それよりもなにも、奴隷の「人間としての幸せ」など望むべきもありません。
ただし、もう少し奥まで踏み込むんでみますと、驚くことに北部の工場労働
者は南部の奴隷の生活水準よりまだ低いかったらしいのです。
今の日本はどうなのか、確かに奴隷制はありませんが派遣社員やパートとい
った豊かさを実感できない人たちが増えています。
特に、労働集約度の高い飲食業やサービス業ではその傾向が強まります。
マネジメントの役割は何か「働く人のよろこび」を通して、そのことによっ
て生産性を向上させて「顧客満足」「社会貢献」を実現させることです。
また生産性の源泉が「労働」より「知識」に移行しており「知的生産性」を
いかに実現させるかが成果を得る要件になっています。
そのため「管理」だけでは限界があり、マネジメントが必要になります。
そもそも管理の起源は、鉄道管理にさかのぼるように聞いた記憶があります。
鉄道運行では、鉄道員の行動と運行時間が正確に決められたスケジュール通
りに運営されないとそれこそ大事故をおこす可能性につながります。
また、管理がクローズアップされたのは、テーラーの「科学的管理法」が近
代経営の中に取り入れられ生産性に寄与する面があったからです。
科学的管理法の考え方は「課業管理」「作業の標準化」「作業管理のために
最適な組織形態」を基盤にしています。
マネジメントではいつも間違い起す用語があります。
それは「科学的」という言葉で、人間の総合的な活動である「仕事」はあら
ゆる要素を含んでおり「科学的」だけでは役に立ちません。
ユリウス・カエサルは「人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけで
はない。多くの人は、見たいと思う現実しか見ていない」と言っています。
高学歴の経営者の多くにとって「科学的」に数値分析しながら部下に命令を
下し管理を行うことは、松下幸之助さんが言う「血の小便が出るまで苦労し
たのでしょうか」の経営よりはるかに得意で楽です。
業績の良好な中堅企業の多くに共通しているのは、2つの基本的な見解を持
っているようです。
一つは顧客の満足を実現する「現場」「現実」の接点を重視していることで、
スカンジナビア航空のCEOだったカールソンはその「真実の瞬間」を焦点
としそこにすべてを賭けて1年で同社を黒字にV字回復させました。
2つ目は、従業員に「責任感」と「コスト意識」の根源たる「オーナーシッ
プ(経営者意識)」を持ってもらうことです。
聖書に「人はパンのみにて生きるにあらず」という言葉があり、続いて「神
の口から出る一つ一つの言葉で生きる」とあります。
人は「生きる意味」も共に与えられて初めて責任を引き受けます。
この2つの見解を従業員と経営者が共有するためには、「私たちの仕事は何
か」ということが明確でその「仕事を任せられている」こと「正しく仕事が
設計されていること」「成果が確認できること」「成長できる機会」が支援
されて「正しく評価される」ことが必要です。
経営者の行わなければならないのは、基盤を整え支援することです。
優良企業のスタイル
エクセレント・カンパニーには、そうなるためのスタイルが明確にあります。
GEのジャック・ウェルチは、管理と官僚制を最も毛嫌いしました。
「優秀な人材を起用し、最大限のサポートして任せる。」これが驚異的業績
を実現させたGEの経営哲学です。
そのジャック・ウェルチは、マネジメントの究極を「文化」だとしています。
日本の経営者の多くは、アメリカの成功事例をマネしたがります。
思ったより成功しなかったからなのか当然なものとして受け入れらたためな
のか、あまり聞かなくなったものに「成果主義」と「リストラクチャリング
(事業の再構築」があります。
「リストラクチャリング」を、最初に提起したのはジャック・ウェルチです。
「成果主義」にしろ「リストラクチャリング(事業の再構築)」にしろ、日
本でも取り入れるべき適した手法かどうかを考えてみます。
結論からいうと日本と欧米では、その根底としている文化が異なります。
そのことの吟味なくしての行う模倣は、日本人にアメリカン・フットボール
のスーパーボール・チャンピオンになれということと趣が似ています。
ところで「成果主義」は、その文化の違い知ってかつ正しい定義に基づいて
導入されなければ成果を生むことはありません。
ジャック・ウェルチは「数字は結果の産物だ。」とし、3つの指標「社員の
満足度、顧客の満足度、キャッシュフロー」を上げています。
この3つを実現することをもって成果としています。
そのための信条として「現実を直視すること」「管理ではなく指導すること」
「先回りして変化すること」「境界をつくらないこと」「単純さを追求する
こと」そして「自信を持つこと」などの強化を求めています。
「数字を上げろとは決して言わない」のですが、数字が結果として実現でき
る「価値観」を共有し実行できることを「成果の評価」としています。
GEでは「成果主義」の成果とは、企業の「価値観」を実現させることです。
「脅しで、短期間の業績を実現」することではなく、「長期の業績を実現さ
せる価値観に基づく一貫性を構築」することとなります。
ジャックが評価したのは価値観を共有し部下を導く「リーダー」で、優秀な
業績をあげていても「価値観」を共有しない「ボス」は評価していません。
成果をもたらすスタイルは、日本と欧米では少しニュアンスが異なります。
日本は「八百万の神」の伝統を持ち「和を以て貴しとなす」国であり、欧米
のような「個」が確立した一神教の国とは「メンタリティー」が異なります。
