これ生ずればこれ生ず
座禅のまねごとをしているのですが、何年も続けていると電車のなかでも何
も考えないでいることが多くなりました。
と言って、悟りとは全く関係がないのはもちろんでして、それでも何となく
禅本を読むのですが途中で思考停止で終わります。
道元の『正法眼蔵』などは、解説書でもすぐに投げ出してしまいます。
『般若心経』はNHKの「100分de名著」をテレビ番組で見てテキストを
何回も読み返して「へぇ、そんな意味だったのか」と知らされて「なんとも
不思議なことが書かれているんだなぁ。」と驚かされてもいます。
このお経は「密教」では重要なお経で、なんと禅宗でもその記されいる趣旨
が参禅の拠り所になっているとは意外な感を受けました。
「悟り」とは何か、ある本を読んでいるとそれは直観なのだそうで、お釈迦
さまはそれを衆生に如何に伝えるかを苦労をなされました。
お釈迦さまは生老病死という人間の「四苦」に思い致されて、29歳の時に
出家されて師を求めたが得られず、その後独学の苦行の道に入られました。
6年の苦行の後に、その無意味さにそれを放棄し瞑想の果てに悟られました。
その悟りとは「何か」であろうか、それは直観であるが故に語り得るもので
はなくて言葉にあっては少し垣間見られるもののようです。
その垣間見られる悟りについて「これあればこれあり、これ生ずればこれ生
ず」という「縁起」の法があり「苦」を滅するには「これなければこれなし、
これ滅すればこれ滅す」という「滅縁」の法が説かれます。
少しマネジメントのことを述べるのに前振りが長くなっていますが、経営の
根幹である知恵と価値観について話したいのでもう少しだけ続けます。
すべての始まりは「無明(知恵なき暗闇)」に起因して、無明であるが故に
常ならず止まることのない無情な欲に「取(執著)」して「苦」が生じます。
経営においても無明が最大の障害であり、知恵こそが経営の鍵を握ります。
経営はある意味でそのすべてが「人間の欲」にかかわると言っても過言では
なく、経営者が無明であれば「人間の欲」をうまく扱うことができません。
よき経営者は3つの「人間の欲」を、知恵によって活かします。
つまり「お客様の欲求」を探り当てて満たすために「働く人の欲求」を理解
して育成し活かすよう「経営者の欲求」を制御することで達成させます。
事業にも思わぬ「ビギナーズラック」があり、もちろん「運」も実力のうち
ですが持続するには成長するには知恵が求められます。
松下幸之助さんは知恵の塊で「血の小便が出る」まで悩み考え続けられます。
松下さんは「人間は本来働きたいもの。働くことをじゃましないことが、一
番うまい人の使い方である。」と「人つかい」の奥義を言われています。
逆説の論理があります。それは「失敗あれば成功に近づく、失敗生ずればや
がて成功生じる。」で、モノづくりに長けた優良メーカーでは「前向きで挑
戦的な失敗」は大目に見られるというだけでなく評価の対象にもなります。
本田宗一郎さんには「チャレンジして失敗を恐れるよりも、何もしないこと
を恐れろ。」の名言とともにかっては失敗表彰制度もありました。
変化の激しいグローバル化のなかで競争を強いられる現代の経営では、経営
者が持ち得るまた持たなければならないスキルは知恵と価値観です。
というと知恵が経営にとって最大のスキルになるのは分かるが、価値観がど
んな効用を発揮するのかということになります。
価値観(ミッション、信念)のない経営では集中した力強さは得られません。
無明による経営は、欲の匂いに揺らいで迷いやがては成功の原理から遠ざか
ってしまって顧客や従業員をなおざりにしてやがて破綻の道を歩みます。
あるべき強い価値観は、いろんな障害や失敗を乗り越える力を持ち得てやが
ては知恵のヒラメキも生まれ、従業員にとっての「仕事の意味と意義」の拠
り所を提供しお客様の喜ばれる商品やサービスを生み出すことになります。
知恵についてのよもやま話
ミッション(使命、信念)は「無明」の時は、その存在意義に気付きません。
多くの成功を継続できた経営者であっても、最初は強い事業欲と小知恵と運
だけで結構数十億円の規模の事業を行うこともあります。
しかし、そこからが成長の分岐点になります。
人はパンのみにて生くるに非ず、人の幸せとは何かの問題が残ります。
知恵とは何か解説すると「我欲」という判断を誤せる「無明」から一定の距
離をとり、成果を実現させる原理・原則に従うことです。
「与えるから得られる」が基本で「与えているから奪う」では、大きな魚を
逃がしてしますことになります。
「我欲」そのものは害ではありませんが「知恵」なきは害そのものです。
本田宗一郎さんとソニーの井深大さんは、非常に仲がよかったそうです。
この二人に共通するのは、どちらも技術者であり信念の人であったことです。
二人とも無類にモノづくりが大好きで、それも未だかって誰もつくったこと
