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84回目 超優良企業から学べること

強くなるための変革

日本の企業が外国に進出して戸惑うのは、考え方や習慣が違うことです。 人件費の安いことが魅力で中国に進出した中小企業が、思うように事業運営 ができずに撤退をせざるを得なかったのはよく知られた事例です。
これからの経営において国際化だけでなくすべての場面で思わぬ戸惑いが起 こるのですが、この「現実」のなかにこそが新たな「機会」も生れます。

繁栄を謳歌している企業にとっては「変化しない」ことが喜ばしいことのよ うですが、リスクを賭けて「変化する」ことだけが「しばし安定しさらに繁 栄」する唯一の方法であり「強みづくり」の方法とも言えます。 逆にゼロからの出発でも、変化があるからいくらでも「機会」が生まれます。 ただ「まぐれ」だけでは長続きせず「知恵」を働かせなければなりません。

本田宗一郎さんの相棒だった藤沢武夫さんは「世の中には『万物流転の法則』 があり、どんな富と権力も必ず滅びるときが来る。」との考えのもとに、本 田さんなき後に備えて「複数の知恵を集めれば、本田一人よりもプラスに。」 のために「本田技術研究所」を本社とは別組織として設立しています。 ここで複数のエキスパートが自由に活躍し「本田越え」を可能にしました。
変化する経営のチャンピオンは、過去にも紹介しましたアメリカのGE(ジ ェネラル・エレクトリック)の「ジャック・ウェルチ」です。
ジャック・ウェルチがGEのCEOに就任したのは1980年のことで、そ の時点の状況といえば純利益は17億ドルで前年の成長率も9%で何の不足 のない状態だったのですが、そんな中で彼は大きな危機感を持っていました。

ジャック・ウェルチが行ったことは、官僚化し大企業病の兆候が出始めてい た組織のまったくの出直しで、目指したのは超優良企業への変身でした。 破壊は「今、再びゼロから始めるとしたら、全ての事業をやりますか?」と 言うドラッガーの問いかけから始まりました。
「No.1かNo.2でなければ再建か、売却か、閉鎖かのどれかだ。」です。
よく経営者の方から「自分のような小さな企業には、大企業の話を聞いても 参考にならへん。」と聞くのですが「儲からへんなぁ。」と愚痴るような仕 事を「再びゼロから始めるとしたら」と言われて始められるでしょうか。
下請け企業の経営者の母親が相談に来られ、陳腐化した加工技術の売り先を 紹介してくださいと言われて行き場のないもどかしさを感じてしまいます。

消費者や企業が求めている要望にお応えして適えることにのみ、それもジャ ック・ウェルチの戦略のように「No.1かNo.2」にこそ企業が生き残り繁 栄を可能とする場所があります。
真面目な息子や娘婿を叱咤激励し「他人さんが嫌がる仕事でも、コツコツ働 くのやでぇ。」と八方ふさがりになる様には深い溜息を禁じ得ません。
そうしたらどうしたらよいのか「痛くない注射針」をつくった岡野工業の岡 野雅行さんの言う「社会に出たら、わざとはみ出して人のやらないことをや らなきゃ、成功なんてできっこない。」が一つの至言です。
娘婿に「あんたが経営者やから、よく見てよく聞いてお客さんや社会に喜ん でもらそうなことを考えるんやでぇ。」があるべき言葉でしょう。

少なからずの中小企業には共通した不思議な慣習があります。それは大企業 では行われないところの大胆な費用の浪費を平然と行うことです。 手作業の会計処理で余剰な人員を抱え、陳腐化した材料や商品を通路にいっ ぱいに並べて「昔からこのやり方でやってきた。」と豪語されます。
古き良き時代の感覚では「少なくなった利益」もはじけてしまいます。 ジャック・ウェルチは「再びゼロから始めるとしたら」始めることのない大 企業の身体に取り巻いていた贅肉のカットを行いスリムにはなったのですが、 そこで待っていたのは従業員の解雇への疑心暗鬼と不安でした。
いくら強みのある仕事ばかりしていても、心ここにあらずでは企業に力強さ い活力を生み出すことはできませんでした。