欧米では「個」と生きることを幼くして習慣づけられ、日本は「村社会」の
論理がいまだに色濃く根付いています。
柔道の軽量級であれば、日本人がチャンピオンになる可能性は高いでしょう。
また、最近のノーベル賞の傾向を見ると、環境が整いさえすればこの状況は
続くように思われます。
国民性は今までに受け継がれた文化により継承され、この文化がマネジメン
トの成果を大きく左右する影響力を有しています。
欧米では企業と人材は契約によって規定され、人材は与えられた職務の能力
とスキルを評価されることで報酬額が決まります。
そのため自身の「個」として能力とスキルが全てで、評価されなければ評価
してくれる新たな職場へ移り変わります。
移り変わることが、キャリア・アップの証(あかし)にもなっています。
だから「リストラクチャリング」があっても、能力さえあればより有利な条
件の職場へ移行ができまた受け入れる職場もいくらでもあります。
これらの前提がない日本において「個人主義」や「キャリア・アップ」に有
利な「成果主義」や「リストラクチャリング」のメニューは、走るのが得意
な駝鳥(だちょう)に空を飛べというのと同じです。
これらの前提を考えるとき、日本での勝組の「エクセレント・カンパニー」
において「人を機軸」にして協働を重視しているのが頷けます。
そのため、従業員の雇用と育成を大事にする傾向が強く見られます。
だから日本人にとっての企業は「運命共同体」であって、生活の糧が得られ
て仲間がいて成長できて自身の生きがいが得られる「場」と言えます。
そのため日本の経営者の役割は、キャリア・アップのために自由に企業を渡
り歩くメンタリティーや環境が少ない状況では「運命共同体」を構築し整備
し従業員が納得して能力を発揮できるようにしなければなりません。
このことが適えば従業員も自身の「欲求」を満たせる運命共同体の存続・成
長を優先させて、自主的に責任を持ち貢献することになります。
優良日本企業のスタイル
一般的に理解されている「成果主義」の「成果」の定義には大きな錯誤があ
り、その導入は混乱と沈滞と人的資源の破壊をもたらし短期的には成果が実
現したとしても行く末は「非成果」に導かれて行きます。
そうしたら「成果主義」が悪いのかと言うと「成果」を求めるのは当然で、
ただし正しい定義と正しく仕事の仕組みをつくった上でのことになります。
なぜ逆境のなかで「成果主義」が注目されたのか、それは経営者にとって自
身の無能が糊塗できかつ責任を他に転嫁できるように見えたからです。
真の経営者が行うマネジメントは、ほとんど不可知の顧客満足を目標にして
能力と嗜好の異なる人間が力を発揮できるようにリードして行くことです。
経営者の仕事は、価値観をつくり支援し責任を引き受けることに尽きます。
成果とは何か、それは「外部」にいる顧客の満足を適えること社会貢献を行
うこと「内部」にいて協働する従業員の満足を実現することです。
ただし、企業においては貢献することに加えて利益の獲得も必要です。
「利益を得ずに貢献することはボランティアであり、貢献なくして利益を得
ることは詐欺になります」利益は顧客の評価であり再貢献のための原資です。
成果を実現するための最大の源泉は何かを考えてみます。
それは企業の最大の経営資源である人材であって、その人材の持てる能力を
見極めて成長の機会を提供して育成して適所に配置して最大にスキルと活力
を発揮してもらうことによって企業の趨勢が定まります。
経営者はビジョンと組織を構築したら、後は従業員の仕事を委ねます。
成果を実現させるための要点は洋の東西を問わず顧客への貢献ですが、その
貢献を実現させる源泉である従業員へのメッセージは異なるようです。
その様相を明らかにするため具体的なメッセージを見てみます。
欧米の企業は「GE」で日本の企業は「京セラ」で、その内容はそれぞれの
文化を示して全く対照的であり効果的であるようです。
「GE」のメッセージは「あなたの雇用を保証するのは唯一顧客です。私た
ちはあなた自身の雇用が保証されるように最大に支援します」であり。
一方「京セラ」の経営理念は「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時
に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」とあり、日本経営の特色である
運命共同体を目指していることが如実に読み取れます。
日本で成功する経営方式は、マネジメントの原理原則を踏まえつつ日本の心
情・風土にあわせた設定をしなければ機能しません。
ところで現在この日本で最も好業績を実現させているのは「トヨタ」です。
過去にメインバンクに見放された経験を教訓として、超堅実経営と強みの根
幹たる「カイゼン」の実現のため従業員に貢献を求めます。
従業員の雇用と安定した報酬を提供するためには、対価を支払ってくれる顧
客の欲求を一番満たさなければなりません。
運命共同体ではすべての成員に、貢献と責任への参加を条件づけます。
その結果トヨタで実現されたのが「トヨタ生産方式」で、その活動は永久に
継続されるもので従業員は「知恵と知識と実践」を提供しています。
トヨタのマネジメントは「運命共同体」の成員全員から「知恵と知識と実践」
を受けることから成り立っています。
運命共同体での経営者の役割は、リーダーとしての責務を果たすことです。
成員に方向を示し勇気を与え、成果が実現できるように導くことです。
そして成員が物心両方の幸福になれるように、成員から貢献を引き出します。