のないものをつくり出して社会に貢献しようという信念を持っていました。
この二人ともには、藤沢武夫、盛田昭夫といった知恵者がついているのです。
信念なくして強い経営はないのですが、パートナーとして知恵も必要です。
知恵の人で、信念の意義に気付き大経営者の道を歩む人たちがいます。
松下幸之助さん、稲盛和夫さんはその典型の人たちで、稲盛さんは松下さん
から多くの経営のエッセンスを学び「心の師」とされています。
この人たちは、困難のなかで信念の意義を悟って強い経営を実践されました。
少し知恵について整理を行います。
その1
企業活動は利益(余剰キャッシュフロー)を得なければ存続するこ
とも成長することもできません。
それを可能にしてくれるのが、唯一対価を支払ってくれるお客様であること
を知ること。
その2
企業活動は、人の要望、願望、夢、渇望といった未だ満たされてい
ない欲求をよりよく満たすことで成果を得ることができます。
そのために、お客様および働く人が求めている欲求のあり方を知らなければ
ならないこと。
その3
お客様の欲求を知るのはお客様です。だからお客様に聞くより手立
てはありません。
ただし、お客様すら知らないこともあるので、とにかく察してやってみるよ
り方策がないこと。
この項目の知恵については少し詳細に説明します。
いつも引き出してくるのが経営学者のドラッガーですが「社内にあるものは、
プロフィットセンターではなくコストセンターにすぎないからである。プロ
フィットは外からしかやってこない。」と述べています。
経営において成果が現われるのは外部であって、内部ではありません。
内部で発生するのはコストであり、プロフィットは外部に依存し発生します。
エステーの鈴木喬氏はお客様の欲求を知るのに最も大切なことは「質問力」
だと喝破しており、社長自らが現場であるお客様のお宅に伺い前もって十分
に吟味した知識に加えてお客様に直に質問し必要な情報を聞き取ります。
P&G社は、開発者が消費者と幾日も生活を共にして、そこでの体験をもと
に顧客が真に求めている商品開発をおこないます。
その4
経営者一人で知り得ること行えることは、もちろん限られています。
そのために経営者の行わなければならない仕事は、知恵ある人、知識ある人、
能力ある人を集めて育てて活かすことであること。
(ここで重要な考え方があります。それは松下幸之助さん言う「すべての人
を自分より偉いと思って仕事をすれば、必ずうまくいくし、とてつもなく大
きな仕事ができるものだ。」という考え方で、松下さんどんな人からでも学
ぶ姿勢をとっていました。
そのために、経営者が行わなければならない仕事が3つあります。
1.人材の育成
最大の経営資源である貴重な人材のそれぞれの特性、能力、欲求を見極めて、
教育・訓練をおこなうことは強い経営のために必要なことです。
2.環境づくり
経営者が本来行うべき仕事は、働く人のために環境を整えることです。
無意味な仕事など一つもないので、まず経営者が行わなければならないこと
はミッション(使命)を誇りをもって明らかに伝えることです。
そして、成し遂げようとする夢をビジョン(将来像)として示すことです。
加えて、目指しているビジョンを実現させるためにどのように行動すべきか
という行動規範(あるべき行動の基準)を提示することです。
3.コミュニケーション
あらねばならないこと、あるべきこと、しようとしていることも伝えなけれ
ば伝わりません。
あらゆる機会をとらえて伝えなければなりません。
また「あなたのことを知っていますよ。あなたのことを見ていますよ。」の
意思表示は、共に働く人の士気を鼓舞します。
日本電産の永守さんは、部下に合うと憎まれ口一つでも必ず声をかけます。
京セラの稲盛さんは、体調がすぐれなくとも部下との忘年会の出席を欠かし
たことはないそうです。
アメリカのGEの会長だったジャックウェルチは、仕事の半分の時間を部下
とのコミュニケーションに費やしていました。
アメリカの「鋼鉄王」と称されたアンドリュー・カーネギーは、「人間は、
優れた仕事をするためには、自分一人でやるよりも、他人の助けを借りるほ
うが良いものだと悟ったとき、偉大なる成長を遂げる。」と言い、その墓石
に「己より賢明なる人物を身辺に集める術を修めし者ここに眠る。」と刻し
ているのは良く知られている話です。
その4
利益は将来費用の原資です。利益を再投資することによってはじめ
て企業は成長を継続することができるので、利益の公式を理解してリスクと
堅実性の両方を同時に実行すること。
売上を向上させるためには、お客様によりよく満足してもらえるように新規
の商品(サービス)の提供を含めた革新(イノベーション)が必要であるこ
と。コスト削減を実現させるためには、終わりなき改善をはじめとする生産
性の向上を行わなければならない。
利益は以下の公式で示されます。