リストラ(リストラクチャリング)は一般的には、従業員を解雇することと とらえられていますが、本来の意味は「事業構造の再構築」のことでこの意 味でジャック・ウェルチが行ったのが始まりのようです。
ニッサンのカルロス・ゴーンさんもリストラクチャリングで解雇も行いまし たが、同時に新車開発も行いみごとにV字回復を実現しています。
マキャベリの「君主論」の一節にこんな言葉あります「加害行為は、一気に やってしまわなければならない。長く味わわされないようにすれば、怒らせ ることも少なくてすむ。」とあり「恩恵は、よりよく味わってもらえるよう に、小出しにやらなくてはいけない。」とあります。
ゴーンさんは、もののみごとに理想的にこのことを成し遂げています。

マキャベリの「君主論」は有能な経営者が表だって言わない隠れたバイブル だと言われています。 そのあまりのリアリストぶりに毛嫌いもされてもいるのですが「20世紀最 高の経営者」に選ばれたジャック・ウェルチは「No.1かNo.2でなければ 再建か、売却か、閉鎖かのどれかだ。」を一気にやってのけました。
ところが意外なことに、加害行為を加えたその時点では「恩恵」についての 「知恵」をジャック・ウェルチは持ち合わせていなかったかのようです。
生き残るために「No.1かNo.2」戦略を率直に訴え続けたのですが、そこ においていつまでたっても繰り返し帰ってくるのは従業員の不満で「恩恵」 を小出しにしない彼の人気はまったく芳しいものではありませんでした。

活用すべきなのは人の知恵

タフな経営者には結構体育系の人が多く、それもチームプレイが必要なスポ ーツ経験者であればなおさら力を発揮するようです。
チームが優勝するには「優勝するぞ。」とチームを奮い立たせ、どのような 方策でそれを実現させるかを明確に指し示さなければなりません。 GEでは勝てない事業はなくなったのですが、方策が見つかりませんでした。
「マネジメント」には多くの誤解があるのですが、すべてにおいて確立され た技法があるわけではなく、またマネジメントは人が行う活動であるので経 営者の知恵と情熱がなければ絵空事になります。
ジャック・ウェルチは、情熱をもって率直に直接多くの従業員に説得を続け ていたのですが「知恵」が熟せず長らく迷いの中にありました。

『知恵』は「人員整理(ピープル・アウト)したね。仕事の整理(ワーク・ アウト)はいつになるのか。」という言葉から生れました。 仕事の整理(ワーク・アウト)は、現場で働く従業員を尊重してその知恵と 知識を活かすというアイディアの導入により大きく転換して行きます。
また、不効率で成果を阻害する権威主義が、大きく排除されて行きました。 ワーク・アウト(仕事の整理)とは、どんなことを行うのでしょうか。 職場には何らかの課題があります、その課題をまず責任者が提起します。
それを受けて責任者をはずしての職場のグループが、進行役の支援の下に3 日間に渡り議論を交わしてしかるべき解決策がまとめあげられます。 この解決策について、再び責任者が参加しての意思決定を行います。

意思決定は3つで「採用するか。却下するか。さらに情報を集めるか。」を その場で即答しなければなりません。情報を集める場合では情報取集するチ ームを決め決断を下すべき期限については明確に設定されます。
ワークアウトは驚くべき成功を収めて、職場の不合理な業務システムが改善 されかつ従業員の自信と管理者との信頼関係も生まれて行きました。
現場のことは現場の従業員が最も知っており、どのように改善・解決しなけ ればならないかの「知恵」や「知識」も最も生まれやすいと言えます。 経営者の仕事は、成果を生む現場の知恵を活性化し支援することにつきます。
トヨタの「カイゼン」やホンダの「技術研究所」やさらに京セラの「アメー バ組織」は、代表的な優良企業の「現場の知恵」を活用する方式です。

イノベーション(革新)という機能がありますが、一般的には製品の発明・ 発見がイメージされやすいのですが、より成果を実現させるイノベーション とは経営についての「考え方」の変革なのだと言えます。
ある会社では社員の初恋談義を披露したり、違う職場の人との食事会を定期 的に行ったりこんなことも意外な成果を生んだりします。
ワーク・アウトのアイディアはクロトンビル研修所での従業員との率直な意 見交換から生れたもので、少なからずの期間を要しています。
ジャック・ウェルチは、クロトンビル研修所での幹部や従業員の人材育成を はじめてとするにコミュニケーションに自分の仕事時間の3分の1以上を費 やしており、いかに人とのかかわりを重視しているかが分かります。

