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49回目 企業戦略の意味と必要性

「戦略」と「戦術」

戦略は近代経営の進展にともなって複雑化する経営環境を、いかに生き残 り成長するかの課題解決のために考えられたものです。 戦略は決まりきった目的と計画のもとに科学的にシステマチックに実施す るといったイメージを持たれている人がいますが、戦略は「外部」「未来」 に関わる故に不可知で「知恵」を主体とした判断が求められます。
とは言いながら、システマチックな対応も基本です。 科学性なくしては厳密性はたもたれず、その活用は当然の条件です。 経営者はもとより万能ではありません。 しかし、万能にはなれないとしても経営者のリーダー・シップのもと試行 錯誤を許容しながら顧客に最高の満足を提供しなければなりません。
最初の命題にもどります。 「戦略」と「戦術」のかかわりですが、戦略は包含構想であり「戦術」は その上位構想を実現するための実践的な部分構想です。 「戦術」の破たんは「戦略」の成功に影響を与えますが、「戦略」の破た んは「戦術」の成功を無意味にします。

戦国時代の事例をもとに考えてみます。 武田信玄と上杉謙信はどちらが強かったか、この話題はよくでるのですが、 上杉謙信と織田信長との優劣についてはどうか、「戦術的」には直接決戦 ではないものの上杉謙信が「手取川の合戦」では圧勝しています。 しかし、謙信は戦略的な「天下構想」は持っていません。
戦略から言うと、一時の戦術的勝利だけでは形勢は決定づけられません。 両者の戦略構想は最初の段階から違っています。 室町将軍を活用して天下に布武を確立しようとするのと、室町幕府の権威 を元に復そうとするのでは根本的に異なります。 戦略には未来展望が必要ですが、上杉謙信には確たるものはありません。
軍政においても組織のあり方からして違います。 というよりは織田信長が突出しています。 他の戦国大名にも、武田信玄のように後期には占領地においては直属軍団 制もみられましたが一部のみです。 織田信長は、組織全体のあり方にしています。
その信長にしても、戦略構想は戦国時代のもので限界を持っています。 そうしたら現在の戦略構想とはどこが違うのか、それは個人や「家」中心 から「ミッション」主体への移行が「キーワード」になりそうです。 とは言いながら現在でも、中堅企業でありながらトップの位置を占めるの は同族からというケースが多くみられます。

すこし脱線します。 歌舞伎や日本舞踊、茶道、生け花などの古典芸能の家元は、例外があると しても親子や同族継承です。 ここには「家の芸」を継承しなければならいとの戦略的な利点もあります。 ミッション(使命)という意味では現在にも通じるものがあります。
同族継承でなくても、基本戦略が文化として組織の精神性にまで浸透して いけばまたマネジメント組織が形成されればミッションは継承されます。 その意味では、家康の方が信長や秀吉より上回るようです。 確かに将軍職は家系で引き継がれていっていますが、吉宗のような例外が あるにしても老中がマネジメント集団を形成しています。

戦略のポイント

戦略の成功は合理的な判断だけで実現するようなものではなく、紙一重で 必死で行ったら実現できたという例が多くあるようです。 と言いながら準備のないところに幸運は転がらず、転がってもしばらくす ると破れてしまいます。 たまたまな幸運や矛盾をコントロールする力が必要です。
未来での成功は、未来が誰も知ることができないため「幸運の女神の前髪」 を確実につかむ方法はありません。 素早くつかむには、女神を通る道で待ち構え取り逃がさないだけの力と機 敏さがなければなりません。 マキャベリの言うように「幸運は女性」なので積極でなければなりません。
幸運の女神とは「顧客」と「時代」のことです。 「顧客」は移り気で、わがままで、身勝手で、奉仕されることが好きです。 けれど「対価」と「働く喜び」を与えてくれ、組織の存続と働く人の雇用 の機会を保障してくれます。 戦略は、このことを組織全員が熟知できれば「強み」が生まれます。 幸運の女神の特徴である「移り気」は、顧客だけでなのでなくもう一つの 移り気があります。 それは時間で、それぞれの時代にはそれぞれの欲求と新たなテクノロジー と社会環境の変化があります。 誰もが読み切れないなかで、兆しを見つけて対応しなければなりません。

