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22回目 経営管理の究極としての企業文化

トヨタの“カイゼン”のルーツ

春闘の労使交渉で「トヨタ」が4,000円のベースアップに応じたのに驚いていると 「ニッサン」は5,000円のベースアップでさらに驚きです。 ニッサンもゴーンさんの改革以来順調に業容を拡大してきていますが、とは言うもの のやはり自力の点では15兆円の内部留保があるトヨタが群を抜いています。
トヨタはトヨタ銀行と称されるほどの実力があります。 何故ここまでの力を持ったのか、そのバックボーンをなしているのはやはり企業の体質 である「企業文化」です。
名古屋は仕事に熱心で堅実で事業欲もある土地柄と言われています。 そこに豊田佐吉、トヨタの創業者の豊田喜一郎氏の発明家気質が強く影響し創意工夫も トヨタ気質の骨格になっています。
それにしても内部留保の15兆円は多い数字です。
この内部留保にはもともとの堅実な土地柄に要因がありますが、それに加えて苦い歴 史があります。 大きく伸びる企業には反芻すべき過去があります。
トヨタですらも戦後すぐに、時代の事情もあったにしろメイン銀行にも見放されあわや 倒産という時期がありました。
この時は、融資元の勧告で多くの人の解雇を条件に融資を受けることができて倒産だけ は回避したという経緯がありました。 この記憶が会社のなかに脈打っています。
借入金に頼らない企業運営をおこなうこと、創意工夫によって利益を稼ぎ出すこと。 この二つがトヨタの生産方式を生み出す遠因になっています。
創業者のあとを引き継いだ石田退三氏は豊田英二氏と共に「トヨタ中興の祖」と呼ば れていますが、ケチに徹しておりいつも若手の社員に「お前たちがガンバラなかった ら、この会社はいつ潰れるか分からないぞ」と言うのが常でした。
ここから「自分の城は自分で守れ」と「発明家の精神」が相まって「カイゼン」の企 業文化が生まれて行くことになって行きます。
「カイゼン」は、創業者の豊田喜一郎氏らが提唱し大野耐一氏らが体系化したもので す。
トヨタには、もともとある土地柄と創業一族のDNAと忘れられない苦い経験が一体 になってトヨタの企業文化を体現する人間を養成続けられました。
トヨタはいくら内部留保があっても浮かれることはありません。 他を当てにすることなく、従業員を解雇せず安定した報酬を提供し続けることがモット ーになっています。
しかし、パートや派遣社員や季節労務者での調整はないとは言えませんが、この方針が 確保されています。
この雇用環境が維持されていればこそ、一般社員は会社の精神に則り「乾いた雑巾を絞 る」カイゼンが実現され続けます。
企業の安定を背景にした「企業文化」の実践が企業の強みを創り上げていると言えます。

「人が働く」理由について

「人がなぜ働くのか」また「どうすれば意欲をもって働くのか」このことを知ることは 経営者にとっての基本的な知識です。
心理学にもいろいろの理論がありますが、代表的なものとしてはハーズバーグの「動機 付け衛生理論」があります。 これは統計をもとに構築された理論です。 それと、科学的な分析によるものではないのですがマズローの「欲求階層説」があります。
一般的に、働かせるには“アメとムチ”を用いるという考え方が定着しているようです。 少し先進的になると、人に温情を施すことこそが人道的だという考えもあります。 どちらにしても根拠のない考え方が常識であるように展開されます。
これらの考え方に対し、科学的な統計により解答を提供しているのがハーズバーグの「動 機付け衛生理論」です。
「ムチ」は全く効果はないとは言えませんが、ただ単なる「ムチ」は時代錯誤で現在では 効果を発揮しません。 そうしたら「アメ」たるお金がどうかということですが、お金で「やる気」を出させるの は評価としての意味合いが込められるときのみです。
一般的には、人をしてその職場に引き留めることには有効な手段ですが自ずから限界があ ります。
ハーズバーグはこのように説明しています。 お金や人間関係や働く場などの外的環境の快適さは、人をして辞めさせないためには効果 があるが人の「やる気」の誘因にはならないとしています。
そして、これを従業員を職場にとどろませる「衛生要因」としています。 これに対して「人はパンのみにて生きるに非ず」という言葉があるように、人の「やる気」 の要因について人間性とかかわるとして統計的に分析し提言を行っています。
人が「やる気」を出すのは、精神的な満足感が満たされたときであると分析しています。 それは「やりがいのある仕事」「賞賛」「達成感」「責任」などで仕事そのものにかかわ るものです。
しかし、別の満足つまり衛生要因とのかかわりで但しがつきます。 いくら精神的に満たされても、「生活の糧」が補償されなければ不満が生じます。 トヨタのベアアップは補償です。
人の欲求は「不満になる欲求」と「満足を得る欲求は」がありそれは異なります。 このことについて欲求には段階があるとして解説しているのがマズローの「欲求階層説」です。
マズローは、人間の欲求について基本的欲求という低次の欲求からより高度な精神的欲求へ と階層をなして連なっているとして説明しています。