経営者の方と話をしていると、ミッションに興味がなく従業員とは話をしな いまた目標の設定などの意思統一がなされていないなどの従業員へ影響を与 える術をすべて放棄されているケースが多く見られます。
その結果として、社員はやる気を持たず業績も後退してコンサルの導入やハ ウツウものの本を見たりの迷いの循環のなかに埋没されます。
生き甲斐、働き甲斐がなければ企業はただの営利集団になりさがります。 価値ある目的・目標がなく人格は顧みられず、さらに売上だけがノルマ化さ れるならば従業員は労少なく報酬を得ることしか考えなくなります。 現場で働く人に「考える頭脳」と「参画」を求める「ワーク・アウト」は、 他社にはない業績アップの差別化手段をもたらすことになりました。

クロトンビル研修所とは企業大学のはしりで、人材育成は外部に任せておけ ないという考え方より生まれたもので、経営者の考え方を社内に浸透させる 重要な拠点になっています。
稲盛さんの場合は「コンパ」と称し、缶ビールと「おつまみ」で本音のトー クを交わして「何をなすべきか」「何が大切か」を社内に浸透させています。
本音のコミュニケーションから生まれたワークアウトは、従業員の知恵で不 合理なまた不効率な業務を改善するとともに不適格な管理者を排除して現場 で働く従業員の自信を回復させることになりました。
GEでは不条理な中間管理機能の削減がすすむとともに、従業員間の意思疎 通が促進され縄張り意識の垣根が取り払われて行きました。

企業は絶えず学習して変革されなければ、競争に取り残されて滅びます。 失敗することをも恐れずに、変わらなければなりません。 変わるためには手段を選んでいるゆとりなどはなく、自分で工夫するだけで は不十分で良いものが見つかれば内外を問わず取り入れればよいのです。
ベストプラクティス(最良)は、盗んででも取り入れなければなりません。 変化は永久的に繰り返されるものであり、そのため「学習」は永久に実践さ れ続けなければならない企業の基本姿勢であり活動です。
よくある世間一般のあり様では学習しなくても充分しのげているという現状 がありますが、業界全体が学習せずすべてが停滞しているという場合も多く、 その中で変化を生かして「高み」を目指す企業は一人勝ちも望めそうです。

良いアイディアを学ぶ

高校野球で面白い話を聞きます。それは、無名の一地方のチームがいきなり 県代表に勝ち残って来たというもので、その原因がごく単純で優秀な監督が 新たに就任したからなのだそうです。
これは高校の野球チームにだけに言えることではなく、企業も全く同じであ り経営者の存在はほとんど致命的に影響力を及ぼします。

経営者の役割は、すべての機会にすべての場所からすばらしいアイディアを 見つけてそれを積極的に全従業員に浸透させ力強く導いて行くことです。 ジャック・ウェルチの経営スタイルの特徴はまったくその通りで、絶えず誰 とも率直に意見を交換して学び良いアイディアがあれば企業の内外を問わず どこからでも盗み取ってでも取り入れて行きます。
先取りして、絶えず危機感をもたらすのも経営者の大事な仕事の一つです。 シャープが鴻海精密工業に買収されるに至るのは、液晶事業が大成功し堺工 場を新設して大安心した結果です。
危機はいつも成功したことから忍び寄って来るもので、松下さんは「心配す ることが経営者の仕事だ。」とも言われるのが頷けます。

ジャック・ウェルチの目指しているのは「No.1か、No.1になろうとする No.2」企業で、どんな不況のさ中にあっても99.9%の企業がダメであ っても自社だけは安泰であり得る企業をつくりあげようとするものです。
「No.1」であるためには強みを活かせる事業を選択し成功に酔いしれるこ なく絶えずチャレンジし続けなければなりません。 そのために必要なのが人材であるとしていますが、それも「A級プレーヤー で構成されたチームしか配置するゆとりはない。」言いきります。
A級プレーヤーとは「ビジョンを明確に語り伝えて共有し、メンバーを活力 で満たし、厳しい決断を断固として公正かつ誠実に下せる資質と勇気を持っ た人物」だと自身の分身をイメージしているかのようです。
ここで少し余談ですが、日本と欧米の雇用についての考え方の違いです。 日本では「和をもって尊しとする。」の通り、集団を「尊し」として個人が 組織に帰属するかぎりにおいて雇用を保証しようとします。
欧米ではキリスト教を基盤とした「個」が確立されており「企業と個人」の 関係は「契約の関係」で、雇用は従業員が能力がある限りで保証されます。