基本的な対応の方法で準備が必要です。 基本的な準備には2つの要件が必要です。 一つは財務基盤の確立で、もう一つな人材基盤の育成・確立です。 この2つの要件において先行しなければならないのは、もちろん財務基盤 の確立でそれと並行して人材の育成が必要です。
昭和の再建王と言われた3人の人物がいました。 財務基盤の確立については、ほぼ同じ手法が取られていますが、人材の育 成および活用については考え方は異なるようです。 3人とは坪内寿夫氏と大山梅雄氏と早川種三氏で、坪内寿夫氏と大山梅雄 氏は経営者として関わり早川種三氏は管財人として関わりました。
坪内さんの企業再生の動きには一つのパターンを持っています。 それは徹底した「コストカット」と「先見的なヒラメキ」と「規模のメリ ットの活用」です。 人柄と手腕については、義理人情に厚く超ワンマンでした。 それ故に、経営判断が戦術的で時代の変化には追いつきませんでした。

大山梅雄さんは堅実主義で「入るを量って出づるを制す。無駄を省き出費 を抑えてカネを作り、それを有効に活用する。」をモットーに一定額以上 案件はすべて自分自身で全てチェックし決済しました。
その精神は「意欲を持って事に当たって成らざることはない。」で、自主 再建により信用を維持しつつオーソドックスに経営を実践しました。
早川種三さんは、経営破綻したのは従業員が働き難い環境に陥っているか らだとの考えで「従業員のやる気を如何に引き出すか」に専心しました。 従業員の生活保障をまず第一番に、工場などの現場に自ら足を運び「先ず 掃除をしよう」の基礎からはじめています。 戦略目標である人こそ「最大の経営資源」を実践して成功しました。

戦略の基本構想

前述の「戦略のポイント」では、説明が不十分なのでここで基本構想につ いて述べて行きます。 戦略は、マニュアルで示せえるものでなくまたテクニックでもありません。 それは、基本的な構想であり考え方です。 再建王の事例では、早川種三さんの考え方が戦略を示しています。
経営は経営者一人の頑張りによってのみなされるものではもちろんなく、 多くの人の知恵と活力を活用することによってなされます。 そのため、従業員個々の利害と特性を理解することからはじまります。 働く人のマネジメントにおいて大切なことは、顧客に対する考え方と同じ に従業員の欲求からスタートします。
個人が最も大切にするものは、もちろん「自分と家族」です。 生活補償が従業員の欲求の満足の基盤です。 しかし、企業自身には生活補償する能力はありません。 それを唯一補償できるのは顧客であり、この現実についての認識を共有す ることが戦略の基盤条件を提供します。
「顧客」こそが、戦略を考える場合の核心です。 この顧客を焦点にして構想を練る時に、3つの要件が浮かび上がります。 1つは「顧客の欲求は何か」「その欲求を満たす効用は何か」「効用の創 造をどのようにするか」で、2つめの要件は「一番として満たすためにど うするか」、3つめは「時代の変化にどのように対応するか」です。
どれ1つとっても難解な課題です。 1つは「顧客の欲求は何か」を考える場合に問題になることがあります。 それは私の顧客は誰なのかということです。 本田宗一郎さんは大好きな自動車から入り、松下幸之助さんは電車が通る の見て電気とし、孫さんは情報に大きなビジョンを見ています。
時代の雰囲気に将来を見て魅せられることは重要な成功要因です。 それは「好きこそものの上手なれ」であり、戦略的機会は「新たな時代の 匂いのなかにこそある」からです。 儲かるから入っていく起業では、仮に戦術的に勝つことがあっても戦略的 には勝つ勢いにおいてどうしても劣ると言えます。
「効用」をつくりには、それも「一番として創る」にはなおかつ「みんな」 とつくりには「何を思い、何を重要視するか」の表明が必要です。 この表明こそが経営者が行なわなければならない固有の役割で、私たちの 使命(ミッション)は何かを「コンセプト」「ビジョン」として明らかに して組織の末端まで浸透するように繰り返し伝えます。
「成さねばならないこと」が浸透すると、すべての人の持てる情報と知識 を総動員して実行のための分析と統合化を行います。 経営者および管理者だけでは情報の限界があります。 「現場知」にもとづくオープンな情報の交換と共有と統合が必要です。 最終に意思決定を行い、その時に重要なのはその背景を共有することです。
付け加えて述べます。 意思決定の最終的判断は経営者の固有の役割です。 機会には絶えずリスクが伴い、そのリスクに最終責任を取る責務があるの 経営者だからです。 それ故に、十分な情報の収集と検討が必要になります。
意思決定後にはいよいよ実行が必要で、方針が明らかになったらここから は適材適所に最適の人材を抜擢して権限を委譲して任せます。 そのときに必要なのは目標の設定で、それもチャレンジの「し甲斐」のあ る目標を設定します。 経営者は予算と目標を決めた後は、支援に回ります。
支援については細かな注意を要しますが、今回は非常に理屈っぽい内容に なりました。 この回は、よもやま話でなくなっています。 そういう考え方もあるのだなぁ~で聞き流してください。 思考に限界があるのでここで終わります。