それを示すと、順に
1.生理的欲求:生命維持のための食事・睡眠・排泄等の本能的・根源的な欲求
2.安全の欲求:安全性・経済的安定性
3.所属と愛の欲求:人間関係・他者に受け入れられている、所属したいという感覚
4.承認(尊重)の欲求:集団から価値ある存在と認められること、尊重されることを求める欲求
5.自己実現の欲求:自分の持つ能力や可能性を最大限発揮して自己実現をはかること
1~3がハーズバーグがいう衛生要因にあたります。
4と5が動機づけ要因にあたります。

人には、まず安心して働ける環境を補償しなければなりません。 そのうえで働くことの意味を明確にして、それぞれの適正に応じて適所に配置し、その活動に関心 を寄せ、課題と責任を持たせて育成し、そのうえで達成できるように支援を行うことことを理想と します。
このことの核心を理解することにより、初めて「人が働く」マネジメントのヒントが得られます。 「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」山本五十六の名言 そのものです。
人は、最大の経営資源でです。 人のマネジメントに失敗すると企業が成果を得ること、また成長することはなしえません。 最高に貢献してもらうことを通して、本人にとって最高に満足してもらい成長してもらうことが 「経営のエッセンス」と言えます。
このことが、人をして「幸福にさせる」とともに企業にとっての「最高の成果が実現」される方策です。

究極の管理としての企業文化

アメリカに最強の企業と言われているGE(ジェネラルエレクトリック社)という会社があります。 この会社の前経営者であるジャック・ウェルチが、この会社を最強の企業に仕立て上げました。
話が少し飛びますが、このジャック・ウェルチが企業のマネジメントの究極なあり方を「企業文化」 の構築としています。 「企業文化」の構築こそが、つまり価値観や行動様式などの共有こそが管理を不要にして最高のマ ネジメントを実現させると言っています。
GEの「企業文化」の根幹をなしているのは、収益を確保するために勝つことに集中することです。 勝てないことや勝つことに関連しないムダは削除します。
有名な戦略に「世界で1位か2位になれない事業からは撤退する」戦略があります。 勝てない事業には資源を注入しない、自身が有利に事業をすすめる得ることと「機会」に集中します。 また、非生産的な管理である官僚制を徹底的に嫌っています。
企業の収益に貢献しなことは一切しなという方針で、業績が1位か2位になれない事業からの撤退を 実施しましたが、それとは相反して強みを発揮できる「機会」のある事業へは積極的に進出しました。 また、人材育成と価値観の共有化には資金を惜しみません。
企業内大学校と言える教育機関を、CEO就任しばらくして新たに設立しています。 ジャック・ウェルチは今日でこそ信奉者が多いのですが、その当時では異色で反対の多い施策を多く の障害を乗り越えて実施しました。

これらの実践における求める企業文化については
1.学習に対する強い意欲
2.情報共有化を通しての強みの形成
3.全社的なチームワークプレーを実現するためのセクショナリズムの排除

で さらに、「ストレッチ」つまり止まることを知らない「チャレンジ」こそを共通するべき価値観として、 幹部、管理者、さらに全従業員に求めました。
また、品質向上を重視した手法として“シックス・シグマ”日本のTQCのようなものですが、全従業 員にその習得を強く求めています。 管理者や幹部についても、この手法の習得者でなければ登用しないという徹底ぶりです。 “シックス・シグマ”はチームで行う手法で、「知識」「アイディア」「課題解決」を生み出します。 さらにここで生み出された成果物である「知識」は、強みの源泉として共有して活用が奨励されます。
ここまで話をすすめると、どのようにこのことをマネジメントするかということになりますが、 経営者が行うのは、価値観、方針、戦略、行動様式を明確化したうえで、最も適材と思われる責任者を配 置しすべての業務執行のため資源と権限を委譲します。
そして基本的な「企業文化」の示す成果と、その時々で強調されなければならない考え方や行動につい て根気よく説明したうえで、その理解者、実践者、達成者を高く評価します。
ジャック・ウェルチはそれら責任者について、その能力や性格まで熟知しており個々すべての責任者の 行動、成果について評価を行っています。
この作業により、経営者は価値観と望ましい行動を明確化させます。 これが、経営者が統治を可能なさしめる手法です。
文化の定着は、この評価の仕方によってあり方によって実現されるものです。 評価は、根本理念とその時々の企業が要求するものを示すためのツールで報酬とリンクさせたときに生 きた管理手法となり機能することになります。