そうしたらジャック・ウェルチの「あなたの雇用を保証するのは唯一顧客で す。私たちはあなた自身の雇用が保証されるように最大に支援します。」と いう言葉をどのように解釈したらよいのでしょうか。
ジャック・ウェルチの最大のアイディアがクロトンビル研修所で、雇用保証 される機会の支援はここで行われることになります。

また余談ですが、欧米の製造業が20世紀のほとんどを通して専念したのは、 商品をいかに大量に効率的に製造するかということでした。 このときに日本が欧米に追いつこうと、ある種の勘違いで必死で取り組んだ がエドワード・デミングが教えるところの統計的プロセス管理手法でした。
この結果が大幅に品質向上を実現させて、日本の強さが構築されました。 「シックス・シグマ」と称される品質管理の手法は、1995年にワークア ウトでの組織改革が実現された環境において導入されることになります。 面白いのは、日本で成功したTQCが本家返りして真似られたということで、 日本と欧米はお互いに行きつ戻りつの関係で必死に最も良い手法を学習しよ うとします。ただし、知恵のない成果主義の導入は大失策でした。

「シックスシグマ」は、企業に生じるあらゆる課題を全社的に取り組んで根 本的に改善して、その改善を定着させようとするものです。 定義(Define)取り組むべき課題を定義する測定(Measure)現状を把 握する分析(Analyze)根本原因を特定する改善(Improve)改善策を 検証する定着(Control)成果を確認し定着させるですすめられます。
「シックス・シグマ」は、個人的能力で行っていた課題解決を誰もが標準的 にかつ集団で行い共有化できる手法に変革したものです。
日本の多くの優良企業は既にTQCとして実践していますが、ジャック・ウ ェルチがさらに拘ったのは「シックス・シグマのマスターしない者は、一切 昇進させない。」というもので、その徹底ぶりは際立っていると言えます。

ジャック・ウェルチの行ったマネジメント法をまとめると、どこからでも最 良のアイディアを引き出し学習しそれを実行することです。 学び実行するとき、多くの人と率直に話し合って最良の知恵を注ぎ込みます。 実行に際しては最適の人材を抜擢し予算を与えすべてを委ね支援し、失敗し てもそこから得られた知識と知恵でもって成功するまでやり抜きます。
ジャック・ウェルチは1,000人のマネジャーの顔と名前さらにその能力・ 資質を把握したとされており、クロトンビルおよび現場を駆け巡って接触し て適材を抜擢していったようです。
ビジョンを示してこれはと思われる人材については思い切って権限を委譲し て、その働き具合を直接評価して貢献に応じて報酬額を決めています。
クロトンビルは彼の政策を実行するための拠点で、新たなアイディアの創造、 人材の育成、ビジョンの浸透が実践されています。 また上級役員が一同に集まり、未来を切り開くため率直な意見と情報の交換 が行われ最適なビジョンが練られて決定され周知徹底されて行きます。 GEは贅肉をそぎ落とした組織ですが、ここには潤沢に資金が注がれました。

未来を予測することは、一部のことを除いてほとんど不可能です。 表れていない中で兆候を見て果敢に変革を実行して超優良企業にしてきたジ ャック・ウェルチですが、やはり神ならぬ身であり禍根を残します。
それはGEキャピタルで、収益の3、4割を占め利益の半分近くを稼いでい るのですがリーマンショック時には全体を深刻な状態の落とし入れました。
大きく貢献した事業であっても中核事業でないと判断するなら、大きな視点 を持って早めの手立てを講じなければなりません。 ジャック・ウェルチからCEOを引き継いだジェフリー・イメルトは、GE キャピタルを売却すること決定し手を打ち始めています。 好業績の王国でも、果敢な変革は続けられています。

話が大きく逸れた感がありますが、世界のなかにはこんな動きをする企業あ るということで紹介させていただいています。 どんなに好調であっても、浮沈戦艦に見える企業であって変革します。 今も続き、これからの採用する20代の社員に関しては、採用する職種に関 わりなくプログラミング能力を必須の能力として科すとしています。
生き残る大企業でも必死に学び、危機感をもって絶えず変革を行います。 そうであるなら機動力があり経営者の意思が伝わりやすく影響を及ぼしやす い中小企業においては、優良な大企業の生き残りの知恵を身につければほと んどの同業他社が目覚めていないなかで何歩も先んじられます。
大切なのは勇気と知恵で、まず「思うことから始める。」のです。

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