利益=売上-費用(コスト)
イノベーションにおける成功確率は高いとは言えません。
けれど、チャレンジを忘れた企業に待ちうけているのは衰退です。
それ故に良好な業績を継続するために、獲得された利益を原資として試行錯
誤を繰り返しながら成功に至るまでチャレンジを怠らないことです。
コスト削減は、内部でコントロールできる活動であるので確実に利益向上に
寄与します。
ただし、コスト削減を実現させるのは現場であり、現場で働く人たちがすす
んでコスト削減に参画してもらわなければなりません。
どうすればよいかその回答にこたえるのは、松下さんが言うところの「人間
は本来働きたいもの。働くことをじゃましないことが、一番うまい人の使い
方である。」を理解することから始まります。
その5
知識こそ競争優位をもたらす形のない最重要な経営資源です。
知識は人によってもたされもので、その創造と共有と活用は組織が有する文
化と経営者が持つ人材重視の価値観があってはじめて活性化されることを知
らなければいけないこと。
その活用と融合については、上下・横・内外を問わない交流・接触を促進さ
せるインフォーマルなネット・ワークと場の構築が必要です。
加えて、その蓄積と検索のためには、情報管理システムの構築も必要です。
その6
組織は、唯一お客様のより良き満足を実現させる効用をつくり出す
ことを目的とするものであり、そのために必要な活動単位を明らかにしてそ
の活動単位が効果的かつ効率的に機能できるようにプロセスとして構築する
こと。さらに革新の実現のためにはプロジェクト組織を活用すること。
活動単位において気を付けなければならないのは、顧客視点をもって構築し
なければならないことで、効率性を基準で構築すると本来の顧客満足とは遊
離してしまい無意味もしく不満の原因になります。
そのため顧客満足にために必要な活動単位は3つそれ以外は不要です。
1.基本効用活動単位:顧客満足のために当然なければならない活動単位
2.感動活動単位:顧客の感動を呼び起こせる活動単位
3.不満予防活動単位:この活動単位があることで顧客の不満が予防できる
ここでの効率性とは、必要な活動単位以外は削減・縮小を行うことです。
ただし、各活動単位は単一の目的に対応するのではなく他の機能もその中に
含まれるのが現実のあり方です。
その7
人材は絶えず成長できるもので、その成長が可能とする機関および
システムを構築し絶えず刺激しかつ支援を行うこと。
そのためには各個人の欲求、特性、能力を把握して、個別に対応すること。
人材について「機能」として考えるのではなく「人格」として対応すること
が必要です。
「人格」として認めれることで、人はよりよきパートナーに育ちます。
たとえ、叱ったとしても「人格」を尊重して行ったならば、そのことが成長
の糧になります。
その8
企業は生物であるので、停滞し留まると腐敗し始めます。
しかし、人は本性として安定を好みます。
いつも活性化するように、必要に応じて健全な危機感を注入し革新を促進さ
せることが必要なこと。
サントリーは、ウィスキーだけで好業績であった時期に敢えて成功が約束さ
れているといえないビール事業に参入しました。
パナソニックの松下幸助さんは、昭和31年の5か年経営計画の発表会にお
いて30年の売上を35年には800億円とすると発表しました。
35年の発表会では週休2日制を40年に実施すると発表しています。
活性化しなければ、企業の成長は澱み腐敗して行きます。
前向きな危機感をあえて導入することは、経営者が思い切って行わなければ
ならない勇気です。
その9
一番でなければ存続できないので、自社の強みと機会に事業を集中
すること。良好な関係を結べそうな顧客の無理難題と判断されそうな注文も、
そこにこそチャンスであるので万難を排して要望に応えること。
また、自社が得意とする市場においては「強みの強化」と「機会」を求めて、
さらなる革新、改善、人材育成をはかること。
一番になるためには、アップル社のスティーブ・ジョブズが行ったスマート
フォンのような事例があります。
「勇気をもって、誰もしない初めてのこと。」を実行するです。
もう一つは、大成功のアイディアをマネてそれ以上の顧客満足を実現させる。
この二つですが、最も効果のあるのはこの二つ融合です。
その10
経営には王道はなく、難行であると言えそうです。
大成する経営者がその難行をやり通して自己充足感を得るのは、知恵を基盤
とした悟りの見晴らしが不可思議へと導くからのようです。
それについては、悟りであるので言葉での表現はし難いものです。
少し垣間見られるのは「利他」「信念」「諦念」「自在」などです。
大成した経営者には、「小我」に代わって「大我」「強我」があるように見
受けられます。
ここでは、思いつくままに上げ連ねました。
≪アベノ塾≫ URL:http://abenoj.jimdo.com/
